有吉佐和子の小説「悪女について」のブックレビューと歴代ドラマ比較を解説するアイキャッチ画像。27人の証言と悪女の嘘、悪女に見えない悪女の衝撃という文字が書かれています。
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この記事からわかる3つのポイント
  • 『悪女について』の作品概要と、ネタバレなしのわかりやすいあらすじ
  • 27人の証言から浮かび上がる、主人公・鈴木公子の「悪女に見えない怖さ」の考察
  • 歴代ドラマの紹介:影万里江さん版から2023年田中みな実さん版まで

ベストセラー作家・有吉佐和子が1978年に発表した小説『悪女について』。一人の女性の死を巡り、彼女に関わった27人の人々が交互にインタビューに応じるという画期的なミステリーの手法で、今なお色褪せない名作として読み継がれています。

本作をこれから読む方も、歴代のドラマ版を観た方も、鈴木公子という女性の底知れない魔性をぜひ一緒に紐解いていきましょう。

記事を書いているのは……

元劇団四季、テーマパークダンサー。社割を使えたときは週2回 映画館へ行っていました。最近はネットで映画をたっぷり。

※ 3分ほどで読み終わります。

有吉佐和子『悪女について』:作品概要

『悪女について』は、1978年(昭和53年)に新潮社から刊行され、現在は新潮文庫のロングセラーとして親しまれている長編小説です。

美貌と天才的な経済感覚で若くして実業家となった鈴木公子が、自身が所有するビルから謎の転落死を遂げるところから物語は始まります。彼女は一体何者だったのか、そして莫大な遺産はどこから生まれたのか。

本作の最大の特徴は、主人公である鈴木公子本人の視点(一人称)や、物語を俯瞰する客観的なナレーションが一切存在しない点にあります。ある記者によって、生前の公子と関わりのあった27人へのインタビューだけで全編構成されています。

主な登場人物

  • 鈴木公子(すずききみこ) / 富小路公子(とみのこうじきみこ):物語の中心人物。謎の転落死を遂げた美貌の女性実業家。本名を隠し、名門華族を思わせる「富小路」の姓を名乗って社交界や実業界を大いに翻弄した。
  • 27人の証言者たち:公子の実母、兄、最初の夫、愛人、お抱えの運転手、経済界の大物、あるいは彼女を憎むライバルなど。

【ネタバレなし】あらすじ

昭和50年代。若くして実業界で成功を収め、メディアからも注目されていた鈴木公子が、謎の転落死を遂げるという衝撃的な事件が発生します。警察は自殺と断定するものの、公子の周辺には数々の謎と莫大な遺産が残されていました。

生前の公子を知る人々へのインタビュー。公子の印象は一人ひとり全く異なる姿を見せ始めます。

「あの子は純粋で、誰も傷つけない天使のような子だった」
「あんな狡猾で、男を破滅させる恐ろしい悪女はいない」

証言が集まるにつれ見えてくるのは、公子に都合よく利用された人々の姿と、なぜか彼女の元で増える莫大な富。しかし、彼女が一体どんな手口で男たちを惑わし、どうやって資産を築き上げたのか、その決定的な真相は誰の口からも語られません。

果たして彼女は、人々を弄んだ悪女だったのか、それとも幻想だったのか。読者は27人の言葉の迷宮に迷い込むことになります。

1,000円前後です。

『悪女について』の魅力と考察

公子と関係のあった27人に、新聞記者がインタビューする形で話が進みます。1章につき1人が登場しリレーしていきます。

公子は直接登場することがなく、すべてインタビューの会話によってのみ間接的に登場します。新聞記者の存在は感じますが、あくまで聞き手に徹しています。

不思議なことに、話し手によって公子の印象がまったく違います。良い面を見ている人もいれば、悪い面を見ている人もいます。共通するのは、彼女がウソをつきまくっているという点。ウソを恨んでいる人もいれば、気にしていない人もいます。

一見、悪女と思えない悪女

今作は、悪女の持つ根源的な怖さを間接的に描いています。いかにも男を騙しそうな「わかりやすい悪女」ではありません。むしろ、全く悪女に見えない、どこまでも無垢でおしとやかに見えることこそが、この作品のおもしろさであり、恐怖を感じる部分です。

作中で公子について多くは語られませんが、証言者たちの言葉の行間から、彼女の異質な人物像がじわじわと浮き上がってきます。公子は、男性女性を問わず、関わるすべての人を魅了し、惑わしていきます。しかし、そこには計算高いわざとらしさは微塵もなく、誰の前でも驚くほど自然に、純真に振る舞います

なぜ、誰も彼女の嘘を見抜けなかったのか……。

それは、公子が「嘘に塗り固められた人生を、人前で器用に演じていた」わけではないからだと僕は解釈しました。彼女は、自分がついた嘘を、自分自身で100%本気で信じ切って生きているように思えて仕方ありません。

