クランコ版「じゃじゃ馬馴らし」ストーリーと解説。殴る蹴る暴力的バレエ
jazz

ジョン・クランコ版「じゃじゃ馬馴らし」はどんなストーリー?
特徴は?
見どころは?

舞台上はドタバタで、ダンサーが転ぶ。

転んだのはハプニングか、演技なのか…。

バレエのイメージをガラッと変えてくれる作品です。

記事を書いているのは…

元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります

kazu

今回はジョン・クランコ版「じゃじゃ馬馴らし」のあらすじと作品解説です。

※3分ほどで読み終わります。

これってバレエ?

女性主役が殴る蹴る、変顔もする!

男性主役はヒゲ面の酔っぱらい!

会場から笑いがあふれる個性的な作品です。

本家シュツットガルト・バレエ団より。当たり役かつハマリ役のスージー・カンとフィリップ・バランキエヴィッチ。

めがね

個人的な感想ですが、僕は途中までは本当に大好きです。ただ、終盤はかなり違和感を感じます。

というのも「じゃじゃ馬馴らし」のテーマはなかなか現代に馴染みません。強情で乱暴な女性を、男に従順な女性に変えてしまう……。

ただ、女性問題に敏感なヨーロッパでも初演時と同じ内容で上演され続けています。昔の価値観を知るためなのでしょうか。

この作品をみると、女性の立場について考えてしまいます。

ジョン・クランコ全盛期の作品

「ロミオとジュリエット」「オネーギン」で成功し、波に乗っていたジョン・クランコによる作品です。

初演:1969年3月16日

ドイツ:シュツットガルト・バレエ団

振付:ジョン・クランコ
原作:ウィリアム・シェイクスピア
音楽:クルト=ハインツ・シュトルツェ(ドミニコ・スカルラッティ作曲による)
装置・衣装:エリザベス・ダルトン

当時のシュツットガルト・バレエ団には抜群に演技力の高いマリシア・ハイデとリチャード・クラガンがいました。この2人のダンサーがいたからこそ作ることができた作品です。

音楽

「じゃじゃ馬馴らし」はイタリアが舞台です。そのイタリア・ナポリ出身のスカルラッティの楽曲が「じゃじゃ馬馴らし」で使用されています。

ドメニコ・スカルラッティ(1685年~1757年)

作曲家、チェンバロ奏者

「オッタヴィア」というオペラや、550作品を超える鍵盤ソナタの作曲で知られる

1969年、シュツットガルト州立劇場の総監督であるヴァルター・エーリッヒ・シェーファーのアイディアからスカルラッティの音楽に合わせてバレエがつくられました。当時、ジョン・クランコに音楽の助言をしていたクルト=ハインツ・シュトルツェ(1926年~1970年)がスカルラッティの楽曲を組み合わせます。

スカルラッティの音楽は多彩、多種多様、生き生きしている、という評価が多いです。

「じゃじゃ馬馴らし」のコミカルさが、音楽にとてもマッチしているともいわれています。

作品について

全2幕:1時間50分

第1幕:60分
第2幕:50分

上演時間が短く、そして出演者が多くないのでとても見やすい作品です。

登場人物

バプティスタ・ミノーラ:裕福な商人
キャタリーナ:主人公。バプティスタの長女。頭脳明晰だが乱暴
ビアンカ:バプティスタの次女。美人でおしとやか

ペトルーチオ:主人公。ワイルドで大ざっぱだが広い心を持つ
グレミオ:ビアンカに求婚。道楽者
ルーセンショー:ビアンカに求婚。学生
ホーテンショー:ビアンカに求婚。うぬぼれが強いシャレ男

