「マイヤーリンク(うたかたの恋)」第1幕はどう展開していく?
ストーリーは?
見どころは?
マクミラン振付のバレエ「マイヤーリンク」は、人間の暗い部分に焦点が当たっています。
暗いテーマだからこそわかる人生の尊さ。
醜いはずなのに、美しく感じてしまうバレエです。
元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります
今回は「マイヤーリンク」の第1幕のストーリーと見どころポイントです。
※3分ほどで読み終わります。
ルドルフの孤独
ルドルフ皇太子とマリー・ヴェッツェラがマイヤーリンクという場所で自殺した事件を扱うバレエです。
第1幕ではルドルフの孤独が描かれていきます。
ルドルフ皇太子:オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子。フランツ・ヨーゼフ皇帝の嫡子
ステファニー皇妃:ルドルフ皇太子の妻。ベルギー王家の出身
フランツ・ヨーゼフ1世皇帝:オーストリア=ハンガリー帝国の皇帝。ルドルフの父
エリーザベト皇后:フランツ・ヨーゼフ皇帝の妻。ルドルフの母
ラリッシュ伯爵夫人:ルドルフの前愛人(史実では従姉妹)。ルドルフとマリーの仲を取り持つ
マリー・ヴェッツェラ:男爵令嬢ではあるが普段宮殿に出入りは許されていなかった
ヘレーネ・ヴェッツェラ夫人:マリーの母。コンスタンチノープルの銀行家の娘。上流階級に食い込もうと必死
ブラットフィッシュ:ルドルフのお気に入りの御者(運転手)
ハンガリーの4人の高官:ドルフがハンガリーに傾倒していることの象徴
ルドルフとは?
ハプスブルク家の跡継ぎとして期待されていたルドルフ。
幼少期の教育は祖母ゾフィーの保守的な考えにそって、軍人的なスパルタ教育がほどこされます。教育に関しては祖母が全権を握っていたため、母であるエリザベートは口を出すことができませんでした。
ゾフィとエリザベートの関係はすこぶる悪く、エリザベートはルドルフに近づくことすらできない状態が続きます。そうしたこともあり、エリザベートは公務を放棄し旅に出ることが多くありました。
そして、祖母のスパルタ教育が度を越していきます。かろうじて一緒に成長していた姉とも引き離されてしまい、ルドルフは精神的にまいってしまいます。このときたったの7歳でした。
・鞭打ち
・冷水にルドルフの首を入れ、長時間息を止める訓練
・夜の動物園に置き去りにする
・馬の鞍に縛りつけ走らせる
ここでエリザベートが止めに入り、法的手段に訴えます。
エリザベートに養育権が法的に認められたころ、ルドルフは8歳になっていました。エリザベートとルドルフは、8年間ほぼ会っていなかったため、お互いにどう接していいかわからず、その後の関係にも影響します。
新たな教育では平和を重んじるような自由な教育がほどこされます。ただし、これが父親ヨーゼフ1世との対立を生んでしまいます。
保守的な父と、自由なルドルフ。父がルドルフを政治の世界から遠ざけてしまい、ルドルフはやることがなくどんどん孤独を深めていくことになります。
作品全体に関してはこちらで解説していますので、ぜひご覧ください。
ルドルフ皇太子が自殺をしたとされるマイヤーリンク事件をもとにしたケネス・マクミラン振付の物語バレエです。男性が主役のバレエで40年前の作品にも関わらず色あせません。
第1幕は40分です。
ここからは第1幕のストーリーと見どころポイントを紹介していきます。
ストーリーを知っていないと初見ですべてを理解するのは難しいと思います。
とはいえ、ストーリーはそこまで複雑じゃなく進んでいくので安心してください。
プロローグ
1889年1月31日の夜明け前、マイヤーリンクの近くにあるハイリンゲンクロイツの墓地。
誰かの
ポイント
ブラットフィッシュの悲痛な表情が非常に印象的なシーンです。
第1幕 第1場:ホーフブルク宮殿の舞踏会の間
1881年、ウィーンのホーフブルク宮殿では皇太子ルドルフとステファニーの婚礼を祝う舞踏会が開かれる。
ルドルフはステファニーそっちのけで、ステファニーの姉ルイーズにちょっかいをだしてしまい、場が凍りつく。
父であるヨーゼフ1世皇帝、母であるエリザベート皇后も息子の行動に冷ややかな態度を示す。自暴自棄のフランツは孤立を深めていく。
第1幕 第1場:ポイント
音楽のテンポが速いです。「マイヤーリンク」は音楽同様、ストーリーもテンポよく進んでいきます。そして、全てのキャストの衣装が細かい部分まで豪華です。
この頃すでにルドルフは、父ヨーゼフ1世と確執がありました。史実によると、この頃のルドルフは生きることに限界を感じていて自殺の相手を探していた、と考えられているようです。また、梅毒に
第1幕 第2場:マリーとの出会い
ルドルフはラリッシュ伯爵夫人から、ヴェッツェラ男爵夫人とその娘である幼い少女のマリーを紹介される。
マリーは幼いながらもルドルフに一目惚れしてしまう。
ポイント
ここで女性ダンサーの主役であるマリー・ヴェッツェラが初登場します。主役でありながらマリーは全体を通しそこまで登場するわけではありません。第1幕ではこのシーンのみの登場のため、ここでどれだけ印象づけられるかがポイントです。
