マクミラン版「ロミオとジュリエット」どんなストーリー?
おすすめポイントは?
どんな歴史がある?
僕がダンサーになる大きなきっかけとなった、バレエ版「ロミオとジュリエット」。
バレエ版を生で見て「こんな素敵な話だったのか…」と感動したのを今でも覚えています。
元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録あり
今回はケネス・マクミラン版「ロミオとジュリエット」のあらすじと解説です。
※5分ほどで読み終わります。
たった5日間の恋
ドラマチックな恋愛ドラマ「ロミオとジュリエット」は5日間の恋の話です。
衣装はチュチュを着るキャラクターがひとりも登場しないので、「バレエを観に行くぞ~!」と意気込んだら肩透かしを食らうかもしれません。ちなみに衣装は、中世風のドレスを着ています。
この曲は「モンタギュー家とキャピュレット家」というタイトルです。ソフトバンクのCMで知っている人も多いかもしれません。
マクミラン版
マクミラン版がおそらく世界で一番踊られているバージョンです。
世界中のバレエ団で踊られていて、日本では新国立劇場がレパートリーに持っています。
ロンドン(ロイヤル・オペラ・ハウス):英国ロイヤル・バレエ団
振付:ケネス・マクミラン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
美術:ニコラス・アディス
照明:ジョン・B.リード
ジュリエット:マーゴ・フォンテイン
ロミオ:ルドルフ・ヌレエフ
主なキャラクター
ロミオはロメオと表記されることがあります。英語の発音ではロメオになりますが、僕はロミオという響きが好きなので、ロミオを使うことが多いです。
メインの登場人物が多くないので、わかりやすいと思います。
ジュリエット:14歳を迎えるキャピュレット家の娘で主人公
ティボルト:ジュリエットのいとこ
パリス:ジュリエットの婚約者
キャピュレット卿:ジュリエットの父
キャピュレット夫人:ジュリエットの母
乳母:ジュリエットを支える存在
ロザライン:ロミオが一目惚れする
ロミオ:モンタギュー家の息子で主人公
マキューシオ:ロミオの友人
ベンヴォーリオ:ロミオのいとこ
三人の娼婦:ロミオと仲がいい
ローレンス神父:結婚をとりしきり、ジュリエットのために仮死の毒を手配する
エスカラス(ヴェローナ大公):ヴェローナを統治
ロミオの年齢は16歳~18歳、ジュリエットは14歳(もしくは14歳になる直前)です。
キャピュレット家とモンタギュー家にはイメージカラーがあります。マクミラン版ではキャピュレット家が赤、モンタギュー家が緑というパターンが多いと思います。
メインのダンサーだけでなく、舞台上にいるすべてのダンサーに役割があるので、舞台の端までおもしろいです。
もし観るべきポイントがわからない場合は照明のライトが当たっているダンサーを追いかけるのがオススメです。その人が、シーンの中心人物です。
あらすじ
14世紀のイタリアが舞台です。
第1幕
モテ男ロミオ(モンタギュー家)はロザラインというキャピュレット家のお嬢様に恋をしている。いつも通り広場で騒いでいる。そこにキャピュレット家の人たちがやってくる。いつもケンカばかりするキャピュレット家とモンタギュー家。この日も騒動が起こり死人まで出てしまう。ヴェローナを統治する大公は両家に手を焼いている。
その日の夜、ロミオはロザラインを追ってキャピュレット家の仮面舞踏会に侵入。しかしロミオはジュリエットと運命的な出会いをし、恋に落ちてしまう。結局、ロミオの正体がバレてしまいティボルトに追い出されそうになる。しかし、舞踏会ということもあり、追い出されることなくその場はおさまる。
深夜、ロミオは再度キャピュレット家に戻ってくる。そこでバルコニーでたたずむジュリエットと愛を誓い合うのだった。
第2幕
