映画版『シカゴ』(2002年)の内容は?
どんな特徴がある?
どこで見られる?
ブラックユーモア、セクシー、パワフル、情熱的、ジャズの雰囲気たっぷり。
ダークな大人向けのミュージカルです。
原作はブロードウェイの舞台です。舞台版との違いも含め、映画版『シカゴ』を紹介していきます。
元劇団四季、テーマパークダンサー。社割を使えたときは週2回 映画館へ行っていました。最近はネットで映画をたっぷり。
今回は、『シカゴ』( 2002年)のあらすじ・感想・特徴についてです。
※ 3分ほどで読み終わります。
映画版と舞台版は、別物
舞台版を映画化した『シカゴ』(2002年)。
映画版と舞台版には決定的に違うものがあります。
それが「振付」です。
舞台版『シカゴ』はボブ・フォッシーが演出・振付をしています。ボブ・フォッシーの振付は「フォッシーダンス」と呼ばれ、1つのジャンルとして確立されています。舞台版『シカゴ』を特徴づけているのは間違いなくフォッシーダンスです。
映画版は、監督であるロブ・マーシャルが振付をしていて、フォッシーダンスが入っていません。ですが、映画版もオススメで舞台版と同じエッセンスが入っています。ストーリーに焦点が当たっていて、舞台版とは違った角度から楽しむことができます。
大人向け?
ただし誰でも楽しめる万人向けの王道のミュージカルとは言いづらいです。性的な表現が多く、大人(もしくは早熟な子供)でないと理解できない表現もあります。
実際、舞台版『シカゴ』が初演された1975年は、賛否両論でした。
僕は大好きですが、大人向けといえる作品です。
とはいえ、ミュージカル初心者の人にもオススメです。
映画版ではミュージカル部分(歌・踊り)が劇中劇という形で挟まってきます。そのため、日常のシーンで急に歌い出すことはありません。ミュージカルに慣れていない観客に向けての大きな改変です。これがかなり効果を発揮しています。
ボブ・フォッシー VS ロブ・マーシャル
まずは舞台版『シカゴ』と映画版『シカゴ』の振付の違いです。
オープニングナンバーの『 All That Jazz 』を紹介します。
ボブ・フォッシー版(舞台版)
フォッシーダンスは色気のあるスタイルです。身体を固定し 1部分だけを動かしたり、緩急、柔剛を組み合わせた動きに特徴があります。
踊りこなせると素晴らしくカッコいいですが、そうじゃないと恐ろしくダサくなる「魔のダンス」です。
衣装が極薄のため身体のラインをごまかすことができない。衣装でダンスをカバーすることができない、というのも大きな点です。
ロブ・マーシャル版(映画版)
一方のロブ・マーシャル版は、セクシーさを強調したジャズダンスです。
ダンスシーンの間に演技シーンが挟まっているのが大きな特徴です。
上の映像には入っていないのですが、冒頭、スポットライトが 2つ当たっています。ですが、登場するのはキャサリン・ゼタ・ジョーンズ演じるヴェルマのみ。映画版ではこの時点で妹の存在がわかるようになっています。
ロキシーの不倫のシーンは舞台版でも登場しますが、映画版では部屋のシーンが挟まるのでわかりやすいです。
『シカゴ』のあらすじ
1920年代。禁酒法時代、犯罪あふれる街「シカゴ」。
ナイトクラブのスターであるヴェルマは、妹とペアでパフォーマンスをする人気者。しかし妹がヴェルマの夫と浮気している現場を目撃……。怒りで 2人を銃で殺してしまう。
その後、ヴェルマは何事もなかったかのように舞台でパフォーマンスをする。
同じ日、ナイトクラブのスターを夢見るロキシーがヴェルマのパフォーマンスを見ている。一緒にいるのは浮気相手のフレッド。フレッドはクラブにコネがあり「ロキシーを舞台に立たせる」と語っていたが、嘘だとわかる。
怒りでロキシーはフレッドを銃殺してしまう。
ヴェルマとロキシーは逮捕され、女性の殺人犯が集まる監獄に送られる。監獄を取り仕切る看守ママ・モートンを筆頭に、個性あふれる囚人たち。
どこかのんきな空気が漂っている。というのもこの時代、殺人罪で女性が死刑になることはなかった。
だが無罪を勝ち取るには優秀な弁護士が必要。中でも負け知らずのビリーは人気者。
ビリーは依頼人をゴシップ誌のスターにし、同情を集めることで無罪を勝ち取っていく。
ロキシーよりも先に監獄にいたヴェルマはすでにスターとなり世間から人気を集めていた。
ロキシーはしたたかにビリーを説得。「キュートな殺人者」としてロキシーがヴェルマよりも人気を集めるようになる。
立場が逆転したロキシーとヴェルマ。しかし、ヴェルマが黙って引き下がるはずもなく、我の強い 2人の戦いがはじまる。
