ミュージカル『ウィキッド』あらすじ&徹底解説|映画・オズの魔法使いとの本当の関係
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この記事からわかる3つのポイント
・『ウィキッド』のあらすじと『オズの魔法使い』との関係
・名曲『For Good』の歌詞翻訳を含めた制作秘話を深掘り
・映画版や関連作品を含めた「完全ガイド」

~『オズの魔法使い』の裏側にある、もう一つの真実~

ミュージカル『ウィキッド』は、2003年の初演から20年以上にわたりブロードウェイを席巻してきた名作です。原作小説『ウィキッド – 誰も知らない、もう一つのオズの物語』に基づき、映画『オズの魔法使い』の裏側に迫るスピンオフ作品として、深いテーマと豊かな舞台美術、圧倒的な歌声で観客を魅了しています。

「西の悪い魔女」は本当に悪だったのか? 映画『オズの魔法使い』の前日譚として、知られざる二人の魔女の友情と数奇な運命を描き出します。

本記事では、あらすじや登場人物の解説にとどまらず、作品を彩る「楽曲の魅力」や、制作現場の裏側がわかる「リハーサル秘話」まで徹底解説。これから観劇する方はもちろん、映画版を楽しみにしている方にとっても、作品の解像度がぐっと上がる内容をお届けします。

記事を書いているのは……

元劇団四季、テーマパークダンサー。映画に夢中だった頃は、毎週映画館に行っていました。

※ 5分ほどで読み終わります。

映画『オズの魔法使い』|伝説のミュージカル映画

映画『オズの魔法使い』は、すべてのミュージカルのはじまりとも言える、アメリカで絶大な人気を誇る名作です。1939年に公開されたこの映画は、ジュディ・ガーランドが主演を務め、MGMスタジオのミュージカル映画の大傑作として今なお多くの人々に愛されています。

あらすじ|ライマン・フランク・ボーム原作

アメリカのカンザス州に住む少女ドロシーは、嵐に家ごと巻き込まれ、不思議なオズの世界にたどり着きます。その時ドロシーの家が、西の悪い魔女の妹を踏みつけ、命を奪ってしまいます。この出来事をきっかけに、ドロシーは西の魔女から深い恨みを買ってしまいます。元の世界へ帰るため、ドロシーは伝説の「オズの魔法使い」に会いに行く旅に出ます。その道中で仲間たちと出会い、力を合わせて西の魔女との対決に挑みます。「仲間と共に悪を退治する」という意味では、日本における『桃太郎』のような冒険物語と似ています。

名曲『Over the Rainbow』

映画には、ミュージカル界を代表する名曲『Over the Rainbow(虹の彼方に)』が登場します。この曲は、夢や希望、そして未来への憧れを象徴するスタンダードナンバーとして、多くの世代に愛され続けています。

作品の特徴

『オズの魔法使い』の魅力は、シンプルで明快な善悪の対決です。西の悪い魔女と、南の善い魔女という対比が、物語に力強いドラマを与えています。もちろん、映画には謎や整合性の取れないシーンも散見されますが、それもまたこの作品の不思議な魅力のひとつです。

特に、アメリカの子供たちにとって、夢の世界と現実の境界を越える魔法のような体験となっています。そういえば、海外ドラマ『フルハウス』の中で次女ステファニーが何度もこの映画を観ている描写がありました。

​『オズの魔法使い』は比較的歴史の浅いアメリカ文化において特別な位置を占め、神話的作品と評価されています。1900年にライマン・フランク・ボームによって執筆された『オズの魔法使い』は、カンザス州など具体的なアメリカの地名が登場し、アメリカ初のおとぎ話とも言われます。

2,500円ほど。

ミュージカル『ウィキッド』

『オズの魔法使い』から 65年ほどの時が過ぎ、アメリカでスピンオフ・ミュージカルが発表されます。

ミュージカル『ウィキッド』は、2003年10月30日にブロードウェイのガーシュウィン劇場で初演されました。

  • 作詞・作曲:​スティーヴン・シュワルツ
  • 脚本:​ウィニー・ホルツマン
  • 原作:​グレゴリー・マグワイアの小説『ウィキッド – 誰も知らない、もう一つのオズの物語』(1995年出版)

作詞・作曲:スティーヴン・シュワルツ

スティーヴン・シュワルツは、ブロードウェイを代表する作詞家・作曲家です。『ゴッド・スペル』(1971年)、『ピピン』(1972年)など数々のヒット作を手掛け、深い人間性、感情を描き出すことで知られています。ディズニー作品にも貢献しており、以下の作品で作詞を担当しています。

