「風が強く吹いている」は、箱根駅伝を目指す大学生10人を描いた青春群像劇です。
原作は三浦しをんさんの小説で、映画・アニメ・舞台・漫画と幅広くメディア展開されています。
今回は、2018年放送のアニメ版と2009年公開の映画版、両方を見た上での感想と解説、印象に残ったシーンについて書いていきます。
元劇団四季、テーマパークダンサー。社割を使えたときは週2回 映画館へ行っていました。最近はネットで映画をたっぷり。
※ 3分ほどで読み終わります。
あらすじ
寛政大学の寮に暮らす9人の男子学生。そこに、清瀬灰二(ハイジ)の誘いを受けて、俊足の蔵原走(カケル)が入寮してくる。カケルは陸上のスター選手だったが、ある出来事をきっかけに競技から距離を置いていた。
ハイジには大きな夢がある。それは、箱根駅伝出場。
もともと将来を期待される長距離選手だったハイジだが、怪我のせいで競技から離れざるを得なかった。それでも夢を捨てきれず、リハビリを重ねて再び走れるまでに回復する。そのかたわらで進めていたのが、駅伝出場候補者を集めることだった。ハイジは駅伝の素質がありそうな人物を、寮生として少しずつ集めていた。寮生たちは食事や掃除、雑用まで一手に引き受けてくれるハイジに恩義を感じているが、ハイジの隠された意図を知らない。
カケルの入寮によって、箱根駅伝が一気に現実味を帯びてくる。
カケルとハイジを中心に、個性豊かな10人が箱根駅伝を目指していく物語です。
1,100円前後です。
「敗者の美学」という日本特有の感覚
箱根駅伝は日本で長距離競技をする人にとって、ある意味で一つの到達点です。陸上選手というキャリアが職業として確立されていない日本では、大学の4年間で競技に区切りをつける選手が大半を占めます。そんな選手たちが人生をかけて挑む舞台が箱根駅伝です。
全力を尽くす姿には、「敗者の美」を強く感じます。優勝したチームより、力及ばず敗れたチームのほうが印象に残る競技というのは、日本特有の感覚かもしれません。
箱根駅伝で思い出されるのは、途中棄権する選手や、たすきがつながらなかった瞬間、そして泣き崩れる姿です。
出場するのはおよそ20チーム。1チーム10人が、それぞれ約20kmを走ります。1時間ほどの区間の中に、いくつものドラマが凝縮されていて、走る人間の人となりまで見えてしまう部分に、競技の魅力があります。
映画版とアニメ版:それぞれの魅力
作品は2006年の小説発表以降、このようにメディア展開しています。
映画版
監督・脚本は大森寿美男さん。
日本テレビ・読売新聞社の全面協力もあり、箱根駅伝のシーンは本物さながらの再現度で撮影されています。ゴール地点である大手町の様子もしっかり映し出され、実際の大会さながらのスケール感が伝わってきます。
キャスト陣の走り込みは単なるトレーニングの域を超えていたようです。撮影現場を見学した記者が「えっ」と声を上げるほど本格的なランニングだったと語っていて、役者であることを忘れるくらいの本気モードでした。林遣都さんが演じる蔵原走の走るフォームは、陸上経験者が見ても納得のいく美しさだったという声もあり、「演技として走っている」のではなく「本物のランナーとして画面に立っている」ような説得力があります。
素人交じりのチームが、出場者ぎりぎりの10人でたった1年で箱根に挑むという設定は、正直なところ現実味に乏しい面もあります。この設定に批判的な声もあるようですが、個人的にはこの危うさごと受け入れられました。
役者陣の走りにこれだけの本気度が伴っているからこそ、多少の設定の粗さよりも「本気で挑む姿」のほうが強く印象に残ります。登場人物が魅力的に描かれているぶん、ストーリーに納得できてしまうからです。
4,000円前後です。
人の持つ魅力に気づかせてくれる作品です。実力者が集まればいいわけではなく、誰と一緒にやるかが大事なのだと思わされます。結局のところ、最後は「人」なのだと感じさせてくれる映画でした。