「演じている」人間には、どこかに綻びや計算が見えるものです。しかし、自分自身すら完璧に騙し、嘘を真実として生きている人間には、騙しているという罪悪感すらありません。そのあまりにも自然で無垢な佇まいこそが、周囲の人々を惹きつけ、底なしの沼に狂わせていく。

これこそが、有吉佐和子さんが描いた「一見、悪女と思えない悪女」の、最も底知れない怖さなのだと感じます。

けむに巻かれる

公子は裏で数々の汚いことに手を染めているのですが、その具体的な描写は小説の中に一切出てきません。すべて周りの証言からぼんやりと浮かび上がってくるだけです。

確実に悪いことをしている一方で、関わった人々に対して良いこともたくさんしています。そのため、読めば読むほど「彼女は本当に悪人なのか?」とますます混乱していきます。

章が変わるたびに全く新しい公子像が飛び出してくるため、最後まで先が読めません。そして、その混沌とした流れのまま、物語はスパッと幕を閉じます。いわゆるステレオタイプな悪女像とはまったく違う、誰も見たことがない「悪女」を有吉佐和子さんが見事に描き切っており、その圧倒的な意外性にただただ驚かされました。

悪い年寄りたち

一番の気づきは、年配の人でも悪いヤツがたくさんいることを思い知らされた点です。戦後の混沌とした時代をさまざまな視点で描いているので、荒れた時代に生きた人々がたくさん登場します。中でも印象に残るのが、悪いことをするヤツらです。

現代は年配世代の人達がすごくまともに見え、弱い存在に思えてしまいます。ですがそれは勘違いで、昔悪いことをした人もいて、品行方正とかけ離れた人がたくさんいることに改めて気づきます。この気づきは僕の中ですごく大きかったです。特に戦後の時代は今の若者世代よりもっともっと悪質なことをやっていたことが、この本を読むとありありとわかります。

面白いことに、物語の中には本物の富小路という旧家出身の親子が登場します。品があると思われがちな旧家の人たちも、自分のことを棚にあげて成金を批判します。

歴代ドラマの比較

『悪女について』は過去に何度も映像化されています。

  • 1978年:影万里江さん版
  • 2012年:沢尻エリカさん版
  • 2023年:田中みな実さん版

1978年版:影万里江

小説の発表とほぼ同時期にテレビドラマ化され、大ヒットを記録したのが影万里江(かげまりえ)さん主演のバージョンです。

影万里江さんは劇団四季の初期を支えた看板女優であり、演出家・浅利慶太氏の元妻でもあった人物です。彼女が持つ、舞台仕込みの圧倒的な存在感や気品、そしてどこか浮世離れした魔性は、まさに小説から抜け出てきたような鈴木公子そのものだったと言われます。個人的にすごく見たい作品なのですが、残念ながら再放送もDVD化もされておらず、今や観ることができない「幻の名作」です。

なお、2012年には沢尻エリカさん主演で2時間ドラマとしても映像化されています。

2023年版(田中みな実):時代設定の違和感

NHKで放送されたのが、田中みな実さん主演版です。もったいないと感じ、的はずれな部分が多い改変だったように思います。

まず、大きな違和感を抱いたのが時代設定の変更です。舞台を現代に移していました。しかし、先述した通り、公子が実業界で成り上がっていく背景には、情報が不透明で大金が動いた戦後のどさくさが大きく関わっています。昭和だからこそ成立したあのストーリーをそのまま現代に持ってきてしまっているので、どう考えても辻褄が合わなくなっています。

さらに、演技の方向性のセンスにも疑問が残ります。 おそらく小悪魔的なイメージでのキャスティングだったのだと思いますが、映像の中の公子はどこかわざとらしく見えてしまいました。有吉佐和子の書く公子は、決して人前でわざとらしく振る舞うような女性ではありません。誰の前でも驚くほど自然に振る舞う「自覚のない悪」であり、人を傷つけてもそれを気にすらしない(あるいは、自分がついた嘘を本気で信じ切っている)からこそ怖いのです。

時代背景が持つ泥臭さと、公子というキャラクターの不気味さが薄まってしまった点は惜しいと感じました。とはいえ、この田中みな実さん版を観たことで、逆説的に「原作小説の凄み」を再認識し、作品への理解がより一層深まったようにも思います。

1,000円前後です。

まとめ:今こそ読むべきミステリーの名作

発売から40年以上経過した今読んでも、人間の本質や欲望を鋭く突いたエンターテインメント作品です。

未読の方は、ぜひこの機会に鈴木公子という底なしの魅力を持つ「悪女」の迷宮に足を踏み入れてみてください。

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