佐藤亜紀著「スウィングしなけりゃ意味がない」あらすじ・解説・感想
jazz

『スウィングしなけりゃ意味がない』(2017年)の内容は?
どんな特徴がある?
どこで手に入る?

第ニ次世界大戦中のドイツ、ハンブルク。ナチスに反抗したドイツの若者たちがいた……。

スウィングダンスを調べようと思って出会ったのが小説『スウィングしなけりゃ意味がない』です。

当事者であるドイツ人が書いていない作品だからこその視点が入っている作品です。

記事を書いているのは…

元劇団四季、テーマパークダンサー。映画に夢中だった頃は、毎週映画館に行っていました。最近はネットで映画をたっぷり

kazu

今回は『スウィングしなけりゃ意味がない』(2017年)のあらすじ・感想、評価についてです。

※3分ほどで読み終わります。

スウィング・ダンスを調べたい

ダンスの歴史を調べていたとき、スウィング・ダンスについてどうしてもわからないことがありました。

現在踊られているスウィング・ダンスは社交ダンスの一種であり、高度なテクニックが必要です。

しかし、スウィング・ダンスが誕生した当初の1920年代、スウィング・ダンスを誰もが踊っていました。

高度なテクニックが必要なはずのスウィング・ダンスをなぜ全員が踊れるのだろうか……、と不思議に思っていました。

1993年公開の『スウィング・キッズ』からダンスシーンです。

そんなとき、佐藤亜紀さんの『スウィングしなけりゃ意味がない』という小説に出会いました。

本を読んでわかったことがあります。1940年代のスウィング・ダンスは現在のようなカタチではなく、スウィング・ジャズに合わせて踊るダンスということでした。

現在に例えると、クラブで音楽に合わせて身体を動かす、という感覚に近いです。当時はスウィング・ジャズに合わせてヘッドバンキングをしていた人もいたようです。

この本のおかげで当時のスウィング・ダンスについてかなり理解できました。

佐藤亜紀著『スウィングしなけりゃ意味がない』のあらすじ

スウィング・ユーゲント(ユーゲントは若さという意味)という、アメリカ文化にかぶれた金持ちの男の子たちが主人公です。

下の写真がスウィング・ユーゲントの少年です。この時代、ナチを支持する少年は短パンをはき、ボーイスカウトのような格好をしていました。

それと真逆のスタイルがこちら。

スウィング・ユーゲント

「The national WWⅡ museum」より

ナチスを軽蔑し、とことん反抗していく主人公たち。刑務所に入れられることもあれば、ユダヤ人の親戚が連れて行かれてしまうこともある。空爆されることもあれば、家族を失ってしまうこともある。

それでも主人公たちのそばには必ずジャズ音楽が。

戦争が激しくなると悲劇の色も濃くなるが、それでもたくましく反抗していく少年たち。ジャズのレコードをラジオからコピーして売ったり、ジャズミュージックのパーティーを開くこともある。生きていくためにはナチスに協力しなければいけないときもある。

そんなときも主人公たちはナチスをどう出し抜くか考える。そんなスウィング・ユーゲントたちの物語です。

『スウィングしなけりゃ意味がない』の評価

佐藤亜紀著「スウィングしなけりゃ意味がない」の評価、レビュー

hontoより

単行本で800円ほど。

『スウィングしなけりゃ意味がない』It Don’t Mean A Thing (If It Ain’t Got That Swing)

題名はジャズの名曲にちなんでいます。この本は各章の副題にジャズの名曲が名付けられていて、内容とリンクしています。

作者のジャズの知識の深く、文章からジャズの音楽が流れてくるようでした。

こちらが『スウィングしなけりゃ意味がない』です。当時最高のパフォーマンスであるデューク・エリントンとエラ・フィッツジェラルドによる貴重な映像です。

エド・サリバン・ショーでのパフォーマンスとなります。

昔のジャズは今に比べて本当にテンポが速くて好きです。

感想

当たり前の話ですが、戦争中もナチスに抵抗するドイツ人がいました。そのことにハッとしてしまいました。

当時はナチスを支持する人だけでなく、十分わかった上で付き合っている人、反抗する人がいました。

史実をもとに、作者はかなりリサーチをしています。細部までしっかり描写されていて、とてもリアルに感じます。

そして戦争中もジャズ音楽やダンスを求める人々。この本からは人間の根源的な欲望の強さ、芸術の必要性を思い出しました。とくに最近はコロナやオリンピック問題で、芸術やスポーツって必要なんだろうか、と思うことが多かったです。そんな気持ちをガラッと変えてくれました。

深く印象に残る文章

佐藤亜紀さんの文章はとても軽快で、重い話もジャズのようにおしゃれに響きます。現在にも通じるテーマで、戦争時代の話ですが内容にかなり惹き込まれました。そして印象に残るフレーズがいくつもありました。

ここからは少しネタバレしています。

「選ぶということ」

工場を経営する主人公のお父さん。空襲があっても工場が心配で疎開することができません。当然お母さんは逃げたいと思っていて、お父さんに工場より家族を選んでほしいと思っています。

そんなとき主人公はお母さんにこう話します。

「ぼくにも、母さんにも、ぼくや母さんの世界があるみたいに、父さんには、父さんの世界、ってのがあるんだよ。工場も、ぼくたちもその一部だ。どちらか選んでどちらか捨てることになったら、それは世界を半分に割ってどちらか捨てる、ってことになる。とんでもない悲劇だ。そんな選択をさせちゃ駄目だ。」

「お父さんの想い」

主人公がスウィング・パーティーを主催し、大騒動が起こってしまい警察に捕まってしまいます。

しかも突き出したのは、実のお父さんです。

これにより主人公はツラい刑務所暮らしを送ります。刑期を終えたあとも主人公はナチスに抵抗を続けますす。主人公は自分を売った父親を軽蔑しているのですが、ふと気づきます。もともとアメリカかぶれになったのはお父さんの影響だったと……。

お父さんはジャズが大好きで、アメリカ文化が大好きです。

お父さんが主人公の抵抗活動をとめないのは、実は同じ気持ちを持っているからかもしれない……。ただ、お父さんには経営者という社会的な立場があり、表立って応援することはできない。だからこそ、主人公の行動を黙認しているのではないか、と気づくのです。

このシーンはしびれました。

『スウィング・キッズ -引き裂かれた青春-』

同じテーマでロバート・ショーン・レナード、クリスチャン・ベイルによる1993年の映画があります。一番はじめに紹介した『スウィング・キッズ – 引き裂かれた青春 – 』です。

こちらの作品が本と同じテーマで、すごく気になっています。廃盤になっているみたいなので、探してみようと思います。

kazu

今回は、佐藤亜紀著『スウィングしなけりゃ意味がない』の紹介でした。 ぜひぜひチェックしてみてください。
ありがとうございました。