バレエ『ジゼル』あらすじ・基本情報解説記事のサムネイル画像。左側の黒い背景には白いチュチュを翻して幻想的に踊るジゼルの写真、右側の白い背景には「はじめてのバレエ鑑賞ガイド バレエ『ジゼル』 基本情報・あらすじ・見どころ 美しく恐ろしいウィリ伝説の背景」という案内テキストが明朝体で配置されています。

『ジゼル』は19世紀の初演以来ずっと演じ続けられている「知っていて損なし」の定番作品で、日本でも根強い人気があります。

物語には、結婚前に亡くなった娘たち(精霊ウィリ)が支配する深い森が登場し、精霊の世界を幻想的に描き出します。

今回は、『ジゼル』の作品解説です。初めての方でもこれだけ知っていれば楽しめる基礎知識やあらすじ、世界観の背景を分かりやすく解説します。

記事を書いているのは……

元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります。

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基本情報

『ジゼル』は、美しくも哀しい音楽、その芸術性と演劇性の高さから、チャイコフスキー三大バレエ(『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』)に匹敵する人気を誇り、世界中のバレエ団で頻繁に上演されています。

幻想的な白いロマンティック・チュチュ姿(薄いチュールを重ねたスカート:丈は膝下〜足首あたり)の精霊が登場するバレエです。精霊と聞くと、静かで儚いイメージに思えますが、驚くほど力強く攻撃的に踊ります。純白の群舞が整然と並ぶ美しさ。その裏に潜む怨念が観客を魅了します。

作品情報:『ジゼル』

仏題 Giselle, ou Les Wilis
初演 1841年6月28日
パリ・オペラ座バレエ団
振付 ジャン・コラーリ、ジュール・ペロー
※ペローは主にジゼル役の振付を担当
音楽 アドルフ・アダン
※第1幕の一部にブルグミュラーの曲を使用
台本 テオフィル・ゴーティエ、ヴェルノイ・ド・サン=ジョルジュ
初演主演 カルロッタ・グリジ(ジゼル)
リュシアン・プティパ(アルブレヒト)
構成 全2幕
上演時間 約1時間40分(休憩除く)

ロマンティック・バレエ

『ジゼル』は、19世紀前半のロマンティック・バレエを代表する作品です。

Giselle / Ballet Guide

ロマンティック・バレエ(Romantic Ballet)とは

19世紀前半(おもに1830〜1850年代)に流行したバレエの様式。「日常」と「夢の世界」を行き来しながら、手の届かない女性像(妖精・精霊・亡霊)を描きます。パリ・オペラ座を中心に発展し、その後ロンドンやサンクトペテルブルクへ広がりました。

主要な代表作

  • 1832 『ラ・シルフィード』 振付:フィリッポ・タリオーニ ロマン派の幕開けとなった記念碑的作品
  • 1841 『ジゼル』 振付:コラーリ/ペロー | 音楽:アダン 特に第2幕の精霊たちの世界がこの様式の典型とされる傑作
  • 1844 『エスメラルダ』 振付:ペロー ロマン派の持つドラマ性をより強調したドラマチックな舞台
  • 1845 『パ・ド・カトル』 振付:ペロー 当時のロマン派を代表する四大バレエダンサーによる奇跡の競演

第1幕では明るい現世(農村)、第2幕では神秘的な異界(夜の森)が描かれます。この現実世界と幻想世界の対比こそがロマンティック・バレエの型であり、同時代の『ラ・シルフィード』と並んで『ジゼル』はその典型例となりました。

トウ・シューズ

1832年『ラ・シルフィード』で、マリー・タリオーニが見せた軽やかなつま先の動きと、ふわりと霧のように揺れるロマンティック・チュチュは、舞台上に「重力を忘れる」視覚を生み、いわゆるロマンティック・バレエの象徴となります。ここから、妖精や精霊といった「この世ならぬ存在」を主役に据える美学が確立していきました。

この浮遊感を支えたのが、「トウ・シューズ(=ポイント・シューズ/仏語:ポワント)」です。つま先側の硬いボックス(箱型)が指先を包み、足裏の芯材(シャンク)が甲を支える構造です。これらが、つま先立ちを可能にします。

トウ・シューズは誰でもすぐに履けるものではありません。開始の目安はしばしば「12歳以降」とされますが、年齢だけでなく、足首の可動域や足のアライメント(姿勢)、体幹の安定性、日頃のレッスン量などの条件がそろって初めて先生から許可されます。

トウ・シューズと身体づくりが噛み合うと、観客には舞台上のダンサーが「人ならざる存在」に見えてきます。その錯覚を支えるのがロマンティック・チュチュと繊細なトウ・シューズです。パリ・オペラ座バレエ団も「第2幕のロマンティック・チュチュとポワントが精霊の不思議な雰囲気を本質的に生み出す」と説明しています。

