
「ル・パルク」はどんなストーリー?
何をテーマにしている?
ちょっと難しい?
1994年に初演された現代バレエ「ル・パルク」。
多くの現代バレエ作品は時が経つと上演されなくなっていきます。
そんな中、繰り返し上演され、現代バレエの傑作といわれています。
元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります
今回は「ル・パルク」の作品解説です。
※3分ほどで読み終わります。
本能的な愛
フランス宮廷を舞台に恋愛ゲームに興じる貴族たち。
物語が進むにつれ本能に近い、動物的な踊りに変わっていきます。
演じるパリ・オペラ座バレエ団のダンサーたちはフランス特有のエスプリ(洒落っ気)が効いています。動物的な踊りのなかにも上品さがあり、とてもスタイリッシュです。
最後のシーンはとても有名で、エールフランスのCMでも使用されていたことがあり日本でも放送されました。
「ブラック・スワン」の振付、そしてナタリー・ポートマンと結婚するバンジャマン・ミルピエです。
ガラ公演(人気作品のハイライトを集めたオムニバス公演)で今も上演され続けています。
制作
振付:アンジュラン・プレルジョカージュ
音楽:モーツァルト
サウンド・コンポジション:ゴラン・ヴォイヴォダ
衣装:エルヴェ・ピエール
上演時間:全3幕(90分:休憩なし)
振付のアンジュラン・プレルジョカージュは動物的な動きを振付に取り入れることがあります。
恋愛の駆け引きをセクシーな振付で表現しています。
この作品はなかなか難しい作品で、エロティックな振付がたくさん登場するので、保守的な人はなかなか難しいかもしれません。
パリ・オペラ座バレエ団の古典バレエが好きな人にとっては面食らうかもしれないので注意してください。
あらすじ
18世紀(1700年代)ロココ時代のフランスの庭園。
場面ごとにタイトルがついているので、音楽と一緒に紹介します。
「序曲」:交響曲 第36番 ハ長調「リンツ」作品425 アダージョ
第1幕
「庭師」
「異性間の観察」:アダージョとフーガ ハ短調 作品546
「アプローチゲーム」:6つのドイツ舞曲 作品571
「出会い」:ピアノ協奏曲 第14番 変ホ長調 作品449 アンダンティーノ
ある日の夜明け、4人の庭師が働きはじめる。庭師がいなくなると、貴族たちが続々と庭園にやってくる。男たちと女たちが探り探り観察している。するとお互いに挑発をはじめる。若さを爆発させたパワフルな踊りに続き、イス取りゲームに移っていく。
夕方になり残された主役の2人。お互いに気になっているようだが、なかなか成就しない。男が積極的にアプローチしていくが、女はためらっている。そして男を残し、女は去っていく。
第2幕
「庭師」
「やわらかな魅力」:セレナード ト長調 作品525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」ロンド
「欲望」:ディヴェルティメント 第11番 ニ長調 作品251 アンダンティーノ
「征服」:音楽のたわむれ「村の音楽師の六重奏」作品522 プレスト
「抵抗」:ピアノ協奏曲 第15番 変ロ長調 作品450 アンダンテ
昼間。4人の庭師たちが働いている。庭師がいなくなると、美しいドレスの女たちが庭園にやってくる。ウワサ話に花を咲かせている。すると女が失神してしまう。どうやらコルセットがキツイよう。女たちはドレスを脱ぎビスチェとペチコートだけになる。そこに上着を脱いだ男たちがやってくる。
欲望をのまま絡みつきキスをする男たちと女たち。恋の駆け引きが繰り広げられていく。ふたりで去っていくカップルもいれば、振られてしまう男たちもいる。
そして入れ替わるように主役の女が庭師たちに連れられ入ってくる。女だけ残り、主役の男が登場する。第1幕同様、積極的な男。ついに女が男に手を差し出すかと思ったが、引っ込めてしまう。逃げられることで、ますます追いかけたくなる男。
女の理性が勝ち、男の元から去っていく。
第3幕
「夢/庭師」
「嘆き」:バッハの作品による6つのプレリュードとフーガ 作品404aからアダージョ
「情熱」:ディヴェルティメント 変ロ長調 作品137 アレグロ
「失神」:セレナード ニ長調「ハフナー」作品250 アダージョ
「解放」:ピアノ協奏曲 第23番 イ長調 作品488 アダージョ
夜の庭園。主役の女が眠っている。女が夢遊病のように動く中、庭師たちがサポートする。そして女と庭師が去っていく。
薄いチュールのスカートをはいた女たちがやってくる。スカートからは足が透けて見え、夜の顔を見せる女たち。男たちが激しく踊る。そして男たちは女たちと一緒に踊る。女たちは失神し、男たちが抱えて去っていく。
