あらすじ・感想.jpg)
『ケインとアベル』( 1979年)の内容は?
その魅力は?
読みどころは?
ジェフリー・アーチャーの名作小説『ケインとアベル』は、ウィリアム・ケインと、ヴワデグ(後のアベル・ロスノフスキ)の波乱万丈の運命を描いた大河小説です。今回は、原作のあらすじ、登場人物の魅力、その世界観を解説します。
元劇団四季、テーマパークダンサー。年間100公演ほど舞台を観に行ったことのある劇場フリーク。小説は映画化されているものを読むことが多く、映画との違いを楽しんでいます。
※ 3分ほどで読み終わります。
大河小説|『ケインとアベル』
-
達成感とページ数
- 上下巻で約1,000ページのボリューム
- 読み終えた後に大きな達成感が得られる
-
読みやすさと内容
- 長文ながらも一気に読み進められる
- 1900年代~1980年代までのアメリカの歴史と価値観が理解できる
-
著名人の評価
- 直木賞受賞作家の山本
一力 さんは、「無人島に一冊だけ持っていくなら『ケインとアベル』」と語る
- 直木賞受賞作家の山本
それぞれ 1,000円ほどです。
上下巻で約1,000ページにも及ぶ本作は、読み終えた後に大きな達成感を味わえる作品です。長文ではありますが、一気に読み進めることができ、1900年代から1980年代までのアメリカの歴史や価値観を理解する手助けとなります。直木賞を受賞した山本一力さんも、インタビューで「無人島に一冊だけ持っていくとしたら、迷わず『ケインとアベル』を選ぶ」と語っています。
あらすじ
たまたま同じ日に生まれたヴワデグ・コスキエヴィッチ(後のアベル・ロスノフスキ)とウィリアム・ケイン。第1次世界大戦、世界恐慌、第2次世界大戦が大きなターニングポイントとなり、上巻では1906年4月16日に生まれた2人が青年期に出会うまでをスリリングに描きます。下巻では30代から人生の終盤まで、アメリカやヨーロッパを舞台に政治的な話も交えながら描かれます。史実を交えたリアルな描写が印象的な作品です。
2人は「別の形で会ったら親友になれたかもしれない」ものの、常に対立を続け、果てしなく傷つけ合います。その反面、互いの本質を理解している、という複雑な関係です。幸せと不幸を繰り返し、頑固ながらも充実した人生の軌跡を描きます。
-
物語の背景と時代設定
- 同じ日に生まれたウィリアム・ケインとヴワデグ・コスキエヴィッチ(アベル・ロスノフスキ)が主人公
- 史実を交えたリアルな描写で、第1次世界大戦、世界恐慌、第2次世界大戦がターニングポイント
-
上巻と下巻の展開
- 上巻:1906年4月16日に生まれた2人が青年期に出会うまで(電話での会話のみ)をスリリングに描写
- 下巻:30代から人生の終盤、アメリカやヨーロッパを舞台に政治の話も交え、2人の子供世代まで至る
-
対立と理解の複雑さ
- 2人は「別の形で会ったら親友になれたかもしれない」が、常に対立を続ける
- 互いを傷つけ合いながらも、深い理解を持っている
登場人物
アメリカ、ボストンの名家で生まれたウィリアム・ケイン。悲劇を乗り越えながらも恵まれた生活を送り、名門学校からハーヴァード大学へ行き銀行家となります。
ケイン側の登場人物:
- ウィリアム・ケイン:ケイン・アンド・ギャボット銀行の跡取り息子。主人公。
- リチャード・ケイン:ケイン・アンド・キャボット銀行の頭取。ウィリアムの父。
- アン:ウィリアムの母。
- アラン・ロイド:ウィリアムの後見人であり、銀行家としても支える存在。
- ミリー・プレストン:ウィリアムのもう一人の後見人。母アンの友人。
- トーマス・コーエン:法律事務所の弁護士。
- ヘンリー・オズボーン:ウィリアムの亡き母アンの再婚相手。
- マシュー・レスター:ウィリアムの親友。
アベル・ロスノフスキ(本名:ヴワデグ・コスキエヴィッチ)は東ポーランドで孤児として生まれ育ちますが、第1次世界対戦ですべてを失ってしまいます。ポーランドから追い出され、シベリアまで追いやられ、完全に人生が終わったかに見えたものの、どうにかアメリカで再起します。
アベル側の登場人物:
- ヴワデグ・コスキエヴィッチ(アベル・ロスノフスキ):東ポーランド出身の野心家。もう1人の主人公。
- フロレンティナ:ヴワデグの姉。
- ロスノフスキ男爵、レオン、家庭教師たち:東ポーランド時代にヴワデグを取り巻く人物たち。
- イェジー・ノヴァク、ザフィア、デーヴィス・リロイ:ニューヨークで新たに出会う仲間。
作品の特徴
-
同時進行の物語
- ケインとヴワデグのストーリーが同じ時系列で交互に展開
-
ケイン編の特徴
- 銀行家の息子として生まれ、父親を超えることを目指す波乱万丈な物語
- 中学時代からお小遣いなしで生活し、お金の儲け方や株の運用について語られるシーンにワクワク
-
ヴワデグ編の特徴
- 脱走劇が挿入され、ハラハラドキドキの展開が続く
- 残酷な描写が苦手な読者でも、なんとか読み進められる
同じ時系列で、ケインとヴワデグの物語が交互に展開される中、2人の人生は全く異なる軌跡を辿ります。ケインの物語は、銀行家の息子として生まれ、父親を超えることを目指すという波乱に満ちたエピソードが描かれます。中学時代からお小遣いなしで生活し、資金の運用や株の取り扱いについて語られる部分は、非常にワクワクさせる内容です。一方、ヴワデグ編では、途中に脱走劇が挿入され、ハラハラドキドキする展開が続くものの、あまりに悲惨なシーンもあります。ただ、グロテスクな描写でも文章で語られるため、読者の頭の中ではマイルドに感じられると思います。残酷な描写が苦手な方でも、大丈夫です。
-
