「ジュエルズ」とは?
ストーリーがない抽象バレエって?
見どころは?
英語で「バランシン(balanchine)」と検索すると予測キーワードのトップに出てくるのが「ジュエルズ(jewels)」です。
世界中のバレエ団が「ジュエルズ」を上演していて、ガラ公演(いろいろな作品のグラン・パ・ド・ドゥを何個も踊る公演)でもトップダンサーたちがよく踊ります。
「ジュエルズ」は物語のないバレエです。物語がないので僕も最初どうやって楽しめばいいかわかりませんでした。
元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります
今回はジョージ・バランシン振付「ジュエルズ」の解説です。
※3分ほどで読み終わります。
バランシンと宝石の出会い
1939年、ジョージ・バランシンはクロード・アーペルと出会います。このアーペルとは、日本ではヴァン・クリーフとして知られる高級宝石ブランド「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)」のアーペルです。
バランシンがショーウィンドウの前をウロウロしていたところ、声をかけられたのがきっかけだったそうです。
その後、クロード・アーペルは、マンハッタンの五番街にある自身のブティックにバランシンを招待します。バランシンは、アーペルがもつ宝石への情熱にインスピレーションを得ます。これがバランシンの「ジュエルズ」を生むきっかけとなりました。
宝石を擬人化したような作品である「ジュエルズ」。
バレエ作品にかかわらず宝石をテーマにした作品がこの後たくさん登場しますが、少なからずバランシンの「ジュエルズ」が影響を与えていると思います。
制作
振付:ジョージ・バランシン
作曲:
エメラルド:ガブリエル・フォーレ(ペレアスとメリザンド、及びシャイロックからの抜粋)
ルビー:イーゴリ・ストラヴィンスキー(ピアノと管弦楽のためのカプリッチョ)
ダイヤモンド:チャイコフスキー(交響曲第3番ポーランド、第2楽章から第5楽章)
衣装:カリンスカ
上演時間:全3幕(81分)
出演者数:66名
ジョージ・バランシンに関してはこちらをどうぞ。
抽象バレエをつくりだし、音楽をダンスで表現したのがバランシンです。バランシンの経歴、振付の特徴を紹介しています。
作品の流れ
「ジュエルズ」は物語がないとはいえ、テーマがハッキリしています。
エメラルドはパリ(フォーレ作曲)、ルビーはニューヨーク(ストラヴィンスキー作曲)、ダイアモンドはサンクトペテルブルク(チャイコフスキー作曲)をイメージしています。
これが「ジュエルズ」を楽しむためのヒントになると思います。
バランシンからダンサーへのリクエスト
「ダンサーが宝石を表現するのではなく、ダンサー自身がキラキラした宝石であるように魅せる」というのがバランシンからの要求です。
主役を踊るダンサーは3つの宝石から個性にあったパートを踊ります。3つのパート全部を踊るダンサーは基本的にはいないと思います。
ちなみに、ダイアモンドはバレエ団のトップダンサーが踊ることが多いです。
まずは紹介映像です。
ウィーン国立バレエ団の映像です。(0:00~:エメラルド、0:34~ルビー、1:20~ダイアモンド)
エメラルド:パリ(フォーレ作曲)
19世紀フランスのロマンティックでエレガンスな空気を漂わせるパートです。
衣装はロマンティックチュチュです。作曲のフォーレは「ボレロ」を作曲したラヴェルの師としても有名です。フォーレはロマン派と印象派をつなぐ活動をしていました。
メインダンサー:女性1名、男性1名
リードダンサー:女性3名、男性2名
群舞:女性10名
31分ほどのパートでロマンティック・バレエが踊られます。ロマンティック・バレエとは「幻想的で、ときに切ない踊り」のことです。
フォーレの曲をつなぎ合わせて演奏されるのですが、一番最後に「ペレアスとメリザンド」から「メリザンドの死」という曲が使われます。フランスのロマンティック・バレエの代表に妖精物語の「ラ・シルフィード」という作品があります。「ラ・シルフィード」では妖精の死で舞台が終わります。エメラルドの終わりもこの流れに沿っているように思います。
ルビー、ダイアモンドに比べると盛り上がりが少ないパートです。だからこそ、ダンサーがどう盛り上げるのか観客は期待します。ダンサーの腕の見せどころです。
ルビー:ニューヨーク(ストラヴィンスキー作曲)
