バレエ版「ロミオとジュリエット」解説,原作,音楽,様々なバージョン
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「ロミオとジュリエット」とバレエの相性がイイ?
どんなバージョンがある?
原作、音楽は?

バレエ版「ロミオとジュリエット」。僕は何回見ても飽きることがありません。

作品を知るに連れ、裏側の話も知りたくなりいろいろ調べたことがありました。

今回はそうした話も含めご紹介していきます。

記事を書いているのは…

元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録あり

kazu

今回はバレエ版「ロミオとジュリエット」の魅力についてです。

※3分ほどで読み終わります。

物語バレエ

「ロミオとジュリエット」は物語バレエと呼ばれます。

バレエは大きく分けると古典バレエ(クラシックバレエ)と物語バレエに分けることができます。

古典バレエではストーリーと関係なく踊りの見せ場が途中途中に挟まります。

それに対し物語バレエでは、踊りがストーリーに溶け込んでいて、踊り自体で物語を伝えます。

「ロミオとジュリエット」は物語バレエの代表作品です。

あらすじ

14世紀、イタリアの都市ヴェローナ。2つの名家、モンタギュー家とキャピュレット家では、代々争いが続いている。

モンタギュー家の息子ロミオとキャピュレット家の娘ジュリエットは出会った瞬間に恋に落ちてしまう。お互い許されない恋とわかりつつ離れられない2人。僧ローレンスのもと密かに結婚する。僧ロレンスはこの結婚が両家の和解へとつながることを願っている。

結婚からの帰り道、ロミオは親友のマキューシオとジュリエットのいとこであるティボルトが争っているのを見つける。そしてティボルトが勢いでマキューシオを殺してしまう。親友を失ったロミオは逆上し、ティボルトを殺してしまう。

殺人を犯したロミオはヴェローナから追放されてしまう。旅立つ前、ロミオはジュリエットと一夜を過ごす。

悲しみの中にいるジュリエットだが、婚約者パリスと急遽結婚式が決まってしまう。結婚から逃れるため僧ローレンスに助けを求めるジュリエット。そこでこう提案される。

「この薬を飲むと仮死状態になる。死んだふりをして埋葬される。このことをロミオに伝えておくので、息を吹き返したら一緒に逃げなさい。」

結婚式の前夜、ジュリエットは薬を飲み仮死状態となる。キャピュレット家の人々はジュリエットが死んだと勘違いし、葬儀を行う。

霊廟に安置されるジュリエット。そこにロミオがやってくる。ジュリエットを前に絶望するロミオは毒薬を飲み自殺してしまう。

ロミオに僧ローレンスの策が伝わっていなかったのだ。

目を覚ましたジュリエットはロミオを見て絶望し、ロミオの持つ短剣で自害するのだった。

両家は長い間憎しみ合っていたことを悔い、和解するのだった。

原作

バレエ版の「ロミオとジュリエット」は、どのバージョンもウィリアム・シェイクスピアの戯曲がもとになっています。

戯曲

台本のかたちで執筆された文学作品(小説として読みづらい)

シェイクスピアはアーサー・ブルックの「ロウミアスとジュリエット」という長編の詩を下敷きに創作しました。

シェイクスピアが大きく変更したのは、時の流れです。ブルック版では9ヶ月の出来事ですが、シェイクスピア版では5日間に凝縮されています。

シェイクスピアは舞台の冒頭「2人の死が両家の争いを終わらせる」という説明をします。2人が出会う前から物語が始まり、燃えるような恋、最後の切ない別れで終わります。

観客は結末を知った状態で物語を観ることになるため、物語に入り込みつつ、俯瞰的な視点からも舞台を観ることになります。

バレエ版も時の流れが意識されています。とくに作曲のプロコフィエフが物語の流れを意図して作曲しています。

基本的にスピーディーに物語が進んでいきますが、ロミオとジュリエットの2人の踊り(パ・ド・ドゥ)になると時の流れが一気に緩やかになります。

バルコニーシーン

中でも第1幕の最後に登場する「バルコニーシーン」は特別です。

そこまで早い流れで進んでいた物語が、2人のシーンになると緩やかになり、バルコニーシーンで最大限にゆっくりになります。

観客はロミオとジュリエットが亡くなることを知っています。だからこそ、永遠に続いてほしいと願います。でも、終わりが来ることを知っているため、より切なさが増すんだと思います。