共通するテーマ
- 環境は異なるが、どちらも厳しい状況に置かれ、生き抜くための覚悟が描かれる
- ウィリアムとヴワデグは悲しい別れを経て大人へと成長していく
どちらも異なる環境下で厳しい現実に直面しながら、ただ生きるのではなく、どう生き抜くかを深く考える姿勢が共通しています。ウィリアムとヴワデグは、悲しい別れを経て一気に大人へと成長し、後半では互いの譲れないプライドが激しくぶつかり合います。その決意が読者に強い印象を残します。と同時に客観的に見ることができる読者はもどかしさを感じます。
下巻では、2人の譲れないプライドが激しくぶつかり合います。どちらにとってもプライドは大切な価値観であり、それを貫く姿勢には感服します。僕自身、最初はヴワデグの物語に強く惹かれましたが、読み進めるうちに、ウィリアムのストーリーにも次第に引き込まれていきました。
各キャラクターの詳細な物語については、ケイン編およびアベル編の記事をご参照ください。
元ネタ|『カインとアベル』
旧約聖書『創世記』に登場する兄弟の物語『カインとアベル』は、この作品とは全く関係がありません。ジェフリー・アーチャーは小説のタイトルとしてインパクトを持たせるためにこのタイトルを選びました。『カインとアベル』のスペル表記は『Cain and Abel』ですが、ジェフリー・アーチャーの『ケインとアベル(Kane and Abel)』では、Kane のスペルが異なります。ですが、英語での発音は同じです。そのため、一目でオマージュとわかります。一方、日本語では表記も発音も同じため、英語版とはかなり印象が変わります。
ジェフリー・アーチャー
作者のジェフリー・アーチャーは、ウィリアムやヴワデグと同様に、非常に波乱に満ちた人生を歩んできました。
-
- 1940年4月15日生まれ
- 1967年:大ロンドン議会議員に就任
- 1969年:保守党として庶民院(下院)議員に最年少で当選
-
挫折と転機
- 1973年:北海油田の幽霊会社への投資で全財産を失う
- 1974年:政治界から一時退く
-
作家としての成功
- 1976年:自らの挫折体験をもとにした小説『百万ドルをとり返せ!』が大ヒットし、借金完済
-
政界復帰とその後の栄光
- 1985年:政界に復帰し、保守党副幹事長に就任
- 1986年:サーの称号を受け、貴族院議員として活動
-
後年の出来事
- 2001年:裁判で偽証罪により実刑が確定
- 2003年:保護観察下で出所
その後も精力的に執筆活動を続けています。
ジェフリー・アーチャーは、『ケインとアベル』を執筆する際、実際の歴史的出来事と自身の政治経験を融合させ、史実とフィクションを絶妙に織り交ぜています。大恐慌や第2次世界大戦といった歴史の転換期を背景に、現実の金融界のリアルな側面を反映しています。そして、登場人物たちの壮絶な対立、復讐劇を描くことで、読者に強い説得力と迫真性を感じさせます。彼は執筆中、ホテルの一室にこもり一気に原稿を書き上げました。その作業スピードは驚異的だったと記録されています。
作者自身の経験を丹念に物語に落とし込んでいるためリアリティがあまりにも高く、フィクションの登場人物がまるで実在しているかのように感じられます。そのため、僕は実在の人物かどうか検索してしまったほどです。
評価
ハイブリット型総合書店「honto」からの評価は高いです。男性主体の物語として、また時代背景から女性があまり活躍しないという点もあり、特に男性にウケる作品と言えます。世界恐慌や株式市場の動向なども描かれていますが、難解な内容ではないため、長編ながら性別に関係なく一気に読み進められる魅力があります。
初めての出会い
僕自身、ジェフリー・アーチャーの他の作品を読んだことがきっかけでした。2003年に出版された『運命の息子』という作品です。「久しぶりにもう1回読むか」と思っていた矢先、偶然に本作を再発見しました。『運命の息子』も上下巻に分かれ、2人の男性の人生が交互に語られる壮大なストーリーで、とてつもなく感動した記憶があります。そのため、『ケインとアベル』も同様に壮大な物語であるに違いないと感じ、ストーリーを一切予習せずに読み始めました。『運命の息子』同様、2人の男性の人生が交互に展開されるスタイルは、懐かしくなりました。なにより、発行年が1979年であることに驚かされました。
今読んでも色褪せることはありません。不条理の中にもかすかな希望があり、大人になるしかない少年たちの壮大な人生を通し、生き方について深く考えさせられる作品です。
ドラマ化と続編
実は、この作品は1985年に全3話(各90分)の海外ドラマとしても制作され、こちらで詳しく紹介しています。
続編として『ロスノフスキ家の娘』が出版され、こちらは女性が大活躍する内容となっています。野田聖子さんが議員になるきっかけとなった本としても挙げられていたように思います。
どちらも1,100円ほどです。
女性の皆さんも大いに楽しめる作品だと思います。『ケインとアベル』は男臭い印象が強いので、もし苦手と感じる場合は、いきなり『ロスノフスキ家の娘』から読むのもオススメです。こちらは、1960年後半から1980年代までのアメリカ政治史がよく理解できる内容となっています。
今回の記事では『ケインとアベル』の壮大な物語とその魅力、そして続編への期待についてご紹介しました。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
エンタメ作品に関してはこちらで紹介しています。ぜひご覧ください。
映画、テレビ、海外ドラマ、アニメ、本などエンターテイメントで感動したものを紹介します。