jazz

「ジゼル」はどんなストーリー?
初心者でも楽しめる?
見どころは?

バレエ作品の中でも最高難度の演技が必要とされるジゼル。演じるバレエダンサーの人生観が問われます。

バレエダンサーが命をかけて演じるジゼルだからこそ、素晴らしい舞台に出会える確率の高い作品です。

記事を書いているのは…

元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります。

kazu

今回は「ジゼル」の作品解説です。

※3分ほどで読み終わる記事です。

トウシューズによる浮遊感

「ジゼル」の初演は1841年のフランスです。この頃、バレエダンサーの象徴であるトウシューズが生まれました。

「ジゼル」初演の10年ほど前(1832年)、妖精をテーマにした「ラ・シルフィード」が上演されます。つま先立ちのトウシューズ(重力を感じさせない)に加え、ロマンティック・チュチュ(薄いチュールが何枚も重ねられフワッと動く)によって妖精の浮遊感が表現されました。

この時代のバレエは「ロマンティック・バレエ」と呼ばれます。19世紀前半、絵画・文学・音楽などでロマン主義が流行し、バレエにも影響します。バレエにおけるロマン主義とは「現実世界と真逆にある幻想的な世界」のことです。そのため「ロマンティック・バレエ」では妖精や精霊が登場します。

ロマンティック・バレエの定型

第1幕:人間の世界
第2幕:妖精の世界

ロマンティック・バレエの中で最も重要な作品が「ジゼル」です。「ジゼル」によってトウシューズの技法が確立され、女性ダンサーにとって欠かせないアイテムになりました。

第2幕は「バレエ・ブラン(白のバレエ)」と呼ばれ、バレエのイメージそのものです。群舞が整然とした美しさを作り出します。

パリ・オペラ座バレエ団より、ミルタ役はマリ=アニエス・ジロ。観劇後、小さなバレエダンサーたちがこぞって真似をする有名なシーンです。第2幕はとても静かなイメージを持つかもしれないですが、精霊たちはアグレッシブに踊ります。

プティパ版が主流

初演時は 「ジゼル、またはウィリたち(Giselle, ou Les Wilis )」という題名でした。パリ・オペラ座バレエ団で大成功した「ジゼル」ですが、1868年を最後に上演されなくなります。

初演:1841年6月28日パリ・オペラ座バレエ団

フランス:パリ

振付:ジャン・コラリ、ジュール・ペロー(ジゼルの踊り)
音楽:アドルフ・アダン、ブルグミュラー(第1幕の一部)
台本:テオフィル・ゴーティエ、ヴェノワ・ド・サン・ジョルジュ

初演キャスト:カルロッタ・グリジがジゼル役、リュシアン・プティパ(マリウス・プティパの兄)がアルブレヒト役

全2幕:1時間40分(休憩のぞく)

現在上演されている「ジゼル」は初演版ではありません。代わりにマリウス・プティパが1884年、1887年ロシアのマリインスキー・バレエ団で手を加えます。このプティパ版が現在上演されている「ジゼル」の基本形です。このときレオン・ミンクスの曲も挿入され現在の形になりました。

ちなみに1924年、パリ・オペラ座バレエ団で「ジゼル」が復活上演されます。マリウス・プティパ版が逆輸入され大成功となりました。

台本

詩人、小説家、劇作家のテオフィル・ゴーティエが台本を書いています。ゴーティエは35年間、新聞にバレエ批評を投稿していたほどのバレエ通でした。このゴーティエの推していたダンサー、カルロッタ・グリジのために台本が書かれました。

ゴーティエはドイツの詩人ハイネが書いた『ドイツ論(邦題:精霊物語)』の中にあった「無慈悲にワルツを踊るウィリたち」の伝説を見つけます。そして台本作家のサン・ジョルジュとともに「ジゼル」を生み出しました。

ウィリ伝説

ウィリとは、結婚できずに死んでしまった女性の霊のことです。この世に心残りがあるため地縛霊ぢばくれいとして夜な夜な墓場をさまよいます。墓に訪れた若い男性を見つけては誘惑し、死ぬまで踊らせ続けます。