主役の男が白いシャツと白いキュロットだけで登場する。そこに主役の女が庭師たちと登場し、ドレスを脱がされ長いシャツ1枚の姿になる。すべてのしがらみから解放された2人が情熱的に踊る(解放の「パ・ド・ドゥ」)。
オーレリー・デュポンとニコラ・ル・リッシュにより踊りです。
エピローグ
庭師がやってくる。夜が明け新しい1日がはじまる。
そして庭園では男と女の愛の物語が繰り返されていく…。
テーマと元になった文学作品
プレルジョカージュは、「恋を拒む女」をテーマに「ル・パルク」を創作しています。
そして、17世紀~18世紀のフランス文学が創作の源になっています。ラファイエット婦人作『クレーヴの奥方』、コデルロス・ド・ラクロ作『危険な関係』などです。
最初の心理小説。文学史に大きな影響を残す
心理小説:人間心理にスポットを当て客観的に分析して描く
あらすじ:恋を知らぬまま公爵の妻になった女。その後、貴公子と出会い恋を知る。隠しごとに耐えられなくなった女が夫である公爵に打ち明けてしまい、物語が嫉妬の方向に進んでいく……
恋愛をゲームとして楽しめ傷つけることをいとわない男。それを裏で操っている女。しかし、男が真実の愛を見つけることで2人の関係が崩れはじめる……
『危険な関係』は数多く映画化、舞台化されています。日本では宝塚も舞台化しています。
僕のオススメはアメリカのハイスクールに設定を変えた「クルーエル・インテンションズ」です。リース・ウィザースプーン、ライアン・フィリップ、サラ・ミシェル・ゲラーの勢いのある映画です。
人気作となり、出演者は違いますが「3」まで作られています。
絵画
またプレルジョカージュは、アントワーヌ・ヴァトーやジャン・オノレ・フラゴナール、フランソワ・ブーシェの絵画も参考にしています。
作品の謎
「ル・パルク」には気になる点があります。
「恋愛地図」
第1幕冒頭に登場するのがスキュデリー嬢の「恋愛地図」です。これはすごろくのようなもので、サロン文化で発展したゲームです。
最後の愛情にたどりつくまでにいろいろな障害があります。
17世紀~18世紀、上流階級の女性たちは自宅をサロンとして開放し、おしゃべりをしていました。中でも盛り上がる話題が恋愛でした。
そこで「恋愛地図」というゲームがつくられました。
作中の各幕につけられたタイトルは「恋愛地図」のように恋愛の段階を表しています。
男装する女性たちの謎
第1幕、女性たちがいきなり男装して登場します。このビジュアルに少しびっくりしてしまいますが、スタイリッシュな女性たちの魅力があふれています。
17世紀のフランスの演劇において、女性が男装するということは珍しくありませんでした。当時の女性は、足元まで長いスカートを履いていました。
そのため、男性が女性の足を見る機会はありませんでした。それに対し、女性が男装することでタイツを履いているとはいえ、女性の足を見ることができます。
男装することで逆に女性の性質を際立たせる、とされていました。
失神する女性たち
第2幕は第1幕と打って変わって、女性たちはドレスで登場します。
この時代、コルセットを締め上げていたため、かんたんに失神してしまうことがありました。肺に空気を十分に入れることが出来ず、酸欠状態だったと言われています。
失神は女性の武器とも言われていました。
失神するということは繊細さの象徴で、かつ男性に助けてもらう口実にもなり、出会いをもたらしたとされています。
庭師たち
大きなゴーグルをつけた庭師たちが、男と女をつなぐ存在として登場します。
基本的に機械音や鳥のさえずりに合わせて踊ります。振付はコンテンポラリーダンスに近く、極めて特殊です。
存在がすごく気になり、なんとも不気味です。
フルバージョンでオススメはこちら
パリ・オペラ座バレエ団、1999年の作品です。初演のファーストキャストであるイザベル・ゲランとローラン・イレール主演です。
初演時、主演は2組のみでした。そしてリハーサルは、プレルジョカージュと4人(もう一組は、エリザベト・モランとマニュエル・ルグリ)だけで蜜におこなわれたそうです。
とくにイザベル・ゲランとローラン・イレールの評価が高く、動きすべてに意味があるとされています。
また、このDVDにはのちにエトワールになるカール・パケット、レティシア・ピュジョルが出演しています。

プレルジョカージュ作「ル・パルク」の作品解説でした。
ありがとうございました。
バレエ作品に関してはこちらにまとめています。ぜひご覧ください。
舞台鑑賞好きの僕が劇場に行くときに知っておくとちょっと得する話をのせています。バレエを中心に紹介しています。