
英国ロイヤル・バレエ団で常任振付家として活躍していたリアム・スカーレット。
しかし、セクハラ疑惑やその他の問題が浮上。2019年から解雇、そこから死に至るまでの一連の事件は、バレエ界に大きな衝撃を与えました。
この記事では、事件の時系列と具体的な疑惑内容を整理しています。
※ 3分ほどで読み終わります。この記事は非常にナイーブな内容を含むので不快に思う方はお戻りください。
概略
英国ロイヤルバレエ団の常任振付家として大活躍していたリアム・スカーレット。
2019年9月から停職状態になっていましたが、2020年3月正式に解雇が決定しました。
英国ロイヤルバレエ団は今後一切リアム・スカーレットと仕事をしないことを発表しています。
事件のタイムライン
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2019年9月以前
英国ロイヤル・バレエ団付属の英国ロイヤルスクールに在籍する生徒たちから、リアム・スカーレットに対する告発が始まりました。 -
2019年9月
告発を受け、リアム・スカーレットは停職状態となります。 -
2020年1月
セクハラ疑惑がメディアに大々的に報じられ、関心が高まりました。 -
2020年3月
英国ロイヤル・バレエ団は、リアム・スカーレットとの契約を正式に解除。今後一切の業務を行わないと発表しました。 -
2021年4月16日
SNS上で「リアム・スカーレット死亡」の情報が拡散され、一部では自殺との報道もありましたが、詳細は明らかにされていません。
この件に関してはこちらに時系列で載せています。
2021年4月16日英国ロイヤル・バレエ団の常任振付家であったリアム・スカーレットが死亡しました。自殺と報じている機関もあります。時系列で解説しています。また踊っている映像も載せています。
1:性的違法行為の疑惑
- 未成年生徒への不適切行為
英国ロイヤルスクールの上級生(18歳以下)約10名に対し、裸の写真送信の要求や、身体に触れるなどの行為があったとされています。
※一部生徒は「リアム・スカーレットにうまく乗せられ、裸の写真や性的なメッセージのやり取りをしてしまった」と証言しています。
デイリーメール紙(イギリスでもっとも古いタブロイド紙)に詳しい内容が書かれているので、翻訳しつつ引用していきます。
The Royal Ballet's choreographer Liam Scarlett, 33, has been suspended over sexual misconduct allegations and banned from Covent Garden.
性的違法行為(sexual misconduct)とは?
記事ではリアム・スカーレットは「sexual misconduct」をした、と書かれています。この「sexual misconduct」とは、性的違法行為であるものの重罪の性的暴力よりも攻撃的ではない性質の行為です。
今回リアム・スカーレットは性的違法行為として訴えられました。ですが確証となる物的証拠が見つからなかったため、警察に捕まることはありませんでした。とはいえ、事態を重くみた英国ロイヤル・バレエ団がリアム・スカーレットを解雇しました。というのも証言者が多く、かつ信憑性があったようです。
ある生徒が「リアム・スカーレットにうまく乗せられて、裸の写真や性的なメッセージのやり取りをしてしまった」と証言しています。リアム・スカーレットはフェイスブックを使い、10人ほどの男子生徒とやり取りをしていたようです。それだけでなく、体を触る、男性器の話をする、着替えの最中にロッカーに入る、ということもあったようです。
リアム・スカーレットからこう言われたそうです。
「ダンサーである以上、すべてのことに『はい』という訓練をしなければいけない。ダンサーの世界は厳しい。振付家など(権力がある)に指示を与えられたら、即答できるようにしなければ競争に負けてしまう。」
英国ロイヤル・バレエ団は「これ以上リアム・スカーレットを追求することはない」と公式に発表しています。
そのため、刑事事件に発展することはないと思われます。
刑事訴追されていない、第三者委員会の調査で確証が見つからなかった = 性的違法行為がなかった
ということではありません。
性的違法行為はあったものの証拠が見つからなかった、という見方が正しいようです。
この判断には英国ロイヤル・バレエ団自身の責任という点も加味されているように思います。バレエ団としてリアム・スカーレットをなぜ止められなかったのか、問題が残る結果となりました。
2:パワハラおよび薬物使用の疑惑
- パワハラと暴言
ダンサーやスタッフに対して、暴言を吐いたり、キャストの交換を強制するなど、パワーバランスを乱す行為が指摘されています。 - 薬物使用の疑惑
複数のダンサーがリアム・スカーレットと共にコカインを使用していたとの情報もあり、問題の複雑さを増しています。
リアム・スカーレットの作品は人気があり、チケットも完売していました。人気作品から自分が締め出される可能性があるため、誰も文句を言えなかったようです。リアム・スカーレットは文句を言わないダンサーにキャストを交換することもあった、という調査結果も出ているようです。
どこまで真実かわかりませんが、これだけ話が出てくるということは何かしら問題があったと推測されます。
リアム・スカーレットの経歴と影響
リアム・スカーレットはイギリスでかなり期待されていて、2012年、若干26歳で常任振付家に抜擢されました。そして、それ以来高い評価を得ていました。
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経歴の概略
- 2005年:英国ロイヤル・バレエ団にダンサーとして入団
- 2010年:振付作品を初披露
- 2012年:26歳で常任振付家に抜擢し、その後ダンサーから引退
- 2018年:31年ぶりに『白鳥の湖』の改訂を実施
クラシックバレエの伝統を受け継ぎながらも、革新的な表現やドラマティックな演出を追求した振付家として高く評価されていました。
英国ロイヤル・バレエ団が誇るケネス・マクミランやフレデリック・アシュトンの伝統を踏襲しつつ、独自の現代的な感性を取り入れることで、クラシックとモダンの絶妙なバランスを実現しています。
例えば、『アスフォデルの花畑』は、独特の音楽性と情感豊かな動きで観客に強い印象を与えています。
踊るのは、2025年にプリンシパルに昇進したメリッサ・ハミルトン、現在ポーランド国立オペラ座バレエ団に所属するダヴィド・トシェンミエフです。
名曲を、踊りと密接に融合させる技法に優れており、音楽が持つ物語性を視覚的に表現する点が特に評価されています。
また、バレエ『フランケンシュタイン』のように、時にグロテスクな雰囲気も入る独特な空気感を持つ振付家でした。
現在も販売が続いています。
メディアと社会の反応
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国際的な報道
世界のメディアで報道がなされ、事件の衝撃は国際的にも広がりました。 -
日本での反響
2020年11月、NHKのBSプレミアム「プレミアムシアター」で、リアム・スカーレット版『白鳥の湖』が放送されています。事件への感度は低い印象です。
影響とその後の展開
リアム・スカーレットが手掛けた改訂版『白鳥の湖』は、その後も高い人気を博し、2022年から英国ロイヤル・バレエ団で再上演が始まりました。
『白鳥の湖』はバレエ団にとってドル箱といえる作品で、毎年上演するような作品です。
アンソニー・ダウエル版から31年ぶりに英国ロイヤルバレエ団が「白鳥の湖」を改定しました。ゴシック調の雰囲気で、重厚なストーリーです。白鳥全員がチュチュになりました。
数々の名演が生まれ続けています。
また、今回の事件は、バレエ界全体における内部統制の強化や、セクハラ・パワハラ対策の必要性を改めて浮き彫りにしています。