なぜダンスなのか…。ダンスは女性たちが満たされなかった肉体的な欲望の暗喩とも言われます。

「ジゼル」作品紹介

ぶどうの収穫期を迎えた中世ドイツの小さな村。

登場人物

ジゼル:病弱な村娘
アルブレヒト:シレジア伯爵。身分を隠すため村人に変装。(このときロイスと名乗るバージョンもある)
バチルド姫:公爵令嬢
ヒラリオン:森番の青年。ジゼルに思い焦がれる
ベルタ:ジゼルの母親。夫はいない
ミルタ:ウィリ(精霊)の女王

ストーリー

美しい村娘のジゼルが母と2人で暮らしている。ジゼルは最近やってきた青年ロイスと婚約関係にある。よそ者のロイスを快く思わない地元の青年ヒラリオン。ヒラリオンは密かにジゼルに思いを寄せている。ロイスは村人の格好をしているものの洗練された雰囲気があり、どこかおかしいと感じるヒラリオン。ロイスの住む小屋に侵入し探りを入れる。

公爵令嬢であるバチルド姫と貴族の一行が狩りにやってくる。バチルド姫とジゼルは2人とも婚約したばかりで、お互いに好感を持つ。ジゼルの家で休憩することになるバチルド姫一行。

広場では村人たちが楽しく過ごしている。そこにジゼルとロイスも加わる。一方ヒラリオンはロイスの正体が貴族であることをつかむ。広場にやってきたヒラリオンは勢いにまかせ角笛を吹く。村人たちが集まり、バチルド姫一行も外に出てくる。するとバチルド姫がロイスを見つけ親しげに話しかける。

実はバチルド姫の婚約者であるアルブレヒトと、ジゼルの婚約者であるロイスは同一人物だったのだ。身分の差からバチルド姫を選んでしまうアルブレヒト。その姿を見たジゼルは精神を壊してしまう。あまりにショックを受けたジゼルはみんなの前で絶命してしまう。秘密をバラしたヒラリオンを責めるアルブレヒト。ヒラリオンもアルブレヒトを責める。居場所がなくなったアルブレヒトは逃げていく。

物語後半(第2幕)

森の奥深くにつくられたジゼルの墓。真夜中、ヒラリオンがジゼルのためにやってくる。しかし、寒気を感じ逃げていく。するとウィリの女王であるミルタが音もなく現れ、ウィリたちが次々とやってくる。ジゼルの墓の前に集まり新しいウィリであるジゼルを迎え入れる。ミルタに命じられ激しく踊るジゼル。そして、人間の気配を感じウィリたちが身を隠す。

アルブレヒトがジゼルの墓にやってくる。ジゼルに祈りを捧げていると、そこにジゼルの気配を感じる。ジゼルの存在を確信するアルブレヒトはジゼルと一緒の時を過ごす。

逃げたはずのヒラリオンがウィリたちに捕まってしまう。ウィリたちによって踊り続けさせられるヒラリオン。命乞いをしてもウィリたちには聞いてもらえない。ヒラリオンは湖に突き落とされ死んでしまう。

そしてアルブレヒトがウィリたちに見つかってしまう。アルブレヒトを守るため、ミルタに逆らい一緒に踊るジゼル。しかし、アルブレヒトの体力がどんどんなくなっていく…。ダメかと思ったとき夜明けを告げる鐘が鳴る。鐘を聞いたウィリたちは墓に戻っていく。そしてアルブレヒトに別れを告げジゼルが墓に戻っていく。残されたアルブレヒトは深い後悔を抱えるのだった…。

オリジナルは結末が違った?

