『ウエスト・サイド物語』(1961年版)の内容は?
特徴は?
見どころは?
ミュージカル映画に革命を起こした『ウエスト・サイド物語』。
1961年、ブロードウェイで上演されていた舞台版(1957年初演)が映画化されました。同年、日本でも公開されています。
現在も舞台版は世界各地で上演され続けています。
2021年、スティーヴン・スピルバーグ監督、ジャスティン・ペック振付で再映画化されています。
『ウエスト・サイド・ストーリー』という題名で呼ばれることが多いですが、1961年公開時の邦題は『ウエスト・サイド物語』でした。
元劇団四季、テーマパークダンサー。社割を使えたときは週2回 映画館へ行っていました。最近はネットで映画をたっぷり。
今回は『ウエスト・サイド物語』(1961年版)のあらすじ・感想・特徴・舞台版との違いについてです。
※ 3分ほどで読み終わります。
ミュージカル界に革命
『ウエスト・サイド物語』はミュージカルの概念を大きく変えた作品です。
それまでのミュージカルは幸せな世界を描くことが多く、ハッピーエンドで終わることが当たり前でした。
それに対し、『ウエスト・サイド物語』は人種問題を中心とした社会問題を真っ向から描きます。
およそ 9年の構想をへて、1957年、ブロードウェイで舞台版の上演がはじまります。
作曲:レナード・バーンスタイン
演出・振付:ジェローム・ロビンズ
作詞:スティーヴン・ソンドハイム
台本:アーサー・ロレンツ
当時の一流クリエイターにより制作されました。演出のロビンズが、ロレンツとバーンスタインに提案する形ではじまります。
もともとは『イースト・サイド・ストーリー』というユダヤ系移民と、ポーランド系の話としてスタートした企画。回り回って現在のかたちに落ち着きます。
新たなミュージカル時代
この時代、映画制作会社「MGM」の作るハッピーな大作ミュージカル映画に陰りが見えていました。
当時流行していたのはエルヴィス・プレスリーやジェームズ・ディーンといった不良文化。
大衆の興味は夢の世界よりも、リアリティのある世界に移っていきます。
1959年、ミュージカルでありながら社会問題を扱い、ニューヨークのリアリティある街並みでも撮影された『ウエスト・サイド物語』が大ヒットします。
あらすじ
1950年代後半、ニューヨークのマンハッタン。低所得者や移民であふれる町、ウエストサイド。
ポーランド系住人のギャング「ジェット団」と、プエルトリコ系移民のギャング「シャーク団」がいつものように抗争を続けている。貧困に苦しみ、差別を受け、社会への怒りを感じる若者たちが互いに怒りをぶつけあう。
「ジェット団」のリーダーであるリフが、「シャーク団」のリーダーであるベルナルドに対決を申し込む。場所は中立地帯であるダンスパーティー会場。
リフは元リーダーであり親友でもあるトニーを一緒に連れていく。トニーはギャングから足を洗い、ドラックストアで誠実に働いている。そんなトニーがダンス会場で、美しい女の子マリアと運命的な出会いをする。
しかし、マリアは「シャーク団」のリーダーであるベルナルドの妹だった。
禁じられた恋でありながら、お互いを必要とするふたり。
ふたりの純愛が加速すればするほど、周りを不幸へと追い詰めてしまうのであった……。
制作・キャスト
監督:ロバート・ワイズ
監督・振付:ジェローム・ロビンズ
脚本:アーネスト・レーマン
作曲:レナード・バーンスタイン
作詞:スティーヴン・ソンドハイム
監督は 2人クレジットされています。
当初、舞台版の演出をしたジェローム・ロビンズが監督をしていましたが途中で降板し、ロバート・ワイズが監督を引き継ぎます。
1941年:「市民ケーン」
1958年:「私は死にたくない」
1961年:「ウエスト・サイド物語」
1965年:「サウンド・オブ・ミュージック」
1966年:「砲艦サンパブロ」
ジェローム・ロビンズは振付にこだわるあまり撮影が順調に進まず、経営陣から反発をくらいます。
撮影前に振付は終わっていたため、振付師はジェローム・ロビンズです。
マリア:ナタリー・ウッド(歌:マーニ・ニクソン)
