映画版「シカゴ」(2002年)あらすじ・作品解説。舞台版との違い
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映画版『シカゴ』(2002年)の内容は?
舞台版との違いは?
印象に残るシーンは?

​ミュージカル『シカゴ』は、1920年代のシカゴを舞台に、名声とスキャンダルに翻弄される女性たちの物語を描いた作品です。​1975年のブロードウェイ初演以来、その魅力は世界中の観客を魅了し続けています。​特に、ボブ・フォッシーによる独特の振付は、舞台版の象徴的な要素として知られています。

​一方、2002年に公開された映画版は、ロブ・マーシャル監督の手によって新たな解釈が加えられ、アカデミー賞作品賞を受賞するなど高い評価を得ました。​今回は、舞台版と映画版の違いに焦点を当て、それぞれの魅力を紹介します。

記事を書いているのは……

元劇団四季、テーマパークダンサー。映画に夢中だった頃は、毎週映画館に行っていました。最近はネットで映画をたっぷり。

※ 3分ほどで読み終わります。

『シカゴ』とは

ミュージカル『シカゴ』は、1926年にシカゴ・トリビューン紙の記者モーリン・ダラス・ワトキンスが執筆した戯曲(演劇台本形式の文学作品)を原作としています。この戯曲は、当時実際に起きた2つの女性による殺人事件(ベラ・アン・アンナンとビーラ・ガートナーの事件)を基にしており、ワトキンス自身がこれらの裁判を取材した体験に基づいて書かれました。実際に起きた殺人事件をモチーフに、禁酒法時代のシカゴを舞台とし、犯罪を犯した女性たちと、それをセンセーショナルに報道するメディア、そして名声を追い求める弁護士たちを描いた風刺劇です。

戯曲『シカゴ』は、主人公ロキシー・ハートが愛人を殺害し、その罪を否認しながらもマスコミの力を使って一躍有名人となっていく姿を描いています。彼女は弁護士ビリー・フリンを雇い、裁判を自らのショービジネスの舞台に仕立て上げていきます。さらに、同じく殺人で収監されたヴェルマ・ケリーとのライバル関係や、世間の関心を引くための策略合戦などが物語を彩ります。物語全体を通して、メディアが真実よりも話題性やセンセーショナルな内容を優先する様子や、司法制度の腐敗などが風刺的に描かれます。

ブロードウェイ版

1975年、ブロードウェイでミュージカル『シカゴ』が初演されました。演出・振付を担当したのは、伝説的な舞台演出家であり振付師のボブ・フォッシーです。スタイリッシュで挑発的な舞台作品へと昇華されました。

映画版

2002年、映画版『シカゴ』が公開されます。ロブ・マーシャルが監督と振付を務め、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、レニー・ゼルウィガー、リチャード・ギアらが出演しました。この映画は、フォッシーの世界観を受け継ぎつつ、映画ならではの映像表現を駆使し、ドラマティックかつ華やかな作品になっています。作品は高く評価され、アカデミー賞6部門を受賞しました。

なぜ個性的なのか

フォッシーは、従来のミュージカルに見られる華やかさや明るさとは一線を画し、退廃的で毒のある美しさを追求しました。独特の振付スタイル、いわゆる“フォッシー・スタイル”は、山高帽をかぶり、肩をすくめ、背中を丸め、骨盤を強調するようなセクシーで洗練された動きが特徴です。このスタイルは、彼が若い頃に経験したバーレスク劇場やナイトクラブの影響を色濃く受けています。こだわりは細部にまで及び、ダンサーの指先の動きや視線の方向にまで注意を払い、妥協を許さない演出姿勢で知られていました。その厳しさから一部では恐れられる存在でもありましたが、そのこだわりこそが『シカゴ』という作品の完成度を高め、今も世界中で上演が続く理由です。

フォッシーの作品は、ショービジネスの裏側、華やかさの裏にある人間の欲望や弱さが巧みに描かれています。『シカゴ』は顕著で、登場人物たちは皆、自らの名声や利益のために他人を利用し、時に嘘をつき、時に裏切る。それでも観客は彼らに惹かれてしまう。これはフォッシーの演出の妙で、現代社会に対する痛烈な皮肉です。

