映画『キャッツ』主演のフランチェスカ・ヘイワードを解説するアイキャッチ画像。星空を背景にしたバレリーナのシルエットと、英国ロイヤル・バレエ団プリンシパルの静謐さと演劇的な美学を伝えるテキスト。
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この記事からわかる3つのポイント
  • 日本人の感性と深くシンクロする、キャリア初期から一貫した「演劇的センスと静謐さ」
  • 世界的な映像プロジェクトに抜擢されるスター性
  • 伝統の壁や小柄な体型を美学で調和させる、唯一無二の「存在感と気品」

英国ロイヤル・バレエ団の最高位プリンシパル、フランチェスカ・ヘイワード(Francesca Hayward)。

「フランキー」の愛称で世界中のファンから親しまれる彼女は、現代のバレエ界においてまばゆい輝きを放つダンサーの一人です。作品のドラマをダンスで表現する姿に、多くの観客が心を揺さぶられています。

今回は、フランチェスカ・ヘイワードのプロフィールの紹介、彼女の持つ表現力、特異性、そして日本人の感性に響く精神性について、その魅力を掘り下げます。

記事を書いているのは……

元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります。

※ 3分ほどで読み終わります。

フランチェスカ・ヘイワードのプロフィールと歩んだ軌跡

まずはプロフィールの紹介です。

  • 氏名:フランチェスカ・ヘイワード(Francesca Hayward)
  • 出生地:ケニア・ナイロビ
  • 主な経歴:英国ロイヤル・バレエ・スクールを経て、2010年に英国ロイヤル・バレエ団に入団。2016年に最高位プリンシパルに昇進。

VOGUE:フランチェスカ・ヘイワードが語る「5つの大切なもの」

世界的なプリンシパルとなった現在も、彼女の根底には、幼い頃に抱いたバレエへの純粋な憧れが息づいています。ファッション誌『VOGUE』のインタビュー企画において、彼女が語った「自身にとって大切なもの」のエピソードからは、その温かみのある素顔と思慮深い人柄が伝わってきます。

彼女の人柄がわかる内容です。全文翻訳しています。

3歳のとき、祖父母が私に『くるみ割り人形』のビデオを買ってくれました。おとぎ話なんて、よく考えるとかなり馬鹿げた、信じがたいストーリーですよね。妖精が奇妙なことをしているような。でも、言葉で説明するのは難しいけれど、とにかく自分もその世界に入り込みたいと強く思ったのです。(0:04-0:24)

これが私の練習用ポアント(トゥシューズ)です。毎日これを履いて過ごしています。とても痛くなることもありますが、これなしでは踊れません。(0:37-0:47)

ファンから手紙をいただくのが本当に大好きです。時には、文字を覚えたばかりの小さな女の子から届くこともあって、字がひっくり返っていたりして本当に可愛らしいんです。私が幼い頃に大きな憧れを抱いてバレエを始めたときと同じように、彼女たちも夢を持っているんだと感じられて、私にとって大きな意味があります。(1:12-1:30)

これが3歳のときに初めて観た『くるみ割り人形』のビデオです(レスリー・コリア、アンソニー・ダウエル主演)。表紙に写っている金平糖の精を踊っている女性に、昨年初めて私がその役を演じた際にコーチをしてもらいました。(1:52-2:05)

ハティは私の最初のぬいぐるみで、もう23〜24歳になります。どこへ行くにもスーツケースに入れて連れて行きます。(2:13-2:23)

大切な写真です。もし家が火事になっても持ち出したい宝物ですね。(2:57-3:04)

実際に舞台で『くるみ割り人形』のクララを演じているときは、夢のような瞬間です。20年前にリビングで踊っていたあの頃の自分を思い出します。(3:04-3:12)

本番前には、たいていのダンサーは少し不安を感じるものだと思います。でも、音楽が聞こえてくれば、何百万回も練習してきたことがわかります。そんなときの最善の対処法は、ただリラックスして、身を委ねることですね。(3:21-3:36)

ケニアからの移住:バレエとの運命的な出会い

  • 1992年
    7月4日、ケニアのナイロビで誕生(2歳の時にイギリスへ移住)
  • 1995年
    3歳でバレエを始める(地元のル・ロッシュ・スクール・オブ・ダンス)
  • 2003年
    11歳でロイヤル・バレエ・スクール(ロワースクール)に入学
  • 2010年
    怪我を乗り越え、ロイヤル・バレエ・スクールを卒業しロイヤル・バレエ団に入団
  • 2013年
    ファースト・アーティストに昇進
  • 2014年
    ソリストに昇進
  • 2015年
    ファースト・ソリストに昇進
  • 2016年
    最高位プリンシパルに昇進

