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アシュトン版「シンデレラ」はどんなストーリー?
初心者でも楽しめる?
見どころは?

夢物語である「シンデレラ」。とくにディズニー映画「シンデレラ」の印象が強い人も多いのではないでしょうか。

バレエ版「シンデレラ」もディズニー映画のように夢にあふれるストーリーですが、全体の雰囲気はとても暗いです。ディズニーのシンデレラを想像すると面食らってしまうことがあるかもしれません。

記事を書いているのは…

元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録あり。

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kazu

今回は初心者でも楽しめるアシュトン版「シンデレラ」の作品解説です。

※3分ほどで読み終わる記事です。

フレデリック・アシュトン版バレエ「シンデレラ」あらすじとみどころ解説

王道はフレデリック・アシュトン版

プロコフィエフ作曲の「シンデレラ」が初めてバレエ化されたのは1945年ボリショイ劇場でした。その後、1946年にキーロフ・バレエ団(現マリインスキー・バレエ団)でセルゲイエフ版が制作されます。ですが、1948年イギリスで発表されたフレデリック・アシュトン版がバレエ版「シンデレラ」の王道といわれています。

ちなみボリス・フィチンゴフ=シェーリ作曲、エンリコ・チェケッティとレフ・イワノフが振付、マリウス・プティパが総監修をした1893年のバージョンが「シンデレラ」の初演です。シンデレラを演じたピエリーナ・レニャーニが世界で初めて32回転のフェッテをこの「シンデレラ」で披露したという歴史的な作品です。

アシュトン版初演:1948年12月23日

イギリス:ロイヤル・オペラ・ハウス(英国ロイヤル・バレエ団の前身であるサドラーズ・ ウェルズ・バレエ団が公演)

振付:フレデリック・アシュトン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
原作:シャルル・ペロー、グリム兄弟

フレデリック・アシュトンはイギリス人の振付家として初めてバレエの全幕を振付をしたことで有名です。しかもアシュトンが最初に全幕振付をしたのがこの「シンデレラ」です。ちょうど第2次世界大戦が終わって間もないころ。そんな世相を反映しています。

逆境を乗り越える女性

シンデレラはどんなにツライ状況でも人を恨みません。だからといって幸せをただ待つようなヒロイン像でもありません。

プロコフィエフの現代的な音楽と、戦後という状況がこのシンデレラ像を生み出したといえます。バレエ版シンデレラでは耐える部分はありつつも、明るさと夢見る心を忘れないことで、自ら幸せをつかみとっていきます。

これはプロコフィエフが作曲した「シンデレラ」に共通するシンデレラ像といえます。

なぜアシュトン版が王道なのか

アシュトンはオリジナルの音楽を何曲かカットしています。第3幕、王子様がガラスの靴を手がかりにシンデレラを探します。プロコフィエフの音楽ではいろいろな国に探しに行く設定になっていますが、アシュトン版ではこの部分がマルっとカットされています。他のバージョンではこの音楽が使われていることもありますが、たしかにストーリーとはあまり関係なく感じることが多いです。

アシュトン版はこうした工夫を凝らすことでシンデレラと王子様のストーリーに焦点があたっていて、物語の印象を強く残すバージョンとなっています。

プロコフィエフの音楽はちょっと暗め?

作曲のプロコフィエフはバレエ版「ロミオとジュリエット」でも有名です。「ロミオとジュリエット」で大成功を収めたプロコフィエフにキーロフ劇場が「シンデレラ」の音楽を依頼します(1940年)。しかし戦争により制作が遅れ、完成したのは1944年です。

「シンデレラ」はプロコフィエフの中でも最もロマンチックで、情感にあふれた曲といわれています。ですが、「シンデレラ」は冒頭から不協和音ではじまります。そうしたこともあり、バレエ版「シンデレラ」を思ったよりも暗いと感じる人が多いと思います。その分、シンデレラと王子様のシーンの音楽の美しさは際立っています。

プロコフィエフは作曲時、チャイコフスキーとマリウス・プティパのバレエ作品を参考にしたようです。この2人は「白鳥の湖」「くるみ割り人形」「眠れる森の美女」という3大バレエを残しました。

「シンデレラ」は古典バレエの様式をとっているので、とても見やすい構成になっています。

またザハーロフ版でシンデレラを演じたガリーナ・ウラノーワを念頭に置いてプロコフィエフは作曲したともいわれています。

アシュトン版の特徴

アシュトン版「シンデレラ」は不思議とおとぎ話を見ているという感覚になります。照明によるものなのか、音楽によるものなのか、演出によるものなのか…。舞台に入り込みやすいと思います。

とあるヨーロッパの国が舞台です。

登場人物

シンデレラ
王子様

義理の姉たち:シンデレラをいじめる
父親:シンデレラを守ってあげられない

仙女:シンデレラを魔法で助ける
春の精、夏の精、秋の精、冬の精:仙女とともにシンデレラを助ける

道化:舞踏会を盛り上げる
王子の友人たち

アシュトン版では継母が登場せず、義理の姉たちのみ登場します。この義理の姉たちを男性ダンサーが演じます。シンデレラをいじめるのですが、男性が演じることで陰湿さよりもコミカルさが前に出るようになっています。