映画版と舞台版|別作品

舞台版『シカゴ』はフォッシースタイルを特徴とし、再演が繰り返されるロングラン作品です。一方、2002年に公開された映画『シカゴ』は、ブロードウェイ版を原作としていながらも、別作品と言えます。

最大の違いは「振付」にあります。舞台版はフォッシーダンスが作品の核をなしていますが、映画版ではロブ・マーシャル監督が振付を担当しており、フォッシーダンスではありません。それでも、映画版には舞台版と共通する「毒気のある華やかさ」や「皮肉なユーモア」といった本質がしっかりと息づいています。

『All That Jazz』

​​特にオープニングナンバー『All That Jazz』において、その差異が際立ちます。

ボブ・フォッシー版|舞台版

「フォッシーダンス」は、独特の動きが特徴で、セクシーさと洗練さを兼ね備えています。しかし、高度な技術を要し、完璧に踊りこなすことで初めてその魅力が発揮されます。

  • フォッシーダンス:色気のあるスタイル。身体を固定し1部分だけを動かしたり、緩急、柔剛を組み合わせた動きに特徴がある。

逆に、不完全な演技だと裏目に出てしまうこともあります。舞台版の衣装は極めて薄手で、ダンサーの身体のラインが明確に現れます。これにより、衣装で動きをカバーすることができず、ダンサーの技術がそのまま観客に伝わる魔のダンスです。

ロブ・マーシャル版|映画版

一方、2002年公開の映画版『シカゴ』では、監督のロブ・マーシャルが振付を担当しました。セクシーさを強調したジャズダンスが中心で、フォッシーのスタイルとは異なる解釈がなされています。

映画版の大きな特徴として、ダンスシーンと演技シーンが巧みに交錯する構成が挙げられます。例えば、オープニングの『All That Jazz』では、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ演じるヴェルマが登場しますが、冒頭のスポットライトが2つ当たっている演出により、彼女の妹の存在が暗示されています。また、ロキシーの不倫シーンも、舞台版では抽象的に描かれるのに対し、映画版では具体的に部屋のシーンが挿入されることで、かなりわかりやすいです。

オープニング以降も、ミュージカルシーンは主人公ロキシーの妄想、すなわち劇中劇として描くことで、現実との対比が鮮やかに表現されています。主人公ロキシー・ハートが夢見るショーシーンと現実の牢獄を行き来する構成です。これにより、ミュージカルに不慣れな観客でも違和感なく物語の中に入り込むことができます。

マーシャル監督にとって『シカゴ』が映画監督としてのデビュー作でした。舞台出身の彼にとって、映画というメディアで舞台のエネルギーをどう再現するかは大きな挑戦だったといいます。撮影中も、俳優たちはリハーサルに数カ月を費やし、ブロードウェイの舞台さながらの厳しいトレーニングを受けましたす。キャサリン・ゼタ=ジョーンズはもともとダンス経験者でしたが、他のキャストにとっては歌・ダンスの訓練が大きなハードルでした。大ヒットを記録し、ミュージカル映画の復権を象徴する作品となりました。

大人向け

とはいえ、『シカゴ』は決して万人向けのミュージカルとは言えません。テーマには性的な表現や暴力、メディア操作などの要素が含まれており、やや刺激が強いです。1975年の舞台初演当時も、その過激さから賛否が分かれました。

大人向けの要素を多く含みますが、ミュージカル初心者にもオススメできます。ドラマ性の高さ、音楽の完成度、そして社会風刺としての深みが絶妙に組み合わさっており、「ミュージカル=歌って踊るだけ」というイメージを大きく覆してくれるはずです。ミュージカル映画『シカゴ』は、単なるエンターテインメント作品にとどまらず、メディアの虚構性や名声への欲望といった現代にも通じるテーマを含みます。その魅力を最大限に引き出したのが、ボブ・フォッシーという才能です。そしてそれを受け継いだロブ・マーシャルの手腕が光ります。

『シカゴ』|あらすじ

1920年代、禁酒法下のシカゴ。​ナイトクラブのスター、ヴェルマ・ケリーは、妹と夫の不倫現場を目撃。激情の末に2人を射殺します。​その後、何事もなかったかのように舞台でパフォーマンスするヴェルマ。​