トニー:リチャード・ベイマー(歌:ジミー・ブライアント)
ベルナルド:ジョージ・チャキリス
アニタ:リタ・モレノ(一部歌:ベティ・ワンド)
リフ:ラス・タンブリン(一部歌:タッカー・スミス)
アイス:タッカー・スミス
チノ:ホセ・デ・ヴェガ
ドク:ネッド・グラス
シュランク警部補:サイモン・オークランド
クラプキ巡査:ウィリアム・ブラムリー
日本ではジョージ・チャキリスとリタ・モレノの人気が爆発しました。もともとジョージ・チャキリスはリフ役として舞台版に出演していました。敵役であるリフを熟知した状態でベルナルドを演じています。
僕はダンサー目線で見てしまいますが、リフ役のラス・タンブリンがすごく好きです。
撮影はニューヨークで実際におこなわれました。ちなみに撮影地は現在、バレエやオペラの劇場が集まるリンカーンセンターへと変化を遂げています。
アカデミー賞 10部門受賞
1962年のアカデミー賞で 11部門ノミネート、10部門受賞という快挙を成し遂げています。
作品賞:ロバート・ワイズ
監督賞:ジェローム・ロビンズ、ロバート・ワイズ
助演男優賞:ジョージ・チャキリス
助演女優賞:リタ・モレノ
ミュージカル映画音楽賞:ソウル・チャップリン、ジョニー・グリーン、シド・ラミン、アーウィン・コスタル
録音賞:ゴードン・E・ソーヤー、フレッド・ハインズ
美術賞(カラー):ボリス・レヴェン、ヴィクター・A・ガンジェリン
撮影賞(カラー):ダニエル・L・ファップ
衣裳デザイン賞(カラー):アイリーン・シャラフ
編集賞:トーマス・スタンフォード
途中で降板させられたジェローム・ロビンズ。授賞式で監督 2人は目も合わすことがありませんでした。
現代版『ロミオとジュリエット』
『ウエスト・サイド物語』は、シェイクスピアの四大悲劇のうちのひとつである『ロミオとジュリエット』を下敷きにしています。
作品内には移民問題だけでなく、ユダヤ人の問題も取り上げられています。トニーが働くお店の店主であるドク。かつてはヨーロッパに住み、ホロコーストを乗り越えニューヨークに移り住んだという設定。しかも、奥さんや子供はすでに亡くなっている様子。そんなドクもニューヨークで差別にあっています。
また、男に憧れる女の子エニーボディーズも登場します。男の子のように髪をスッキリしたキャラクターです。そんなエニーボディーズも自分の居場所を求め苦しんでいます。
登場する警察はユダヤ系やポーランド系と思われます。差別を受けていたものの生まれのせいすることなく定職についています。
そしてプエルトリコ系とポーランド系の争い。低所得者同士で戦ってしまうという悲しい現実を映します。
『ロミオとジュリエット』との最大の違いは結末です。
悲劇だけでは終わりません。未来をより意識させ、かつ希望を残すものになっています。
ジェローム・ロビンズ
途中で監督を降板したジェローム・ロビンズ。
ロビンズは舞台の演出や振付で活躍したあと、ニューヨーク・シティ・バレエ団の常任振付家となり、芸術監督に就任します。
ニューヨーク・シティ・バレエ団には『ウエスト・サイド・ストーリー』の踊りだけを抽出した『ウエスト・サイド・ストーリー組曲』(1995年 5月18日 初演)という作品があります。
バレエでありながら、バレエダンサーが歌うとても珍しい作品です。
この中で語られているように、日常の動作がダンスシーンにかなり取り入れられています。
戦いのシーンをダンスの振付にしてしまうと、迫力が薄くなったり、嘘っぽくなってしまいます。
それを避けるように、ロビンズの振付では実際のケンカで使うような動作が積極的に取り入れています。
日常のシーンからダンスシーンにスーッと移行し、そしてまた日常のシーンに戻っていきます。
ロビンズは舞台版の演出・振付だけでなく、1961年 映画版の振付・一部の監督を務めています。
特徴:中距離から作品を見つめる
通常、舞台上にいる出演者は常に観客に対してパフォーマンスをします。
ロビンズ作品では、舞台上の役者が舞台でパフォーマンスする別の役者を観察するシーンがよく登場します。すると、観客が出演者の一員になったような感覚になります。
