「ドン・キホーテ」ヤスミン・ナグディ、マルセリーノ・サンベ主演の感想は?
どこが良かった?
気になった部分は?
英国ロイヤル・バレエ団の公演を観に行きました。若手プリンシパル2人による「ドン・キホーテ」。
ものすごく良かったです!!
最近はyoutubeチャンネルでよく英国ロイヤル・バレエ団の映像を見ていたので、なおさら楽しめたように思います。
元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録あり
今回はヤスミン・ナグディ、マルセリーノ・サンベ主演「ドン・キホーテ」の感想です。
※5分ほどで読み終わります。
ケガで変更
実は、高田茜さんとスティーヴン・マックレー(キャッツの映画版に出演します)がこの日に踊る予定でしたが、ケガで出演できなくなりました…。スティーヴン・マックレーにいたってはケガから去年復帰したばかり…。
キャッツでスキンブルシャンクスを演じ、英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルです。タップも踊れるオールマイティダンサー。テクニックがあり力強さ、柔らかさ、そして演技力のあるダンサーです。
ということで、キャストがだいぶ入れ替わりました。ケガ人が多く主演二人だけでの単純な変更ではなく、パズルのように入れ替えがありました。

正直、高田茜さんを観に行きたいと思っていたので残念です。
ちなみにバレエの公演では主演がなんらかの理由で交代しても払い戻しはありません…。本来、高田さんが主演ということもあり、火曜日の夜の回でも満員でした。2,000席の会場を埋めることができる高田さんの人気、すごいです。
2019年6月25日(火)のキャスト
改訂振付:カルロス・アコスタ(マリウス・プティパの原版に基づく)
音楽:ルトヴィク・ミンクス
編曲:マーティン・イエーツ
美術:ティム・ハットリー
照明デザイン:ヒュー・ヴァンストーン
キトリ(ロレンツォの娘)/ドゥルシネア姫:ヤスミン・ナグディ
バジル(床屋の青年):マルセリーノ・サンベ
ドン・キホーテ:クリストファー・サンダース
サンチョ・パンサ(従者):フィリップ・モズリー
ロレンツォ(宿屋の主人):ギャリー・エイヴィス
ガマーシュ(裕福な貴族):トーマス・ホワイトヘッド
エスパーダ(闘牛士):平野亮一
メルセデス(街の踊り子):イツィアール・メンディザバル
キトリの友人たち:崔 由姫、ベアトリス・スティックス=ブルネル
ジプシー(ソリスト):ロマニー・パイダク、トーマス・モック
ドリアードの女王:金子扶生
アムール(キューピッド):アンナ・ローズ・オサリヴァン
ファンダンゴ(ソリスト): ロマニー・パイダク、ヴァレンティノ・ズッケッティ
また、メルセデス役のイツィアール・メンディザバルがラウラ・モレーラの代役でした。ふくらはぎの怪我が原因です。
指揮:マーティン・イエーツ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
ギター演奏(舞台):デイヴィッド・バッキンガム、トーマス・エリス、フォーブス・ヘンダーソン、ナイジェル・ウッドハウス
第1幕 18:30 – 19:20
第2幕 19:45 – 20:15
第3幕 20:40 – 21:25
あらすじ
ドン・キホーテとお供のサンチョ・パンサが立ち寄るバルセロナの街が舞台になっています。宿屋の娘で政略結婚をさせられそうになっているキトリと、その恋人で床屋のバジルが主人公です。バレ版は、キトリとバジルが主役で、ふたりの恋にドン・キホーテが絡んできます。
より詳しくはこちらをどうぞ。
みどころたくさんの明るいバレエです。一番最初に見る作品としては最適で、さらにいうとガラ公演で一番最初にみるとバレエが好きになると思います。
カルロス・アコスタによる演出
通常の「ドン・キホーテ」は、ドン・キホーテの存在感が薄いこともあります。カルロス・アコスタ版の「ドン・キホーテ」は、しっかりとドン・キホーテが話に絡んできます。どのシーンにいてもドン・キホーテの存在感が強くなっています。
例えば第2幕のジプシーのシーン。ジプシーたちの踊りが見どころですが、舞台の端でキトリとドン・キホーテが「やんややんや」やってて気になって気になって…。ついつい目がいってしまいます。このようにドン・キホーテがストーリーにもがんがん絡んでくるので、僕はとても好きな演出でした。
ヤスミン・ナグディとマルセリーノ・サンベ
素晴らしい主演でした。若手二人でこれだけの公演ができるロイヤルの層の厚さを感じました。ふたりはとても華があって、観ていてついつい顔がほころんでしまう「ドン・キホーテ」でした。
ヤスミン・ナグディ
ヤスミン・ナグディはとにかく技術力が高いダンサーです。テクニックが強いのでキトリにぴったりです。