ナイトクラブのスターを夢見る主婦ロキシー・ハートは、愛人フレッドと共にヴェルマのパフォーマンスを観賞していました。​フレッドはロキシーを舞台に立たせると約束していました。ですが、それが嘘だと知ったロキシーは、怒りのあまり彼を射殺してしまいます。​

逮捕されたロキシーは、女性囚人が集まる刑務所に収監されます。​看守長のママ・モートンが囚人たちを取り仕切り、ヴェルマも同じく収監されていました。​当時、女性が殺人罪で死刑になることはありませんでしたが、無罪を勝ち取るためには敏腕弁護士が必要でした。​中でもビリー・フリンは特に有名で、彼は依頼人をメディアのスターに仕立て上げ、世間の同情を集めて無罪を勝ち取る手腕で知られていました。​

ヴェルマは既にビリーを雇い、世間の注目を集めていましたが、ロキシーも彼を説得し、自らを「キュートな殺人者」として売り出します。​これにより、ロキシーはヴェルマ以上の人気を博すようになり、2人の立場は逆転します。​しかし、ヴェルマが黙って引き下がることはなく、2人の熾烈な競争が始まります。​

果たして、ロキシーとヴェルマは無罪を勝ち取り、再びナイトクラブの舞台に立つことができるのか……。

登場人物

  • ロキシー・ハート|Roxie Hart
    ヴォードヴィル(歌、踊り、手品、漫才など多彩な演目を取り入れた大衆的な舞台)のスターを夢見る主婦。愛人フレッドを殺害し、監獄へ収監される。

  • ヴェルマ・ケリー|Velma Kelly
    元ヴォードヴィルのスター。夫と浮気相手である妹を殺害した罪で収監。無罪とショービズ界への復帰を目指す。

  • ビリー・フリン|Billy Flynn
    裁判で無敗を誇る敏腕弁護士。金と名声を求め、ヴェルマとロキシーの代理人を務める。

  • エイモス・ハート|Amos Hart
    ロキシーの夫。お人好しで存在感が薄く、ロキシーに騙されて罪を被ろうとする。

  • ママ・モートン|Matron “Mama” Morton
    ロキシーやヴェルマが収監される監獄の女看守。ギブ&テイクがモットー。

  • メアリー・サンシャイン|Mary Sunshine
    イブニングスター紙の記者。スキャンダルからゴシップまで、彼女の記事はシカゴ中の話題となる。

  • フレッド・ケイスリー|Fred Casely
    ロキシーの愛人。彼女をショービズ界に売り込むと約束していたが、それが嘘だと発覚し、ロキシーに殺害される。

曲目リスト

映画版は舞台版と比べ、約半数の楽曲が削除されています。また、一部曲順が変更されています。舞台版は、楽曲が物語の進行手段です。一方、映画版は削除された楽曲部分を台詞で補完することで、物語が展開されていきます。その際、舞台版の楽曲がBGMとして使用されることもあります。

以下に、映画版と舞台版の楽曲リストを比較します。

映画版 舞台版
1:「Overture / And All That Jazz」ヴェルマ、ロキシー 1:「Overture」オーケストラ
2:「All That Jazz」ヴェルマ
2:「Funny Honey」ロキシー 3:「Funny Honey」ロキシー
3:「When You’re Good To Mama」ママ・モートン
4:「Cell Block Tango」ヴェルマ、5人の女達 4:「Cell Block Tango」ヴェルマ、5人の女達
5:「When You’re Good to Mama」ママ・モートン
5:「All I Care About」フリン 6:「All I Care About」フリン
7:「A Little Bit of Good」メアリー・サンシャイン
6:「We Both Reached For The Gun」ビリー、ロキシー、メアリー・サンシャイン 8:「We Both Reached for the Gun」ビリー、ロキシー、メアリー・サンシャイン
7:「Roxie」ロキシー 9:「Roxie」ロキシー
8:「I Can’t Do It Alone」ヴェルマ 10:「I Can’t Do It Alone」ヴェルマ
11:「I Can’t Do It Alone – Reprise」ヴェルマ
12:「Chicago After Midnight」オーケストラ
13:「My Own Best Friend」ロキシー、ヴェルマ
14:「Finale Act I: All That Jazz – Reprise」ヴェルマ
15:「Entr’acte」オーケストラ
16:「I Know a Girl」ヴェルマ
17:「Me and My Baby」ロキシー
9:「Mister Cellophane」エイモス・ハート 18:「Mr. Cellophane」エイモス・ハート
19:「When Velma Takes the Stand」ヴェルマ
10:「Razzle Dazzle」フリン 20:「Razzle Dazzle」フリン
21:「Class」ヴェルマ、ママ・モートン
11:「Nowadays / Hot Honey Rag」ヴェルマ、ロキシー 22:「Nowadays / Hot Honey Rag」ヴェルマ、ロキシー
23:「Finale Act II: All That Jazz – Reprise」全員

