永久メイの現在と経歴(動画あり)|なぜ批判を覚悟しロシアに戻ったのか?深堀り解説
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この記事からわかる3つのポイント
  • 異例のキャリア:ソリスト級での「飛び級」入団
  • 情勢下での活動:なぜ世界で踊り続けられるのか
  • 昇進の行方:25歳、プリンシパルへの正念場

ロシア・バレエの聖地、サンクトペテルブルクのマリインスキー・バレエ団。その中心で、一人の日本人女性が歴史を刻み続けています。

ファースト・ソリストとして活躍する永久メイ(May Nagahisa)さん。

2022年の情勢変化以降、彼女の選択には世界中から注目が集まり、時には厳しい視線が向けられることもありました。しかし、2026年現在、彼女は「政治」と「芸術」の狭間で、一人のプロフェッショナルとして揺るぎない地位を確立しています。

本記事では、最新の活動状況や、「なぜ今、ロシアと世界を自由に行き来できるのか」という背景について、舞台芸術の専門的な視点から詳しく解説します。

記事を書いているのは……

元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります。

※ 3分ほどで読み終わります。

現在の活動状況:マリインスキーの「至宝」としての歩み

2026年1月現在、永久メイさんはマリインスキー・バレエ団において、ファースト・ソリストの階級です。

サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場では、『くるみ割り人形』や『海賊』といった主要演目で主役を務め、現地のファンや評論家から絶大な支持を得ています。永久さんの踊りは「ワガノワの伝統を完璧に体現しながら、日本人特有の繊細さと透明感を併せ持つ」と評され、劇場の公式サイトでも次世代のスターとして最前列で紹介されています。

また、東京で開催される公演にも積極的に出演しています。トップクラスのダンサーたちと並び、日本でもその卓越した技術を直接目にする機会が続いています。

ロシア・ウクライナ情勢と、バレエ芸術が直面する境界線

2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、数世紀にわたり築き上げられてきたバレエの国際的なネットワークを分断しました。この情勢は、ロシアを拠点に活動するすべての日本人ダンサーにとって、単なるニュースではなく、自らの生き方や芸術活動の根幹を揺るがす重い現実となっています。

「聖地」が置かれた国際的な孤立

かつては世界のトップダンサーが交流し、最高峰の舞台を共有していたマリインスキー・バレエ団やボリショイ・バレエ団といったロシアの国立劇場は、現在、欧米諸国との公的な交流が実質的に停止しています。劇場全体での海外公演が困難になる中、そこに留まるということは、国際的なキャリアにおいてある種の「孤立」を引き受けることを意味しました。

なぜ彼女はロシアに戻ったのか:本人の言葉から紐解く覚悟

2022年3月に一度ロシアを離れた永久メイさんでしたが、同年10月、彼女は再びサンクトペテルブルクの地に立ちました。復帰直後、マリインスキー劇場が彼女に用意したのは、バレエ・ブラン(白のバレエ)の最高傑作『ジゼル』の主役という大役でした。

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この抜擢は彼女の実力と、劇場側からの揺るぎない信頼を象徴する出来事となりました。マリインスキー・バレエ団の公式チャンネルが公開したインタビュー動画では、彼女が葛藤の末に選んだ「ダンサーとしての生き様」が自身の言葉で語られています。

インタビューの要約:

2022年3月に出国した際、マリインスキー劇場が自分にとってどれほど大きく、重要で、インスピレーションの源であったかを痛感しました。家族や恩師と相談し、キャリアを『一からのスタート』ではなく『続き』としてこの場所で歩むことを決めました。

『ジゼル』は母が愛した作品で、私が初めてこの劇場で魅了された原点です。第2幕のウィリ(精霊)たちの隊列や、美しいポール・ド・ブラ(腕の動き)を観て、『ここで踊りたい』と強く願ったことを覚えています。終演後、芸術監督から『ジュエルズ』のダイヤモンドの主役も再び任せたいと言われ、この機会をいただけたことに心から感謝しています。

「政治」と「表現」の狭間で揺れるダンサーたち

ウクライナ国内で戦火に見舞われながら芸術を守る人々がいる一方、ロシア国内で伝統を継承し続ける人々もいます。この極限の状態において、ダンサーたちは常に「自らの活動が政治的な意味を持ってしまうのではないか」という葛藤の中にいます。