フランチェスカ・ヘイワードはイギリス人の父親とケニア人の母親のもと、ケニアのナイロビで生まれました。2歳の時にイギリスのサセックスへ移住し、祖父母のもとで育ちます。3歳の時に祖父母からプレゼントされた『くるみ割り人形』のビデオに夢中になったことが、バレエの道を志すきっかけとなりました。

地元のバレエ教室で才能を見出され、名門の英国ロイヤル・バレエ・スクールへの入学を果たします。在学中からその卓越した表現力と音楽性は高く評価され、学校公演でも重要な役を任されます。

スクール最終学年の大切な時期に足の骨折という大きな怪我に見舞われ、ダンサーとしての晴れ舞台である卒業公演への出演を断念せざるを得なくなります。しかし、カンパニーは才能を確信していました。卒業舞台に出演できなかったにもかかわらず、2010年に正式に卒業し、同年にロイヤル・バレエ団へ入団を果たしました。

入団後は階級を順調に駆け上がり、6年後の2016年、当時23歳のときにカンパニーの最高位であるプリンシパルへと昇格を果たしました。

4人同時に最高位プリンシパルへ

フランチェスカ・ヘイワードを語る上で欠かせないのが、同じくプリンシパルの高田茜さんと、平野亮一さんです。アレクサンダー・キャンベル(Alexander Campbell)を含め、4人同時に最高位であるプリンシパルに昇進したのは、2016年の同じタイミングでした。

互いに切磋琢磨しながら、同じ時代にロイヤル・バレエ団の頂点へと上り詰めた彼らは頼もしい戦友と言えます。すでにアレクサンダー・キャンベルは引退しているものの、クラシック・バレエの伝統を背負うスターたちが、互いに尊敬し合いながら同じ舞台に立ち、歴史を作っていく姿は、ファンの間でも好意的に受け止められています。

類稀な演劇的センスと、日本人の心に響く「静謐さ」の美学

キャリアの初期から、フランチェスカ・ヘイワードは158cmの小柄な体型を活かし、俊敏な足さばきと音楽性を持ち、軽やかなダンサーとして評価されていました。

下記はプリンシパル4人による豪華な共演です。

一般的に欧米のバレエ団、たとえばドイツのシュツットガルト・バレエ団などでは、女性ダンサーに一定以上の身長を求める制限(例:165cm以上)があります。小柄なダンサーが海外の第一線で活躍するためには多くの障壁が存在します。その点、英国ロイヤル・バレエ団は伝統的に個人の芸術性や演劇性を重んじる傾向があり、比較的小柄なダンサーの活躍が目立つカンパニーです。

近年、クランコ振付『オネーギン』のタチアナ役など、深い表現が求められるドラマティック・バレエの主役を数多く重ねてきたことで、そのセンスを支えるテクニックが磨かれ円熟期を迎えています。ポワントでの正確なコントロールや、美しいポーズのラインの安定感は、ベテランの域に入ったことでさらに洗練されています。

そして何より、彼女の踊りにはどこか静けさが漂っています。技巧を派手に誇示することなく、無駄を削ぎ落とした引き算の美学のように感じます。

ロイヤル・バレエ団が伝統的に大切にしている抑制の美を深く体現する彼女の踊りには、ポーズとポーズの間に、まるで日本の侘び寂び(わびさび)に通じるような美しい余白が存在します。

静かに佇むだけで観客の涙を誘う静謐(せいひつ)さ。この内省的な美しさが、僕たち日本人の感性に響きやすいダンサーです。演劇性とテクニックの両方が求められる物語バレエにおいて、観客を物語へと引き込む特別な力を放ち続けています。

公私ともに絆を深めるパートナーの存在

下記は、『オネーギン』の映像で、セザール・コラレスとの舞台です。

今の充実した表現力を語る上で、同じくロイヤル・バレエ団のプリンシパルであり、私生活のパートナーでもあるセザール・コラレス(Cesar Corrales)の存在は欠かせません。2019年の『ロミオとジュリエット』での共演をきっかけに距離を縮めた二人は、2024年に婚約を経て、現在は正式に結婚しています。

この二人をめぐっては、日本のファンの間で記憶に残るエピソードがあります。2025年8月に日本で開催されたガラ公演『Ballet Supreme』の期間中、セザール・コラレスが本番中に負傷してしまうというアクシデントが起きました。、彼は急遽ロンドンへ帰国して治療せざるを得なくなります。

