バランシン振付バレエ『スターズ・アンド・ストライプス』作品解説
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『スターズ・アンド・ストライプス』とは?
ストーリーは?
見どころは?

舞台いっぱいに広がる星条旗、行進曲に合わせて踊るダンサーたち。まるでアメリカのパレードに迷い込んだかのような華やかな光景が広がる、ジョージ・バランシン振付のバレエ『スターズ・アンド・ストライプス』。クラシック・バレエにマーチングバンドの要素を組み合わせたユニークな作品で、おもちゃの兵隊のような楽しい踊りに思わず引き込まれてしまいます。

この記事では、バランシン振付の名作『スターズ・アンド・ストライプス』について、わかりやすく解説します。

記事を書いているのは…

元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります。

※ 3分ほどで読み終わります。

『スターズ・アンド・ストライプス』とは

『スターズ・アンド・ストライプス』は、ジョージ・バランシンが1958年に発表したバレエ作品です。タイトルは、アメリカ合衆国の国旗(星条旗)の愛称で、その名のとおりアメリカを讃える愛国的なテーマが込められています。“Stars”は星条旗の星、 “Stripes”は縞模様(ストライプ)の部分を指しています。

スターズアンドストライプスと呼ばれるアメリカ国旗

明確なストーリーはありませんが、全編を通してアメリカの国威や祝祭ムードを表現したセレモニー的(祝典的)なバレエとなっています。振付家バランシンはロシア出身ですが、渡米後にアメリカ国籍を取得し、この作品を「自分の第二の故郷へのオマージュ(敬意)」として制作しました。

特徴的なのは、音楽にジョン・フィリップ・スーザ作曲の行進曲(マーチ)を使用していることです。特に有名な「星条旗よ永遠なれ(The Stars and Stripes Forever)」をはじめ、複数のマーチがバレエ音楽として編曲されています。力強く陽気なマーチに乗せ、クラシック・バレエのテクニックを踏襲しながらも敬礼のポーズや行進のフォーメーションなど軍隊風の動きが随所に織り込まれています。

ダンサーたちの衣装も星条旗を思わせる赤・白・青のカラーを基調とし、女性ダンサーは軍服風デザインの可愛らしいチュチュを身に着けています。フィナーレでは舞台奥いっぱいに巨大な星条旗の幕が降ろされる演出があり、会場は愛国ムードに染まります。

作品データ

  • 初演:1958年1月17日、ニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)によりニューヨーク・シティ・センターにて初演
  • 振付:ジョージ・バランシン(NYCB共同創設者で20世紀を代表する振付家)
  • 音楽:ジョン・フィリップ・スーザの行進曲(ハーシー・ケイ編曲)
  • 衣装デザイン:バランシン作品でおなじみのバレエ衣装デザイナー、カリンスカ
  • 上演時間:約28分(1幕物のバレエ)
  • ジョン・フィリップ・スーザ( John Philip Sousa:1854年 – 1932年)
    「マーチの王」と呼ばれ、100曲以上のマーチング曲をつくっています。また、マーチングで使うマーチング用チューバ「スーザフォーン」を考案し、19世紀のバンド音楽の発展に貢献しています。

なお、日本人にとって行進曲の数々が運動会を思い出させるため、どこか身近で楽しい気分になるかもしれません。

5つのパート

『スターズ・アンド・ストライプス』は全部で5つのパート(キャンペーン)に分かれており、それぞれ趣向の異なる踊りが展開します。バランシン自身、この区分を軍隊の“campaign(邦訳:作戦)”になぞらえており、連続するパレードの出し物のように構成されています。

5つのキャンペーン

第1パート:「コーコラン士官候補生」|1st campaign:Corcoran Cadets(女性ソリスト1名 + 女性コール・ド・バレエ12名)
第2パート:「ライフル連隊」|2nd campaign:Rifle Regiment(女性ソリスト1名 + 女性コール・ド・バレエ12名)
第3パート:「雷と剣闘士」|3rd campaign:Thunder and Gladiator(男性ソリスト1名 + 男性コール・ド・バレエ12名)
第4パート:「自由の鐘」と「エル・キャピタン」|4th campaign:Liberty Bell、El Capitan(男女主役2名)
第5パート:「星条旗よ永遠なれ」|5th campaign:The Stars and Stripes Forever(全キャスト41名)