普段のイメージはしっとりていて、控えめそう、だけどすごく芯が強そうだな、と。活発なイメージはあまりなかったですが、メイクでさらにエキゾチックな雰囲気になっていて、すごく似合っていました。ジャンプは高く、身体は柔らかい、甲もしなっていて足先がとてもキレイなダンサーです。
「スパン!!!」と足が上がるので観ていてとっても気持ちいいです。
特に最後のクライマックスの「グラン・パ・ド・ドゥ」では、バランスをとってやろうという気迫。実際、長い時間キープしていました。そんな必死な部分でも品がありました。気品をもとから持っているダンサーだな、と感じました。
とはいえ、やっぱりドルシネア姫が似合ってました。主演のダンサーは、キトリとドルシネア姫の2役を踊ります。キトリは、ちゃきちゃきで明るく快活。ドルシネア姫は品があり優雅。ヤスミン・ナグディはとにかく優雅でエレガント。
踊りにとても品があって、そこに音をたっぷり使うキープ力が加わり、流れるようなしなやかな踊りでした。
マルセリーノ・サンベ
マルセリーノ・サンベはついこの間(6月7日)プリンシパルに昇進したばかりです。とっても若々しくて、かつラテン系の色気もあってとても良かったです。テクニックもジャンプ力もスゴい。
アメリカン・バレエ・シアターの元プリンシパルでキューバ出身のホセ・カレーニョを思い出しました。イギリスでは、演出をしたカルロス・アコスタに比べられることが多いようです。髪の毛がくりくりしていて、笑うと歯が真っ白で、個性にピッタリはまっているバジルでした。
最後で最大の見せ場の「グラン・パ・ド・ドゥ」は華やかで、不安定な部分もなく、すごいワクワクしました。ずっと踊りっぱなしでも体力の衰えもなく若さパワーたっぷりでした。「グラン・パ・ド・ドゥ」を踊り終えたときに、さりげなく二人で手をぎゅっと握っていました。このさりげない動作でふたりのこの舞台にかける想いや、ふたりで思いやっているのが伝わってきて、すごく感動しました。
リハーサル映像
グラン・パ・ド・ドゥのクライマックスのコーダのリハーサル映像がアップされていたのでぜひどうぞ。
ヤスミン・ナグディのフェッテはこの映像よりもパワーアップしていました。シングルを2回したあとに、片手を上にアンオーしながら2回転、両手を腰に当てて2回転、通常のポジションのアンナバンで2回転という流れで4ルーティーンくらいやってました。
マルセリーノ・サンベはこの映像と同じ感じで余裕で何回転もしてました。
全員参加型バレエ

主演の2人はもちろん良かったんですが、僕が一番感動したのはこの部分です。
バレエは踊らないダンサーも舞台でウロウロしています。プロであっても、ぼーっと突っ立っているダンサーがいたりします。
ロイヤルバレエは、演劇的なバレエ団といわれています。カルロス・アコスタ版「ドン・キホーテ」の演出は、演技に命をかけるロイヤル・バレエ団にしかできない作品だな、と思いました。
例えば、闘牛士たちの踊り。周りが基本踊りに参加せずとも演技で参加しています。このシーンはエスパーダとメルセデス、そして6人の男性ダンサーの見せ場です。周りのダンサーが参加することですごく活気にあふれていました。なんかすごくいい演出だな~、と思いました。特に闘牛士たちが1列で前に行って、後ろに行ってと繰り返す踊りがあるんですが、その時、街の人たちも前に行ったり後ろに行ったり。すごい印象に残っています。
ところどころ声を出す演出もありましたが、僕はとても好きな演出でした。今回は若手2人の主演ということもあり、周りにいるダンサー全員で作り上げるという空気感がありました。
バレエ団はとても矛盾していると思います。階級がしっかり分かれていて、若手が1番最高位に昇格することもあります。年下に追い越されることもあるので、そこにはジェラシーのような感情も少なからずあると思います。そんな競争の中でも舞台上では、みんなが協力しなければ良い舞台にはならない。
若手のプリンシパルを支えるバレエ団のプロフェッショナルな部分をひしひしと感じました。
日本人が大活躍
ロイヤルバレエは日本人がたくさんいるので、日本人として嬉しくなっちゃいます。今回の公演では、平野亮一さん、チェ・ユフィさん、金子扶生さん、ルカ・アクリさん、桂千里さん、佐々木万璃子さん、中尾太亮さん、前田紗江さんが登場。
金子扶生(ふみ)さん
夢の場面では、金子扶生(ふみ)さんがドリアードの女王を踊っていました。めちゃめちゃ素敵でした。難しい振付を軽々とこなすテクニックの持ち主です。つま先はきれいだし、最後のピルエットからのルルベしたままロンデのバランスが「ブラボー」でした。(下の映像です)
5:30~金子さんの踊りです。特に最後の収まりの余裕がスゴイです。2015年の映像で、今はさらにパワーアップしています。
平野亮一さん
プリンシパルである平野さんは、今日1番の存在感!