朝方、みんなのもとに戻るロミオ。そこにジュリエットの乳母が手紙を持ってやってくる。手紙には「結婚」の文字が…。ロミオはすぐジュリエットの待つ教会に駆けつけ、ローレンス神父のもとふたりは密かに結婚する。
ロミオは一度みんなのもとに戻る。するとキャピュレット家とモンタギュー家が例のごとく争っている。このときティボルトがロミオの親友であるマキューシオを殺してしまう…。激怒したロミオがティボルトを殺してしまう。そして、ロミオはヴェローナから追放されてしまう。
(その夜、ロミオはジュリエットのもとに駆けつける。失意の中、一夜をともにする。:この部分は物語では語られません)
第3幕
早朝、ロミオは出ていってしまう。何も知らないジュリエットのお父さんとお母さんがジュリエットに婚約者パリスとの結婚を強要する。
困ったジュリエットはローレンス神父に相談に行く。ローレンス神父はある策をジュリエットに伝える。「ジュリエットを仮死状態にし、葬式を行う。仮死状態のジュリエットが霊廟におさめられたあとロミオが迎えに来る。そして、ふたりで遠くに逃げる。」
ローレンス神父はジュリエットを仮死状態にできる薬を手渡し、この作戦をロミオに伝えることを約束する。
ジュリエットとパリスの結婚準備で忙しいキャピュレット家。その朝、ジュリエットの遺体が発見される。もちろん、実際に死んでいるわけではなく仮死状態である。
ジュリエットの葬儀が行われる。葬儀が終わった後やってくるロミオ。しかし、ロミオは悲しみにくれている…。
実は、ロミオに策が伝わっていないのであった。ロミオはジュリエットが死んでしまったと勘違いしている。
何も知らないロミオはナイフで自分を刺し、息絶える。その直後、ジュリエットが仮死状態から目覚める。ロミオに気づくジュリエット…。最初は喜ぶものの何かおかしいことに気づく。ロミオが死んでいることに気づき、ジュリエットもナイフで自分を刺し、命が消えるのだった。
みどころポイント
見どころに関してはこちらに映像つきで紹介しています。
ケネス・マクミラン版「ロミオとジュリエット」の、舞踏会の間のパ・ド・ドゥ、バルコニーシーン、寝室のパ・ド・ドゥ、墓所のパ・ド・ドゥをご紹介します。
原作
バレエ版の「ロミオとジュリエット」は、どのバージョンもウィリアム・シェイクスピアの戯曲がもとになっています。シェイクスピアはアーサー・ブルックの「ロウミアスとジュリエット」という長編の詩を下敷きに創作しました。
シェイクスピアが大きく変更したのは、時の流れです。ブルック版では9ヶ月の出来事ですが、シェイクスピアは5日間に凝縮しました。
基本的にスピーディーに物語が進んでいきますが、ロミオとジュリエットの2人の踊り(パ・ド・ドゥ)になると時の流れが一気に緩やかになります。
中でも第1幕の最後に登場する「バルコニーシーン」は特別です。
時がゆっくりなので永遠に続かのように感じます。ですが2人の結末を知っているので、終わりに近づくととてつもなく寂しい気持ちになります。
マクミラン版より。マクミランのミューズのひとりであるアレッサンドラ・フェリによるジュリエットの映像です。ロミオはアメリカン・バレエ・シアターで大人気だったスペイン出身のアンヘル・コレーラ。はまり役のふたりです。
プロコフィエフの美しい音楽と、ケネス・マクミランの流れるような振付。マイムが排除され、不実な月に誓うシーンも踊りで表現されています。アレッサンドラ・フェリとフリオ・ボッカの映像を使って解説しています。
マクミラン版までの流れ
マクミラン版(1965年)はラヴロフスキー版(1940年)とクランコ版(1962年)にかなり影響を受けています。
1940年:レオニード・ラヴロフスキー、キーロフ・バレエ団(現マリインスキー・バレエ団)
1958年:ジョン・クランコ、ミラノ・スカラ座バレエ団
1962年:ジョン・クランコ、シュツットガルト・バレエ団