ここから、第1パート~第5パートまで順に内容と見どころを解説します。

第1パート:「コーコラン士官候補生」|1st campaign:Corcoran Cadets

第1のパートは12人の女性ダンサーによる群舞女性ソリスト1名で踊られる華やかな幕開けです。リーダー役の女性ソリストがバトンを片手に先導し、明るい行進曲に合わせて次々と隊列を組んだダンサーたちが威勢よくもキュートに行進します。衣装はピンクがかった赤色のミリタリー風チュチュに白いソックスという出で立ちで、観客にはアメリカのマーチングバンドのチアリーダーマジョレット(楽隊に同行するバトントワラー)を思わせる印象を与えます。

軽快で楽しいこのパートは、批評家から「オールアメリカン・ガール(典型的アメリカ娘)のイメージ」と評され、バレエという舞台上にアメリカ娘の元気さを体現した場面です。

第2パート:「ライフル連隊」|2nd campaign:Rifle Regiment

続く第2パートも女性ソリスト1名と12人の女性群舞によって構成され、第1パートと似たフォーメーションで踊られます。衣装のテーマカラーが青色に変わり、違った色調で舞台に彩りを添えます。振付のスタイル自体は第1パートを踏襲し、リーダー役の女性ダンサーが華麗なステップを披露しつつ、コーラス(群舞)のダンサーたちがダイナミックな隊形移動を展開します。1・2パートの女性ソロには若手有望株が起用されることも多く、技術的に高度なステップが要求される場面です。

第3パート:「雷と剣闘士」|3rd campaign:Thunder and Gladiator

第3パートはガラリと趣向が変わり、男性ソリスト1名と12人の男性ダンサーの群舞が登場します。他のパートと比べて最もテンポが速くエネルギッシュな場面で、息つく間もないほど細かいステップやジャンプが連続する迫力満点の展開です。男性ダンサーたちはキリっとした軍服調の衣装に身を固め、舞台上を大きく使った行進や力強いジャンプで雄々しいエネルギーを放ちます。ソロの男性ダンサーには小柄で驚異的な跳躍力とターン技術を持つダンサーが抜擢されることが多く、その超絶技巧に観客席から思わず歓声が上がることもしばしばです。男性だけのキレある踊りは作品全体のハイライトの1つで、観客のボルテージも上がります。

ニューヨーク・シティ・バレエ団ホームページより

第4パート:「自由の鐘」と「エル・キャピタン」|4th campaign:Liberty Bell、El Capitan

第4パートは本作の主役男女2人による華やかなパ・ド・ドゥ(男女の踊り)です。女性主役は「自由の鐘(Liberty Bell)」、男性主役は「エル・キャピタン(El Capitan:キャプテン)」と愛称がつけられています。踊りの構成はクラシック・バレエのグラン・パ・ド・ドゥの形式(アダージョ → 男女それぞれのヴァリエーション → コーダ)に沿って進みます。2人はコミカルかつエレガントに踊ります。女性ダンサーは時にいたずらっぽく男性をからかうような仕草を見せながら生き生きと踊り、男性ダンサーは胸を張って誇らしげに飛んだり回ったりと茶目っ気たっぷりに応えます。2人とも随所に敬礼やマーチ風の動きを交えつつ、バランシンならではの高速ステップやリフトなど高度なテクニックを次々と披露し、観客を魅了します。

ニューヨーク・シティ・バレエ団の、タイラー・ペックとゴンザロ・ガルシアによる踊りです。

この見せ場満載のデュエットは作品のクライマックスとして特に人気が高く、その完成度の高さからガラ公演で抜粋されています。また、映画『センターステージ』の劇中バレエでも取り上げられました。

映画『センターステージ』より、イーサン・スティーフェル、ジュリー・ケントです。

第5パート:「星条旗よ永遠なれ」|5th campaign:The Stars and Stripes Forever

フィナーレとなる第5パートでは、出演者全員(総勢41名)が舞台上に勢ぞろいします。第1・2パートの女性連隊、第3パートの男性連隊、第4パートの主役カップルが帽子を被って登場すると舞台は最高潮の盛り上がりに。曲はスーザの代表曲「星条旗よ永遠なれ」の華やかなマーチで、全員でのパレードさながらの群舞が繰り広げられます。次第に高まる愛国的な熱狂の中でダンサーたちは一体となって踊り、最後に巨大な星条旗(国旗)がどーんと下りてくると、客席は拍手に包まれます。まさにバレエ版パレードのフィナーレにふさわしい、視覚的にも聴覚的にも圧倒的なエンディングです。

作品の影響

バランシン振付『スターズ・アンド・ストライプス』は初演当初から観客の心をつかむ陽気な作品として好評を博しました。ニューヨーク・シティ・バレエ団(NYCB)の共同創設者リンカーン・カースティンは本作を「音楽的ジョークとして構想された」と述べており、その言葉通り鑑賞者たちはこのバレエをユーモアに富んだ愛国的パロディとして受け止め、大いに楽しんだと伝えられています。