『ポカホンタス』(1995年):​アラン・メンケンと共に音楽を手掛け、アカデミー賞®の主題歌賞を受賞しました。
『ノートルダムの鐘』(1996年):​同じくアラン・メンケンと組み、壮大な音楽を作り上げました。
『魔法にかけられて』(2007年):​アラン・メンケンと共に楽曲を提供し、現代のニューヨークとおとぎ話の世界を融合させた作品です。

受賞歴

ミュージカル『ウィキッド』は、第58回トニー賞(2004年)において、以下の9部門で10のノミネート、うち3つ受賞しています。

・ミュージカル作品賞
・ミュージカル脚本賞
・編曲賞
・オリジナル楽曲賞
・振付賞
〇ミュージカル衣装デザイン賞(受賞)​:​スーザン・ヒルファティ
・ミュージカル照明デザイン賞
〇ミュージカル装置デザイン賞(受賞)​:​ユージーン・リー
〇ミュージカル主演女優賞(受賞):​イディナ・メンゼル(エルファバ役)
・ミュージカル主演女優賞:​クリスティン・チェノウェス(グリンダ役)

『Defying Gravity(自由を求めて)』 – ミュージカル『ウィキッド』の魂を揺さぶる一曲

ミュージカル『ウィキッド』を象徴するナンバー「Defying Gravity(邦題:自由を求めて)」は、観る者の心を一瞬で捉える大迫力の楽曲です。生でこの曲を聴くと、重力すらも打ち破るエネルギーが伝わってきます。初演の主演キャストであるイディナ・メンゼルとクリスティン・チェノウェスが、劇場で披露するその熱いパフォーマンスは、映像ですらまさに魔法の瞬間です。

第1幕のクライマックスで流れるこの楽曲は、エルファバが自ら反逆者として立ち上がる決意のシーンです。挑戦する人々への力強い応援歌とも解釈できます。元々ミュージカル界でその存在感を発揮していたイディナ・メンゼルとクリスティン・チェノウェスは、『ウィキッド』を通じてアメリカを代表するミュージカル俳優となりました。イディナ・メンゼルは『アナと雪の女王』でエルサの声を担当したことでも知られています。

あらすじ(ネタバレあり)

登場人物

  • エルファバ・スロップ:緑色の肌の少女。強大な魔力を持つ。後の西の悪い魔女。エルファバ (Elphaba) の名前は『オズの魔法使い』の作者ライマン・フランク・ボーム (Lyman Frank Baum) の頭文字L、F、Baから。『オズの魔法使い』において名前はついていなかった。
  • グリンダ・アップランド:学園の人気者の美しいブロンドの少女。後の南の善い魔女。
  • オズ:エメラルドシティの支配者。最強の魔法使い。
  • フィエロ・ティゲラ:ウィンキー王国出身の王子。ハンサムなプレイボーイ。

『ウィキッド』は、ドロシーがオズの世界にたどり着くずっと前から始まります。物語は、全身が緑色に輝く赤ちゃんエルファバの誕生から幕を開けます。生まれつき強力な魔力を持っていたエルファバは、その特異な存在感ゆえに、オズの世界でも浮いた存在として育ちます。厳しい環境の中で育まれた彼女は、後に名門大学シズに進学し、そこで運命の転換点が訪れます。

大学では、一際目立つ華やかなグリンダと出会います。ブロンドの髪をなびかせ、明るく活発なグリンダは、エルファバとは正反対のキャラクター。また、イケメンでクオーターバックタイプのフィエロも登場し、明るい学園生活の中で、エルファバは自分自身の内面の葛藤と向き合います。

当初、寮で同室となったエルファバとグリンダは、お互いに反発し、意地悪をし合うなど対立がありました。しかし、次第に2人はその違いを認め合い、友情と共に成長していきます。自己肯定感の低かったエルファバも、グリンダとの交流を通じて自分の魔力に誇りを持つようになっていきます。

そんな中、エルファバはオズの世界でささやかれる不穏な噂に直面します。オズでは、動物たちが人間のように言葉を話し生活しているものの、自由を奪われているというのです。

統治者であるオズの魔法使いから魔力を認められたエルファバは、華やかなエメラルドシティに招待されます。その際、恋に傷ついていたグリンダを一緒に誘います。2人はそのきらびやかな都に心を奪われるものの、やがてオズの魔法使いが隠し持つ悪事(市民を操るための策略)に気づいてしまいます。

