ヌレエフ版バレエ『シンデレラ』ストーリー・見どころ解説(ハリウッドの夢)
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ルドルフ・ヌレエフ版『シンデレラ』はどんなストーリー?
見どころは?
フランスらしい「シンデレラ」とは?

おとぎ話『シンデレラ』はバレエでも定番の作品です。

世界各地でさまざまなバージョンの作品があります。

今回紹介するヌレエフ版は日本人とも関わりがあり、森英恵はなえさんが衣裳をデザインしていて、とても豪華です。

記事を書いているのは…

元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります

kazu

ルドルフ・ヌレエフ版『シンデレラ』の作品解説です。

※3分ほどで読み終わります。

1930年代版ハリウッド

ヌレエフ版『シンデレラ』は中世の設定をガラッと変え、1930年代のハリウッドが舞台です。

大掛かりな撮影スタジオが舞台上で再現され、出演人数、衣装の数、セットのスケールがかなり大きいです。

現在ヌレエフ版を上演しているバレエ団はパリ・オペラ座バレエ団くらいしかないので日本で見るチャンスは少ないですが、とにかく豪華な舞台なのでオススメです。

僕は2010年の日本公演を観たことがあります。印象的なシーンや踊りを含め「とてもパリ・オペラ座バレエ団らしい作品だな」と感じました。

個人的にパリ・オペラ座バレエ団の中でも一番好きな作品です。

時間は有限

ヌレエフ版『シンデレラ』には「時間をムダにしてはいけない」というメッセージが入っています。

およそ35年前につくられたヌレエフ版。1986年は、物質主義、大量消費社会に偏っていた時代です。

現代はインターネットが登場し、スマホも普及、さらに生活のスピードが上がっています。

20代、30代をいかに大事に過ごすか。「若さ」という武器があるうちにどう生きていくか。普遍的なメッセージが込められています。

作品について

ヌレエフの振付は高難易度、複雑なステップのオンパレードです。

難しい振付を踊りこなすダンサーの見どころでいっぱいです。

ヌレエフ版初演:1986年10月25日

フランス(パリ):ガルニエ宮

振付:ルドルフ・ヌレエフ
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
原作:シャルル・ペロー、グリム兄弟
衣装:森英恵
装置:ペトリカ・イオネスコ

装置を担当したペトリカ・イオネスコが、ヌレエフにアイディア(ハリウッドを舞台にする)を伝えたところからスタートします。

最初はためらっていたヌレエフ。というのも原作をガラッと変えることに抵抗があったたためです。ですが、最終的にアイディアを受け入れ『シンデレラ』の創作が始まりました。

作曲のプロコフィエフはロシア出身で、1930年代にアメリカとヨーロッパに滞在しています。『シンデレラ』の音楽は欧米での滞在に影響を受けていて、プロコフィエフの作品の中でもっとも西洋的と言われます。

こうした点からも、ハリウッドという舞台設定でありながら、かなりハマっている『シンデレラ』だと思います。

ヌレエフ版の特徴

ヌレエフ版では、王子様が映画スターに代わっています。そして、魔法使いのおばあさんが映画プロデューサーの男性に変わります。

登場人物

シンデレラ
映画スター:オリジナルでは王子様

義理の姉2人
継母
父親

映画プロデューサー:オリジナルでは魔法使いのおばあさん
ダンス教師

初演ではプロデューサーをヌレエフ自身が踊りました。

そして継母を演じるのは男性です。演技力だけでなく、トウシューズをはく難役です。男性ダンサーは普段トウシューズをはかないためテクニックを必要とします。また、男性が演じることで陰湿さよりもコメディ感の強いキャラクターになっています。