ハイジというキャラクターの魅力
ハイジはリーダーシップがあり、物事を俯瞰して見る力を持ったキャラクターです。映画版では小出恵介さん、アニメ版では豊永利行さんが演じています。この2人の演技がとても魅力的です。
言葉遣いが丁寧で、品のある話し方をします。通常、丁寧語や敬語を多用すると、どこかよそよそしい印象になりがちです。でもハイジからは、なぜか親近感が伝わってきます。
特徴的なのが「きみ」という呼びかけです。この言い方に嫌味がまったくない。これは演じる俳優2人の力によるところが大きいと感じます。ハイジというキャラクターが説得力を持つのは、セリフの内容以上に、話し方の間や視線の使い方、立ち姿にまで挫折の経験が滲み出ているからだと思います。
言葉だけを追えば説教めいた台詞になりかねない場面でも、演じ手の表現が伴うことで、嫌味のない包容力に変わる。これは台本の力だけでなく、俳優・声優それぞれの表現力の賜物です。走るシーンの疾走感も同様で、単に速く動いているだけでなく、それぞれのキャラクターの心情がフォームや表情ににじみ出ている点に見入ってしまいます。
映画でのハイジの印象的なシーン
なかなか記録が伸びない柏崎茜(あだ名:王子)。走力が足りず、チームの足を引っ張ってしまいます。箱根駅伝には10人全員の実力が必要なため、タイムの上がらない王子に苛立ちを見せるカケル。厳しい練習をこなすのが当たり前であり、箱根駅伝に挑む厳しさをよく知っているからこそ、王子に強く当たってしまいます。
追い詰められた王子が「代わりを探してくれ」と弱音を吐いた時、ハイジは静かに「きみの代わりなんて青竹(寮の名前)にはいないよ」と返します。そのうえでカケルには、王子の努力を素直に認めない姿勢をたしなめます。
「そんなに速く箱根に行きたきゃなー、ロマンスカーに乗れ。誰よりも速く箱根に行けるぞ。王子の努力をなぜ素直に認めない。君は王子に言ったそうじゃないか。漫画と同じように走ることを好きになればいいんだって。それを忘れちゃダメだ。その言葉こそ本当のきみだ。きみの走りを支えるものになるはずだ。速さだけじゃない。そんなものは虚しい。それで頑張った先に何があるか…、俺の足を見ればわかるだろう。」
そして、感情的になってしまって「すまなかった」と伝えます。
短いやり取りの中に、リーダーとしての器の大きさが凝縮されている場面です。
アニメ版でさらに深まる10人の物語
映画版も見応えがありますが、唯一惜しいのは時間の都合上、ハイジとカケルにスポットライトが集中してしまう点です。
アニメ版は全23話あり、10人それぞれの背景が語られます。どのスポーツでもエース級の選手に注目が集まりがちですが、今回の10人はもともと陸上を志していたわけではないメンバーが多く、似たタイプのキャラクターが集まっているわけではありません。だからこそ、一人ひとりのストーリーに厚みがあります。
主題歌も印象的で、特に向井太一さんの「道」はこの作品のテーマにぴったりです。
走る表現のアニメーションも見応えがあり、映像ならではの疾走感が伝わってきます。
5,000円前後です。
まとめ
小説から映画、舞台、漫画、ラジオドラマ、アニメと、多方面で展開されてきた作品です。それだけ多くの人の心を動かしてきた物語です。
「風が強く吹いている」は、勝つことよりも走り抜くことの意味を教えてくれる作品です。ハイジとカケルを中心にした人間ドラマはもちろん、所作や間の作り方から学べることが多い一本です。映画版とアニメ版、それぞれの違いも楽しみながら見てもらえたら嬉しいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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