「眠れる森の美女」はどんなストーリー?
どんな歴史がある?
見どころは?
バレエ版「眠れる森の美女」は少し難易度が高いです。
というのも上演時間が長く、休憩を入れると3時間を超えてしまいます。あまり慣れていない場合、寝てしまう可能性があるので注意が必要です。
とはいえ豪華な舞台でオススメです。
元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります
今回は、マリウス・プティパ振付「眠れる森の美女」の作品解説です。
※3分ほどで読み終わります。
バレエ団の繁栄を願う作品
バレエ「眠れる森の美女」は今も変わらず傑作古典バレエです。
初演版は休憩をふくめ4時間を超えました。とにかく豪華で出演人数も膨大だったので、主要な役を演じるダンサーでさえ、2役演じていました。
豪華すぎたこともあり費用削減のための変更があったり、長時間でも飽きないよう改訂されていきます。
細かいストーリの変更がありつつ、内容もどんどんシンプルになっていきました。
上演シーンや出演者を削り、ストーリーも変更されました。
あまりに豪華なため「眠れる森の美女」を上演したことで「バレエ・リュス」というバレエ団は破産同然になってしまった、という事件もあります。
歴史
ロシア:マリインスキー劇場
振付:マリウス・プティパ
音楽:チャイコフスキー
原作:シャルル・ペロー
1890年、ロシアで初演された「眠れる森の美女」は、帝政ロシアの
マリインスキー劇場の支配人であるフセヴォロジスキーと振付のマリウス・プティパが台本を書いています。とくにフセヴォロジスキーはフランス文化を愛好していたため、「眠れる森の美女」はルイ14世の宮廷時代を想定しています。
そのため、舞台セット、衣装はとても豪華なバロック式となっています。
豪華な舞台
規模が小さいバレエ団だと「眠れる森の美女」はできません。豪華なバレエのため、大きなバレエ団が発足するとき最初の公演(
逆に言うと「眠れる森の美女」を上演できれば一流バレエ団の証明になります。日本の新国立劇場でも「眠れる森の美女」が杮落とし公演に選ばれました。
かつてロシアのバレエをヨーロッパに紹介した「バレエ・リュス」というバレエ団がありました。ディアギレフという敏腕プロデューサーが主催した私設バレエ団です。
バレエ・リュスが1921年にロンドンで「眠り姫」というタイトルで「眠れる森の美女」の公演をおこないました。ストーリーを削っていたものの、あまりに費用をかけすぎて破産。バレエ団は解散してしまいました。
1999年、初演を行ったマリインスキー劇場で、1890年版の復刻が行われました。そのため、現段階ではマリインスキー・バレエ団の「眠れる森の美女」がもっともオリジナルに近いバージョンだといえます。
チャイコフスキーがバレエ作曲家の地位を上げた
チャイコフスキーはフセヴォロジスキーとプティパの台本通りに作曲を行いました。とくにプティパからはかなり細かい指示を与えられています。音楽が先にできたのではなく、振付の構成が先にできてから音楽が作られています。
しかも製作日数はたったの40日。40日間で60曲以上、3時間を超える楽曲をつくります。楽曲はいまも高く評価され、どの曲を聞いてもメロディが印象に残ります。
これはバレエ音楽史における転換点です。それまでバレエ音楽は2流の仕事とされていました。
チャイコフスキーのおかげでバレエの作曲家の地位が一気に上ることになります。
バレエ音楽の発展により、さらにバレエが芸術として高い評価を受けていくようになります。
あらすじ
バレエ版は4つのパートに分かれています。
プロローグ(35分)…オーロラ姫の誕生の祝い
第1幕(30分)…オーロラ姫16歳の誕生日
第2幕(35分)…王子がオーロラ姫と出会い、助けるまで
第3幕(45分)…オーロラ姫と王子の結婚式
プロローグに主役であるオーロラ姫は登場しません。そのため、最初から前のめりになって鑑賞しすぎると体力がなくなってしまうので注意が必要です。
長めの作品なので体力配分に気をつけてください。
複雑な物語ではなく、第2幕でストーリーは終わります。第3幕は踊りを楽しむシーンが続きます。
まずはゆったりと楽しんでみてください。
登場人物
ディズニー版です。
登場人物は、わかりやすいようにディズニー版「眠れる森の美女」と比較していきます。
オーロラ姫(オーロラ姫):長い眠りにつく姫
デジレ王子(フィリップ王子):オーロラ姫を救う運命の王子(フロリムント王子と呼ばれる時も)
カラボス(マレフィセント):オーロラ姫に呪いをかける悪の精(バージョンによっては男性が演じることもあり)
リラの精(フォーナ、フローラ、メリーウェザーがひとりになった感じ):カラボスと同等の力を持つ善の精(踊るバージョンと踊らないバージョンがあります)
プロローグ
