バレエ「ロミオとジュリエット」の映画版のあらすじは?
出演者はバレエダンサー?
舞台版との違いは?
バレエ「ロミオとジュリエット」の映画版が公開されました。
映画はテンポが良く、音質・画質も最高。
そして舞台版では気づかなかった発見がたくさんありました。
元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります
今回は映画版バレエ「ロミオとジュリエット」の感想と舞台版との違いです。
※5分ほどで読み終わります。
舞台版をそのまま映画に
映画版の原題は「Romeo and Juliet: Beyond Words」。日本語では「ロミオとジュリエット:言葉を超えて」。セリフのないバレエをうまく表現しているタイトルです。
今回の映画は、舞台版「ロミオとジュリエット」をほぼそのまま映画にしています。シナリオや振付、衣装はほぼそのままです。大道具、小道具もバレエ版のものを一部使っています。
舞台版「ロミオとジュリエット」のあらすじはこちらをどうぞ。
マクミラン版はジョン・クランコ、フランコ・ゼフィレッリの影響を受けています。リン・シーモアがマーゴ・フォンテインとルドルフ・ヌレエフに入れ替わってしまった裏話、プロコフィエフの音楽もご紹介します。
今回「字幕版」と書いてあったので、セリフがあるのかと思っていました。ですが、字幕は冒頭だけでした。映画が始まる冒頭に、プレミア上映の様子やインタビューが流れました。ここに字幕がついていただけで、本編はセリフなしでした。
映像マジック
映画はイタリアではなく、ハンガリーのブタペスト郊外にあるセットで撮影されています。野外にあるスタジオに舞台セットを組み、ルネッサンス時代のイタリアの街を表現しています。
映像マジックもたくさん使われています。ふだんのバレエ版では、舞台を正面からしか見ることができません。ですが、今回の映画では、視点がコロコロ変わります。ダンサーも四方八方から登場します。とてもおもしろい映像でした。
特にいいアイディアだな、と思ったのは舞踏会のシーン。最初は男性の踊りからスタートします。そして、女性が次に入場します。舞台バージョンでは舞台後方から女性たちが登場します。ですが、映画版では正面から入ってきます。こういった工夫が随所にされていました。
出演者
英国ロイヤルバレエ団で主役を踊るプリンシパルとファースト・ソリストのオン・パレードです。プリンシパルの階級はバレエ団において最上位、ファースト・ソリストはその次の階級です。
通常の舞台では、主役を踊るプリンシパルたちが入れ替わりながら長期の公演を行います。そのため同じ日にプリンシパルが何人も登場することはありません。ですが、映画は1日限りなので周りを固めるキャストもプリンシパルやファースト・ソリストが集結しています。
ロミオ:ウィリアム・ブレイスウェル(ファースト・ソリスト)
ジュリエット:フランチェスカ・ヘイワード(プリンシパル)
ティボルト:マシュー・ボール(プリンシパル)
マキューシオ:マルセリーノ・サンベ(プリンシパル)
ベンヴォーリオ:ジェームズ・ヘイ(ファースト・ソリスト)
パリス:トーマス・モック(ソリスト)
キャピュレット卿:クリストファー・サウンダース
キャピュレット夫人:クリステン・マクナリー
乳母:ロマニー・パイダク
ローレンス神父:ベネット・ガートサイド
ロザライン:金子
3人の娼婦たち:ラウラ・モレーラ(プリンシパル)、ベアトリス・スティックス=ブルネル(ファースト・ソリスト)、ティアニー・ヒープ(ファースト・ソリスト)
ジュリエットの友人として6人ダンサーが登場しますが、そこにも当時ファースト・ソリスト、現在プリンシパルのマヤラ・マグリ、アナ・ローズ・オサリバンがいたり、とても豪華です。

個人的には娼婦を踊るラウラ・モレーラがうれしいです。ベテランのプリンシパルなので、もうこの役を踊ることはないと思っていました。
役が相当ハマっている
今回のメインキャストは若手ばかりでフレッシュなキャスティングです。唯一のベテランは3人の娼婦のひとりを演じるラウラ・モレーラのみ。
配役は監督に一任されていたようです。
スタイル、姿がぴったりハマっていました。
フランチェスカ・ヘイワード
キャッツや映画版ロミオとジュリエットで注目されたバレエダンサーです。踊りの映像や、踊っている姿をじっさいに観る方法もご紹介。エキゾチックかつミステリアスな雰囲気を持つ素晴らしいダンサーです。
フランチェスカ・ヘイワードのジュリエットは控え目な表現でありながら芯がとても強いジュリエットです。化粧っ気がなくて、とてもナチュラルです。ジュリエットは実際の舞台で何度も踊っていることもあり、役への理解の深さが伝わります。
