ロイヤル・バレエ団で日本人ペアの主演が実現?
高田茜さんと平野亮一とは?
見どころは?
英国ロイヤル・バレエ団で、日本人ペアによる「ロミオとジュリエット」の公演がありました。
カーテンコールで拍手喝采!
元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります
今回は高田茜さんと平野亮一さんによる「ロミオとジュリエット」NHKでの放送です。
※3分ほどで読み終わります。
ふたりは共演予定ではなかった
2019年3月26日から6月11日まで英国ロイヤル・バレエ団では「ロミオとジュリエット」の上演がありました。当初は5組のペアで配役が発表されていました。
プリンシパルの高田茜さんは、同じくプリンシパルのスティーヴン・マックレーを相手にジュリエット役でデビューする予定でした。ですが、スティーヴン・マックレーがケガを理由に降板します。
一方、プリンシパルの平野亮一さんは、そもそもロミオを踊る予定ではありませんでした。ですが、ロミオ役が次々とケガにより降板。ここで急遽、平野亮一さんがロミオに配役されます。この時点では高田茜さんが相手役ではなく、ベアトリス・スティックス・ブルネルの予定でした。しかし、スティーヴン・マックレーが降板したことで、高田茜さんのパートナーがいなくなります。そこで平野亮一さんがロミオを踊ることになります。
準備期間2週間で、高田茜さんと平野さんの「ロミオとジュリエット」が上演されることになりました。
キャスト
原作:ウィリアム・シェークスピア
振付:ケネス・マクミラン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
美術:ニコラス・ジョージアディス
照明:ジョン・B・リード
ジュリエット:高田茜
ロメオ:平野亮一
マキューシオ:ジェームズ・ヘイ(James Hay)
ティボルト:ベネット・ガートサイド(Bennet Gartside)
ベンヴォーリオ:トリスタン・ダイヤー(Tristan Dyer)
パリス:トーマス・モック(Tomas Mock)
キャピュレット公:トーマス・ホワイトヘッド(Thomas Whitehead)
キャピュレット夫人:クリステン・マクナリー(Kristen McNally)
ヴェローナの大公:アラステア・マリオット(Alastair Marriott)
ロザライン:ララ・ターク(Lara Turk)
ジュリエットの乳母:ロマニー・パジャック(Romany Pajdak)
僧ロレンス/モンタギュー公:フィリップ・モーズリー(Philip Mosley)
娼婦たち:イツァール・メンディザバル、クレア・カルヴァート、マヤラ・マグリ
指揮:ポール・マーフィ(4/13)
コーエン・ケッセルス(4/27)
演奏:英国ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団
NHKの番組
今回は2019年4月13日と27日に収録された舞台映像です。ジュリエット役の高田茜さん、ロミオ役の平野亮一さん、ふたりともデビューとなりました。映像でも素晴らしい内容で、最後のカーテンコールはかなり盛り上がっていました。
NHKの番組は本編138分、スペシャルインタビュー映像14分でした。
ロミオとジュリエットのあらすじや見どころはこちらをどうぞ。
マクミラン版はジョン・クランコ、フランコ・ゼフィレッリの影響を受けています。リン・シーモアがマーゴ・フォンテインとルドルフ・ヌレエフに入れ替わってしまった裏話、プロコフィエフの音楽もご紹介します。
インタビューは踊り終わったあとに収録されています。ここからは2人のインタビューをまとめます。
高田茜さん
アレッサンドラ・フェリの映像をいつも見ていたという高田さん。
初めて見た物語バレエが「ロミオとジュリエット」だったそうです。プロコフィエフの音楽が本当に素晴らしく、聞くだけで涙がでるほど好きな作品と語っています。
ジュリエットは直接両親から育てられているわけではなく、乳母に育てられているため、両親とは距離があり、孤独感が常にあります。恋に落ちることによって、自分自身を見つけることが出来るジュリエット。大人にならざるを得ないジュリエットの年齢は、たったの14歳です。
役作りは難しかったようです。ジュリエットにとってすべてが初体験。高田さんにとっても初めてのジュリエットのためいろいろな発見があったようです。特に驚いたのは、3幕での「怒りの感情」とのことでした。難しかったシーンとして「ただじっと前を見つめるシーン」を挙げています。感情をつかむのが難しかったようです。
「テクニックに縛られることなく踊れたのは、ジュリエット役が初めて」と語っています。本番、リハーサルととても楽しめたとのこと。カーテンコールでもジュリエットを引きずるくらい感情に入れ込めた作品だったそうです。
高田さんは円熟期に入っています。これからの高田さんの舞台は必見です。
日本人カップルで踊るというのはかなり特別なことですが、平野さんを日本人としてではなく、ロミオとして考えていた。平野さんのパートナーリングはロイヤルでも1番。平野さんのおかげで自由に踊ることができた、と語っていました。
平野亮一さん
インタビュー時、いつもよりほっそりしていて、ロミオの繊細さを身体でも表現しているように思いました。
幼少期、「バルコニーシーン」の映像を見ることでレッスンのモチベーションを上げるくらい「ロミオとジュリエット」は好きな作品だったそうです。