振付のジョン・クランコはパントマイムを習っていたということもあり、パントマイムがたくさん出てきます。パントマイムがストーリーを理解する助けになっています。

第1幕:ストーリー

20世紀中頃のイタリア。

グレミオ、ルーセンショー、ホーテンショーが美しいビアンカにセレナーデを捧げ求婚している。喜ぶビアンカだが父親のバプティスタは結婚を許さない。ビアンカには姉のキャタリーナがいる。バプティスタは長女であるキャタリーナが先に結婚しなければ、ビアンカを嫁にやらないと宣言する。

キャタリーナはグレミオ、ルーセンショー、ホーテンショーが気に入らない。3人を相手に暴れまわるキャタリーナ。この騒ぎで近所の人達も起きてしまい、大騒ぎになる。

酒場にやってきたグレミオ、ルーセンショー、ホーテンショー。そこには飲んだくれているペトルーチオがいる。娼婦にカネを巻き上げられてしまったペトルーチオが、酒代を払えず困っている。

そこに目をつける3人。カネを払う代わりに1つ条件を出す。「キャタリーナという美人でグラマラスで裕福な女性と結婚してほしい」。ペトルーチオは快諾する。

3人が歌、ダンス、琵琶の先生に変装し、ペトルーチオをつれミノーラ家にやってくる。約束通りキャタリーナに求婚するペトルーチオ。しかし、思いっきりひっぱたかれてしまう…。

ビアンカに求婚するグレミオ、ルーセンショー、ホーテンショー。ビアンカはルーセンショーに思いを寄せるようになる。

ペトルーチオはめげずにキャタリーナに求婚し続ける。最初はバカにされていると思っていたキャタリーナもだんだんと心を開いていく。最後にはキャタリーナとペトルーチオの結婚が決まる。

結婚式当日。街の人達はみんなキャタリーナとペトルーチオの結婚は冗談だと思っている。グレミオ、ルーセンショー、ホーテンショーはビアンカとついに結婚できると喜んでいる。

遅れて到着するペトルーチオ。無作法な振る舞いにキャタリーナの気持ちもしぼんでいくが、結局ふたりは司祭の前で結婚する。宴の前にペトルーチオはキャタリーナを自分の家に連れ去ってしまう。

第1幕:見どころ

「じゃじゃ馬ならし」の前半部分はとにかく暴力的で激しい振付が多いです。僕が実際に見たとき、舞台の途中でキャタリーナ役のダンサーにトラブルが起きたこともあります。ケガではなかったようで交代することはありませんでしたが、それほど荒れる舞台です。

中でもキャタリーナとペトルーチオの「パ・ド・ドゥ」が見どころです。キャタリーナ役のあるダンサーは「踊ると温かい気持ちになる」と語っていました。

全2幕中、パ・ド・ドゥは第1幕に1つ、第2幕に2つ、合計3つ登場します。通常、バレエのサポートにおいて男性は「女性をどう美しく見せるか」という役割があります。そのため男性は黒子に徹しなければいけないこともあります。

しかし、「じゃじゃ馬馴らし」では男性に黒子の印象はまったくありません。男性の存在感があるパ・ド・ドゥは珍しいと思います。

もう一組のカップルである、ビアンカとルーセンショーのパ・ド・ドゥも見どころです。第1幕では、初々しい愛にあふれたパ・ド・ドゥを踊ります。

舞台の雰囲気や衣装は同じイタリアを舞台にした「ロミオとジュリエット」に似ています。そしてグレミオ、ルーセンショー、ホーテンショーのトリオが、ロミオ、マキューシオ、ベンヴォーリオとオーバーラップします。

本家シュツットガルト・バレエ団よりエリザ・バデネスとジェイソン・レイリーによる第1幕のパ・ド・ドゥです。

第2幕:ストーリー

ペトルーチオがキャタリーナを自分の家に連れていく。文句の多いキャタリーナにペトルーチオは怒ってしまう。テーブルをひっくりかえし、食べ物もぐちゃぐちゃに…。

キャタリーナは食べ物もなく、ベッドすらない…。ひもじい思いをすることになる。

街ではカーニバルが開かれている。仮面をつけて楽しむ人々。ついにビアンカに結婚を申し込むことができるようになったグレミオ、ルーセンショー、ホーテンショー。そして3人ともビアンカとの結婚の誓いに成功する。