オズから「右腕になれ」と迫られたエルファバですが、その不正義に立ち向かい拒絶します。しかし、強大な権力には抗い切れず、エメラルドシティを追われ、西の地へと逃亡します。結果、オズの策略によってエルファバは「悪い魔女」のレッテルを貼られてしまいます。一方、残されたグリンダは、オズの広告塔(プロパガンダ)として生きる道を選ばざるを得ませんでした。

『ウィキッド』の物語を彩る主要な楽曲

『ウィキッド』には、「Defying Gravity」など、物語の進行上欠かせない、魅力的なナンバーが数多くあります。

・「No One Mourns the Wicked」(誰も悪女を悼まない)

物語冒頭を飾る、エメラルドシティ市民による合唱曲。西の魔女の死を喜び、その後の物語全体に流れる「悪い魔女」を印象づけます。

・「Popular」(ポピュラー)

学園の人気者グリンダが、エルファバを「人気者(ポピュラー)」にしようと奮闘する、コミカルでキャッチーなナンバー。二人の友情が始まり、初めて心が通い合う重要なシーンです。

・「Dancing Through Life」(人生を踊り明かす)

フィエロが歌う、刹那的で享楽的な学園生活を象徴する曲。この曲を通じて、エルファバとグリンダ、そしてフィエロの関係が複雑に絡み合い始めます。

『For Good(永遠)』 – 2人の別れと新たな旅立ちの決意

『For Good』は、互いに異なる道を歩むことになった2人が、最後に下す決断を象徴する感動のナンバーです。この曲は、物語を共に歩んできた観客すら、2人の心と一体となり、その切なさと希望に胸を打たれる一曲となっています。

「For Good」というタイトルは、直訳すると「永遠」を意味し、長年続いていた習慣や関係が終わり、新たな未来へと踏み出す決意を表しています。初演時のリハーサル映像では、深い思いを込めた制作過程を見ることができます。

意訳

ウィニー・ホルツマン(脚本): 楽曲こそが『ウィキッド』の心であり魂です。音楽の魅力を引き出し、キャラクターたちが思わず歌い始めてしまうように物語を導くことが、脚本家である私の役割です。
マーク・プラット(プロデューサー): 『ウィキッド』の楽曲はストレートに身体に入ってきます。言葉以上に、音楽そのものが心の奥に染み込み、観客の胸に深く突き刺さるのです。

スティーブン・シュワルツ(作詞・作曲): 『ウィキッド』は『オズの魔法使い』の知られざる物語であり、グリンダとエルファバの関係を描いた作品です。物語冒頭、しぶしぶ同室になった「最悪のルームメイト」として二人は出会います。
イディナ・メンゼル(エルファバ役): 友情の物語です。お互いの違いを学ぶことで、二人はより良い人間へと成長していきます。

スティーブン・シュワルツ: 難しいのは、オズという「ファンタジーな世界観」でありながら、音楽はその世界観に寄せることなく、ポップスのように親しみやすいものにする、という点です。

スティーブン・オレムス(音楽監督・指揮):今のフレーズいいね。
スティーブン・シュワルツ:じゃ、そうしよう。
スティーブン・オレムス:さっきのは「くどい」気がしたから。

スティーブン・オレムス: 『For Good』は感情が最高潮に高まるシーンです。二人が直接顔を合わせて別れを告げる最後の時間で、エルファバがドロシーに溶かされる直前です。人生で経験する「別れ」を自分に重ねて共感できる曲になっています。二人の歌声によって物語の感情すべてがここに終着し、観客の皆さんもこの宝物のような時間を共有できると思います。

イディナ・メンゼル: 息が続かないわ。どこで息を吸ったらいい?
スティーブン・シュワルツ: ここで息継ぎをするといいよ。……そこだ!