拍手は主役の2人よりも大きかったです。「どやー!」という踊りに、観客の割れんばかりの拍手。平野さんは魅せ方が非常にうまい!
どんどん自分を前に出していきます。少し退屈になりがちな闘牛士のシーンがとてもピリってしていて、紳士過ぎないエスパーダ。ワイルド系で、すごく魅力的でした。椅子に座ってるときもデデーン!!という感じ。(笑)
3幕では、毒々しい緑の衣装ですが、それをも着こなしていました。(笑)
チェ・ユフィさん
そしてキトリの友人のチェ・ユフィさんも日本出身。キトリの友人として、ベアトリス・スティックスー=ブルネルとペアで踊っていました。2人の組み合わせが良かったです。この2人は、他の作品でも一緒に踊ることが多いので息ピッタリでした。
ユフィさんは色気があるし、演技も達者。踊っていなくてもついつい目で追ってしまいます。キトリを狙う金持ちのガマーシュと一緒に踊るときも、ちゃっかり自分から誘っていたり。演技にぬかりなし!!
踊りに妖艶な部分があり、ロイヤルに絶対欠かせないダンサーです。
ちなみにもう一人のキトリの友人のベアトリス・スティックスー=ブルネル。あるシーンでキトリにヤキモチを焼かれます。そんな時バジルがベアトリス・スティックスー=ブルネル「こんな女どうでもいい!」というジェスチャー。勝手にヤキモチやかれて、勝手にけなされるわけですが、その反応が可愛かったです。
群舞でも目立つ
第1幕、日本人の桂千里さんと佐々木万璃子さんが一番最初に登場。桂千里さんは背中がとてもしなやか。全体を通して出演していたので踊りをたっぷり見れました。これからの活躍が期待されるダンサーです。
ドン・キホーテの夢の場で、前田紗江さんが妖精として登場。見やすい位置で踊っていたので、華やかな表情がよく見えました。音の使い方がとても素敵だな、と思いました。そして存在が華やか。
4人のごろつき役にルカ・アクリさんと中尾太亮さんがいたと思います(キャスト表に載っていないので定かではないです。キャスト表にもっと名前を載せてほしい)。このごろつき4人が舞台に躍動感を与えていて、こういう役を全力で演じる人材がそろっているロイヤルバレエはスゴイと思います。ごろつき4人がキトリの友人を2人ずつ持ち上げるシーンがあったのですが、ひとり他の場所で演技に夢中になっていて、超ギリギリに持ち上げていました。(笑)この4人がすごくイキイキしていて舞台に奥行きを与えていたと思います。
アムール:アンナ・ローズ・オサリヴァン
ここからは日本人以外のキャストに関してです。
アムールのアンナ・ローズ・オサリヴァンの音のとり方が好きでした。
普通だと金髪にギリシャっぽい衣装に羽根をつけていることが多いキューピッド。振り付けはまったく同じですが、衣装が違うだけでここまで雰囲気が変わるのか、と。僕はこっちの方が断然好きです。
クリストファー・サンダース
僕はロイヤルバレエのyoutube動画観るのが好きなんですが、今回ドン・キホーテを演じているクリストファー・サンダースは普段バレエマスターという指導をする仕事をしています。
ロイヤル・バレエ団のリハーサル動画にもたくさん登場しています。話もうまいし、理論的で、ポジティブな指導が特徴で、いつもおもしろく見ています。クリストファー・サンダースのドン・キホーテ、素晴らしかったです。
カルロス・アコスタによる演出
カルロス・アコスタ版は、次の場面への進行がグッと遅くなります。音楽も小さくなるので、少しだらーっとしていました。昔ボリショイバレエ団の「ドン・キホーテ」を観たとき、通常の1.3倍の音楽のスピードなんじゃないか、と思うくらいテンポが速い舞台がありました。特に場面転換で変な間があったので、スパーっと次に進んでほしいな、と思いました。
あとは狂言自殺のシーン。ここは笑いどころなので、どれだけ面白く演じてくれるか期待してしまいます。特に何回もみたことがある観客にとっては、「待ってました~」というシーン。アメリカン・バレエ・シアターが芸達者なイメージで、ホセ・カレーニョ、アンヘル・コレーラを超えるダンサー見たことがないですね。このシーンはけっこうゲラゲラ笑いたかったりします。このシーン、ガマーシュや周りのダンサーの協力が必須だな、と感じました。
サンチョ・パンサがいじめられない!
