- 小説『ライオンハート』が持つ、時間と空間を超えた独特の世界観
- 名作誕生の裏側にある「幻の初期構想」と作品の魅力
- 作中に登場するミレーの絵画やケイト・ブッシュの音楽との奇妙なつながり
恩田陸さんの歴史・ミステリー・ラブロマンスの小説『ライオンハート』。人間が持っている感覚を見事に言語化している小説です。
鳥肌が立つほどゾクッとしました。
どのジャンルかわからない、かなり不思議な小説です。
読めばきっと不思議な感覚に陥る本作について、作品の基本情報から、思わずハッとさせられた見どころまでをまとめて紹介します。
元劇団四季、テーマパークダンサー。社割を使えたときは週2回 映画館へ行っていました。最近はネットで映画をたっぷり。
※ 3分ほどで読み終わります。
小説『ライオンハート』
あらすじ
「私たちは、いつでも、どこででも出会う」――。
17世紀のロンドン、19世紀のシェルブール、20世紀のパナマ。
異なる時代、異なる場所で、何度も何度も生まれ変わりを繰り返しながら出会いと別れを重ねる男・エドワードと女・エリザベス。二人の時間は決して同じようには流れない。ある時は男が年上であり、ある時は女が年上。同じ時代に生を受けながら、一度も出会うことなく生涯を終えることすらある。
一方、現代のイギリスでは、一人の老大学教授が忽然と姿を消す事件が発生。この失踪事件の謎を追うプロセスと、時空を超えた二人の魂の軌跡が、美しい5つの絵画をフックに交錯していく歴史ロマン・ミステリー。
1,000円前後。
実はもともと全く違う話だった
恩田陸さんはインタビューで、この作品の初期構想について語っています。最初は「絵画にまつわる5つの短編」という枠組みだけが決まっていて、内容は「1枚の絵をめぐる、お宝を奪い合うルパン三世のような泥棒たちのコメディ」にする予定だったそうです。
それが執筆を進めるうち、生まれ変わりのラブストーリーに変化しました。
恩田作品における「初期の隠れた名作」という立ち位置
本作が単行本として出た2000年前後は、恩田陸さんが『夜のピクニック』(2004年)で直木賞候補・本屋大賞を受賞して爆発的な国民的人気を得る「直前」の時期にあたります。
初期の名作『三月は深き紅の淵に』などに見られる「ノスタルジックで、どこか境界線が曖昧なファンタジー・ミステリー」という初期の恩田陸節が濃縮された一冊と言われています。
「時は内側にある」思い出せない夢の感覚
小説を読み進める上で、どうしても外せない2つのキーフレーズがあります。
・魂は全てを凌駕する
・時は内側にある
読み進めるとこの2つのフレーズの意味がわかった気になります。ですが、わかっていた気になっていただけで、次の瞬間わからなくなってしまう不思議な表現です。
起きた瞬間、夢を覚えていたはずなのに、ちょっと時間がたつと記憶からスッポリ抜けてしまう……。この感覚に似ています。
5つの短編を繋ぐミステリー
『ライオンハート』は5本の短編と、それをつなぐひとつのストーリーで語られます。
老大学教授が忽然と姿を消してしまいます。この老教授の失踪事件が5つの短編をつなぎます。
5つの短編の表紙には、ストーリーに関連する絵画が登場します。
先ほど紹介した2つのキーフレーズ「魂は全てを凌駕する。時は内側にある」。そして、「ユニコーンと顔に布をかけた女性の胸に剣が突き刺さっている紋章」がところどころで登場します。
この謎の文章と、紋章の意味。読み進めていくことで解明されていきます。
生まれ変わる2人
主人公のエドワードとエリザベスは生まれ変わりを繰り返します。生まれ変わるたびにふたりは出会い、離れていきます。
ふたりは同じ時間を進んでいないので、エドワードが年上の場合もあればエリザベスが年上のこともあります。
そして同じ時代にいても、ふたりが出会わず終わることもあります。
時間は4次元だったのか
混乱するのが、5本の短編の時系列がバラバラな点です。これが読んでいて一番混乱する部分であり、この小説が特別な理由です。
リチャードとエリザベスの生まれ変わりは1600年ごろから始まります。
17世紀のロンドン、19世紀のシェルブール、20世紀のパナマ、現代のフロリダと場所を移動します。
現代に近づいたからといって記憶が蓄積されるわけではありません。生まれ変わった後よりも、生まれ変わる前の方に重要な記憶が残っている場合もあります。
この小説を読んでいて「時間って4次元なんだ……」と不思議な感想を持ちました。
「春」
最後に僕が一番好きだった章、「春」の紹介です。
章のはじめにミレーの風景画『春』が載っています。

この作品を読んでいたとき不思議な感覚に陥りました。
恩田さんの小説があとに書かれたはずなのに、この小説をもとにミレーの絵が書かれたような感覚に……。
ケイト・ブッシュのアルバムから着想
この『ライオンハート』は、イギリス出身のケイト・ブッシュが20歳のときに発表した「ライオンハート」というアルバムから着想を得ています。
実際の曲(原題:Oh England My Lionheart)はこちら。
なんか聞いたことのある特徴的な声……。
はるか昔のバラエティ番組、「恋のから騒ぎ」のテーマソングでした。
「ライオンハート」とは、イングランド王リチャード1世(1157年~1199年)のことで、勇猛さから獅子心王(Richard the Lionheart)と呼ばれていました。この歌は兵士たちを讃えるような内容といわれています。
ぜひ不思議な感覚を体験してみてください。
エンタメ作品に関してはこちらで紹介しています。ぜひご覧ください。




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