イディナ・メンゼル: みんなはエルファバを邪悪な魔女と思っているけど、本当はただの女の子で、理想を持っていて、希望を持っていて……。誤解されています。

歌詞を紹介します。

I’ve heard it said
That people come into our lives for a reason
Bringing something we must learn
And we are led
To those who help us most to grow
If we let them and we help them in return
二人で
過ごした時間は私の
大事な宝物
あなたは
大きな力で
私の心開いた
Well, I don’t know if I believe that’s true
But I know I’m who I am today
Because I knew you
大空へはばたいた
あなたの勇気を
忘れない
Like a comet pulled from orbit
As it passes a sun
Like a stream that meets a boulder
Halfway through the wood
小船をいざなう
風のように
花の種 運ぶ
鳥のように
Who can say if I’ve been changed for the better?
And because I knew you
I have been changed for good
私を変えてくれたの
忘れない
あなたのこと

オリジナル版|劇団四季版より

1,500円ほど。

『ウィキッド』が伝える3つの普遍的なテーマ

なぜ『ウィキッド』はこれほどまでに国境と言葉を超えて感動を与えるのか。その理由は、舞台裏に隠されたメッセージにあります。

1. 善悪の相対性:レッテルと真実

世の中の「悪」が、権力者や世論によって作られたレッテルに過ぎないことが多いと教えてくれます。物語は、善と悪の境界線が非常に曖昧で、物事を一面だけで判断することの危うさを訴えかけます。

2. 真の友情の定義:違いを認め合う成長

肌の色も性格も正反対のエルファバとグリンダ。二人が反発し合いながらも互いの価値観を認め合い、友情によってより良い自分へと成長していきます。彼女たちの関係は、多くの人に訪れうる「人生を変える出会い」と重なります。

3. プロパガンダと権力:メディア操作への警鐘

オズの魔法使いが市民を操るために「悪い魔女」という嘘の情報を流したように、作品にはプロパガンダ(情報操作)の恐ろしさが描かれています。これは現代社会における情報やメディアのあり方について深く考えさせるメッセージになっています。

統一された世界観

『ウィキッド』は、その圧倒的な世界観が舞台全体に息づいている点で、観る者を一瞬で魅了します。

ジャズダンスを基本としたダイナミックな踊りと、コンテンポラリーダンスの繊細な表現が融合し、印象に残るパフォーマンスを生み出します。記憶に刻まれる名曲を次々と生み出し、ミュージカル界の金字塔として地位を確固たるものにしています。グリンダとエルファバが一緒にエメラルドシティに行く『One Short Day』を紹介します。

また、目を引くのはポスターの大胆で鮮やかなデザイン。下記小説の表紙にもなっています。舞台装置から衣装に至るまで、統一感のある美しい世界が構築されています。特に、エルファバの緑色の肌と凛としたたたずまいは、品格と力強さを象徴しています。

1,100円ほどです。

小説版『ウィキッド:誰も知らない、もう一つのオズの物語』

1995年にグレゴリー・マグワイアが発表したこのファンタジー小説は、『オズの魔法使い』のスピンオフ作品です。2025年時点で、8巻まで出版されています。内容は非常にダークで、政治、思想、人権、テロ問題まで幅広いテーマが語られます。性描写や生々しい表現、分厚い原作は、一筋縄では理解できない複雑さを持っています。ミュージカル版はそのコンセプトを引き継ぎながらも、論理的に再構成され、観客に分かりやすい形に変換されています。原作小説はミュージカルとの共通点が少ないので、ミュージカルを先に見てしまうとかなりの違和感を感じると思います。

1,100円ほどです。

日本では第1巻のみ翻訳されています。以下、8巻です。

  1. 『ウィキッド――誰も知らない、もう一つのオズの物語』 (Wicked: The Life and Times of the Wicked Witch of the West, 1995年)
  2. 『魔女の息子』 (Son of a Witch, 2005年)
  3. 『人間社会のライオン』 (A Lion Among Men, 2008年)
  4. 『オズから離れて』 (Out of Oz, 2011年)
  5. 『マラコールの花嫁たち』 (The Brides of Maracoor, 2021年)
  6. 『マラコールの神託』 (The Oracle of Maracoor, 2022年)
  7. 『マラコールの魔女』 (The Witch of Maracoor, 2023年)
  8. 『エルフィー:ウィキッドな子供時代』 (Elphie: A Wicked Childhood, 2024年)

これらの作品は、原作『オズの魔法使い』の世界を再解釈し、「西の悪い魔女」として知られるエルファバの視点から物語を描いています。オズの国は、現実社会の問題を反映した複雑な世界として描かれます。​例えば、言葉を話す動物たちが社会から排斥される様子は、マイノリティへの差別や迫害を寓話的に表現しています。 ​また、エルファバの緑色の肌は、孤独と疎外感を強調しています。​割り切れない善と悪、アイデンティティ、社会的偏見などのテーマを深く掘り下げています。