サウンドトラックには、ボーナストラックとして現代風にアレンジされた楽曲が収録されています。​これらのアレンジは、オリジナルのジャズ調とは異なるテイストを持ち、好みが分かれるかもしれません。​

1,000円ほど。

評価

映画版「シカゴ」(2002年)のyahoo!映画での評価

yahoo!映画より

高評価です。

制作

監督・振付:ロブ・マーシャル

ロブ・マーシャルは、アメリ出身の映画監督・振付師です。カーネギー・メロン大学を1982年に卒業後、ブロードウェイで舞台振付師としてのキャリアをスタートさせました。彼はボブ・フォッシーの大ファンです。

ロブ・マーシャルの主な監督作品:

・1999年:『アニー(Annie)』テレビ映画版|監督・振付
・2002年:『シカゴ(Chicago)』 監督・振付​
・2005年:『SAYURI(Memoirs of a Geisha)』監督​
・2009年:『NINE(Nine)』監督・製作・振付​
・2011年:『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉(Pirates of the Caribbean: On Stranger Tides)』監督​
・2014年:『イントゥ・ザ・ウッズ(Into The Woods)』監督・製作​
・2018年:『メリー・ポピンズ リターンズ(Mary Poppins Returns)』監督・製作​
・2023年:『リトル・マーメイド(The Little Mermaid)』監督・製作

原作:ボブ・フォッシー

ボブ・フォッシーは、アメリカ出身の俳優、振付師、ダンサー、映画監督、舞台演出家です。ミュージカル史上最大の振付師・演出家のひとりと称されます。

ボブ・フォッシーの主な作品:

舞台:
・1975年:『シカゴ(Chicago)』 – 演出・振付​
映画:

・1969年:『スイート・チャリティ(Sweet Charity)』 - 監督・振付

ミュージカル映画『スイート・チャリティ』(1969年)内容と解説:おしゃれ!

・1972年:『キャバレー(Cabaret)』 – 監督​
・1974年:『レニー・ブルース(Lenny)』 – 監督​
・1979年:『オール・ザット・ジャズ(All That Jazz)』 – 監督・脚本・振付

原作戯曲:モーリン・ダラス・ワトキンス

シカゴ・トリビューン紙の記者で、実際の殺人事件を基に執筆しました。

キャスト​

  • レネー・ゼルウィガー:​ロキシー・ハート役

  • キャサリン・ゼタ=ジョーンズ:​ヴェルマ・ケリー役

  • リチャード・ギア:​ビリー・フリン役

  • クイーン・ラティファ:​ママ・モートン役

  • ジョン・C・ライリー:​エイモス・ハート役

  • テイ・ディグス:​バンドリーダー役

  • ルーシー・リュー:​キティー役

  • クリスティーン・バランスキー:​メアリー・サンシャイン役

メアリー・サンシャインのキャラクター設定は、舞台版と映画版で大きく異なっています。舞台版では「おー」となるシーンが入っています。

受賞歴

第75回アカデミー賞(2003年)で12部門にノミネートされ、作品賞、助演女優賞(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)など6部門を受賞しました。