フランスのとある宮殿で、誕生したばかりのオーロラ姫のお祝いが開かれる。国中から妖精が招かれ、オーロラ姫に「誠実」「優美」「寛容」「歓び」「勇敢」「気品」といった美徳を授ける。ところが、悪の精カラボスは招待されていなかった。怒ったカラボスはオーロラ姫に呪いをかける。「16歳の誕生日、オーロラ姫は
そこで、妖精をまとめるリラの精が、カラボスの呪いを弱める。「オーロラ姫はたしかに
第1幕
美しく成長したオーロラ姫は16歳になり、誕生日のお祝いが開かれる。隣国から4人の王子が招待され、この中からオーロラ姫が結婚相手を選ぶことになる。パーティーが進む中、見慣れない老婆がオーロラ姫に花束を渡す。喜ぶオーロラ姫。だが、花束の中に糸紡ぎの針が隠されていた…。オーロラ姫は針を指に刺し倒れてしまう。
老婆の正体はカラボスで、呪いをかけることに成功したカラボスは去っていく。
するとそこにリラの精があらわれ、約束通り呪いを弱めてくれる。深い眠りにつくオーロラ姫。リラの精は王宮の人々にも眠りの魔法をかけ、王宮をいばらでおおい深い森にかくしてしまう。
映像が古いですが、伝説のバレエダンサー、シルヴィ・ギエムによる「眠れる森の美女」です。1990年頃、アメリカン・バレエ・シアターの映像です。現代の視点からでもまったく色褪せない踊りです。
第2幕
100年後、デジレ王子が狩りを楽しんでいる。だが、王子はどこか浮かない様子。真実の愛を見つけらないことに悩んでいる。
そこにリラの精があらわれ、オーロラ姫の
第3幕
宮殿ではオーロラ姫とデジレ王子の結婚式が開かれる。宝石の精、物語の主人公たち(青い鳥、長靴をはいた猫、赤ずきんちゃん、シンデレラなど)が登場し、ふたりの結婚を祝う。盛大なお祝いの中、幕を閉じます。
問題点
「眠れる森の美女」は古典バレエの傑作です。
ただし、古典バレエのため、現代の感覚と合わない部分があります。
しかも、プティパ版の完成度が高く改訂が非常に難しくなっています。
例えば「ロミオとジュリエット」はマクミラン版の評価が高く、多くのバレエ団がレパートリーに持っています。
ですが「眠れる森の美女」は未だ決定版といえるバージョンがないため、それぞれのバレエ団が独自の振付をしています。
大半のバレエ団がプティパ版をそのまま踏襲し、細かい部分のみ変更しています。
王子の人物像
一番の問題点は王子です。
初演の1890年、王子はオーロラ姫のサポートのためだけに存在していました。そのため王子の人物像がとても薄くなっています。
第2幕、王子がオーロラ姫と出会います。しかも幻想の世界で理想化されたお姫様です。ということは、王子がオーロラ姫を好きになった理由は外見のみ……。
これが現代的な視点では理解しづらい……。
王子の人物像を深くするために振付家が今も挑戦しています。
ただし「眠れる森の美女」は上演時間が3時間超……。チャイコフスキーの音楽の完成度が高く、シーンを削ることが難しい……。
王子の人物像を深くしようとすると、上演時間が伸びてしまい現実的じゃありません。
そのためバッサリとテコ入れしている「眠れる森の美女」も登場していますが、割り切っておとぎ話として上演しているバレエ団が多いです。
ディズニー版の王子は深い?
多くの人が知っているディズニーアニメ版「眠れる森の美女」。
ディズニー版は王子の人物像の掘り下げに成功していると思います。
ディズニー版ではオーロラ姫と王子(フィリップ)が同時代に生きています。オーロラ姫が眠りにつく前に出会い、100年の呪いはありません。オーロラ姫は呪いで眠ってしまいますが、王子のキスで目覚めます。
設定をガラッと変えることで「王子がオーロラ姫の外見だけに惹かれたわけではない」という内容になっています。
これはよく出来た解答だと思っています。
バレエ版はこれからもきっと新たな「眠れる森の美女」が作られていくことと思います。
各幕の見どころを深めた記事を書いています。ぜひご覧ください。
第1幕には最高難度の踊り「ローズ・アダージョ」などみどころがたくさんあります。プロローグ、映像と一緒にあらすじと見どころポイントをご紹介します。
DVD
「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」「ジゼル」「パリの炎」の4枚組のDVDで5,000円ほど。すごくお得です。
ボリショイ・バレエ団のすごく豪華な「眠れる森の美女」です。スヴェトラーナ・ザハーロワの完璧なオーロラ姫と、デヴィッド・ホールバーグの貴公子感あふれる王子です。さきほど紹介した「ローズ・アダージオ」のザハーロワ版です。
かなり長丁場の公演になるので、体力バッチリで行きましょう。

以上、プティパ版「眠れる森の美女」についてでした。
ありがとうございました。
バレエ作品に関してはこちらにまとめていますので、ぜひご覧ください。
舞台鑑賞好きの僕が劇場に行くときに知っておくとちょっと得する話をのせています。バレエを中心に紹介しています。