​ミュージカル版は、エルファバとグリンダの友情に焦点を当て、より明るいトーンで物語が展開されています。​一方、小説版はダークで政治的なニュアンスが強く、エルファバの内面やオズの国の社会構造が詳細に描かれています。

実はこの作品、ゲイコミュニティーから絶大な人気を誇っていたり、マイノリティにかなり人気があります。その理由は、楽しいミュージカル版でさえ、政治的な風刺がいろいろなところに隠れているところにあります。2024年に映画化されたことにより、様々な考察が活発に行われています。

善悪に分けられないストーリー

『ウィキッド』は、単純に「善」と「悪」の対比ではなく、エルファバとグリンダという正反対のキャラクターが、互いに衝突しながらも徐々に理解し合う過程を丁寧に描いています。エルファバは自由のために反逆する一方、権力に身を委ねるグリンダ。その対比は、人種差別、権力闘争、恋愛など現代社会の多様な問題も含んでいて、観るたびに「そんな自分勝手な……。でも、そうなるよな……。」と、深い味わいがあります。ミュージカルならではのコメディタッチな切り口でシリアスなテーマも軽妙に描かれているため、海外版では観客が笑い出す場面も多いのが特徴です。日本版はシリアスなシーンが目立つ傾向にあるものの、それぞれの国の文化に合わせた表現が魅力となっています。金髪の白人であるグリンダですが、ブロードウェイでは黒人系であるブリトニー・ジョンソンも演じています。

時系列と物語の広がり

『ウィキッド』は、西の悪い魔女エルファバと南の善い魔女グリンダの学生時代から物語が始まります。2幕構成の中で、光に溢れる青春の日々(第1幕)と、大人の世界に潜む闇の世界(第2幕)の両面が描かれます。第1幕は、まるでハリーポッターのような魔法学校での青春ストーリー、第2幕では、映画『オズの魔法使い』へと繋がる展開が加わります。エルファバ、グリンダのみならず、オズの魔法使い、かかし男、弱虫ライオン、ブリキ男、エルファバの妹ネッサローズといったキャラクターたちの裏側の物語も重層的に描かれるため、『オズの魔法使い』のシンプルなストーリーが深い意味を帯び、見るたびに新たな発見があります。

『オズの魔法使い』と『ウィキッド』の時間軸

ネッサローズ

本作の中で重要な人物が、エルファバの妹ネッサローズです。『オズの魔法使い』でドロシーが家で踏みつぶしてしまう東の魔女です。ブロードウェイ版だけでなく、劇団四季版でも芸達者な役者が配役されている印象です。

車いすから始まり、純粋な女の子から凛とした女性に成長し、さらに嫉妬に狂っていきます。ドロシーの赤い靴を元々所持していた人物。そしてエルファバにとっても大事な赤い靴です。(原作では、シルバーの靴です)

毎回心を揺さぶられてしまいます。

ブロードウェイ観劇の思い出

『ウィキッド』は、その魅力と圧倒的人気のため、ブロードウェイではチケットを手に入れるのが困難な作品です。ブロードウェイ独自のチケット販売システムは、劇場の空席が埋まるよう設計されており、当日キャンセルや日程変更も日本よりずっと柔軟に対応されています。

このシステムの中心となるのが「TKTS(チケッツ)」です。TKTSは、ブロードウェイの当日余剰となったチケットを集約し、通常の半額ほどで販売しています。ただし、空席は偶然に発生するため、運が良ければセンター前方で観劇できるチャンスもあります。しかし、『ウィキッド』のような人気作品では、TKTSでチケットが見つかることは稀です。

僕自身、初めて1人でニューヨークのブロードウェイに行った際、日本からチケットは手に入りませんでした。そこで、劇場窓口に直接赴いたところ、なんとかチケットをゲットすることができました。しかもその日の公演は、カーテンコールで「500万人目のお客さん」がいました。イギリス旅行がプレゼントされるというサプライズもあり、今も鮮明に記憶に残っています。

テレビカメラが後方からスーッと通路を通り、僕の斜め前にいた人にフォーカス。その人が舞台上に呼ばれ、イギリス旅行とイギリス版『ウィキッド』をプレゼントされていました。ふだんなら「いいなー」と思うところですが、その日の公演の満足度が高すぎて、それがどうでもよくなるくらい公演に感動していました。