1965年:ケネス・マクミラン、英国ロイヤル・バレエ団
バレエでは感情を表現するためにパントマイムが使われることがあります。
ジョン・クランコが、「ロミオとジュリエット」におけるパントマイムに不自然さを感じます。クランコ版「ロミオとジュリエット」は、できるだけパントマイムを使わずに「踊りだけで感情を表現すること」に力が注がれています。
マクミランはこの影響をかなり受けていて、マクミラン版「ロミオとジュリエット」でもパントマイムがかなり排除されています。
ケネス・マクミランより2歳年上のジョン・クランコ。フレデリック・アシュトンの元、イギリスのサドラーズウェルズ・バレエ団(後の英国ロイヤル・バレエ団)で兄弟弟子のように育ちます。2人はお互いに影響し合っていたとされています。
ちなみに初心者の方にクランコ版はオススメです。「ロミオとジュリエット」は重い話なのですが、クランコ版は軽やかさがあります。個人的に1番好きなバージョンです。
ジョン・クランコ振付の「ロミオとジュリエット」はほぼ形を変えず、50年以上たった今でも変わらず上演されている傑作です。「シュツットガルトの奇跡」と言われるほどにバレエ団を大きくしたジョン・クランコ最初の作品です。
マクミラン版のはじまり
1965年、ラヴロフスキー版がイギリスで上演される予定でした。ですが、ソ連がイギリスでの公演を拒否したことから、代わりとしてマクミラン版「ロミオとジュリエット」の制作が始まります。
5ヶ月後のアメリカツアーを目標に、急ピッチで制作されました。
前年の1964年、カナダのテレビ番組のために「バルコニーシーン」の7分が振り付けられました。その時ジュリエットを踊ったのが、ケネス・マクミランのミューズといわれるリン・シーモアです。
マクミランはリン・シーモアのために「マイヤーリンク」のマリー・ヴェッツェラ、「アナスタシア」、「コンチェルト」の第2バリエーションなどを振り付けました。相手役のロミオを踊ったのはクリストファー・ゲーブルです。
「バルコニーシーン」はたった3回のリハーサルで完成した、とリン・シーモアはインタビューで語っています。この「バルコニーシーン」を軸に「ロミオとジュリエット」が作られることになりました。
主役が直前で交代
マクミラン版の初演ってマーゴ・フォンテインとルドルフ・ヌレエフだったような…。
そのとおりで、初演は当時バレエ界の大スターだったマーゴ・フォンテインとルドルフ・ヌレエフが踊っています。
マクミランはリン・シーモアとクリストファー・ゲーブルを初演キャストにしたかったようですが、英国ロイヤル・バレエ団の経営陣の意向で初演メンバーが決まってしまいました。このときマクミランと経営陣はかなりモメたようです。
英国ロイヤル・バレエ団のダンサー全員ががっかりしたと言われています。
でもマーゴ・フォンテインとルドルフ・ヌレエフは観客を呼ぶことができるダンサーでした。特にマーゴ・フォンテインはこのとき引退間近といわれていましたが、ジュリエットのおかげでダンサーとして息を吹き返したとも言われています。
去ってしまう
リン・シーモアはこのことが影響し、イギリスを離れベルリンに行ってしまうのでした…。そしてマクミランも、リン・シーモアと一緒に1966年から4年間ベルリン・ドイツ・オペラ・バレエ団に行ってしまったのでした。
英国ロイヤル・バレエ団には1970年まで戻ってくることはありませんでした。
しかし、初演時の大喝采は相当なもので、43回のカーテンコールがあったと記録されています。これだけ受け入れられたのはマーゴ・フォンテインとルドルフ・ヌレエフが踊ったからだと思います。
経営陣の意向が正しかったのか、マクミランの意向を通すべきだったのか、本当に難しい部分です。
僕は、すごく人間味がある話で好きです。
ルネッサンスからの影響
