
「オネーギン」はどんなストーリー?
見どころは?
2つの「パ・ド・ドゥ」とは?
ドラマティック・バレエに分類される「オネーギン」。
「白鳥の湖」のような夢物語ではなく、人間味あふれる作品です。
元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります
今回は「オネーギン」の2つのパ・ド・ドゥの中心に見どころポイントを解説していきます。
※3分ほどで読み終わります。
男性ダンサーの成長の証
メインの男性ダンサーは2人。主人公のオネーギンと、友人のレンスキーです。
オネーギンとレンスキーは対立してしまう役どころです。実際には同い年くらいなのですが、ベテランダンサーがオネーギンを踊り、若手のダンサーがレンスキーを踊ることが多いです。
オネーギンを踊るダンサーは若い頃レンスキーを踊っていることもあります。このケースだと男性ダンサーの成長をかなり感じることができます。
しかも、レンスキーの心情をしっかり理解した上でオネーギンを踊ることになるので役作りが深いです。
登場人物
オネーギン:田舎をバカにする貴族
タチヤーナ:世間知らずの貴族の娘
レンスキー:オネーギンの友人
オリガ:タチヤーナの姉、レンスキーの恋人
ラーリナ夫人:未亡人、タチヤーナとオリガの母
グレーミン公爵:タチヤーナの夫
あらすじ
1820年代のロシア。
都会育ちの洗練されたオネーギン。オネーギンは親友レンスキーとともに田舎にやってくる。この地にはレンスキーの恋人オリガが住んでいる。地主の娘であるオリガにはタチヤーナという本が大好きで内気な妹がいる。タチヤーナは洗練されたオネーギンに一目惚れしてしまう。恋文をしたためオネーギンに渡すタチヤーナ。だが、恋になれているオネーギンにとってタチヤーナの思いはとても幼く、うっとうしいものだった。
オネーギンはタチヤーナからもらった手紙を目の前で破り捨てる。そして退屈しのぎにオリガにちょっかいを出す。それに激怒するレンスキー。軽いケンカだったはずが決闘にまで発展してしまう。後に引けなくなったふたりは、銃で決闘することになる。
お互いに銃を撃ち、オネーギンがレンスキーを殺してしまう……。オネーギンにとってもツラい体験で、失意のうちに土地から離れていくのだった。
6年後、オネーギンが故郷である都会のサンクトペテルブルクに戻ってくる。社交界から距離を置いていたが、久々にパーティーに参加することになる。そこで侯爵夫人となったタチヤーナと偶然再会する。洗練されたタチヤーナを見て、オネーギンの恋心が一気に燃え上がる。揺さぶられながらも人妻としての常識を失わないタチヤーナ。タチヤーナはかつてのオネーギンのように、オネーギンからの手紙をきっぱりと破り捨て去っていくのだった。
オネーギンの解説はこちらからどうぞ。
ジョン・クランコ振付、プーシキン原作の「オネーギン」。物語バレエの最高傑作で演劇的な作品です。コンパクトな作品なので飽きることなくあっというまの2時間です。
ここからは見どころポイントです。
第1幕:「鏡のパ・ド・ドゥ」
第2幕:手紙を破るオネーギン
第2幕:オネーギンとレンスキーの決闘
第3幕:「手紙のパ・ド・ドゥ」
ちなみにガラ公演(抜粋を何作品も上演する公演)で、この2つの「パ・ド・ドゥ」はとても人気です。
第1幕:「鏡のパ・ド・ドゥ」
このシーンの出来が悪いと作品が壊れてしまうとても難しいシーンです。
タチヤーナが夢のなかでオネーギンと一緒に踊ります。このオネーギンは実際のオネーギンではなく、タチヤーナが妄想する理想の姿のオネーギンです。
幸せに満ち満ちている「パ・ド・ドゥ」で高難度のリフトの連続です。
50年も前の作品にも関わらず、鏡の中からオネーギンが抜け出てくる演出はアイディアにあふれています。
パリ・オペラ座バレエ団の公演より。イザベル・シアラヴォラ、エヴァン・マッキー(元シュツットガルト・バレエ団、カナダ国立バレエ団からのゲスト)による踊りです。
同じくパリ・オペラ座バレエ団の公演より。リュドミラ・パリエロ、マチュー・ガニオによる踊りです。
第2幕:手紙を破るオネーギン
タチヤーナをこっぴどく振るオネーギンが見どころです。
すごく残酷なシーンともいえます。タチヤーナはすごくショックを受けますが、オネーギンは何とも思っていません。ひどいシーンなんですが、ここでどれだけ残酷に振ることができるか…、というのが後の展開にも生きていきます。