しかし、多くの表現者が共通して抱いているのは、「芸術は政治の道具ではなく、人間性の最後の砦である」という信念です。侵攻への明確な反対を表明して新天地を求めた人も、愛する劇場とメソッドを守るために留まった人も、その根底にあるのは「バレエという芸術で自分を表現したい」という純粋な願いからです。

国際ガラ公演という「対話」の場

中でも、世界中で開催される国際的なガラ公演の存在は貴重です。公演には、ロシア拠点のダンサーと、現在ロシアと距離を置いているダンサー、さらには戦禍にある地域の支援に関わる表現者たちが、同じプログラムに名を連ねることがあります。

国家間の対立を超えた「プロフェッショナルとしての沈黙の合意」が存在します。舞台の上では、出自や所属に関わらず、一人の人間として、一人のダンサーとして向き合っています。言葉による議論ではなく、肉体を通じた表現で調和を目指す。その姿は、分断が進む世界において、バレエという共通言語が持つ希望を象徴しているように感じます。

なぜロシアに拠点を置きながら、日本や世界で踊れるのか?

多くの読者が抱く「ロシアのバレエ団に所属しているのに、なぜ自由に入国し、公演が行えるのか」という疑問。そこには法的な背景と、バレエ界特有の契約形態があります。

「個人」としてのゲスト出演契約

現在、マリインスキー・バレエ団全体(カンパニー)としての来日ツアーや欧米公演は、国際情勢の影響で中止されています。しかし、永久メイさんが日本などの舞台に立つのは「バレエ団のツアー」としてではなく、「個人としての招聘(ゲスト出演)」という形式です。

世界中のプロモーターは、個人の実力あるダンサーと直接契約を結びます。これは政治的な制限とは別次元の「個人契約」であるため、法的な制約を受けることはありません。

渡航ルートの確保

永久さんは日本への帰国や、公演のための入国をしています。現在、ロシアとの直行便は停止していますが、ドバイ、トルコ、ウズベキスタンなどの第三国を経由することで、物理的な移動も滞りなく行われています。

また、世界の各都市で開催される国際的なガラ公演にも、彼女は「マリインスキーの至宝」として出演を続けています。

「政治と芸術の分離」を掲げる興行界

世界のバレエ界には「優れた芸術は政治を超える」という強い信念があります。

特に日本のファンは彼女の技術と芸術性を高く評価しており、プロモーターもその需要に応える形で、リスクを管理しながら招聘を続けています。

永久メイのこれまでの歩み:異例の経歴とプロとしての原点

改めて、彼女がどのような軌跡を辿ってきたのか、その輝かしい経歴を振り返ります。

年・時期 主な活動内容・実績
2000年 兵庫県に生まれる。3歳からバレエを始める。
2013年 ユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)ジュニア部門で第1位を獲得。
モナコ留学 名門、モナコ王立グレースバレエ学校へ留学。
2017年 マリインスキー・バレエに研修生として入団。付属のワガノワ・バレエ・アカデミー卒業生以外では極めて異例の「飛び級」入団を果たす。
2018年 正団員として正式入団し、セカンド・ソリストに昇格。
2021年 ファースト・ソリストに昇格。
選出 Forbes JAPAN「世界を変える30歳未満の30人」およびForbes ASIAに選出される。

【深層解説】ワガノワの伝統を覆した「異例の入団」と、ソリスト抜擢の真意

通常、マリインスキー・バレエ団への入団は、付属のワガノワ・バレエ・アカデミー卒業生にのみ許された特権に近いものです。しかし、永久メイさんはモナコ王立グレースバレエ学校卒業後、直接「研修生」としてその門を叩きました。

実は、当初からソリストとしての契約が決まっていましたが、ロシアの労働法における年齢制限をクリアするため、18歳になるまでは研修生という肩書きで舞台に立ったという経緯があります。条件をクリアした後、即座にセカンド・ソリストとして正式入団した事実は、劇場の彼女に対する期待がいかに並外れていたかを物語っています。

ここで興味深いのは、彼女が「群舞(コール・ド・バレエ)」を経験せずにキャリアを始めた点です。マリインスキーの群舞は、9割以上を占めるワガノワ出身者による、ミリ単位で揃えられた「呼吸」と「腕のライン(ポール・ド・ブラ)」が命です。もし彼女が群舞からスタートしていたら、モナコで培った独自の感性と、ロシアの厳格な様式美を融合させる過程で、想像を絶する苦労を強いられた可能性があります。