批評家からは「バレエ的パレード」と評され、マーチ音楽に乗せてこれほどまで大胆にアメリカの軍事パレードを再現したバレエは斬新だとの声もありました。一方でバランシン自身、「計算された大衆ウケも時にはバレエに有効だ」と語り、意図的に観客を沸かせる演出を織り交ぜている点も指摘されています。事実、フィナーレで星条旗が現れる場面や随所の派手な振付は拍手が沸き起こることを想定しています。

本作はNYCBの代表的レパートリーの1つとして位置づけられ、現在まで継続的に上演され続けています。初演キャストによる1950年代の公演以降も、NYCBでは折に触れてレパートリーに組み込まれ、アメリカの祝祭行事や記念公演などでもしばしば披露されます。他のバレエカンパニーにも広く受け入れられ、バランシンの許諾を得て世界各地のバレエ団がレパートリーに加えてきました。

1959年1月には、ニューヨーク州知事ネルソン・ロックフェラーの就任式典で披露されました​。また、1964年、NYCBがリンカーン・センターに新築移転した際のニューヨーク州立劇場開場公演でも、この作品が選ばれています​。さらにジョン・F・ケネディ大統領への追悼公演や、リンドン・ジョンソン大統領への敬意を表す舞台でも上演され、国家的行事に花を添える演目として定着しました​。

時代の空気によって、この作品への感じ方も変化しました。ベトナム戦争や社会変革の嵐が吹き荒れた1970年代、過剰な愛国表現を忌避する風潮の中で、本作を「古臭い」と見る向きもありました。しかし1980年代になると再評価が進みます。1981年、イラン米大使館人質事件の解決を祝うNYCB公演で、急遽サプライズ演目として『スターズ・アンド・ストライプス』最終章がアンコール上演されました​。ダンサーたちは黄色いリボンを付けて登場し、祖国に帰還した人質たちにエールを送りました​。

また1984年ロサンゼルス・オリンピックの閉会式では、アフリカ系舞踊手中心のダンス・シアター・オブ・ハーレムがこの作品を披露し、多様性の中の愛国心を示す場面となりました​。このように『スターズ・アンド・ストライプス』は、その時々の社会状況に合わせて新たな意味合いを帯びながら、アメリカ人の心に訴え続けてきたのです。こうした国際舞台での上演を通じて、『スターズ・アンド・ストライプス』はアメリカ国内のみならず世界中の観客にもアメリカ文化とバレエの融合の楽しさを印象付ける作品となりました。

音楽の幅

また、本作の影響として注目すべきは、クラシック・バレエにおける音楽選択の幅を広げた点です。バレエ音楽といえばチャイコフスキーやプロコフィエフなどが思い浮かびますが、バランシンは行進曲という異色のジャンルを大胆に取り入れ、それを見事なバレエ作品に昇華しました。

この試みは後の振付家たちにも刺激を与え、バレエにおける音楽の可能性を拡大する一例となっています。さらに、愛国心をテーマに据えたバレエ作品という点もユニークで、同時代の他の作品(例えばバランシンの『ウェスタン・シンフォニー』など、アメリカ音楽を用いた作品群)とともに、新国籍主義的バレエの1つの形を築いたと評価されています。

バランシンの指導方法

『スターズ・アンド・ストライプス』は、細部まで計算され尽くした振付と、ダンサーの完璧な演技が求められる作品です。その完成度を支えたのが、ジョージ・バランシンの独特な指導方法でした。

音楽が導く振付

バランシンは「ステップは音楽が教えてくれる」という考えのもと、ダンサーに音楽を身体で感じさせる指導を徹底しました。リハーサルでは細かい説明をするのではなく、経験者が踊るのを見て新メンバーがマネをするという方式が取られました。特にこの作品は、テンポが速く、マーチングバンド風のリズムにぴったりと振付を合わせることが求められるため、音の流れに乗ることが最優先されました。

バランシン自身も、リハーサルではしばしばピアノを弾いたり、自らステップを見せることもありました。特に『スターズ・アンド・ストライプス』のようなユーモラスな要素が含まれる作品では、ダンサーの表情や動きのニュアンスにもこだわり、ただ技術的に踊るのではなく、観客を惹きつけるショーマンシップを意識するよう求めました。