映画版にも取り入れられていて、中距離にいる出演者の視点と重なるようなショットが多く、観客が出演者と一緒に見ている感覚になります。
細部へのこだわり
また、ロビンズは細部にこだわる演出家としても有名でした。
撮影前、映画特有の大画面(パナビジョン70mm方式)を効果的に使うために空間の研究をしています。
そして、舞台にはアンサンブルといって脇役よりも下の位置にいる役者がいます。通常、この役者たちには役名がなく、「住民1」といったような名前が与えられています。
そんな中、ウエストサイドストーリーでは通常アンサンブルと言われる役者全員に名前が与えられています。舞台に出演している人すべてに役名を与え、細かい設定まで考えさせています。
ロビンズの伝説的な話があります。
ミュージカル『アニー』。プロデューサーのマイク・ニコルズがあるシーンで困っていました。
コメディシーンに関わらず、どうしても笑うことができない。
そこでロビンズにアドバイスを求めます。
シーンを見たロビンズが一言。
「セットの後ろにある白いタオルを黄色に変えたらいい」
実際、そのシーンで笑いが取れるようになった、とマイク・ニコルズが語っています。
ただし、映画の撮影ではマイナスに働いてしまいます。こだわりすぎるあまり撮影が延び、予算も膨らみます。
そして、制作陣から反感を買ってしまいます。
キャストとの関係は良好のまま、制作陣とだけ折り合いがつかず降板させられます。
プロデューサーであり『サウンド・オブ・ミュージック』でミュージカル映画を撮影したロバート・ワイズと交代することになりました。
とはいえ、振付やステージング自体は降板前に終えていたので、1961年映画版は全編ロビンズの振付です。
舞台版の演出・振付から関わり、思い入れの強いロビンズ。『ロミオとジュリエット』を下敷きにしているものの、ロビンズの衝動が作品に反映されています。
その作品から外され、ロバート・ワイズに引き継がれます。この怒りは理解できるものだと思います。
赤狩り(マッカーシー時代)の影響
1950年代のアメリカは赤狩り(マッカーシー・アメリカ)の影響下にあり、多くの芸術家が政治的な圧力や疑惑に晒されました。ジェローム・ロビンズもまた、ユダヤ人としての背景や進歩的な考え方から、当時の社会情勢の中で厳しい批判や監視の対象となりました。しかし、彼はこの困難な時代の中でも創作活動を続け、ダンスとドラマの融合を追求することで、自由な芸術表現の可能性を切り開きました。ロビンズの作品もまた、直接的な物語性を抑え、内面的な感情や社会の不安、恐れといったテーマを暗示する形で表現されるようになりました。
「共産主義者を見つけ出し社会から排除していく」という運動。「赤」は共産主義を象徴する色に由来。
「ウエスト・サイド・ストーリー」でトニー賞を受賞したジェローム・ロビンズ。経歴や振付の特徴、人物像などを紹介しています。
評価
Yahoo!映画より
全体的に高い評価となっています。
ジャズダンスの発展に
このサイトではジャズダンスを紹介していますが、『ウエスト・サイド物語』はダンスの世界にも大きな変化をもたらしました。
ミュージカル映画ではタップダンスが必ず入っていましたが、『ウエスト・サイド物語』は全編ジャズダンス、バレエで構成されています。
なにより音楽とダンスが楽しく情熱的なので、重いテーマも受け入れることができます。
舞台版との違い
映画版と舞台版は、人物のキャラクター設定、気持ちの流れがかなり違います。映画版はよりドラマチックな流れになるよう脚本が再構築されています。
その一番の要因が曲順です。
『マリア』までは舞台版、映画版ともに同じ流れで進みますが、ここから流れが変わります。曲順が入れ替わったり、短くしたり、歌う人物を入れ替えたり、細かい部分まで手が加えられています。
舞台版、1961年 映画版、2022年 映画版、曲順の違いをまとめました。
映画には映画の良さがあり、舞台には舞台の良さがあるのでぜひ両方見てみてください。
サントラ版です。
『オーヴァーチュア(プロローグ)』
歌はないですが、若者たちの持つ熱さをすさまじく感じるシーンです。