第75回アカデミー賞(2002年)|6部門で受賞

作品賞:​受賞​
監督賞:​ロブ・マーシャル(ノミネート)​
主演女優賞:​レネー・ゼルウィガー(ノミネート)​
助演女優賞:​キャサリン・ゼタ=ジョーンズ(受賞)​
助演女優賞:​クイーン・ラティファ(ノミネート)​
助演男優賞:​ジョン・C・ライリー(ノミネート)​
脚色賞:​ビル・コンドン(ノミネート)​
撮影賞:​ディオン・ビーブ(ノミネート)​
美術賞:​ジョン・マイヤー(受賞)​
衣装デザイン賞:​コリーン・アトウッド(受賞)​
音響賞:​マイケル・ミンクラー、ドン・ミンクラー、ドミニク・タヴェラ(受賞)​
編集賞:​マーティン・ウォルシュ(受賞)​
歌曲賞:​ 「I Move On」ジョン・カンダー、フレッド・エッブ(ノミネート)

なお、オリジナルの舞台版『シカゴ』は1975年に初演され、トニー賞で11部門にノミネートされましたが、受賞はありませんでした。これは同年に社会派ミュージカル『コーラスライン』が新たな価値観を示し、多くの賞を獲得したためです。

第30回トニー賞(1976年)|11部門ノミネート
  • ミュージカル作品賞:​ノミネート

  • ミュージカル演出賞:​ボブ・フォッシー(ノミネート)

  • ミュージカル主演男優賞:​ジェリー・オーバック(ノミネート)

  • 装置デザイン賞:​トニー・ウォルトン(ノミネート)

  • ミュージカル作詞・作曲賞:​ジョン・カンダー&フレッド・エッブ(ノミネート)

  • ミュージカル脚本賞:​フレッド・エッブ&ボブ・フォッシー(ノミネート)

  • ミュージカル主演女優賞:​チタ・リヴェラ(ノミネート)

  • 衣裳デザイン賞:​パトリシア・ジプロッツ(ノミネート)

  • ミュージカル主演女優賞:​グウェン・ヴァードン(ノミネート)

  • 照明デザイン賞:​ジュールス・フィッシャー(ノミネート)

  • 振付賞:​ボブ・フォッシー(ノミネート)

その後、1996年のブロードウェイ再演時にはトニー賞8部門にノミネートされ、「最優秀再演ミュージカル作品賞」や「最優秀振付賞」など6部門を受賞しました。

第51回トニー賞(1997年)|6部門受賞
  • 再演ミュージカル作品賞:​受賞

  • ミュージカル主演男優賞:​ジェイムス・ノートン(受賞)

  • ミュージカル主演女優賞:​ビビ・ニューワース(受賞)

  • ミュージカル助演女優賞:​マーシャ・ルイス(ノミネート)

  • ミュージカル演出賞:​ウォルター・ボビー(受賞)

  • 振付賞:​アン・ランキン(受賞)

  • 衣装デザイン賞:​ウィリアム・アイヴィ・ロング(ノミネート)

  • 照明デザイン賞:​ケン・ビリントン(受賞)

舞台版|上演回数

ブロードウェイ史上最長のロングラン公演はミュージカル『オペラ座の怪人』です。​1988年1月26日に初演され、2023年4月16日に最終公演を迎えるまで、35年間にわたり13,981回の公演を行いました。​

一方、ミュージカル『シカゴ』は、2023年4月23日時点で10,345回の公演を行っており、ブロードウェイ史上2番目に長いロングラン公演となっています。​

さらに、ディズニーの『ライオンキング』は、1997年11月13日に初演され、2024年11月13日に27周年を迎えました。​現在も公演が続いており、ブロードウェイ史上3番目に長いロングラン公演となっています。

舞台版と映画版|演出の違い

舞台版の特徴

舞台版『シカゴ』は、衣装やセットが非常にシンプルに設計されています。キャストはセクシーな衣装1着のみで衣装替えはありません。出演者の数も少なく、通常は舞台裏に配置されるオーケストラが舞台上に設置されステージの約3分の2を占めています。

映画版の特徴

これに対し、映画版『シカゴ』は舞台セットや衣装が非常に凝っています。ミュージカルナンバーは劇中劇としてショーアップされ、物語の中に巧みに挿入されています。また、1920年代の雰囲気が再現され、視覚的にその時代の様子を感じ取ることができます。

代表的なシーン:『Cell Block Tango』(監房のタンゴ)

このシーンでは、6人の女囚人が自身の犯罪について歌い踊ります。それぞれのキャラクターが独自の背景を持ち、以下のように表現されています。

  1. リズ:​“Pop”(ポップ:チューインガムの破裂音)