あえて最初からソリストとして迎え入れた劇場の判断は、彼女の個性を「矯正」するのではなく、唯一無二の「光」としてそのまま舞台に解き放つための選択だったのかもしれません。

批判を超えた「覚悟」

2022年の情勢悪化時、彼女がロシアに戻る決断をした際、日本国内でも賛否両論が巻き起こりました。当時、SNSやメディアでは「なぜ今、戻るのか」という声が散見されたのも事実です。

当時、ロシアの国立劇場からは外国人ダンサーの退団が相次ぎ、多くの表現者が「表現の自由」や「倫理的な良心」に基づいた重い決断を下しました。

「正当化できる暴力はない」という退団者たちの声

ロシアを去ることを選んだダンサーたちの多くは、次のような切実な思いを吐露していました。

  • 「正当化できる戦争など存在しない。いかなる暴力にも常に反対し続ける」
  • 「劇場で華やかに踊りながら、すぐ側で起きている凄惨な現実から目を背けることはできない」
  • 「何も起きていないかのように振る舞い続けることは、現状を肯定することと同じだ」

特にロシア出身以外のダンサーにとって、自国の価値観と、教育を受けてきたロシアの伝統との間で板挟みになることは、精神的な限界を意味していました。こうした批判的な視点は、平和を希求する芸術愛好家にとっても正当なものであり、現在も無視できない重い問いとして残っています。

重い決断

しかし、2026年となった今、彼女の姿勢は多くの人々に「プロとしての純粋な選択」として、また別の角度から受け入れられつつあります。

ダンサーにとっての20代は、肉体と精神がピークを迎える、まさに「黄金期」です。サンクトペテルブルクは彼女が10代から育った場所であり、自らの芸術の骨格を作った「魂の故郷」でもあります。そこでしか得られない指導、そこでしか吸えない劇場の空気、そして240年以上の歴史が紡ぐメソッド。

「政治的な立ち位置」を示すことよりも、「一人の芸術家として最高の環境で研鑽を積むこと」を優先した彼女の覚悟は、その後の圧倒的なパフォーマンスによって証明されました。現在は、当初の批判を上回るほどの「厳しい環境で孤独に戦い、日本に最高の踊りを届けてくれることへの感謝」がファンから寄せられています。

生き方:本物の美を体現し続ける「静かな抗い」

激動の時代において、永久メイさんがロシアで踊り続けるという選択は、決して現状への肯定や無関心を意味するものではありません。

むしろ、政治に翻弄されやすい時代だからこそ、自身の技術を極め、どこへ行っても通用する本物の美しさを体現し続ける。それは、分断によって失われつつある「人間性の尊厳」を、言葉ではなく身体表現によって守り抜こうとする、表現者としての「静かな抗い」とも取れます。

「去る勇気」を持ったダンサーたちと、「留まる覚悟」を決めたダンサー。形は違えど、その根底にあるのは「バレエという芸術を政治によって汚させない」という共通の強い意志です。

昇進への期待

永久メイさんのプリンシパル昇進を多くのファンが待ち望んでいます。

世界最高峰の伝統を誇るマリインスキー・バレエ団では、厳格な階級制度(ランク)が採用されています。入団したすべてのダンサーがこのピラミッドの頂点を目指しますが、最高位に辿り着けるのは、技術・芸術性・スター性のすべてを兼ね備えた、選ばれし数名のみです。

階級 役割と特徴
プリンシパル
(Principal)
最高位。劇場の「顔」であり、すべての全幕公演で主役を踊る看板ダンサーです。
ファースト・ソリスト永久メイさん現在
(First Soloist)
主役や準主役を務める重要な階級です。実力はプリンシパルと同等で、昇進への最終ステップとされています。
セカンド・ソリスト
(Second Soloist)
ソロ(バリエーション)や、物語の重要な脇役を務める若手スターの登竜門です。
キャラクター・ソリスト
(Character Soloist)
演技力や民族舞踊の技術が求められる役を専門に担うソリストです。
コリフェ
(Coryphée)
群舞のリーダー格。少人数の踊りなどでセンターを務める立場です。
コール・ド・バレエ
(Corps de Ballet)
入団直後の階級です。一糸乱れぬマリインスキー伝統の群舞を担います。