敬礼の重要性

この作品で特に象徴的なのが、敬礼の振付です。バランシンは、ダンサーたちに単に振付として敬礼をするのではなく、本物の軍隊のように誇り高く、堂々と行うよう指導しました。特に、第3パートの男性群舞と第5パートのフィナーレでは敬礼が大事にされています。

バランシンは、「観客はこの瞬間を待っている。だからこそ、決めるときは一切の迷いなく、完璧に」と指示しました。リハーサルでは、「ここで拍手が起こるよ」と冗談めかしながら、観客の反応を意識させることもあったそうです。

「拍手喝采マシーン」

バランシンは、この作品を「拍手喝采マシーン(Applause Machine)」と呼んでいました。これは、『スターズ・アンド・ストライプス』が観客の心をつかみ、確実に盛り上がるように計算されたバレエであることを示しています。リハーサル中も、「この場面では観客が拍手するよ」「ここで笑いが起きるはずだ」と、ダンサーたちに観客の反応を予測させながら指導しました。

特に第5パートのフィナーレでは、巨大な星条旗が舞台奥に降ろされる瞬間、音楽のクライマックスと完全にシンクロします。この場面では、観客から歓声と拍手が自然と巻き起こるようになっており、バランシンの狙い通りの効果を発揮しています。

厳格なテンポと細部へのこだわり

バランシンのリハーサルでは、テンポが絶対でした。時に本番では練習よりも速いテンポで指揮者が振ってしまうこともあるのですが、それでもダンサーたちには音楽に食らいついて踊るよう求めました。特に、『スターズ・アンド・ストライプス』のように行進曲のビートが明確な作品では、ほんの少しでもテンポがずれると、全体の印象が崩れてしまうためです。

また、振付のディテールにも徹底してこだわりました。バランシンの元で学んだダンサーたちは、「彼のバレエでは、指先の向きや目線の動きまで細かく指示される」と証言しており、単なるステップの習得ではなく、完璧な美しさと表現力が求められました。

バランシンのメッセージ:「これはアメリカそのもの」

バランシンは、リハーサル中にダンサーたちに「これはアメリカそのものなんだ」と語っていたといいます。『スターズ・アンド・ストライプス』は単なる愛国的なバレエではなく、アメリカの活力とエネルギーそのものを体現する作品だったのです。

元ワシントン・バレエ団の芸術監督セプティム・ウェーバーは、「バランシンのバレエは、より速く、より高く、より華麗に踊ることで、アメリカの精神を象徴している」と評しています。実際、バランシンの振付には、古典バレエの枠にとどまらず、スピード感やダイナミックな動きが強調されているのが特徴です。

『スターズ・アンド・ストライプス』のリハーサルでは、ダンサーたちも単に技術を磨くだけでなく、アメリカの誇りとエネルギーを体現する意識を持つことが求められました。そのため、敬礼の動作一つをとっても、ただのジェスチャーではなく、ダンサーが舞台上で自信を持って表現することが大切にされたのです。

感想

『スターズ・アンド・ストライプス』を何度か鑑賞する中で、特に印象的だったエピソードをいくつかご紹介します。

第2パートのソロ女性ダンサーの緊張感

ある公演で、第2パート「ライフル連隊」のソロを務める女性ダンサーが非常に緊張している様子でした。その緊張は客席にいる僕にも伝わり、観ているこちらまで手に汗を握る思いでした。残念ながら、彼女は高速ステップで転倒してしまいましたが、このパートの振付がいかに難しいか改めて実感させられました。

第5パートのペアの身長差によるユニークな組み合わせ

第5パートでは、第3パートの男性が第1パート・第2パートの女性ダンサーと共に踊る場面があります。ニューヨーク・シティ・バレエ団の女性ダンサーは比較的高身長なのですが、男性ソリストは小柄なダンサーが多く、ペアの身長差が目立つことがあります。ニューヨークの公演で、第3パートのソリストとしてダニエル・ウルブリクトが出演していました。彼は小柄で知られていますが、ペアを組んだ女性ダンサーは背が高く、その身長差が際立っていました。このアンバランスな組み合わせが観客の心を掴み、客席からは「キャー、かわいい!」という歓声が上がるなど、微笑ましい雰囲気が会場全体を包んでいました。

DVD

先ほど紹介した『センターステージ』に第4パートが劇中劇として登場します。

3,500円ほど。DVDには特典映像として、少し長めに踊りのパートが入っています。

振付師ジョージ・バランシンについてはこちらで紹介しています。

ジョージ・バランシン:バレエからテーマをなくした偉大な振付家

以上、『スターズ・アンド・ストライプス』の解説でした。

バレエ作品に関してはこちらにまとめています。ぜひご覧ください。