マリーはこの段階では少女です。演技力がとても要求されるため、キャリアの中間のダンサーが配役されやすいです。初々しさと同時にルドルフを操るような妖艶さも必要とされる難役です。
ハンガリーの4人の高官
ルドルフがハンガリー勢力に加担していく。
ルドルフの友人であるハンガリーの高官4人が、ハンガリーの分離派運動についてルドルフに熱く語る。少し高圧的な高官。
オーストリアとハンガリーの狭間で揺れるルドルフなのだった。
ポイント
ハンガリーの高官4人の踊りが非常にスピーディーかつアクロバティックです。テクニックだけでなく、ルドルフの心情を表す役割を持っているため演技力も必要です。
また、その中でもひとりメインのダンサーがいて、高いテクニックが要求される役です。嵐が吹き荒れるような音楽も特徴的です。
そして、政治的な色が濃いのも「マイヤーリンク」の特徴です。
史実によると、ルドルフは頭脳明晰だったそうです。知識があるゆえ、リベラルな方向に傾倒していくことになります。ちなみに、ルドルフの母のエリザベートも語学の才能がすごかったという話です。
ラリッシュ伯爵夫人との「パ・ド・ドゥ(ふたりの踊り)」
ルドルフの愛人のひとりであったラリッシュ伯爵夫人。ラリッシュ伯爵夫人がルドルフとよりを戻そうとする。
最後にキスをする二人、と同時にエリザベート皇后やヨーゼフ皇帝が登場。一気に場が白ける。ここで幕が一度閉じ、舞台が転換する。
ハンガリーの4人の高官がここでもルドルフとなにやら秘密裏に話をしている。
ラリッシュ伯爵夫人は物語の中で、ルドルフの味方であり続ける存在です。ラリッシュ伯爵夫人はルドルフとは同い年で、エリザベート皇后の兄の娘のため、いとこにあたります。
第1幕 第2場:ホーフブルク宮殿の皇后エリーザベトの部屋
舞踏会が終わり、エリザベート皇后はお気に入りの女官たちと楽しく過ごしている。
そこにルドルフが登場し空気が一変。エリザベート皇后は、愛がほしいルドルフを突き放し続ける。
ポイント
侍女たちの踊りがコケティッシュでかわいいシーンです。重いテーマが続く中、少し心が休まるシーンです。
親子の難しさが表れている場面です。ルドルフはエリザベートの同情を引こうとしますが、エリザベートは気にも留めません。エリザベートはとにかくルドルフに冷たいです。
これがのちの悲劇につながります。
第1幕 第3場:ホーフブルク宮殿のルドルフの部屋
ルドルフは拳銃とガイコツの頭を持ち部屋に戻ってくる…。ルドルフは結婚したばかりのステファニー王女をレイプまがいに襲う。
ステファニーに銃をつきたり、銃で空を打ったり…。ルドルフは決して暴力的な人物ではないが、満たされない思いを妻にぶつけてしまう。
ルドルフの狂気性が印象づけられ、かなり後味が悪い状態で第1幕が終わる。
1994年、英国ロイヤル・バレエ団より。ルドルフ役がイレク・ムハメドフ、ジェーン・バーンがステファニー王女です。
ポイント
非常に恐ろしい場面です。
バレエでここまで生々しいシーンがあるのは珍しく、実際にルドルフは舞台上で銃を発砲します。
ステファニーは宮殿の生活が大好きで、ルドルフはリベラルなインテリ階級と街で騒ぐのが好きなタイプです。ふたりはまったく合いません。二人の間にはエリザベートという女の子も誕生します。
ですが、その後、ステファニーはルドルフから性病を移されてしまい妊娠できなくなった、といわれています。華々しい宮殿とその裏にあるドロドロした世界…。
ハプスブルク家が滅亡するのは当然の流れだったかもしれない、と思ってしまうのでした…。
とはいえ、バレエだからこそ残虐性にフィルターもかかります。たぶん演劇や映画だと目を覆ってしまうシーンです。残虐なストーリーなのに、振付はアクロバティックで美しい。すごい矛盾です。
映像作品
英国ロイヤル・バレエ団から年代の違う3つのDVDがリリースされています。
1994年版
狂気に満ち野性味あふれたイレク・ムハメドフ。ハマり役のヴィヴィアナ・デュランテ。スター性あふれるレスリー・コリアとダーシー・バッセルの共演で今も素晴らしいDVDです。
2010年版
エドワード・ワトソン主演です。ハマり役で、登場から顔色の悪さが不穏な空気でオススメです。
2018年版
スティーヴン・マックレー主演です。普段の明るいイメージと真逆でびっくりします。テクニックの高さ、表現力の深さが光る作品です。この公演に関しては感想をこちらで紹介しているので、ぜひご覧ください。
スティーヴン・マックレーとサラ・ラムが主演したバレエ「マイヤーリンク(うたかたの恋)」の感想です。エリザベートの息子であるルドルフ皇太子とマリー・ヴェツェラの関係をえがく、ドロドロと人間臭いバレエです。
今回は「マイヤーリンク」第1幕についてでした。
ありがとうございました。
バレエ作品に関してはこちらにまとめていますので、ぜひご覧ください。
舞台鑑賞好きの僕が劇場に行くときに知っておくとちょっと得する話をのせています。バレエを中心に紹介しています。