お調子者のサンチョ・パンサ。見せ場の踊りがあります。普通のバージョンだと調子に乗り過ぎて街の人たち全員からやっつけられてしまいます。ですが、カルロス・アコスタ版は解釈がまったく異なります。サンチョ・パンサの見せ場になっているだけでなく、スペインの人たちの陽気な部分が見えました。
普通だと、街の人たちがサンチョ・パンサをいじめているみたいであんまり好きじゃなかったので、なんか嬉しかったです。サンチョ・パンサを胴上げする部分があるのですが、みんなでワイワイしていて好感度高いです。
生ギターのジプシーの踊り
ジプシーの踊りはコンテンポラリーの要素もあって、カルロス・アコスタの振付の幅広さを感じました。特にセンターを踊る女性ソリストのロマニー・パイタグの「センターで踊るのはこういうことよ!」という感じに見入ってしまいました。
皆と同じ振り付けなのですが、音のとり方が全然違う!
音にギリギリ遅れることなく自分流にアレンジ。コンテンポラリーの要素も入っているので、自分の色を十分に出すことが許されているのかな、と思いました。
また、全員でのカノンが印象的。「カノン」とはカエルの歌の輪唱みたいなことです。同じ振りをちょっとした時間差で何人も踊る、というもの。すごくよく考えてある振付だと思いました。
そして、途中からギタリストが3人登場します。最初はダンサーが弾いているふりをしているのかと思い、オーケストラピットにギターがいるのか探してしまいました。キャスト表をみると、しっかりギターの3名の名前が載っていて、本当に弾いていいました。
ジプシーのシーンは退屈と感じることが多いですが、もっと見たいと思うジプシーの踊りでした。
ウルウルきました
「ドン・キホーテ」は基本的にハッピーな物語なのでウルウルくるような要素はそんなにないはずなのに今回、久々に生のバレエを見たことに感動していろんな場面でウルウルしてました。特にヤスミン・ナグディとマルセリーノ・サンベのやり切った感じのカーテンコール……。泣けました!!
観客席には芸術監督のケヴィン・オヘア、新国立劇場の芸術監督の大原永子さんも見に来ていました。僕はというと、17時15分までバレエのレッスンに行って、その後観に行ったので、座ってる間時々お尻が痙攣してました。(笑)
僕は3階L側1列目の10番台後半だったので、とても観やすかったです。隣の方は音楽に乗って身体が動いていてノリノリでした(笑)
DVD
キャストは違いますがブルーレイでも映像が発売されています。振付のカルロス・アコスタがバジルで、アルゼンチン出身のマリアネラ・ヌニェスがキトリです。
4,000円ほど。

今回は「ヤスミン・ナグディとマルセリーノ・サンベ主演のドン・キホーテ」のご紹介でした。 ぜひぜひチェックしてみてください。
ありがとうございました。
バレエ作品に関してはこちらにまとめていますので、ぜひご覧ください。
舞台鑑賞好きの僕が劇場に行くときに知っておくとちょっと得する話をのせています。バレエを中心に紹介しています。