『アメリカ』( America )
プエルトリコ系のシャーク団がアメリカの理想と現実を歌います。韻を踏みながらの応酬がとてもおもしろいナンバーです。
リタ・モレノの魅力的な足が話題になりました。
映画版では男女が混ざっていますが、舞台版では女性だけのシーンとなっています。
映画版では女性陣が男性陣に皮肉を言われますが、舞台版ではアニタが男性陣の部分を歌います。また歌詞も違います。
『トゥナイト』( Tonight )
絶対に欠かせないメインテーマです。
実はマリアを演じるナタリー・ウッドと、トニーを演じるリチャード・ベイマーの歌は吹き替えです。
ナタリー・ウッドは撮影後に勝手に吹き替えされると聞き、大激怒しました。
ちなみにリフ、アニタの歌も一部吹き替えとなっています。
『クラプキ巡査どの』( Gee, Officer Krupke )
ジェット団が自分たちの不遇さをおもしろおかしく歌うナンバーです。
軽快かつコメディなシーンです。ミュージカル特有のリズムが使われているので、聞き心地の良いサウンドです。
歌詞の中には薬中や、ドラッグなど、現在の放送コードに引っかかるようなワードがたくさん入っています。攻めている作品ということがわかるシーンです。
映画版ではリフ役のラス・タンブリンがメインパートを務め、魅力的です。
実は舞台版、リフがこのナンバーに登場することはありません。
『素敵な気持ち』( I Feel Pretty )
こちらのページで紹介しています。
原曲のウエストサイドストーリーの「I Feel Pretty」と、TLCの「Unpretty」もしっかり解説します。人に合わせることに疲れた人に聞いてもらいたい一曲です。gleeシーズン2の18話「born this way」より。
『トゥナイト五重唄』
カウントを取るのが激ムズの名曲です。
メインテーマの『トゥナイト』はこの『トゥナイト五重唄』の一節でした。
『トゥナイト』のフレーズの良さから、曲がつくられることになりました。
『クール』
ジェット団のアイスが「 Beat it!!(うせろ)」と一言。
舞台版ではリフが中心となって歌いますが、映画版には登場せずアイスがメインを歌います。
クールなナンバーで現代にも多大なる影響を与えています。
マイケル・ジャクソン『 今夜はビート・イット( Beat It )』『 Bad 』と『 cool 』
マイケル・ジャクソンの『今夜はビート・イット( Beat It )』『Bad』は、先ほどのセリフからわかるように『ウエスト・サイド物語』に影響を受けています。
Music Video はストリートギャングの抗争で、『ウエスト・サイド物語』そのものです。
『エンドタイトル』
最後のエンドタイトルにも注目です。一番最後に道路標識が出てきます。
そこに書かれるのは「 No Left Turn(左折禁止)」「 No Right Turn(右折禁止)」。
そして最後に「 Keep Right(右側通行を守れ)」と書かれます。right にはもうひとつ「正しい」という意味があります。ダブルミーニングとして、最後のメッセージを受け取ることができます。
オープニングのシーン同様、グラフィックデザイナー、ソール・バスのセンスが光ります。
DVD
2,800円ほど。現在も販売が続いています。
2021年、スピルバーグ監督のもと再映画化されることになった『ウエスト・サイド・ストーリー』。なぜ今、再映画化されるのか。
5,000円ほど。
いまだに『ウエスト・サイド物語』の社会問題が解決されていないということだと思います。
今回は、『ウエスト・サイド物語』についてでした。 ぜひぜひチェックしてみてください。
ありがとうございました。
映画、テレビ、海外ドラマ、アニメ、本などエンターテイメントで感動したものを紹介します。



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上巻の内容・感想:女性の自立と教育.jpg)



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