さらに、足音を消す工夫も現実に引き戻さないための重要なポイントです。というのも普段トウ・シューズは舞台上で乾いた「カンッ!!」という音が響くことがあります。トウ・シューズを柔らかくする加工を行い、舞台の床に当たる音をできるだけ抑えるダンサーもいるほどです。

主な登場人物

主役のジゼルとアルブレヒトには高度な技術と豊かな演技力が求められ、歴代の名だたるバレエダンサーが挑んできた作品です。

主な登場人物

ジゼル 村娘。体が弱く純真で、踊ることが何より好き。アルブレヒトと身分を越えた恋に落ちるが、第1幕の最後に命を落としウィリ(精霊)となる。
アルブレヒト シレジア公爵の青年貴族。婚約者がいながら身分を偽り「ロイス」と名乗る。ジゼルと恋に落ち、軽い遊び心から始めた偽りが悲劇を招く。
ヒラリオン 村の狩人(森番)の青年。ジゼルに長く恋慕しているが報われない。ジゼルを守りたい一心でアルブレヒトの素性を暴露する。ウィリの犠牲になる哀れな男。
バチルド アルブレヒトの許嫁(婚約者)である公爵令嬢。狩りの途中に村を訪れ、ジゼルに婚約者のアルブレヒトを紹介する。身分差と恋の残酷さを象徴する存在。
ベルタ ジゼルの母親。娘の心臓を案じ、踊りすぎないよう気を配る。ジゼルにウィリ伝説を語って戒める。夫(ジゼルの父)は登場せず。
ミルタ ウィリたちの女王。夜の森を支配する冷厳な精霊で、男性への恨みから情け容赦なく踊り殺す。冷たい美しさを持ち、その心は氷のように無慈悲。

あらすじ(全2幕)

中世ドイツのライン川近くとされる村。第1幕は牧歌的な農村の広場が舞台で、日の光あふれる快活な収穫祭が開かれています。

第1幕:村の娘の悲劇

ぶどうの収穫祭でにぎわう田舎の村。病弱だが踊り好きな美しい村娘ジゼルは、恋人のアルブレヒトと幸せに過ごしています。ただしアルブレヒトは身分を隠して「ロイス」という偽名を使っています。実は近くの領主であるシレジア公爵アルブレヒト本人でした。彼には婚約者のバチルド姫がおり、身分違いの恋を楽しんでいたのです。

下記は、アリーナ・コジョカルのジゼルです。

ジゼルに想いを寄せる森番ヒラリオンは、アルブレヒトの正体に勘付きます。そして、村を訪れたバチルド姫を含め村人たちが集まる前で、ヒラリオンがアルブレヒトの身分を暴露します。貴族であることを否定できなくなったアルブレヒト。真実を知ったジゼルは心神喪失に陥り、狂乱の末に息絶えてしまいます。

【独り言】

幕が閉まった直後、拍手に応えて「カーテンコール」が起こることがあります。とはいっても、通常の華やかな挨拶ではありません。幕が閉じた時と同じ「全員が絶望して凍りついたポーズ(フリーズ)」のまま再度幕が開き、そのまままた静かに閉じるという演出です。個人的には「ダンサーたち大変だな……」という感情が勝ってしまい少し苦手な演出です。

第2幕:精霊たちの森と赦し

真夜中の深い森の中。人里離れた場所にジゼルの墓がひっそりと建てられています。深夜になると精霊ウィリが現れます。ウィリとは結婚を目前にして命を落とした花嫁たちの亡霊で、女王ミルタが支配します。強い未練から成仏できずに夜な夜な墓場をさまよっています。生前に果たせなかった踊りの喜びを味わうために、若い男性を見つけては誘惑し、明け方まで踊らせて命を奪います。

墓参りに来たヒラリオンは、ウィリたちに捕らえられ命を落としてしまいます。

次に現れたのはアルブレヒトです。彼もまたウィリたちに取り囲まれ、夜明けまで容赦なく踊り続けることを強いられます。アルブレヒトが力尽きそうになったとき、亡霊となったジゼルが現れ、必死に彼をかばいます。ジゼルの愛は死を超えても純真です。

下記は、当たり役として知られたアレッサンドラ・フェリ(アメリカン・バレエ・シアター)、マニュエル・ルグリ(パリ・オペラ座バレエ団)です。

やがて遠くで朝を告げる鐘が鳴ると、復讐に燃えるウィリたちも力を失い森の闇へ消えていきます。ミルタたちが去るとジゼルも静かに成仏し、墓前には命拾いしたアルブレヒトだけが残されます。深い悔恨と愛惜の念を胸に、ひとり夜明けの森に立ち尽くすのでした。

