リアム・スカーレット版「白鳥の湖」のストーリーは?
見どころは?
気になる部分は?
全体的にダークで重厚的なリアム・スカーレット版「白鳥の湖」。
新たな試みがたくさんさあって、見どころもたくさんです。
元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります
今回は初心者でも楽しめるリアム・スカーレット版「白鳥の湖」の見どころポイントです。
※3分ほどで読み終わります。
リアム・スカーレット版「白鳥の湖」の特徴
リアム・スカーレット版「白鳥の湖」の作品解説はこちらからどうぞ。
アンソニー・ダウエル版から31年ぶりに英国ロイヤルバレエ団が「白鳥の湖」を改定しました。ゴシック調の雰囲気で、重厚なストーリーです。白鳥全員がチュチュになりました。
オデット(白鳥に変えられてしまったプリンセス)/オディール(オデットそっくりの黒鳥)・・・一人二役
ジークフリート王子
ロットバルト:悪魔/女王の側近
女王(ジークフリート王子の母)
ベンノ(ジークフリート王子の友人)
ジークフリート王子の妹たち
花嫁候補4人(イタリア、スペイン、ハンガリー、ポーランド)
ここからは各幕ごとに解説していきます。
プロローグのあらすじ
オデットはロットバルトにより白鳥に変えられ、さらわれてしまう。
ポイント
このシーンは早変わりのシーンです。人間のオデット王女が一瞬で白鳥に変わります。通常は、人間の姿(オデット)を主役が演じ、変身後の白鳥をオデットに似たダンサーが演じます。
ですが、スカーレット版は逆になっています。このアイディアが好きです。
そして、ロットバルトの衣装がなかなかのホラーです。
第1幕のあらすじ
王子が友人ベンノや宮廷の人々と一緒に楽しんでいる。しばらくすると、女王の側近としてつかえるロットバルト(人間に変身)が登場。どうやら王子をはじめ宮廷の人々からロットバルトは嫌われている様子。
ロットバルトが退場するとみんながリラックスし、王子の誕生祝いをはじめる。
そして女王が王子の妹2人と登場。女王から王子に誕生日のプレゼントとして、亡き父の弓矢(成人の象徴)を贈り物として授ける。
ここで女王は、次の日の夜に開催される宮廷の舞踏会で4人の花嫁候補から結婚相手を選ぶよう王子に伝える。女王の側にはロットバルトがいつもいて、かなりの影響力がうかがえる。
女王が去ったあと、王子はみんなと楽しく過ごす。
パーティーが終わったあと、王子は宮殿に帰ろうとしない。それを見たロットバルトは宮殿に戻るよう働きかける。しかし、拒否する王子。
ロットバルトは王子の持つ弓矢を見て、心臓を押さえ森の中に走り去っていく。王子はその様子に気づかない…。
王子も不安を抱えつつ、ひとりどこかに行ってしまうのだった。
ポイント
通常版「白鳥の湖」の舞台は中世ですが、スカーレット版は現代的なイギリス王室風です。
スカーレット版では、王子の友人ベンノが活躍します。他のバージョンで道化が踊る部分をベンノが担当します。
全体的に暗い雰囲気で進んでいきます。というのも、場を明るく盛り上げる役割を持つキャラクターがいないため、かなりシリアスなトーンとなっています。
また、パ・ド・トロワをベンノと王子の妹2人が踊ります。
王子の妹の一人を踊る高田茜さん。
王子の妹は初めてみました。パ・ド・トロワを踊る女性に王子の妹という役割が与えられているのは良いアイディアだと思います。
舞台転換がとてもスムーズです。王子のソロが踊られているあいだ、「宮廷の場面」から「湖のほとり」に舞台がスムーズに転換されます。通常だと第1幕と第2幕の間は舞台転換のため20秒~30秒ほど小休止があります。この小休止でけっこう気持ちが切れてしまうので、スムーズな流れはとても良かったです。
ツッコミポイント
悪役のロットバルトは人間に化けています。ですが、めちゃめちゃ嫌われています。顔色も悪く、悪役感がスゴイです。
普通こういうときって、溶け込む努力をするんじゃないかと…。
嫌な言い方をすると、このロットバルトにだまされている王国の人々は相当おめでたいな、と思ってしまいました…。
第2幕のあらすじ