もともとの結末は「ジゼルがバチルド姫にアルブレヒトをたくす」というシーンが入っていました。ですが現在のバージョンでこの演出はカットされています。

このおかげでアルブレヒトのジゼルに対する思い、後悔が観客にしっかり印象づけられるように変化しています。

アルブレヒトの人物像

ジゼル同様、アルブレヒトにも高い演技力が要求されます。ダンサー独自の解釈がかなり許されていて、プレイボーイに演じる人もいれば、ジゼルを一途に愛する人もいます。

現代では実直なアルブレヒトを演じるダンサーが多いです。このほうが確かにドラマティックな展開になるな、と思います。

ジゼル

古典作品、とくに「眠れる森の美女」のオーロラ姫は年齢を重ねていくと踊りを封印してしまうダンサーも多いです。それに対しジゼルはキャリアの最後まで演じ続けるダンサーが多いです。

前半では初恋に喜ぶ可憐な乙女、クライマックスの半狂乱のシーン、後半では神聖な踊りへと変化していきます。役の振り幅が広いため、多くのダンサーがさまざまな挑戦をしています。

「ジゼル」は1時間40分とバレエとしてはコンパクトで、大規模な舞台ではありません。そのため体力配分をそこまですることなく踊り切ることができる、というのも大きな点かもしれません。

第2幕のパ・ド・ドゥ

とくに第2幕のパ・ド・ドゥは人気が高いです。本当に宙を浮いているように見えます。硬いトウシューズで踊ると「カンッ、カンッ」と音が鳴ってしまうので、できるだけトウシューズの音がしないように柔らかく加工するダンサーもいるくらいです。

スヴェトラーナ・ザハーロワ、ロベルト・ボッレによるパ・ド・ドゥ。アルブレヒトはシーン冒頭、十字架の近くにいます。十字架はウィリを遠ざける力があります。

ウィリたちのお墓は森の奥深くにあります。これはなにか事情があったと考えられます。中世の深い森は恐ろしい場所でした。社会からはぐれた人たちが追いやられた場所で、魔女や精霊といった怖い話もたくさんあります。

ジゼルが半狂乱になったとき、剣で自害してしまうバージョンがあります。この時代、自殺はタブーのため共同の墓地に入れられることはありません。そのためジゼルは森の奥深くに埋葬されました。アルブレヒトとヒラリオンは危険を知りながら森の奥深くにやってきます。それだけジゼルを愛していたことがわかるようになっています。

音楽

「ジゼル」はバレエ音楽に大きな変化を与えたともいわれます。作曲はアドルフ・アダンです。メロディの美しさだけでなく、登場人物にモチーフとなるテーマ曲を与えたり、ストーリーが盛り上がるように音楽が構成されています。

「ジゼル」前までのバレエ音楽は、踊りのための伴奏という位置づけでした。それに対し、アダンは物語性をプラスするような音楽をつくりました。

バージョン

「ジゼル」はほかの古典作品と大きく違う点があります。それはストーリーが固定されている点です。「白鳥の湖」は演出によって曲の順番を入れ替えていたり、結末がハッピーエンドもあればバッドエンドもあります。

「ジゼル」ではどのバージョンであっても物語に大きな違いはありません。筋書きがしっかりしている点が大きいと思います。

代表的なバージョン

1841年:ジャン・コラリ、ジュール・ペロ版(パリ・オペラ座バレエ団)
1887年:マリウス・プティパ版(マリインスキー・バレエ団)1884年版から改訂
1934年:ニコライ・セルゲイエフ版(ヴィック・ウェルズ・バレエ団:のちに英国ロイヤル・バレエ団に)
1982年:マッツ・エック版(クルベリ・バレエ団)
2016年:アクラム・カーン版(イングリッシュ・ナショナル・バレエ団)

マッツ・エック版、アクラム・カーン版は少し特殊で、かなり現代的な設定となっています。再解釈された「ジゼル」もオススメです。

オススメDVD

レティシア・プジョルとニコラ・ル・リッシュ主演、パリ・オペラ座バレエ団より。

3,000円ほど。ニコラ・ル・リッシュの演技がとくにオススメです。

kazu

今回は「ジゼル」のご紹介でした。 ぜひぜひチェックしてみてください。
ありがとうございました。