そして、すぐに劇団四季のことを調べます。ちょうどオーディションが近くにありました。劇団四季では志望動機として、400字詰めの作文を書く必要があります。このときの出来事を熱く込めて書きました。そしてこの年のオーディションに合格しました。

残念ながら、劇団四季に入団した後、しばらく『ウィキッド』の公演に出演する機会はありませんでしたが、その熱い思いは今も色褪せることがありません。

関連作品 – 『オズの魔法使い』から広がる無限の世界

『オズの魔法使い』は、その原作から多彩な派生作品が生み出され、世界中で愛される文化現象となっています。原作はライマン・フランク・ボームによって1900年に発表され、その後、著者自身による続編を含む、公認・非公認合わせて100作品以上の小説が刊行されています。これらの小説は、オズの世界の多層的な背景やキャラクターの深みを描き出し、今なお新たな解釈を生んでいます。

さらに、オズの魔法使いは映像化、舞台化、そしてミュージカル化され、世界各国で多様な形で楽しまれています。特に、マイケル・ジャクソンが「かかし男」を演じ、ダイアナ・ロスが主演した異色の作品『ウィズ』は、ミュージカルファンならずとも注目すべき作品です。

現在、アマゾン・プライムで配信されており、(配信終了時期は未定ですが)その魅力に触れる絶好の機会となっています。

『ウィキッド』は、日本でいうと『オズの魔法使い』の二次創作というのが正しい見方です。その二次創作を元に舞台化されています。そして、この舞台版が映画化されました。そのため、2025年に公開された『ウィキッド』の原作はどれかと問われるとなかなか回答が難しいところです。

映画版

待望の新作が、シンシア・エリヴォ、アリアナ・グランデ主演で映画化されました。10年以上映画化が噂され続けた末、2024年に前編、2025年に後編が公開されます。

舞台版の映画化で、舞台版の制作陣が大きく関わっています。そのため、映像版は単なる舞台の再現にとどまらず、物語のスケールと奥行きが大幅に拡張されています。上演時間は舞台版の約2倍に設定されており、原作小説のエッセンスも新たに盛り込まれているため、ストーリーはより深く、豊かになっています。

たとえば、エルファバのシズ大学入学の経緯も変化しています。舞台版では、妹ネッサローズのお目付け役であるものの、大学への進学が決まっていた設定でした。映画版では、「入学の予定はなく」妹に付き添っただけという設定です。エルファバが学内で魔法を使ったことで、学長にスカウトされるドラマチックな展開になっています。

このように、舞台版をベースにしつつも映画版では設定が「微妙に」 変わることで、キャラクターの背景や動機が再解釈され、物語全体の重みが増しています。

特に素晴らしいのが、舞台では実現し得ない壮大なセットです。まるで街を丸ごと一つ作り上げたかのような、圧倒的なスケールと美術には説得力があります。中でも紹介したい「Dancing Through Life」。

ちなみにイディナ・メンゼルとクリスティン・チェノウェスもカメオ出演し、歌声を披露しています。

amazonプライムで配信中です。

3,300円ほど。

日本版

日本でも『ウィキッド』は独自の進化を遂げています。

日本初演は2006年にUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)で行われ、ストーリーを短縮した35分の特別版が2011年まで上演されました。USJにはかつて『オズの魔法使い』をテーマにしたエリア(ランド・オブ・オズ)が存在したこともあり、上演が実現しました。グリンダを日本人、エルファバを外国人シンガーが演じるという、USJ版ならではのユニークなキャスティングも当時話題となりました。

さらに、2007年からは劇団四季によるフルバージョンが定期的に上演され、2023年に久しぶりの再演が実現しました。キャッチコピーは「世界を敵にしてたった一人に愛されるか。たった一人を失って世界に愛されるか」。初演は沼尾みゆきさんと、濱田めぐみさんです。「For Good」のリハーサル映像です。

初演版のCDが引き続き販売されています。オススメです。

『オズの魔法使い』およびその派生作品は、壮大な世界観と多様な表現方法があり、新たな感動と発見があります。

『ウィキッド』は何度も観るたびに新しい発見のある、普遍的なテーマを持つ作品です。僕自身、この作品の深さに魅了され続けてきました。

ブロードウェイや劇団四季で観劇を予定されている方、あるいは映画版を楽しみにされている方へ。この記事を通して、作品への愛着がさらに深まったなら幸いです。ぜひ、劇場やスクリーンで、生の迫力と感動を体験してください。

エンタメ作品に関してはこちらで紹介しています。ぜひご覧ください。

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