『水晶宮』の内容は?
見どころは?
『シンフォニー・イン・C』との違いは?
ジョージ・バランシンの傑作バレエに『 シンフォニー・イン・C 』という作品があります。
実は、『水晶宮(クリスタル・パレス)』という作品が改訂され『 シンフォニー・イン・C 』になりました。
どちらの作品も未だ上演が続いています。
オリジナル版と、改訂版が同時に上演され続けているとてもめずらしい作品についてです。
元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります。
今回は、ジョージ・バランシン振付『水晶宮』の作品解説です。
※ 3分ほどで読み終わります。
パリ・オペラ座バレエ団のための作品
バランシン振付の『水晶宮』は宝石をテーマにしています。
英語の題名は『クリスタル・パレス( A Crystal Palace )』です。
クリスタル・パレスとは、ガラス張りの建造物のことをいいます。
『水晶宮』は 4つのパートに分かれていて、それぞれにテーマとなる宝石(カラー)があります。
第1楽章:ルビー(赤)
第2楽章:ブラック・ダイヤモンド(青)・・・サファイアという説もあり
第3楽章:エメラルド(緑)
第4楽章:パール(うすいピンク)・・・ダイアモンド、クリスタルという説もあり
『水晶宮』はパリ・オペラ座バレエ団のために創られた作品で、パリ・オペラ座の持つきらびやかさが反映されているような作品です。
制作
1947年、バランシンはパリ・オペラ座バレエ団のゲスト振付家として活動していました。
このとき『水晶宮』を制作します。
30分の作品を 2週間で創り上げました。
パリ公演は大成功だったと記録されています。
フランス(ガルニエ宮):パリ・オペラ座バレエ団
振付:ジョージ・バランシン
音楽:ジョルジュ・ビゼー
バランシンはフランスの作曲家で振付することにこだわりました。
そこで音楽はジョルジュ・ビゼー(「カルメン」の作曲で有名)が 17歳の時に作曲した『交響曲ハ長調』を使用しています。実はこの曲、60年ほど音楽院の図書館に埋もれていて、初めて演奏されたのは 1935年のことでした。
ちなみにビゼーは他に 2曲の交響曲を作曲していますが、破棄されてしまったと伝えられています。
ストーリーがあった
もともとは宝石たちの精が登場する物語でした。
ですが、ストーリーが削られ、各楽章ごとのイメージカラーのみ残り現在の形になりました。
総勢 52人
たった 30分の作品に、主役を踊るエトワール級(バレエ団の中で一番ランクが高い)のダンサーが 4組も登場します。
1楽章ごとに、
・主役カップルが 1組 2名
・リードカップルが 2組 4名
・群舞の女性ダンサーが 8名(第1楽章、第4楽章) 6名(第2楽章、第3楽章)
第1楽章から第3楽章までは、エトワール(バレエ団の最上位ダンサー)が主役カップルを踊り、第4楽章は将来のエトワールと期待されるダンサーが踊る傾向にあります(たまに第4楽章でもエトワールが踊ることもあります)。
30分の作品で、バレエ団の実力者たちがどんどん登場するので、とにかく豪華です。
最後の第4楽章では、途中から第1楽章、第2楽章、第3楽章のダンサーたちが再度登場します。
そして、最終的に 48人が舞台をいっぱいにし大団円を迎えます(群舞の女性ダンサー 4人はカット)。
パリ・オペラ座バレエ団より、フィナーレです。
MEZZO LIVE HD より
豪華でキラキラしている作品ですが、音楽のスピードが速く、正確なテクニックが必要な難易度の高いバレエです。
『シンフォニー・イン・C』との違い
この『水晶宮』が 1948年に改訂され、題名が変更され『 シンフォニー・イン・C 』になりました。
2つの作品のコンセプトはかなり違います。
『シンフォニー・イン・C』は、「音楽を踊りで表現する」ことがテーマです。
このテーマにそって、衣装が白黒のモノトーンとなり、題名も音楽を大切にあつかうという観点から曲名に変更されました。また、振付も手直しされています。
例えば、第1楽章です。
パリ・オペラ座バレエ団から第1楽章「ルビー」です。
『 シンフォニー・イン・C 』の同じパートはこのように変化しています。
上演が許されている2つのバレエ団
世界中で知られているのは『 シンフォニー・イン・C 』で『水晶宮』はそこまで有名ではありません。
というのも『水晶宮』をレパートリーに持つバレエ団が世界に 2つしかないからです。
東京バレエ団
ひとつは先ほど紹介したパリ・オペラ座バレエ団。
そしてもうひとつは、日本にある東京バレエ団です。
東京バレエ団のレパートリーに残っているというのは、総監督を務めていた故佐々木忠次さんの影響が大きいと思われます。
自伝本を読んだことがあるのですが、その中で『 シンフォニー・イン・C 』のことを全否定していました(笑)。
とはいえ、東京バレエ団でも久しく上演されていません。
パリ・オペラ座のバランシン
映像作品はほぼ出ていないのですが、『水晶宮』のリハーサル映像があります。
バランシンから直接指導を受けたことのある元エトワールのギレーヌ・テスマーが、パリ・オペラ座バレエ団の後輩であるダンサーに指導するというDVDです。
とてもおもしろいドキュメンタリーです。
ジョージ・バランシンは『水晶宮』の 20年後である 1967年、宝石をテーマにしたバレエ『ジュエルズ』を発表します。こちらも大成功となりました。
『水晶宮』から宝石というテーマを抜き取ったバランシンが、再度『ジュエルズ』で宝石をテーマに選びました。
『ジュエルズ』に関してはこちらで紹介していますので、あわせてどうぞ。
ジョージ・バランシン振付「ジュエルズ」の作品の解説です。3つのパートに分かれていて、エメラルドはパリ(フォーレ作曲)、ルビーはニューヨーク(ストラヴィンスキー作曲)、ダイアモンドはサンクトペテルブルク(チャイコフスキー作曲)をあらわす、豪華な舞台です。
今回は、ジョージ・バランシン振付『水晶宮』についてでした。
ありがとうございました。
バレエ作品に関してはこちらにまとめています。ぜひご覧ください。
舞台鑑賞好きの僕が劇場に行くときに知っておくとちょっと得する話をのせています。バレエを中心に紹介しています。