永久メイさんが現在位置する「ファースト・ソリスト」は、実質的にはすでに多くの作品で主役を務めており、技術的にはプリンシパルと遜色ありません。しかし、最高位であるプリンシパルへの昇進には、単なる技術以上の「劇場の伝統を背負う象徴としての格」が求められます。

特にマリインスキーでは、『白鳥の湖』のオデット/オディールのような、劇場のアイデンティティとも言える演目での主演実績が、最終的な昇進の鍵を握ると言われています。現在、彼女が着実にその実績を積み上げているステージは、まさに「プリンシパルへのカウントダウン」の真っ只中です。

女性プリンシパルの昇進実態(2026年時点)

現在の女性プリンシパルの昇進年齢を比較すると、一気に駆け上がるスター型と、30歳前後で実力が認められる円熟型の二極化が見て取れます。

氏名 昇進年齢 特徴・現在の状況
ヴィクトリア・テリョーシキナ 25歳 劇場の絶対的なエース。異例の若さで昇進した最高峰のダンサー。
オクサーナ・スコリク 26歳 20代半ばで昇進。長年劇場の看板として多くの主役を務める。
マリア・イリュシュキナ 27歳 2025年昇進。ワガノワ正統派の叙情的なスタイルが評価。
レナータ・シャキロワ 28歳 2024年昇進。強靭なテクニックと華やかなスター性を持つ。
エカテリーナ・コンダウーロワ 30歳 威厳あるスタイル。30歳での昇進後も第一線で活躍。
ナデジダ・バトーエワ 31歳 2022年昇進。豊富な経験を経て「円熟期」に最高位へ。
オレシア・ノヴィコワ 37歳 2021年昇進。世界が認める実力がありながら異例の「待ち」を経験。
ディアナ・ヴィシニョーワ 20歳 伝説的なスター。現在はゲストに近い特別枠のポジション。

分析

永久メイさんが25歳(2026年現在)でファースト・ソリストに留まっている背景には、複数の構造的な要因が考えられます。

  • ワガノワという巨大な伝統:マリインスキーのプリンシパルは、ロシア国立バレエの象徴としての役割を担います。2025年に昇進したイリュシュキナのように「ワガノワ・メソッドの完璧な体現者」という血統的背景を持つ者が優先される傾向は、現在の情勢下でより強まっています。
  • キャラクターの希少性:彼女の最大の武器である「可憐さ」や「透明感」は、ジゼルやシルフィードといった特定の役柄で圧倒的な価値を発揮します。劇場側が、彼女をまだ「特定の演目のスペシャリスト」という枠に留め、より重厚で力強い演技(『白鳥の湖』のオディール等)への脱皮を待っている可能性があります。
  • 国際情勢による内向きな選考:2022年以降、劇場側はこれまで以上に「ロシア人スター」を強調する傾向にあります。日本国籍の彼女をトップに据えることは、以前よりも慎重な政治的判断が働いている可能性も否定できません。

25歳、表現者としての「正念場」

マリインスキーの歴史において、25歳から28歳は「若手スター」から「一人の芸術家」への成熟を問われる、まさに正念場です。

階級という肩書きがどうあれ、彼女が舞台に現れた瞬間に劇場の空気が変わるという事実は、すでに多くの観客が認めるところです。これからの数年は、称号を必要としないほどの圧倒的な存在へと昇華するための、彼女にとって最も重要な時期となるでしょう。一つの階級という枠に収まりきらない「永久メイ」という稀有な才能が、今後どのような形で真の開花を迎えるのか、世界が注目しています。

映像で見る圧倒的なテクニック

YouTubeでは、彼女のパフォーマンス映像が数多く公開されています。とにかく踊りが軽く、テクニックが正確無比。

永久メイさんの踊りを見ていると、バレエは18歳くらいまでにテクニックが完成していないと、プロとして通用するのは難しいという厳しい現実を痛感させられます。その完成された美をぜひ映像で確認してみてください。

検索のヒント:YouTubeで検索する際は「may nagahisa」もしくは「Мей Нагахиса」と入力すると映像が見つかりやすいです。

関連記事・掲載誌情報

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Forbes JAPAN 2020年12月号

「30 UNDER 30 JAPAN 2020」に選出された際の特集記事が掲載されています。

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今回は、永久メイさんの紹介でした。ご覧いただきどうもありがとうございました。

バレエ作品に関してはこちらにまとめています。ぜひご覧ください。

バレエがもっと身近になる鑑賞ガイド|劇場選びから物語の深読み解説まで