2人は無罪を勝ち取ることができるのか……。ヴェルマはナイトクラブのスターに返り咲くことはできるのか……。ロキシーはナイトクラブのニュースターになることはできるのか……。
曲目リスト
映画版は舞台版に比べ半分くらい曲がカットされていたり、曲順が少し入れ替わっています。
舞台版では歌で物語が進行していきます。
一方、映画版では音楽がカットされている分、セリフで物語が進行していきます。このとき BGM として舞台の曲が使用されていたりもします。
映画版 | 舞台版 |
1:「Overture / And All That Jazz」ヴェルマ、ロキシー | 1:「Overture」オーケストラ |
2:「All That Jazz」ヴェルマ | |
2:「Funny Honey」ロキシー | 3:「Funny Honey」ロキシー |
3:「When You’re Good To Mama」ママ・モートン | |
4:「Cell Block Tango」ヴェルマ、5人の女達 | 4:「Cell Block Tango」ヴェルマ、5人の女達 |
5:「When You’re Good to Mama」ママ・モートン | |
5:「All I Care About」フリン | 6:「All I Care About」フリン |
7:「A Little Bit of Good」メアリー・サンシャイン | |
6:「We Both Reached For The Gun」ビリー、ロキシー、メアリー・サンシャイン | 8:「We Both Reached for the Gun」ビリー、ロキシー、メアリー・サンシャイン |
7:「Roxie」ロキシー | 9:「Roxie」ロキシー |
8:「I Can’t Do It Alone」ヴェルマ | 10:「I Can’t Do It Alone」ヴェルマ |
11:「I Can’t Do It Alone – Reprise」ヴェルマ | |
12:「Chicago After Midnight」オーケストラ | |
13:「My Own Best Friend」ロキシー、ヴェルマ | |
14:「Finale Act I: All That Jazz – Reprise」ヴェルマ | |
15:「Entr’acte」オーケストラ | |
16:「I Know a Girl」ヴェルマ | |
17:「Me and My Baby」ロキシー | |
9:「Mister Cellophane」エイモス・ハート | 18:「Mr. Cellophane」エイモス・ハート |
19:「When Velma Takes the Stand」ヴェルマ | |
10:「Razzle Dazzle」フリン | 20:「Razzle Dazzle」フリン |
21:「Class」ヴェルマ、ママ・モートン | |
11:「Nowadays / Hot Honey Rag」ヴェルマ、ロキシー | 22:「Nowadays / Hot Honey Rag」ヴェルマ、ロキシー |
23:「Finale Act II: All That Jazz – Reprise」全員 |
サントラにはボーナス・トラックとして現代版にアレンジされたバージョンも数曲入っています。ちょっと微妙です……。
1,000円ほど。
評価
yahoo!映画より
高評価です。
制作
監督:ロブ・マーシャル
原作:ボブ・フォッシー、フレッド・エッブ
原作戯曲:モーリン・ダラス・ワトキンス
1999年:テレビ映画、アニー(Annie) 監督・振付
2002年:シカゴ(Chicago)監督・振付
2005年:SAYURI(Memoirs of a Geisha)監督
2009年:NINE(Nine)監督・振付・製作
2011年:パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉(Pirates of the Caribbean: On Stranger Tides)監督
2014年:イントゥ・ザ・ウッズ(Into The Woods)監督・製作
2018年:メリー・ポピンズ リターンズ(Mary Poppins Returns)監督・製作
2023年:リトル・マーメイド(The Little Mermaid)監督・製作
【舞台】
1975年:シカゴ( Chicago)
【映画】
1968年:スイート・チャリティー(Sweet Charity) – 監督