彼女はギリギリまで日本での出演を続けられないか検討を重ねましたが、最終的に「最善のパフォーマンスを届けること、そして今まさに医療チームのサポートを必要としている彼に寄り添うこと」を最優先し、直前での降板を決断、彼に付き添って帰国しました。

当時、日本の観客に向けて寄せられた彼女のメッセージには、日本で踊ることへの深い愛と、楽しみにしていたファンへの誠実な謝罪が綴られていました。

クラシックの壁を越える、唯一無二のノーブルな気品

伝統と様式美を厳格に重んじるクラシック・バレエの世界、特に『ジゼル』や『白鳥の湖』に代表される19世紀のロマンティック・バレエにおいて、黒人女性ダンサーが主役を務めることには、歴史的に見ても未だに高い壁が存在します。実はアジア人よりも肌の色を原因として壁があります。観客の先入観を含め、視覚的な違和感を持たれやすい厳しい現実のなかで、彼女の存在は特別です。

ケニア生まれのルーツを持つ彼女ですが、こうした人種の枠組みを越え、どこかオリエンタルで神秘的な、洗練された気品を持っています。古典の世界観に完璧に溶け込みながら、他の誰にも真似できない特別なオーラを放つ。この「違和感を美学でねじ伏せる調和力」こそが、彼女を観る理由です。

『くるみ割り人形』よりクララです。

映画版『ロミオとジュリエット』、単独主演という異例の抜擢

ロイヤル・バレエ団の通常の劇場公演では、演目ごとに多くの実力派ダンサーが日替わりで主役を分け合います。1回の公演で8組ほどの主演ペアが組まれることも珍しくありません。

カンパニーが総力を挙げて自主制作した映画版『ロミオとジュリエット(Romeo and Juliet: Beyond Words)』において、永遠に映像に残る「唯一のジュリエット」として白羽の矢が立ったのが彼女でした。

すでに廃盤となっています。

当時すでに最高位プリンシパルであった彼女ですが、この抜擢は劇場の舞台で主役を踊るのとは全く異なる意味を持ちます。映画のカメラに合わせた演技力と、スクリーン映えするスター性を併せ持つ人物として、彼女が選ばれました。

ちらの記事で映画版『ロミオとジュリエット』を紹介しています。ぜひご覧ください。

映像界をも魅了する、スクリーン映えする「圧倒的な華」

フランチェスカ・ヘイワードのもう一つの大きな魅力は華やかさとスター性です。

彼女に密着したBBCのドキュメンタリー番組のタイトルが『Francesca Hayward: Force of Nature(自然の力、圧倒的な存在の意)』と名付けられたように、彼女から放たれるオーラには、観る者を惹きつける力があります。普段の物静かで内省的なキャラクターとは裏腹に、スポットライトを浴びると、舞台のどこにいても目を引きます。

彼女はクラシック・バレエ界の枠を飛び出し、ハリウッド映画『キャッツ』のヴィクトリア役へ大抜擢されることになりました。

映画『キャッツ』の混沌と、そのなかで放ったヴィクトリアの輝き

2,000円ほど。

2019年に公開されたハリウッド映画『Cats』は、世界的な批評や興行の面において厳しい評価を受け、大失敗と酷評される結果となりました。映画自体の成否にかかわらず、彼女のダンサーとしての魅力がハリウッドのスクリーンで証明されたことは、彼女のキャリアにおいて重要な足跡となっています。

イギリスの有力紙『The Guardian』のインタビューにおいて、彼女は自身のアイデンティティについて次のように静かに語っています。

「ハリウッドでの経験は素晴らしい冒険でしたが、私の心は常にバレエの舞台にあります。私は映画スターになりたいわけではありません。ロイヤル・バレエ団という私の家に戻り、毎日バーに向き合い、技術を磨き、舞台で物語を伝えることこそが、私の本当の生きる場所なのです」

引用元:The Guardian インタビューより翻訳

この言葉からも、彼女がいかに地に足をつけ、内省的に自らの芸術と向き合っているかが伝わってきます。

ロイヤル・バレエ団は日本でも人気が高く、定期的に日本公演を行っています。タイミングが合えば、生の舞台を日本で目撃するチャンスは十分にあります。

またロイヤル・バレエ団からフランチェスカ・ヘイワード主演の『不思議の国のアリス』のDVDが発売されています。 

6,000円ほど。

このようには映像作品の収録も行われると予想できるので、気軽に観られる機会も増えていくと信じています。

バレエ作品に関してはこちらにまとめています。ぜひご覧ください。

バレエがもっと身近になる鑑賞ガイド|劇場選びから物語の深読み解説まで