映画版より。映画ならではの編集で、完成度の高い映像になっています。

プロコフィエフの音楽

 「ロミオとジュリエット」はセルゲイ・プロコフィエフの音楽からすべてが始まります。

ロシアの劇作家ピオトロフスキーとセルゲイ・ラドルフによる脚本をもとにプロコフィエフがバレエ版「ロミオとジュリエット」を作曲しました。もともとレニングラード(現在のサンクトペテルブルク)で上演する予定でした。

しかし、作曲後にソヴィエト当局から指示が与えられます。

ハッピーエンドに変更しろ、との命令です。

ソヴィエト当局の意図

「希望的な結末にすべし!!」

政治的な意図により「ロミオとジュリエット」は死で終わる物語にしてはならず、ふたりは死ぬことなく新しい人生をスタートするというものに…。国民に希望を持ってもらうため、ハッピーエンドである必要がありました。

「白鳥の湖」でも同じ変更がなされました。本来バッドエンドだった「白鳥の湖」ですが、「最後に王子とオデット姫が結ばれ幸せになる」という内容に書き換えられました。このハッピーエンド版がソヴィエトから発信され、世界中に広がりました。

音楽だけを発表

当局の指示に反し、劇場の上層部は「ロミオとジュリエット」がハッピーエンドであることに疑問をもち上演を諦めます。つまり無期限の上演禁止です。

プロコフィエフのバレエ曲だけが宙に浮いた状態になってしまいました。

1936年、プロコフィエフはバレエ無しでこの曲を発表します。このときは、悲劇のエンディングという設定のまま演奏会が行われました。

この演奏がラジオなどで世界中に広まっていきます。

プロコフィエフの音楽は、どことなく暗い旋律でありながら、美しい。一度聞いたら耳に残る旋律です。

ロミオ、ジュリエット、そしてロミオとジュリエット、マキューシオ、ティボルトなどなど、それぞれにテーマとなる旋律があり、音楽を聞くと誰が踊っているのかわかります。

そしてバルコニーシーン。ふたりの心情に合わせ曲がどんどん盛り上がっていきます。この曲を聞くだけで価値のある音楽です。

さまざまなバージョン

バレエ版「ロミオとジュリエット」は多くのバージョンがあります。

バレエ版「ロミオとジュリエット」の歴史

1935年:プロコフィエフが作曲

1938年:ブルノ国立バレエ団(ヴァンヤ・プソタ振付)
1940年:キーロフ・バレエ(レオニード・ラヴロフスキー振付)
1955年:パリ・オペラ座バレエ団(セルジュ・リファール振付)
1958年:ミラノ・スカラ座バレエ団(ジョン・クランコ振付)
1962年:シュツットガルト・バレエ団(ジョン・クランコ振付改訂版)
1965年:英国ロイヤル・バレエ団(ケネス・マクミラン振付)
1966年:二十世紀バレエ団(モーリス・ベジャール振付)
1971年:フランクフルト・バレエ団(ジョン・ノイマイヤー振付)
1977年:ロンドン・フェスティバル・バレエ団(ルドルフ・ヌレエフ振付)
1979年:ボリショイ・バレエ団(ユーリー・グルゴローヴィチ振付)
1980年:ミラノ・スカラ座バレエ団(ルドルフ・ヌレエフ振付改訂版)
1984年:パリ・オペラ座バレエ団(ルドルフ・ヌレエフ振付改訂版)
1990年:リヨン・オペラ座バレエ団(アンジュラン・プレルジョカージュ振付)
1998年:モンテカルロ・バレエ団(ジャン=クリストフ・マイヨー振付)
1998年:スペイン国立ダンスカンパニー(ナチョ・ドゥアト振付)
2006年:カンパニア・アテルバレット(マウロ・ビゴンゼッティ振付)
2013年:スウェーデン王立バレエ団(マッツ・エック振付)

これだけの振付家にインスピレーションを与える作品です。

とくにラヴロフスキー版、クランコ版、マクミラン版がのちの作品に影響を与えています。

「ロミオとジュリエット」はバレエが1番?