序盤と終盤では踊り方が全然違いました。ジュリエットは少女から大人の女性へと成長していきます。フランチェスカ・ヘイワードは序盤、とても鋭角的な踊りをしていました。ですが、中盤からはとても流れるような踊り方に変わり、ジュリエットを見事に表現していました。
映画版では、舞台版で今まで気づかなかったジュリエットの感情がすごくよくわかりました。
ロミオと別れたあと、ベッドに座り前を見つめるシーン。アップがとても美しかったです。涙のながれる感じも、悲しいのに美しさがありました。
ちなみにフランチェスカ・ヘイワードが付き合っているトーマス・ホワイトヘッドも出演しています。役柄はモンタギュー卿。つまり、ロミオのお父さん役です。一緒の出演シーンはありませんでした。
ウィリアム・ブレイスウェル
ロミオ役のウィリアム・ブレイスウェルのことは、今まで認識していませんでした。
プリンシパルを押しのけ今回ロミオにキャスティングされました。
ロミオのキャラクターにすごく合っていて、とてもいいキャスティングだと思います。テクニックが凄く、サポートもしっかりしています。
もともとロイヤルバレエ団付属のロイヤルバレエ・スクールに在籍。この時、フランチェスカ・ヘイワードと同級生だったそうです。
ロイヤルバレエ・スクールからロイヤルバレエ団の姉妹バレエ団である「英国バーミンガム・ロイヤルバレエ団」に入団。2018年にロイヤルバレエ団に移籍してきました。すでにロイヤルバレエ団でも、いろいろな作品で主役を踊っています。
顔が似ているというわけではなく、表情の作り方がどことなくライアン・ゴズリングに似ています。
テクニックが凄く、背が高く、足のラインがとても美しいです。ちなみに後ろで回っているのは、2019年に引退した小林ひかるさんです。

今回の映画の功績もあるので、プリンシパルにかなり近づいているかもしれません。
マシュー・ボール
本人はロミオ役を狙っていたようで、とても悔しがっていたようです。でもティボルトにすごくハマっていたと思います。ハンサムで、かつ蒼白な感じなので、陰があって迫力のあるティボルトでした。
僕は、マシュー・ボールの演技に対しては薄味の印象がありました。ですが、ティボルトはとにかく濃ゆいキャラクターです。どういう演技をするんだろうか、と思っていました。
とてもハマっていたし、迫力もあり、ティボルトの愚直さみたいなものも感じられました。決闘のシーンは、とにかく迫力がすごかったです。
ダンサーたち
マキューシオを演じたマリセリーノ・サンベは踊りがキレッキレでした。音楽が舞台版より少し速く感じたのですが、そのテンポにもきっちり合っていたし、ジャンプも高い。マルセリーノ・サンベはここ最近すごく精悍な顔つきになっていて、大人な男になっています。
ジェームズ・ヘイのベンヴォーリオは舞台版よりも活躍の場面が少なく残念ですが、表情がコロコロ変わるのでとても魅力的でした。 ジェームズ・ヘイはふだんマキューシオを踊ります。ベンヴォーリオを見られる機会はもうないかな、と思うので、かなりのレアキャストだと思います。
ロザラインの金子
日本人のアクリ瑠嘉さん(ファースト・ソリスト)、佐々木万璃子さん、桂千里さん、前田紗江さんも登場しています。
理解がかなり深まります
映画版はオリジナルの部分が少し入っていて理解の助けになりました。
マクミラン版の「ロミオとジュリエット」はジュリエットを中心に物語が展開していきます。映画版ではジュリエットの感情がすごくよくわかりました。フランチェスカ・ヘイワードの心の動きを丁寧に撮っていて、とてもいい映画だな、と思いました。
一番最後のシーンはテンポが速く、展開もあっという間なので、もうちょっとゆっくり楽しみたかったな、とも思います。ジュリエットがロミオを発見する部分をもう少しじっくり見たかったです。ロミオの死を悟るのが早すぎた印象でした。
衣装・セット
衣装に関しては、この作品が映画ということもあり多少の違和感がありました。というのも男性の衣装がタイツです。男性のタイツ姿は、ふだんの生活ではなかなかお目にかかりません。

バレエを見慣れている人に関しては違和感がないと思いますが、そうでないとビックリしてしまうと思います。
そして、バレエシューズやトウシューズのまま街中で踊っています。これもちょっと違和感があるように思います。ジュリエットのトウシューズも素敵なんですが、足首に巻くリボンが気になりました。ロミオたちはブーツタイプのダンスシューズの方がよかったように思います。
バレエシューズで大丈夫?