急遽、高田さんと一緒に踊ることが決まった平野さん。それまでは、それぞれ違うパートナーとリハーサルをしていました。今回の配役変更により、テクニックだけでなく、演技についてもすり合わせを行っていきました。役作りにかなりのこだわりを持っているのがインタビューからわかります。特に、平野さんは敵役であるティボルトとパリスをレパートリーに持っています。いろいろなロミオを間近で見ていた経験があります。今までロミオの相手役をしてきていたからこそ、多角的なロミオの役作りができたと語っていました。最初から最後まで綿密に考えたそうです。
とくにロミオは3幕で成長を見せていくので、この部分に力を入れたそうです。
印象的なシーンとしては、ティボルトへの復讐です。復讐心という感情は、本来ロミオが持ち合わせていない感情です。ロミオを演じつつ、ロミオらしくない感情を出さなければいけない。これが挑戦だったようです。
実際の舞台では、ロミオが怒り狂ってティボルトに復讐するとき、みんながかなり困惑しているのが見て取れました。特に、娼婦役のイツァール・メンディザバルの表情が物語っていました。
平野さんの好きなシーンは、ジュリエットがベッドに座りただ前を見つめるシーン。何も動かないからこそ力強さ、印象の強さがあるシーンです。高田さんの演技は、考えが身体からにじみ出ていて素晴らしいと言っていました。
そして、主役だけでなく、舞台上のダンサーを見てほしいので何回も見てほしい、と語っていました。
感想
今回の配役は、出演者全員が舞台に欠かせない存在で、とてもバランスが取れていました。全員の踊りがすごく安定しています。平野さんがインタビューで語っていた通り、「ロミオとジュリエット」は何度見ても楽しめる内容です。
出演者全員の演技の方向性が合致していて、話がすんなり身体に入ってきます。
セリフのないバレエでも会話しているように感じます。とくに「バルコニーシーン」のロミオとジュリエットと、ティボルトとマキューシオの対決は必見です。
高田さん
高田さんは思いっきり踊っています。特に最初のパリスとのパ・ド・ドゥでみせるサポートされてのジャンプ。あまりに
3幕の演技が際立っていました。とくに最後、ロミオが死んでしまった後のジュリエット…。すごかったです。
平野さんのサポートにより、高田さんの動きがとてもキレイでした。
平野さん
平野さんはサポートはとにかく安定していて、高田さんの安心感が伝わります。難しいリフトも軽々とこなし、バレエで大事なレディーファーストと品の良さがあるダンサーです。背が高いのでとても目立ちます。
ひとつ気になったのは、ロミオの平野さんとティボルトのベネット・ガートサイドの身長が高いのに対し、マキューシオのジェームズ・ヘイとベンヴォーリオのリスタン・ダイヤーの身長が低いので、ちょっとバランスが悪く見えてしまいました。
さきほど紹介した映像にロミオがはじめてジュリエットを見つけるシーンがチラッと映っています(1:05)。僕はこの時のロミオの表情が大好きなので、個人的に嬉しかったです。
日本人キャスト大活躍
2日間撮影した映像を組み合わせて使用しているので、1幕「ジュリエットの友人の踊り」がなかなかおもしろいことになっています。本来は一緒に踊っていないのですが、2日間の映像が組み合わさっているので佐々木万璃子さん、桂千里さん、前田紗江さんのジュリエットの友人を見ることができます。
とくに前田紗江さんはどの舞台を観ても目立ちます。
ジェームズ・ヘイのテクニック
ジェームズ・ヘイはいつもどおりのテクニックの高さがありました。それに加え、今回は演技力の高さにしびれました。見せ場である、マキューシオがティボルトに殺されてしまうシーンが素晴らしかったです。
そして、娼婦役のマラヤ・マグリは今とても勢いのあるダンサーです。今回もかなり勢いがありました。
あと、パリスのトーマス・モックがとにかく気の毒でした。なぜ殺されなければいけないのか…。本当にタイミングの悪い男です…。
マキューシオの死は完全なる事故
今回の「ロミオとジュリエット」では、このシーンの悲しさに説得力がありました。
僕はずっとティボルトは殺すべくしてマキューシオを殺したと思っていたのですが、今回の公演では事故感がかなりありました。
例えば、男の子が、女の子をからかっていたとします。だんだん調子に乗ってしまい、言い過ぎて女の子が泣いてしまった…。悪ふざけが過ぎ、バツの悪い空気が流れます。
ティボルトとマキューシオの対決はこのような感じでずーっと進んでいきます。周りの群衆たちも、ふたりの対決を「まーた、やってるよー」くらいの軽い気持ちで見ています。ですが、ちょっとしたハズミでマキューシオに剣が刺さってしまいます。
ただの事故、という感じがありました。
とにかく、この事故のせいでロミオとジュリエットは悲劇へと転がってしまいます…。本当に人生なにが起こるかわからない…、と思い知らされるのでした。
感動的なカーテンコール
最後のカーテンコールはとても盛り上がっていました。映像で見ていてもすごく感動するので、生で観たらもっと感動していたんだと思います。
高田さんと平野さんのDVDは発売されていないので、アレッサンドラ・フェリのDVDを最後に紹介します。
「何回みても楽しめるロミオとジュリエット」の紹介でした。
ありがとうございました。
「ロミオとジュリエット」に関してはこちらにたくさんまとめていますので、ぜひご覧ください。
舞台鑑賞好きの僕が劇場に行くときに知っておくとちょっと得する話をのせています。バレエを中心に紹介しています。