「ロミオとジュリエット」は熱く燃え上がる恋の話で、演劇・映画・ドラマ・ミュージカルなどなど多くの作品が世界各地にあります。

バレエ版「ロミオとジュリエット」は、映画や演劇にくらべるとかなり見やすくなっています。

バレエと相性がイイ2つの理由

・セリフがない
・ジュリエットの設定年齢が14歳

セリフがないので入りやすい

バレエにセリフがないのは「当たり前じゃん!」と思うかもしれませんが、原作の演劇にはこんなセリフが登場します。

その1

「ああ、ロミオ、ロミオ…、
どうしてあなたはロミオなの。」

その2

ロミオ:「私は月に誓ってあなたを愛します」
ジュリエット:「やめて。夜ごとに形を変える月なんかに誓うのは。あなたの愛まで移り気に思えるから」

バレエでも熱い表現をしますが、言葉にしないため「クサさ」がかなり薄まります。

踊りだけで表現するバレエは「ロミオとジュリエット」とかなり相性がいいと思っています。

14歳のジュリエット

ジュリエットは数あるバレエ作品の中でも表現がとても難しい役です(技術的にはもっと難しい作品がたくさんあります)。

「ロミオとジュリエット」最大の矛盾

・実年齢が低いダンサーはジュリエットの見た目に近いが、表現力が足りない
・実年齢が高いダンサーはジュリエットの見た目に遠くなることもあるが、表現力が非常に高い

とはいえ、バレエは映画やテレビと違い、見た目の年齢が高くてもそこまで問題ありません。見た目をカバーできるのが、舞台の魅力です。

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ジュリエットを当たり役としたダンサーにアレッサンドラ・フェリがいます。僕が一番感動したジュリエットは、アレッサンドラ・フェリの引退公演でした。40歳を超えていましたが、14歳のジュリエットを見事に演じていました。

ジュリエットを演じるのはアレッサンドラ・フェリ。このとき37歳。ロミオ役のアンヘル・コレーラは25歳です。

ジュリエットは人生経験を積んだダンサーほど素晴らしい演技をする役です。そのため30歳を超えたダンサーがジュリエットを踊ることもたくさんありますし、僕はそういうダンサーの演技を見るのが大好きです。

あなたはどのタイプ?

最後に個人的な感想です。

「ロミオとジュリエット」を見るのであれば、マクミラン版、ラヴロフスキー版、ヌレエフ版がまずはオススメです。

この3作品を見比べることで自分の好みがわかってくると思います。

3つのタイプ

マクミラン版が好きな人は、演劇的なバレエが好きな「英国ロイヤル・バレエ団」タイプ
ラヴロフスキー版が好きな人は、伝統的なバレエが好きな「ロシアバレエ団」タイプ
ヌレエフ版が好きな人は、洒落っ気のある「パリ・オペラ座バレエ団」タイプ

僕が好きなのはクランコ版とマクミラン版です。どちらも演劇的なバージョンです。

僕は1番最初に見たのがクランコ版だったので基準になっています。

クランコ版は大きな悲劇だけでなく、さわやかな印象が残る作りになっています。

一方のヌレエフ版はアクが強く、性的な匂いがちょっと強めです(内容はもちろん素晴らしいです)。

オススメDVD

さきほど紹介した映画版は90分程度(本来は130分)に凝縮されていて見やすいです。

舞台版に関してはマクミランのミューズだったアレッサンドラ・フェリによるジュリエットと、ウエイン・イーグリングによるロミオがオススメです。1984年に収録されましたが、今見ても素晴らしいです。

2,000円ほどです。

kazu

今回はバレエ版「ロミオとジュリエット」の魅力の紹介でした。
ありがとうございました。

「ロミオとジュリエット」に関してはたくさん記事を書いていて、こちらにリンクがあります。