王子を心配したベンノは王子を追って湖のほとりへ向かう。ベンノは王子に宮廷に戻るよう語りかける。しかし王子はベンノに帰るよう指示する。
再び一人になった王子は白鳥の群れを見つける。
驚いたことに、1羽の白鳥が、美しい乙女「オデット姫」に変身する。オデットは「昼間は白鳥、夜は人間」という呪いにかけられていると王子に伝える。
呪いを破る方法はただひとつ。「まだ誰も愛したことのない人」がオデットに不滅の愛を誓うこと。王子は本来の姿に戻っているロットバルトを弓で狙うがオデットから止められる。ロットバルトが殺されると呪いが解けなくなってしまうからだ。
愛を深めていく2人。しかし、だんだん呪いの待つ朝が近づいてくる。夜が明けると、オデットは白鳥の姿に戻ってしまうのだった。
ポイント
湖畔のシーンはとても暗くゴシック調で重厚感があります。そこに真っ白なチュチュの白鳥たち。群舞の24羽の白鳥が登場すると、黒い背景にぼわーっと浮かび上がりとても幻想的です。
オデットが自分にかけられた呪いを王子に伝えるシーンは2つのバージョンがあります。ひとつは踊りで表現する方法。そしてもうひとつはパントマイムで伝える方法です。今回は後者のパントマイムでした。僕はパントマイムの方が好きです。というのもこのシーンはパントマイムだと真意が伝わると思うからです。特に演技力が長けたダンサーがパントマイムを行うと説得力があり、一気に舞台に引き込まれます。
そして、衣装に大きな変更がありました。以前のアンソニー・ダウエル版ではオデット以外の白鳥はチュチュではなく、ひざ丈のスカート型の衣装でした。スカーレット版は白鳥全員がチュチュを着ています。たっぷりとスワロフスキーを使い、葉脈のような柄が白鳥たちのチュチュに細かくついています。これがちょっと不気味な感じです。
また、群舞の中でソロを踊る白鳥たちの構成は、小さな4羽の白鳥と2羽の大きな白鳥という構成でした。大きな白鳥2羽の踊りはオリジナルな部分が多く、流れるような振付で好きでした。
有名な小さな4羽の白鳥。動画をどうぞ。
cygnetsとは「白鳥のひな」を指します。そのため小さな4羽の白鳥といいます。
白鳥は、主役のオデットを除くと32羽登場します。普通のバージョンだと大きな白鳥と小さな白鳥が4羽ずつ登場します。スカーレット版では、大きな白鳥がもう2羽、ちょこっとだけ群舞の踊りで登場します。
ツッコミポイント
舞台がかなり暗いように思います。
「白鳥の湖」の第2幕はとっても危険です。この危険というのは「眠くなる」という意味です。ずーっと静かな曲が続き、8分ほどのパ・ド・ドゥで最高潮をむかえます。このパ・ド・ドゥはバイオリンのソロで一番静かなシーンです。
暗いので眠くなってしまいがち…。
第3幕のあらすじ
舞踏会ギリギリに戻ってくる王子。
そして招待客がやってくる。まずは群舞の踊り、そしてベンノ、王子の妹たちの踊りへ。
その後、王子が遅れて到着。花嫁候補のスペイン、ハンガリー、ナポリ、ポーランド4人の踊りへ。女王から花嫁を選ぶよう命令されるものの、王子は結婚相手を選ぶことを拒否。すると突然、オデットそっくりのオディールが舞踏会に現れる。
オディールはロットバルトの魔法によりオデットとそっくりな姿で現れた。王子はまったく気づかない。
ここから花嫁候補たちをアピールする踊りへ。スペイン、ハンガリー、ナポリ、ポーランドと続く。
そして王子とオディールが戻ってくる。王子はオディールに魅了され、オディールをオデットだと信じ込んでしまう。ロットバルトが常にオディールになにか指示し、すべてを操っている。
ついに王子はオディールに「永遠の愛」を誓ってしまう。この愛の誓いにより、王子にはオデットの呪いを解く力がなくなってしまう。ロットバルトは正体を明かし、女王から王冠を奪い王国を乗っ取ってしまうのだった。
王子はすべてを壊してしまったことを思い知らされる。悲嘆にくれる王子は湖へと急ぐのだった。
ツッコミポイント
王子の妹たちは最初の踊りが終わるといなくなってしまいます。ロットバルトが王国を乗っ取られてしまったときですら出てきません。最後のカーテンコールで出てきていたので、せめてオディールにだまされるシーンには出てくるべきだったのでは?