  2. アニー:​“Six”(シックス:6人もの妻を持つ男)

  3. ジューン:​“Squish”(スクイッシュ:ナイフが刺さる音)

  4. ハニャク:​“Uhuh”(あ、あー:ハンガリー語のため詳細不明)

  5. ヴェルマ:​“Cicero”(シセロ:ホテルの名前)

  6. モナ:​“Lipschitz”(リップシッツ:浮気性の芸術家の名前)

ちなみに映画版では、6人目の「Lipschitz」は、歌手のマイアが演じています。

映画版の演出

映画版では、舞台版に登場しないロキシーがこのシーンに関与します。監獄内の演技シーン(質素なヘアメイク)と、ショーアップされたダンスシーン(華やかなヘアメイク)を行き来し、映像技術がふんだんに使われています。特に、最後の大人数でのダンスは非常にダイナミックです。下記の映像は、5人目のヴェルマからです。

舞台版の演出

一方、舞台版では椅子6脚とキャスト6人だけでこのシーンが展開されます。映画に比べると非常に簡素な演出ですが、その分キャストの演技力が問われる場面となっています。このシーンは笑いどころが多く、観客の盛り上がりが特に高まります。ブロードウェイでは笑いがかなり多く起こる場面です。

個人的には、牛乳配達と浮気する3人目、ジューンの「Squish」が印象的です。浮気を疑われ、激高した夫に詰め寄られた際のセリフに皮肉が効いています。
“And then, he ran into my knife. He ran into my knife 10 times.”
「そして彼は私のナイフに突っ込んできたの。10回もね」

明らかに彼女が刺したことを示唆しており、ブラックユーモアが際立っています。

『 We Both Reached For The Gun 』(ふたりとも銃を取ろうとした)

最後に僕の大好きなシーンの紹介です。

メディアと司法の関係性を鋭く風刺している様子が、腹話術で表現されます。弁護士ビリー・フリンがロキシー・ハートの記者会見を巧みに操り、メディアを通じて世論を操作する様子が描かれます。メディアの盲目的な報道姿勢と、それを利用する権力者の関係性を巧みに描き出しています。​『シカゴ』全体を通して、メディアと司法の腐敗、そしてそれに翻弄される人々の姿が浮き彫りにされていますが、このシーンは特に顕著です。

ビリー・フリンは、ロキシーのイメージを有利にするため、彼女の過去を美化し、正当防衛を主張する物語を記者たちに提供します。この際、ロキシーと被害者のフレッドが同時に銃を取ろうとし、偶然ロキシーが先に手にしたと説明します。ロキシーの正当防衛を訴えるために、ビリーは嘘をつきまくります。

メディアの風刺

このシーンでは、記者たちがビリーの言葉を無批判に受け入れ、彼の操り人形のように振る舞う姿が印象的です。メディアが権力者や有名人の発言を鵜呑みにし、真実を追求せずに報道する姿勢を風刺しています。さらに、記者たちが一斉に同じ言葉を繰り返す様子は、メディアの画一的な報道や群集心理を象徴的に表現しています。

メイクと演出の巧みさ

このシーンでのメイクは、登場人物たちを人形のように見せることで、彼らが操られていることを視覚的に強調しています。また、最初のアナウンスから洒落ています。
“Mr. Billy Flynn and the press conference rag! Notice how his mouth never moves… almost.”​
「ビリー・フリン氏と記者会見ラグ!彼の口が全く動かない様子にご注目を……(ほとんどね)。」

「ラグ(rag)」

音楽スタイルのラグタイムのことで、19世紀末から20世紀初頭にかけてアメリカで流行しました。​シンコペーション(強拍と弱拍の入れ替え)を特徴とし、活気に満ちたリズムが特徴です。​「Press Conference Rag」というタイトルは、記者会見の場面をラグタイムのリズムで表現し、風刺的な要素を強調しています。

「six feet under」

劇中で使用される「six feet under(シックス・フィート・アンダー)」という表現は、棺を埋める深さを指し、転じて「死んでいる」ことを意味する慣用句です。

DVD

ブルーレイ版でも 1,500円ほどです。

今回は、映画版『シカゴ』についての紹介でした。

エンタメ作品に関してはこちらで紹介しています。ぜひご覧ください。