一方通行の恋愛。非情なシーンなので、客観的に観ると本当にツラいです。でもその反面、タチヤーナは夢見る少女なので、現実にいたら結構やっかいかもしれません。なので、こっぴどく振らないとわからないのかも…、とも思ったり。それにしても、本人の目の前でラブレターを破り捨てるオネーギン。まだ年端もいかないタチヤーナをバッサリです。
一生トラウマになってしまうような断り方…。恐ろしいです。この出来事でタチヤーナが一気に大人へと成長します。
第2幕:オネーギンとレンスキーの決闘
こちらも第2幕より。少しのおふざけから、決闘にまで発展してしまう悲しいシーンです。社会的な地位やプライドを守ることは、現代人にも共感できると思います。さすがに、殺すまではいかないと思いますが…。
このシーンは、演劇的要素が非常に強いシーンです。オネーギン、レンスキー、タチヤーナ、オリガの4人がまるで会話をしているかのように踊ります。セリフまで聞こえてきそうなシーンです。バレエは言葉がないだけに、心の声まで聞こえてくるよな振付になっています。
冷静になればわかる話でも、後に引けないこともある。このどうしようもないドラマがとにかくツラい。オネーギンが完全に悪いんですが、それでもタチヤーナだけはオネーギンを心配しています。あんなにこっぴどく振られたのに、思いを寄せるタチヤーナ。どうしようもない感情がなおさらツラいです。タチヤーナとオリガは最後までふたりを止めに入ります。この時の衣装がすごく特徴があって、印象に残ります。ベールをかぶり、衣装の色も印象的。
そして、結果的にオネーギンはレンスキーを殺してしまいます。この時、演技としてオネーギンが泣き崩れてしまうこともあります。きっとオネーギンは一生後悔して生きていくんだろう、と思います。親友を殺す、という重みを背負って生きるということは、どういうことなんだろうか…、と考えてしまいます。
第3幕:「手紙のパ・ド・ドゥ」
タチヤーナは公爵夫人となっています。オネーギンは、公爵家で再会したタチヤーナに熱烈な恋文を送ります。第1幕の逆パターンです。この「手紙のパ・ド・ドゥ」は、晩餐会で最高潮に盛り上がった場面から、ふたりの踊りになだれ込んでいきます。群舞のシーンは、音がとても速いのでダンサー泣かせです。ガラ公演では二人の踊りだけが切り取られますが、この前段階のシーンがあるのとないのとでは大きな差があります。
そして「手紙のパ・ド・ドゥ」に入ります。オネーギンとタチヤーナは、「レンスキーの悲劇」を分かち合える唯一の存在です。そしてタチヤーナにとって、忘れられない初恋の相手。僕から見るとオネーギンはタチヤーナを純粋に好き、というよりは慰めてくれる相手に思っているのではないか、と感じます。オネーギンはかなり自滅型で、無意識的に人を傷つけてしまうのかもしれません。それでもオネーギンには魅力があって、魅かれてしまうんだと思います。
タチヤーナもこのシーンでは心がかなり揺れています。タチヤーナは成長しているのに、オネーギンは変わらない。自分勝手なオネーギンと、大人になったタチヤーナ。今もよく見かける、女性だけ先にすすんで男性はそのまま、というパターンです。オネーギンはこの期におよんで、タチヤーナに甘えようとしています。客観的に観ていると本当に痛々しい。

オネーギンよ、どうにか平穏な生活を送ってくれ。
最後はタチヤーナがオネーギンの手紙を、目の前で破ります。これも第1幕の逆パターンです。第1幕で、オネーギンは悪気なく手紙を破ります。ですが、タチヤーナは純粋な愛を持って手紙を破ります。このふたりは永遠にすれ違い続けていく運命なんだ、と感じました。タチヤーナは初恋の相手に純粋に向き合っているのに対し、オネーギンは無意識かもしれないですが打算的。
第3幕の「手紙のパ・ド・ドゥ」では第1幕の「鏡のパ・ド・ドゥ」の振り付けが少しずつ入っています。この振付がとても
この「手紙のパ・ド・ドゥ」は想像力をかきたてられます。タチヤーナは最後きっぱり断ります。タチヤーナの純粋さがオネーギンに勝ってくれて、ホッとしますが、二人が結ばれる姿も見てみたい、とも思うのでした…。
パリ・オペラ座バレエ団より。イザベル・シアラヴォラとエルヴェ・モローです。
オネーギンのオススメDVD
アリシア・アマトリアンがタチヤーナ、フリーデマン・フォーゲルがオネーギンを踊ります。「オネーギン」が作られた本拠地シュツットガルト・バレエ団で踊ってきたベテランふたりによる熱演です。
4,000円ほど。

「オネーギン」の見どころポイントの紹介でした。
ありがとうございました。
バレエ作品に関してはこちらにまとめています。ぜひご覧ください。
舞台鑑賞好きの僕が劇場に行くときに知っておくとちょっと得する話をのせています。バレエを中心に紹介しています。