1972年:キャバレー(Cabaret) – 監督
1974年:レニー・ブルース(Lenny) – 監督
1979年:オール・ザット・ジャズ(All That Jazz) – 監督・脚本
キャスト
レニー・ゼルウィガー:ロキシー・ハート
キャサリン・ゼタ=ジョーンズ:ヴェルマ・ケリー
リチャード・ギ:ビリー・フリン
クイーン・ラティファ:ママ・モートン
ジョン・C・ライリー:エイモス・ハート
テイ・ディグス:バンドリーダー
ルーシー・リュー:キティー
クリスティーン・バランスキー:メアリー・サンシャイン
第75回アカデミー賞(2002年)で作品賞と助演女優賞(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)を受賞しています。
メアリー・サンシャインの設定だけ舞台版とガラッと違います。
オリジナルの舞台版は、初演時(1976年)トニー賞に 11部門もノミネートされています。ただ受賞はありませんでした。ちょうどこの年『コーラスライン』が賞をほぼ独占しました。社会派ミュージカルである『コーラスライン』が新たな価値観を提示したため、『シカゴ』の受賞がありませんでした。
その後、1997年の再演時、トニー賞 8部門にノミネー卜され「最優秀再演ミュージカル作品賞」「最優秀振付賞」など 6部門を受賞しています。
現在もブロードウェイをはじめ、全世界で再演され続けています。ブロードウェイでは『オペラ座の怪人』に次ぎ、2番目に上演回数の多いミュージカル( 9,692回:2020年3月11日)となっています。
映像の力をフル活用
舞台版の『シカゴ』は、衣装・セットがかなりシンプルです。キャストはセクシーな衣装 1着のみ。衣装替えはなく、出演人数も多くありません。
通常は舞台から隠れているはずのオーケストラが、舞台上に配置されています。そのため、ステージ上の 2/3 をオーケストラが占めています。
それに対し、映画版は舞台セットや衣装がかなり凝った作りになっています。ミュージカルナンバーは劇中劇としてショーアップされ、物語に挟まっていきます。1920年代が再現され、視覚的に様子がわかるように作られています。
『 Cell Block Tango 』(監房のタンゴ)
舞台版には登場しないロキシーが、映画版では関わってきます。
映画版
監獄の演技シーン(質素なヘアメイク)と、踊りのショーアップされたシーン(バチバチのヘアメイク)を行き来します。
映像マジックがふんだんに使われていて、最後の大人数の踊りはダイナミックです。
ちなみに 6人目の「 lipsits(リップシッツ)」とは彼女が殺した男の名前です。歌手のマイアが担当します。
舞台版
イス 6脚とキャスト 6人だけのシーンです。映画に比べるとかなり簡素で、キャストの力量が問われるシーンです。
このシーンは笑いどころが多く、観客席がとても盛り上がります。僕は 3人目の「Squish(ぐしゃっ)」のミルクマン(牛乳屋)のストーリーと、殺してしまったときのセリフが大好きです。ブロードウェイでは笑いが多く起こるシーンです。
『 We Both Reached For The Gun 』(ふたりとも銃を取ろうとした)
最後に僕が一番好きなナンバーです。
弁護士フリンに言われるまま「ウソをつきまくるロキシーの記者会見」です。
ロキシーとフレッド(ロキシーが殺した男)が同時に銃を取ろうとして、たまたまロキシーが銃を先にとった。
「正当防衛だ!」と訴えます。
映画版
腹話術の様子がかなりわかりやすく表現されています。
記者たちも操り人形となり、この茶番に付き合っている感が皮肉たっぷりです。女性の殺人犯の裁判がエンタメ化されている様子がわかります。
そしてメイクが素晴らしいです。
最初のアナウンスは「弁護士フリンの絶対に動かない口に注目。(ほとんどね)」と言っています。この洒落っ気が「シカゴ」を象徴するようなセリフです。
ところどころロキシーの本音が出てくるのもおもしろいです。
「 six feet under(シックス・フィート・アンダー)」という表現が出てきます。棺を埋める深さを表し、死んだことを意味する表現です。
DVD
ブルーレイ版でも1,500円ほどです。
動画配信サイトを使えばお得に見ることができます。
無料期間などでぜひ試してみてください。
今回は映画版「シカゴ」についてでした。
ありがとうございました。
ミュージカル作品はこちらで紹介しているので、ぜひご覧ください。
映画、テレビ、海外ドラマ、アニメ、本などエンターテイメントで感動したものを紹介します。