マクミランは制作にあたり、ルネッサンス時代に大きく影響を受けています。とくに「クワトロチェント」とよばれるルネッサンス初期の1400年代です。
イタリア語で「400(の)」という意味で、ダ・ヴィンチ登場の前の時代。この時代の絵画や建物をもとに「ロミオとジュリエット」の舞台セットや衣装がつくられた
マクミランは舞台美術で「ロミオとジュリエット」のキャラクターが表現できるようかなり気をつかっています。
例えばテーマカラーとして、キャピュレット家は赤、モンタギュー家は緑を使っています。
フランコ・ゼフィレッリ監督からの影響
マクミラン版より前、ジュリエットの人物像は「大切に育てられたがゆえに世間を知らないお嬢さま」という描かれ方をしていました。対するマクミラン版では情熱的な女性としてジュリエットが描かれています。
ちなみに、ロミオはロマンティックな面が強調されています。これはフランコ・ゼフィレッリ監督に大きな影響を受けています。
フランコ・ゼフィレッリ監督は1968年に公開された映画「ロミオとジュリエット」の監督として有名です。映画史に残る名作で、オリヴィア・ハッセーが日本で爆発的な人気となりました。1968年度アカデミー賞では、4部門でノミネート。撮影賞と衣装デザイン賞を獲得しています。
この映画からさかのぼること8年前の1960年。フランコ・ゼフィレッリ監督はイギリスにあるオールド・ヴィック・シアターで舞台版「ロミオとジュリエット」を発表しています。
ケネス・マクミランはこの舞台版にも影響を受けたとされています。この舞台がのちの映画につながっていくので、マクミラン版の予習として映画版を観るのもオススメです。
2019年1月18日に放送された「アナザースカイ」。脚本家の北川悦吏子さんの回でした。北川悦吏子さんが大きな影響を受けたと語るのがフランコ・ゼフィレッリです。フランコ・ゼフィレッリの影響がマクミランの「ロミオとジュリエット」に影響を与え、日本のドラマにも影響を与えているなんてとても素敵です。
「ロングバケーション」「半分、青い。」にもバルコニーシーンが登場します。フランコ・ゼフィレッリ監督から北川悦吏子さんへの手紙はこちら。
マイベスト「ロミオとジュリエット」
僕の中ですごく記憶に残っているのは新国立劇場バレエ団が2011年に上演したマクミラン版「ロミオとジュリエット」です。
主役2人はゲストでジュリエットをリアン・ベンジャミン(英国ロイヤル・バレエ団)、ロミオをセザール・モラレス(英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)が演じていました。
ゲスト2人の踊りがとてつもなく丁寧で、新国立劇場バレエ団のダンサーたちの丁寧さとかなりマッチしていました。
全員のチームワークがとにかくピカイチで、舞台の良さを存分に味わわせてくれました。
ゆっくり、深く、いつまでも感動していたのを覚えています。
映画版「ロミオとジュリエット」
ケネス・マクミラン版「ロミオとジュリエット」を映画版が2020年に制作されました。
英国ロイヤル・バレエ団が映画化。ウィリアム・ブレイスウェル、フランチェスカ・ヘイワード主演のバレエ映画です。バレエをそのまま映画にしています。僕はとっても感動しました!
舞台版よりも短く90分の作品でとても見やすいので予習にピッタリです。本当に5日間のドラマをみているような気になるロミオとジュリエットです。
配信レンタル版は500円ほど。DVDは通常版、ブルーレイ版ともに4,000円ほどで、1時間の特典映像がついています。
マクミラン版「ロミオとジュリエット」の紹介でした。ぜひドラマティックバレエを堪能してみてください。
ありがとうございました。
「ロミオとジュリエット」に関してはこちらにまとめていますので、ぜひご覧ください。
舞台鑑賞好きの僕が劇場に行くときに知っておくとちょっと得する話をのせています。バレエを中心に紹介しています。