ダンサーは街のシーンも石畳のシーンも薄いバレエシューズで踊っています。特に石畳の上で踊っているのをみると「大丈夫かな?」と心配になってしまうのですが、よーくみるとちゃんとダンス用の床が張られています。ダンス用の床に石畳の絵が描かれているようです。
けっこうクッションが効いているみたいで、床がかるくボヨンボヨンしていました。
メイク
出演者の化粧はかなり薄いのでとてもナチュラルです。アップになっても化粧が最小限に抑えられています。舞台では強い照明が当たっているので、しっかりメイクをしないと顔が白く飛んでしまって、のっぺらぼうになってしまいます。映像では、この心配がありません。

とても自然な雰囲気が出ていて僕はこの映画版のアプローチが好きです。
舞台版との違い
・舞台版より上演時間が短い
・朝、昼、夜がしっかり設定されている
・仮面舞踏会では、場所を移動する。大公が出席している。
・マキューシオがマンドリンダンスを踊る
・決闘のシーンで雨が降る
・薬局のシーンが追加
テンポがいい
舞台版は135分ですが、映画版は95分です。そのため40分ほどカットされています。ただ単純に曲がカットされている部分もありますが、僕は曲のテンポが舞台版よりも少し早く感じました。展開が早く、飽きない構成になっています。
ただテンポが良すぎる部分もありました。例えばバルコニーシーンへの入り方。舞踏会が終わった後、すぐバルコニーシーンが始まりました。舞台版だと招待客が帰るシーンがあります。舞台版では、主役二人の衣装替えがあるので時間稼ぎも兼ねているシーンです。映画ではこの心配がないのでカットできたんだと思います。映画版ではバルコニーシーンに入る前、ロミオたちがティボルトに追い出されるように出ていきます。そして、すぐロミオが戻ってきてジュリエットとの「パ・ド・ドゥ」が始まります。その流れが唐突に感じてしまいました。
このシーンが終わった後も余韻なく広場のシーンに行ってしまいました。舞台版だとバルコニーシーンが終わると休憩があるので、しっかり余韻にひたることができます。
このようにテンポ重視のシーンがいくつかありました。ちょっともったいないな、と個人的に思いました。全編を通し音楽のテンポが良かったので、最後のシーンは、無音の状態をつくったり、ジュリエットの泣き声を入れてもいいんじゃないかと思いました。
舞踏会に向かうシーンは夕暮れ
舞台だと夜のイメージですが、映画版では日暮れ前の設定です。周りの招待客の迷惑そうな様子が映画版ならではで、とてもリアルです。
夜で見慣れていたので、夕方の設定はうまいな!と思いました。
舞台でも招待客はロミオ達を煙たがっているのですが、映画版だとそれがすごくわかりやすかったです。また、踊りも全員が正面をズラし円を描くように踊っています。
最後、ロザラインがバラの花をわざと落とします。映画版だとロザラインはロミオにかなりの嫌悪感がみえたので、なんで花をロミオに渡したのかは謎でした(笑)。
けんかの仲裁の意味がわかった
舞踏会の中でロミオは仮面をつけています。ジュリエットに素顔をみせるために仮面を外すのですが、これが原因でキャピュレット家の人たちにロミオとバレてしまいます。
このシーンでキャピュレット卿がロミオとティボルトにケンカしないよう諭します。キャピュレット卿は冒頭のケンカのシーンに参加しています。それを考えると、なんですぐにロミオを追い出さないんだろうか…、とつねづね謎に思っていました。
さきほど、映像マジックの部分で紹介した動画をぜひご覧ください。よーく見ると奥に大公が座っています。ヴェローナを守る大公はケンカを良しとしていません。ちなみに、舞台版では、仮面舞踏会に大公は出てきません。
なぜキャピュレット卿がケンカを仲裁したのか。たぶん大公がいたからなんじゃないか、とかなり納得してしまいました。
マキューシオがマンドリンダンスを踊る
マンドリンダンスという男性ダンサーが活躍するシーンがあります。このマンドリンダンスは道化のような格好をした6人のダンサーが踊ります。その中にリーダーがいてソロを踊ります。