だが、ルーセンショーの企みがあった。グレミオ、ホーテンショーはビアンカと同じ格好をした娼婦と結婚の約束をしていたのだった。

キャタリーナはペトルーチオに反抗するのを諦める。すると、ペトルーチオはとても優しく、ユーモアがあることに気づく。そして、ビアンカの結婚式に2人は向かう。

グレミオ、ルーセンショーとビアンカ、ホーテンショーの結婚式。理想の花嫁だと思っていたビアンカも実はわがままだと気づくルーセンショー。一方、結婚式に招待されたキャタリーナの振る舞いは夫に忠実で素直、そして愛すべき態度であった。

「決して見た目だけで選んではいけない」という教訓が込められている。

第2幕:見どころ

第2幕からキャタリーナに対する「じゃじゃ馬馴らし」がはじまります。人は見た目だけで判断してはいけない、という教訓はイイと思いますが、「女性は男性に付き従わなければいけない」という価値観が僕はどうしても苦手です。

舞台は相変わらずドタバタ、笑いどころもたくさん、振り付けもおもしろい。ですが、胸にモヤモヤしたものを抱えつついつも見ています。

第1幕ではバラバラだった2人の心がペトルーチオの家では変化があります。そして、最後のパ・ド・ドゥで理想のパートナーシップとなります。

時代とのズレ

内容が時代に合わなくなっているものの「じゃじゃ馬馴らし」はシュツットガルト・バレエ団にとって欠かせない作品です。

演劇性が高く、ダンサーに求められるレベルが高い。

そして女性ダンサーの荒々しい面、男性ダンサーのワイルドな面が見られるおもしろい作品です。

マカオ公演でのトラブル

先ほど紹介した第1幕のトラブルは「じゃじゃ馬馴らし」のマカオ公演での出来事です。

このとき第1幕でトラブル発生。アクロバティックな振付が多く、主演の2人がぶつかってしまいました

しばらく幕が閉じ、どうなるか観客は待っていました。

10分ほどたち、2人とも公演を続ける意志があり、大きな問題もなかったようで公演が続行されました。

かなり盛り上がった公演となりました。

この年は東日本大震災が起きた年でした。テーマパークの仕事が中断され、空白の時間を過ごしていた3月。シュツットガルト・バレエ団のマカオ公演があるというニュースを知りました。

自分を鼓舞するためにもシュツットガルト・バレエ団のためだけにマカオに行きました。

このとき「じゃじゃ馬馴らし」が3公演だけありました。

観に行き、すごく元気になったのを覚えています。

しかも政府からの助成金が入っていたので、S席で2,000円弱という超破格のチケットでした。

映画「恋のからさわぎ」

残念ながらジョン・クランコ版バレエ「じゃじゃ馬馴らし」はDVD化されていません。ですが、「じゃじゃ馬馴らし」の映画はいくつかあります。

僕がオススメなのは現代版に解釈された青春ムービーの「恋のからさわぎ」。バレエ版とは違う終わり方で僕は納得感がかなりありました。今は亡きヒース・レジャーの出生作です。ジュリア・スタイルズ、そして大スターとなったジョセフ・ゴードン=レヴィッド、テレビドラマ「おまかせアレックス」で人気だったラリサ・オレイニクが登場しています。

「恋のからさわぎ」を見ると「じゃじゃ馬馴らし」がさらにおもしろくなると思います。

1,000円ほど。

映画の大ヒットを受け、全20話でドラマシリーズがディズニー・チャンネルでも制作されました。

kazu

以上、クランコ版「じゃじゃ馬馴らし」についてでした。
ありがとうございました。

バレエ作品に関してはこちらにまとめていますので、ぜひご覧ください。