ルビーは鋭く活発なパートです。スカートがチャールストンドレスのような衣装になっています。
ストラヴィンスキーの音楽はさまざまな時代の作品から影響を受けています。新しいものを取り入れる姿勢が、新しい文化をどんどん吸収し発信し続けるニューヨークにぴったりです。
リードカップル:女性1名、男性1名
リードダンサー:女性1名
群舞:女性8名、男性4名
ストラヴィンスキー独特の不協和音。そしてクラシックバレエにはない斬新で現代的なバランシンの振付です。幕が上がった瞬間から、鮮烈な赤が目に入ります。腕を回し、足首を曲げるフレックスという動きを多用しています。
エネルギッシュかつスピード感のあるパートです。3つのパートのうち一番短く19分ほどです。
ニューヨーク・シティ・バレエ団より。スターリング・ヒルティンとアンドリュー・ヴェイエット。ニューヨーク・シティ・バレエ団の「ジュエルズ」はほかのバレエ団よりも印象的です。
ダイアモンド:サンクトペテルブルク(チャイコフスキー作曲)
ダイアモンドは帝政ロシアの壮大さを感じる作品です。バランシンがトレーニングを受けたマリインスキー劇場をイメージしているパートで、秩序を感じます。
衣装は、クラシックバレエ王道のクラシックチュチュ。表現力豊かなチャイコフスキーの音楽がオーケストラによって奏でられます。
メインカップル:女性1名、男性1名
リードダンサー:女性4名、男性4名
群舞:女性12名、男性12名
出演人数が「エメラルド」「ルビー」に比べると倍近いため、舞台にダンサーがかなりたくさんいるように感じます。視覚からも立体的な広がりや、壮大さを感じることができます。
19世紀後半にロシアで確立されたクラシックバレエの様式をそのまま取り入れています。
ガラ公演(バレエのハイライト公演)ではこのダイアモンドの「第三楽章:アンダンテ」のパ・ド・ドゥが踊られることが多いです。その後「第四楽章:スケルツォ」のダンサーが次々入れ替わり踊っていくワクワクしたシーンに続きます。この「第四楽章:スケルツォ」から「第五楽章:フィナーレ」の流れがオススメなので、やはりダイアモンドは30分で観るのがオススメです。
ダンサーの表情に特徴があり、皆ニコニコしています。こういう様式美を表すバレエでは真剣な顔で踊っているダンサーも多いですが、ダイアモンドではダンサーの表情が晴れやかです。
最後のフィナーレは生で見ると鳥肌がたちます。ただ…。ダイアモンドは一番最後にやってくるので、少し眠くなりがち…。気をつけてください。
ダイアモンドのパートは31分ほどです。
パリ・オペラ座バレエ団よりアニエス・ルテステュとジャン=ギョーム・バール主演。現在も活躍するダンサーが群舞にたくさん登場しています。「第四楽章:スケルツォ」から「第五楽章:フィナーレ」部分です。
ジュエルズ50周年記念公演
2017年、ジュエルズ初演から50周年の公演では、おそろしく豪華なバレエ団の共演がありました。
第1幕「エメラルド(パリ)」をパリ・オペラ座バレエ団、第2幕「ルビー(ニューヨーク)」をニューヨーク・シティ・バレエ団、第3幕「ダイアモンド(サンクトペテルブルク)」をボリショイ・バレエ団が踊りました。
バレエの歴史をみているような奇跡の舞台です。
フルバージョンでオススメはこちら
パリ・オペラ座バレエ団、2005年の作品です。僕が大好きだった時代で、キャスティングがとても豪華です。
衣装はクリスチャン・ラクロワが担当。カリンスカの衣装からデザインが変更されました。しかし、上演後バランシン在団が勝手に変更を加えたことにご立腹、という噂がでた「いわくつき」のバレエです。
マリ=アニエス・ジロ、オレリー・デュポン、アニエス・ルテステュの強烈な存在感。とくにマリ=アニエス・ジロは背が高く、まわりの男性よりも頭一つ高いです。姉御感とルビーの強烈な女性像がピッタリです。
のちにエトワールになる、イザベル・シアラヴォラ、ミリアム・ウルド=ブラーム、マティアス・エイマン、ジョシュア・オファルト、現在サンフランシスコ・バレエ団のプリンシパルのマチルド・フルステーが出演するとても濃いキャスティングです。
ジョージ・バランシン作の「ジュエルズ」の作品解説でした。
ありがとうございました。
バレエ作品に関してはこちらにまとめていますので、ぜひご覧ください。
舞台鑑賞好きの僕が劇場に行くときに知っておくとちょっと得する話をのせています。バレエを中心に紹介しています。