上演時間:2時間10分

第1幕:45分
第2幕:45分
第3幕:40分

休憩を入れると3時間ほどになります。

ストーリー

1930年代、アメリカのハリウッド。

第1幕

シンデレラは父親が経営するダイナーで下働きをしている。映画の世界に憧れるシンデレラだが、継母と義姉たちに仕事を押し付けられているため家から出るチャンスがない。

義姉たちが映画の端役はやくとして映画の出演が決まり、その準備に大忙し。のけ者にされるシンデレラは酔っ払う父の介抱をする。そんなシンデレラにツラく当たる義姉たち。

すると自分の車で事故を起こしケガをした男が現れる。心優しいシンデレラは不思議な雰囲気を持つその男を看病する。元気になった男は魔法のように去っていく。

継母と義姉たちは撮影に出かけていってしまい残されるシンデレラ。ひとりぼっちのシンデレラのもとに先ほど助けた男が戻ってくる。

実はその男は映画プロデューサーだった。シンデレラに光るものを感じたプロデューサーはシンデレラにこう伝える。

「時間はどんどん進んでいってしまう。若く美しいうちに夢を追いかけろ。女優になるのだ」

美しい衣装に着替えたシンデレラはリムジンに乗ってビバリーヒルズに向かうのだった。

第2幕

撮影所ではさまざまな映画の撮影が次々と行われている。そこに義姉たちもいる。

ハンサムな映画スターが撮影入りする。皆がスターに注目する。

すると撮影のためにドレスアップしたシンデレラがやってくる。お互いに惹かれ合うシンデレラと映画スター。

2人のリハーサル、テスト撮影が始まる。相性の良い2人は順調。

休憩ののち全員での本番が始まる。撮影はスムーズに進み、終わったのは真夜中直前。

真夜中を告げる時計の音が響くとシンデレラは不安に駆られる。「こんな素晴らしい時間が続くわけがない……。」

シンデレラは靴を片方残し、去っていく。

第3幕

映画スター、スタッフ、キャストたちはシンデレラを探し夜の街に飛び出す。

スペイン料理を出す居酒屋、中国人が経営する阿片窟あへんくつ、ロシア人の仕切るキャバレーを探すがどこにもいない。

一方、家に戻ったシンデレラは日常に戻っている。

昨日の夢のような時間を思い出すシンデレラ。そこに映画スターが入ってくる。

映画スターは靴を頼りに新人女優を探している。義姉たち、継母が試すものの足に合わない。

シンデレラがもうひとつの靴を片手に進み出る。

再会する2人は互いに喜び合う。

そしてプロデューサーが登場し、シンデレラと契約するのだった。

映画の撮影に戻るシンデレラと映画スター。

そして2人はいつまでも幸せに暮らすのでした……。

フランスらしいシンデレラ像

昔からある「シンデレラ」をざっくり解釈すると「婚期を逃しそうなシンデレラが運命の王子と出会い、貴族の地位を手に入れる」という夢物語です。

家に閉じ込められていたシンデレラが仙女(魔法使いのおばあさん)の助けを借り、外の自由な世界に飛び出します。美貌びぼうと品の良さを使い、王子様と出会い、王子様に追いかけさせ、結婚にまで至るサクセスストーリーです。

そしてもちろん、結婚後はいつまでも幸せに暮らします。

現代版

ただし「男性に幸せにしてもらう」というストーリーは現代にはなかなか馴染みません。

「いつまでも幸せに暮らしましたとさ……」とはかんたんに信じられない時代です。

そのため現代において『シンデレラ』という作品は、皮肉混じりで語られることも多くなっています。

こうしたことも踏まえ、ヌレエフ版は設定をガラッと変えています。

日陰にいたシンデレラが突然セレブリティになる、というハリウッドのサクサスストーリーに置き換わっています。

フランス特有の事情もあります。フランスは共和制であり、王族や貴族に対して一定の拒否反応があります。こうした歴史もあり、ヌレエフ版とフランスの相性の良さがうかがえます。