ポイント
王子が舞踏会に遅れているため、友人ベンノが気をきかせて時間稼ぎをします。その際、普通の「白鳥の湖」では使われない曲が使用され、ベンノと王子の妹たちのパ・ド・トロワが踊られます。
友人ベンノをアレクサンダー・キャンベル、王子の妹をフランチェスカ・ヘイワード、高田茜さんが踊ります。
第3幕はダンサーたちの踊りがたっぷり見られるシーンです。
また花嫁候補たちはロングドレスではなく個性的なデザインのチュチュ。インパクトがあって僕は好きでした。花嫁候補は女性ダンサーにとってチャンスが大きい役です。4人で一緒に踊るものの、個性を出してオッケーだからです。
スペインの踊りは女性ダンサー1人、男性ダンサー4人です。男性ダンサーの衣装が絶妙にダサいです…。上着の丈がちょっと不思議。あとピアスを片耳につけているのがなんとも…。
続いてチャルダッシュ(ハンガリーの音楽のひとつのジャンルで、ハンガリーの踊りをチャルダッシュといいます)。メインのカップル1組に群舞が4組という構成です。振付は従来のバージョンです。衣装は黒を貴重にしていて、金色のヘッドピースがいいアクセントです。
3つ目はナポリの踊り。女性ダンサーと男性ダンサー1名ずつ。たぶんフレデリック・アシュトンの振付で、かなり細かいステップかつ、テクニックが織り込まれています。衣装が黒と白のストライプに、ナポリ的なアクセントがついていて個性的。盛り上がるシーンです。
4つ目はポーランドの民族舞踊であるマズルカ。3組のカップルで踊られ、従来の振付が重視されています。衣装がコート調で、品があり、かつエネルギッシュです。
そしてオデットと王子のシーンに移ります。オディールと王子が踊っている場面では各国の客人たちがみています。その時の女性たちのオディールへの反応がみていておもしろいのでぜひ注目してみてください。
このオデットと王子のパ・ド・ドゥが「白鳥の湖」の踊りのシーンでの最大の魅せ場です。この踊りで舞台の良し悪しが決まります。
そして王子がオディールに愛を誓うシーンは少しタメが作られます。ロットバルトが本来の姿に戻ると黒鳥たちが一気に登場。舞台の背景も一気に変わります。
このシーンの転換がとても良かったです。
第4幕のあらすじ
湖のほとりに集まる白鳥たち。そこに傷心のオデットが現れ、白鳥たちに王子の裏切りを伝える。ロットバルトが現れ、逃げられないことを悟るオデット。王子は嵐の中、必死にオデットを探しにやってくる。
再会した2人。王子はオデットに許しを乞う。ロットバルトが現れ、呪いが解けないことを二人は思い知る……。呪いから逃れる唯一の方法は、死……。
オデットは、湖へと身を投げる。オデットが犠牲になることで呪いは破られ、ロットバルトが滅びる。
残された王子は、オデットの亡骸を見つける。人間に戻って姿のオデット。王子はただ抱くことしかできないのだった。
ポイント
第4幕のはじまりは白鳥たちの群舞からです。この踊りは退屈になりがちですが、スカーレット版では振付・フォーメーションともに工夫が凝らされています。白鳥たちのソロは、第2幕の小さな4羽の白鳥たち、大きな2羽の白鳥たちが踊ります。
通常、第4幕の白鳥たちのソロがある場合、第2幕のソロと関係ないダンサーが踊ることが多いです。第2幕のダンサーに親近感がわくことが多いので第4幕のソロに再登場するのはとてもイイ試みだと思います。
オデットが王子と再会したあと、2人で踊ります。このシーンはいらないんじゃないか、と思いました。一気に最後のシーンまで行ってしまうほうがスピード感があります。物語の展開に急ブレーキがかかっているように思えました。最後にオデットが「あなたは愛するって誓ったじゃない!」とパントマイムで訴えます。そこから急に和解します。急すぎて変な感じがしました。
戦いのシーン
戦いのシーンもよかったです。僕が一番苦手なのは、王子とロットバルトが直接対決するバージョンです。踊りで戦いを表現するのはすごく難しいと思います。取っ組み合いみたい振付だと、どんなにうまい人が踊っていても迫力がないです…。「本気で戦え!!!!」と現実に引き戻されてしまいます。今回は茶番劇みたいな感じがなくてとても良かったです。
そして、オディールはさーっと身を投げてしまいます。そして、王子とロットバルトは戦うことなく、ロットバルトが自滅していきます。最後、オデットが人間に戻りそれを抱える王子の姿は、とてもいい演出だと思いました。
「白鳥の湖」は王子のおろかさでどんどん悪い方悪い方へ向かっていきます。ハッピーエンドで終わってしまうと、毎回「違うんじゃないか…」と思ってしまいます。そのため、僕は「白鳥の湖」はおとぎ話であってもバッドエンドで終わるべきだと思っています。
DVD
リアム・スカーレット版「白鳥の湖」は映像化されています。
マリアネラ・ヌニェスとワディム・ムンタギロフ主演です。

今回は英国ロイヤルバレエ団のスカーレット版「白鳥の湖」の見どころポイントでした。
ありがとうございました。
バレエ作品に関してはこちらにまとめていますので、ぜひご覧ください。
舞台鑑賞好きの僕が劇場に行くときに知っておくとちょっと得する話をのせています。バレエを中心に紹介しています。