そして父親が登場します。この父親は2度も妻に先立たれています。お父さんはシンデレラを心配しているのですが、極めて気の弱い人物として描かれています。

上演時間:1時間50分

第1幕:45分
第2幕:40分
第3幕:25分

休憩を入れると2時間20分ほどになりますが、バレエとしてはコンパクトな公演時間なのでバレエ鑑賞初心者の人にもオススメです。

第1幕のあらすじ

シンデレラは、義理の姉2人にいつもいじめられている。

お城で王子様の結婚相手を探す舞踏会が開かれることになり国中の未婚女性が招待されることになる。しかし、シンデレラが行くことを義理の姉たちは許さない。

舞踏会に行くことを諦めていたシンデレラ。そこに魔法使いの仙女が登場し、シンデレラが舞踏会に行けるよう魔法で準備する。シンデレラのために美しいドレス、ガラスの靴、かぼちゃの馬車を用意し、御者たち、お付きの妖精たちもやってくる。12時になると魔法が解けてしまうので、12時までには帰ってくるよう注意を与える。

そしてシンデレラは舞踏会に出発する。

第1幕のみどころ

第1幕は家のシーンと仙女の魔法のシーンに分かれます。

家のシーンでは照明も暗めに設定され、物語に焦点があたっています。あらすじを読まずとも内容がわかると思います。義理のお姉さんたちがコミカルに話を進行していきます。

後半部分は仙女が登場し、ここから踊りがたくさん登場します。仙女が登場すると舞台の空間が一気に広がります。これがシンデレラの心を解放しているかのような演出です。仙女、春の精、夏の精、秋の精、冬の精の5人はソリスト級のダンサーが登場します。

妖精たちの踊りのフィナーレからかぼちゃの馬車

妖精たちがソロを踊り終えると、最後に5人の妖精たちが一緒に踊ります。この曲が大好きで、このシーンにくると毎回ウキウキしてしまいます。そこから群舞である星の精たちが登場します。ここまでは群舞のシーンが一度も登場しません。群舞のダンサーの数は時計の文字盤と同じ12人となっています。

そして、シンデレラの変身へと続きます。


英国ロイヤル・バレエ団、1969年の映像。

第2幕のあらすじ

王宮では舞踏会が開かれている。そこにシンデレラが遅れて登場する。

王子はシンデレラに一目惚れ。ふたりで楽しい時間を過ごす。とそのとき、時計台から12時の鐘が鳴り響く。長居しすぎてしまったシンデレラ。魔法が解けたシンデレラは急いで逃げる。そのとき階段に靴を落としてしまう。

第2幕のみどころ

シンデレラの登場シーンには注目です。

シンデレラはポワントで立ったまま王子様に手を引かれ階段を降りてきます。このときシンデレラは絶対に下を向きません。これは宝塚のフィナーレの大階段を下を見ずに降りてくるのと同じです。夢見心地のシンデレラが宙に浮いているかのように見えてしまうシーンで、見どころとなっています。


英国ロイヤル・バレエ団より。アントワネット・シブレーとアンソニー・ダウエルによる名演。1969年の映像です。アントワネット・シブリーはこの後足のケガにより引退してしまいます。貴重な映像です。

パ・ド・ドゥ

シンデレラと王子様のダンスはキラメキにあふれています。音楽も美しいです。シンデレラのソロ、王子様のソロもあります。


英国ロイヤル・バレエ団、2013年の映像。アリーナ・コジョカルとヨハン・コボー。実生活でも夫婦のふたり。

そして、最後のシーンでは、第1幕のフィナーレと同じ曲から発展し、時計のシーンへとつながります。このときの音楽の盛り上がりに気分も上がります。

第3幕のあらすじ

王子様は、ガラスの靴を手がかりにシンデレラを捜す。シンデレラの落とした靴は誰にも合わない。無理やり履こうとする義理の姉のところにかけよるシンデレラ。するとポケットからもう一足のガラスの靴が滑り落ちる。

こうしてシンデレラは妃として迎えられることになる。

第3幕のポイント

最初の15分は靴探しの物語。最後の10分がシンデレラと王子様の踊りです。

アシュトン版ではシンデレラが義理のお姉さんたちを許し、ハッピーエンドを迎えます。

最後の踊りのシーンでは星の精たちが光る杖を持っていて、幻想的な雰囲気です。そこからシンデレラと王子様のパ・ド・ドゥでしっとりと幕が閉じます。

映像があまり残っていません

アシュトン版「シンデレラ」の映像は多く発売されているわけではありません。

さきほどシンデレラの登場シーンで紹介したアントワネット・シブレーとアンソニー・ダウエルによる名演。1969年の映像です。振付のフレデリック・アシュトンが義理のお姉さん役で登場している貴重な映像です。

2,700円ほど。今みても素晴らしい映像です。

日本では新国立劇場バレエ団が、隔年で「くるみ割り人形」とアシュトン版「シンデレラ」を上演し続けています。そのため直接見るチャンスもたくさんあります。ぜひ一度舞台に足を運んでみてください。

kazu

以上、初心者のためのアシュトン版バレエ「シンデレラ」でした。
ありがとうございました。