ウィリ伝説の解釈と背景

「ウィリ(Wili)」は元々中央ヨーロッパやスラヴ圏の伝承に登場する女性の亡霊のことで、生前に結婚できずに死んだ花嫁たちの霊魂を指します。

台本を書いたテオフィル・ゴーティエは、ドイツの詩人ハインリヒ・ハイネの著書『ドイツ論(精霊物語)』の中で語られていた「無慈悲にワルツを踊るウィリたち」の伝説から着想を得て、台本を生み出しました。劇中でジゼルの母ベルタが語るように、ウィリたちは夜な夜な墓場に集い、生前の恨みから森に迷い込んだ若い男性を見つけては夜明けまで踊らせ殺してしまいます。

踊り続けること自体、ウィリたちが生涯で満たされなかった肉体的欲望のメタファー(暗喩)とも解釈されます。こうした伝説上の女性たちはフランス語で「精霊」と呼ばれますが、その所業はまるで妖怪や雪女のように恐ろしく、男性にとっては脅威です。

森の奥深くにウィリたちの墓がある設定も、中世ヨーロッパで異端者や自殺者が共同墓地に葬られず人里離れた森に埋められた史実と結びついています。『ジゼル』の物語は、このウィリ伝説に典型的なロマン主義の美学(現実と異界、生と死の対比)を融合させ、人間の愛と赦しを描いています。

第2幕:バレエブラン

第2幕は、白いチュチュに身を包んだウィリたちの群舞が最大の見せどころです。月光の下、一糸乱れぬ隊列で繰り広げる精霊たちの踊りは幻想そのもの。「バレエ・ブラン」の名にふさわしい純白の美しさと統制の取れた動きと照明の力で世界に入り込んでしまいます。

バレエ・ブラン(白のバレエ):白いチュチュを纏った精霊たちの群舞による幻想的な場面を指します。 『ジゼル』第2幕のように、純白の美しさと統制された動きで「この世ならぬ存在」の世界を幻想的に描き出します。

中でも有名なのが、ウィリたちが長いチュチュの裾をふわりと翻しながら連続でアラベスクを行う動きです。まるで幽霊が宙を浮遊しているかのような錯覚すら起こさせます。観劇後、小さなバレエダンサーたちがよくマネをしているのを見かけるくらい印象に残ります。

これに対しミルタは強靭なテクニックを要する難役です。ミルタは豪快な大跳躍(グラン・ジュテ)を次々と披露し、素早い動きで森を駆け巡ります。激しい振付にもかかわらず、常に冷淡で威厳ある表情です。この「激情を内に秘めた静」と「踊りの動的な激しさ」の両立がミルタ役の醍醐味であり、見応えとなっています。

下記はパリ・オペラ座バレエ団より、ミルタ役はマリ=アニエス・ジロです。

下記は、英国ロイヤルバレエ団のリハーサル映像です。

やがて夜明けの鐘の音とともにウィリたちが去り、ジゼルとアルブレヒトが別れる瞬間、再び静かな愛のテーマが流れます。ジゼルがアルブレヒトにそっと寄り添い、消えゆく姿……。アルブレヒトが独り残され絶望するラストの余韻まで含め、第2幕は音楽・舞踊・ドラマが一体となって観客の心を揺さぶります。

オススメDVD

『ジゼル』はDVD化も多くオススメがたくさんあります。

英国ロイヤル・バレエ団

まずは英国ロイヤル・バレエ団より。アリーナ・コジョカルとヨハン・コボー主演です。アリーナ・コジョカルがあまりにハマっています。僕も生で観たことありますが、いつも素晴らしいです。

中古になりますがオススメです。

パリ・オペラ座バレエ団

次はパリ・オペラ座バレエ団より、レティシア・プジョルとニコラ・ル・リッシュ主演です。ニコラ・ル・リッシュの演技がとくにオススメです。

9,000円ほど。

ボリショイ・バレエ団

最後はボリショイ・バレエ団より、スヴェトラーナ・ルンキナ、ドミトリー・グダノフ主演です。ボリショイ・バレエ団の持つ、重々しい雰囲気はやはり素晴らしいです。

7,000円ほど。

今回は、『ジゼル』についてでした。ご覧いただき、ありがとうございました。

▶︎ さらに深堀りした解説はこちら

バレエ『ジゼル』深掘り考察記事のサムネイル画像。左側には、暗闇の中で立ち込める靄に包まれ、薄いベールを顔にかけながら、足首丈のふわりと透けるロマンチック・チュチュを翻して美しくアラベスクのポーズをとるジゼルの写真が配置されています。右側の薄いピンクがかった白い背景には、明朝体で「180年以上の歴史の裏側 バレエ『ジゼル』 あらすじの、その先へ 【徹底考察】役柄別の解釈 改訂の歴史」というテキストが並んでいます。

バレエ作品に関してはこちらにまとめています。ぜひご覧ください。

バレエがもっと身近になる鑑賞ガイド|劇場選びから物語の深読み解説まで