自立したシンデレラ

シンデレラの初演を踊ったのはシルヴィ・ギエムです。

ギエムはどの作品でも男性に引き立てられるのではなく、自立した女性像を作り出していました。

圧倒的なテクニックで観客を惹きつけていたギエムですが、古典バレエの伝統的な役の解釈においては疑問を持つ観客も少なからずいました。

ですが、ヌレエフ版『シンデレラ』ではギエムの個性がピタッとハマっています。

このギエムの解釈はギエム以降のパリ・オペラ座バレエ団の女性ダンサーにも引き継がれています。

音楽

プロコフィエフ作曲の『シンデレラ』が初めてバレエ化されたのは1945年ロシアのボリショイ劇場でした。

1946年、ロシアのキーロフ・バレエ団(現マリインスキー・バレエ団)でセルゲイエフ版が制作されます。

1948年、フレデリック・アシュトン版がイギリスで制作されました。

アシュトン版は第3幕(王子がシンデレラを探すシーン)を大幅にカットすることでストーリーのクライマックスをはっきりさせています。

第3幕をカットしているバージョンが多いのですが、ヌレエフ版は「王子様のシンデレラ捜索シーン」を残しているので珍しいバージョンだと思います。

シンデレラの登場シーン

僕が1番好きなシーンは「変身後のシンデレラの登場シーン」です。

新進気鋭の女優としてスタジオにやってくるシンデレラ。

薄い幕の後ろを歩いてやってきます。シンデレラを囲む多くのパパラッチ。カメラのフラッシュがゆっくりと点灯します。

なぜか僕にはスローモーションだった記憶が残っています。映像を見返すとダンサーたちは普通に動いているのですが、この瞬間、僕には舞台がスローに見えました。

あとは、ファッションショー(通常なら四季の踊り)も好きなシーンです。

英恵はなえ

日本人としては森英恵さんのファッションも注目です。

とはいえ僕は実際に舞台を観るまでは、「奇抜な衣装で変だな……」と思っていました。

ですが、実際に目にしたとき、印象がガラッと変わりました。

失礼な言い方になりますが、写真だと魅力が半減しています。

なので実際に見てから評価してほしいです。

出演人数は68人ほどで、150着ほどの衣装があると言われています。

パリ・オペラ座の持つ工房で丁寧にオートクチュールとして作られました。森英恵さんはそこにも感動していたようです。

2018年の再演の際、森英恵さんのデザインそのままで新たに衣装が作られました。この先もデザインが変わることなく上演していってほしいと思います。

映画作品への数々のオマージュ

1930年代の映画をテーマにしていることもあり、映画作品へのオマージュがたくさん登場します。

第1幕

・シンデレラが喜劇王チャップに扮装。『街の灯』(1931年)など
・コート掛けと踊るシーンは、フレッド・アステアが帽子掛けと踊る『恋愛準決勝戦』(1951年)から
・ファッションショー(四季の精たちの踊り)はグルーチョ・マルクスのパロディとされる。『マルクス兄弟デパート騒動』(1941年)など
・プロディーサーは太い葉巻を加えていてステレオタイプな描写。『わが谷は緑なりき』(1941年)でも登場
・ピンナップガール(ピンで壁にとめて飾るセクシーな女性の写真)の写真が登場。『ピンナップ・ガール』(1944年)という映画もある
・ハリウッドの街並みの背景は『メトロポリス』(1926年)より。支配者階級と労働者階級の2極化した未来世界がテーマ

第2幕

・『キングコング』(1933年)がそのまま登場
・囚人と警官のドタバタコメディ。もう一人の喜劇王バスター・キートンの『ゴルフ狂の夢』(1920年)より
・らせん階段の撮影セットはMGMミュージカルの象徴。『ジーグフェルド・フォリーズ』(1946年)にも登場

第3幕

・長いシフォンの布がなびくのはオードリー・ヘップバーンの『パリの恋人』(1957年)より

さらに詳しく見ていくとクラシック映画へのオマージュがもっと見つかると思います。ぜひ探してみてください。

最後に

第3幕のフィナーレ、シンデレラが長いシフォンをなびかせます。

このシーンは美しいですが、失敗率が高い……。

どれが正解なのかいまだにわかっていません。

シンデレラがシルヴィ・ギエム、映画スターがシャルル・ジュド。最後のパ・ド・ドゥです。シフォンのシーンは7:25~です。

映像

アニエス・ルテステュ、ジョセ・マルティネス主演。ヌレエフ振付の難しいステップを軽々とこなしていてかなりオススメの映像です。

プライム・ビデオで配信中です。プライム会員は無料。レンタルは200円ほど

動画配信サイトでもバレエの公演を見ることができます。

ぜひ無料期間を活用してみてください。

kazu

以上、ヌレエフ版バレエ『シンデレラ』についてでした。
ありがとうございました。

バレエ作品に関してはこちらにまとめていますので、ぜひご覧ください。