今回は、マキューシオがソロを担当していました。舞台版よりもマキューシオの出番が少なくなっているので、マキューシオの存在感を出すためになされた配慮だと思います。
マルセリーノ・サンベはマンドリンダンスのソロをふだんから踊っています。見ごたえのあるシーンでした。ちなみにこのマンドリンダンスにアクリ瑠嘉さんが出ていました。
ちなみにちなみに、映画版では仮面舞踏会のシーンでこの道化たちが周りでパフォーマンスをしていて、場面に華を添えていました。
決闘のシーンで雨が降る
決闘は序盤と中盤の2回出てきます。中盤の決闘では、雨の演出がプラスされています。臨場感がすごかった。
マキューシオ、ティボルト、ロミオの名演が光ります。
このシーンは危険を伴います。過去の舞台では、剣が顔にあたってしまい舞台上で流血してしまう、ということもありました。
キャピュレット夫人の嘆きもパワーアップしています。ただ、キャピュレット夫人に関してはちょっと場面に合っていないような気がしてしまいました。キャピュレット夫人はこのシーン、発狂するんじゃないかというくらい嘆き悲しみます。ですが、3幕でジュリエットが仮死状態になった時は結構あっさりしています。
自分の娘より、ティボルトが大事、っていうのがなんとも理解に苦しむ部分です。ただ、裏設定としてティボルトと愛人関係にあるそうです。
って思うと、しょうがないのかな…。
ローレンス神父とジュリエットが薬屋に
映画では薬屋に行くシーンが追加されています。仮死状態になる薬をジュリエットがローレンス神父と手に入れるシーンが追加されています。
舞台版だと、ローレンス神父がジュリエットに薬を渡します。しかも躊躇なく薬を差し出します。教会に仮死状態になる薬が用意されてるというのはかなり物騒です。神父の素性がかなり怪しいと思っていました。映画版は、この胡散臭さが軽減されていると思います。
最大の見せ場「バルコニーシーン」
映画の良い部分は、シーンを切り分けて撮影ができる点です。そのため踊りの完成度がかなり高いです。今回撮影は6日間で、リハーサルはおよそ1ヶ月行ったそうです。
中でもバルコニーシーンはやっぱりおススメです。自分の想像していた世界と答え合わせしている感覚になりました。
振付に関してはこちらで解説しています。
プロコフィエフの美しい音楽と、ケネス・マクミランの流れるような振付。マイムが排除され、不実な月に誓うシーンも踊りで表現されています。アレッサンドラ・フェリとフリオ・ボッカの映像を使って解説しています。
たぶん途中で切って繋げてるんだろうな、と思う部分があったのですが、これは映画ならでは。完成度の高い映像になっています。
ふたりは死ぬべき運命だった
ロミオとジュリエットを観ていると「あのシーンでああ行動すれば、絶対ふたりは結ばれたのに!」みたいな気持ちになることがあります。でも、今回の映画をみたことで、この2人が幸せになるには死ぬしか方法がなかったんだろうな、と本気で思いました。
特に一番最後。仮死状態から復活したジュリエットがすでに死んだ後のロミオを見つけます。そして短剣で自分を刺し死を迎えます。ロミオの近くで自害しエンディングを迎えます。
舞台版だと、このように終わりを迎えます。
この時「ロミオに触れて終わるジュリエット」と「ロミオに触れないジュリエット」の2通りのダンサーがいます。僕は個人的に最後は、触れて終わってほしい、と思っていました。
今回この考えが変わりました。
映画では同じような格好で終わるのですが、ジュリエットの手がロミオに触れることなく終わります。これは「その通りだな」とすごく納得しました。やっぱりこのふたりは現世では結ばれない運命…。そこに深く感動してしまいました。
もっともっと語りたいシーンがありますが、この辺にしておきます(笑)。
あと、エンドロールではカントリーみたいな曲が流れていたのが謎でした。

映画版「ロミオとジュリエット」についてでした。
どうもありがとうございました。
「ロミオとジュリエット」に関してはこちらにたくさん記事を書いていますので、ぜひご覧ください。
舞台鑑賞好きの僕が劇場に行くときに知っておくとちょっと得する話をのせています。バレエを中心に紹介しています。