
カルロス・アコスタ版『ドン・キホーテ』のストーリーは?
特徴は?
見どころは?
英国ロイヤル・バレエ団、初の黒人系プリンシパルだったカルロス・アコスタ。
そのカルロス・アコスタが振付をした『ドン・キホーテ』が発表されました。初演では自身が主役を踊っています。
『ドン・キホーテ」をダンサー目線から演出した作品で、見どころが満載です。
元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります。
今回はカルロス・アコスタ版『ドン・キホーテ』についてです。
※3分ほどで読み終わります。
カルロス・アコスタによる演出
通常の『ドン・キホーテ』は、キトリとバジルが主役のためドン・キホーテの存在感が薄くなりがちです。カルロス・アコスタ版では、どのシーンにおいてもドン・キホーテの存在を感じることができます。
ドン・キホーテを話の中心に持ってくると、主役であるキトリとバジルの存在感が薄くなってしまうことがありますが、この部分をすごくうまく解消しているバージョンです。
英国ロイヤル・バレエ団(イギリス)
改訂振付:カルロス・アコスタ(マリウス・プティパの原版に基づく)
音楽:ルトヴィク・ミンクス
編曲:マーティン・イエーツ
美術:ティム・ハットリー
照明デザイン:ヒュー・ヴァンストーン
振付のカルロス・アコスタはキューバ出身で、黒人として初めて英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル・ダンサーとなりました。
技術力が非常に高く、ステージにいると絶対に目が行ってしまう存在感のあるダンサーでした。振付作品も多く、現在は英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の芸術監督として活躍しています。
内容解説
キトリ:ロレンツォの娘。ドゥルシネア姫にそっくり。
バジル:床屋の青年
ドン・キホーテ:騎士道精神を守り旅に出る
サンチョ・パンサ:ドン・キホーテの従者
ロレンツォ:宿屋の主人
ガマーシュ:裕福な貴族
エスパーダ:闘牛士
メルセデス:街の踊り子
キトリの友人たち
4人のごろつき
ジプシー
ドリアードの女王:ドン・キホーテが夢の中で出会う
アムール:キューピッド:ドン・キホーテが夢の中で出会う
あらすじ
騎士を目指すドン・キホーテとお供のサンチョ・パンサ。旅の途中でスペインのバルセロナに立ち寄ります。
宿屋の娘で無理やり金持ちと結婚させられそうになっているキトリと、その恋人で床屋のバジルが主人公。
バレエでは、キトリとバジルが主役で、二人の恋模様にドン・キホーテが絡んできます。
プロローグ:ドン・キホーテの登場
第1幕:キトリとバジルと華やかな街
第2幕:ロマの野営地→ドン・キホーテの夢→バジルの狂言自殺
第3幕:キトリとバジルの結婚式
『ドン・キホーテ』の詳しいストーリーについてはこちらに書いていますので、ぜひご覧ください。
みどころたくさんの明るいバレエです。一番最初に見る作品としては最適で、さらにいうとガラ公演で一番最初にみるとバレエが好きになると思います。
全員参加型バレエ
英国ロイヤル・バレエ団は、演劇的なバレエ団といわれています。
カルロス・アコスタの演出は、ロイヤル・バレエ団にしかできない作品だと思います。
例えば、闘牛士たちの踊り。
このシーンはエスパーダとメルセデス、そして6人の男性ダンサーの見せ場です。群舞のダンサーたちも演技で参加しています。
すごく活気あふれるシーンです。特に闘牛士たちが1列で前に行って、後ろに行ってと繰り返す踊りがあるんですが、その時、街の人たちも前に行ったり後ろに行ったり。躍動感があります。ところどころ声を出す演出も効果的です。
また、4人のごろつきという男性ダンサーの役が追加されています。パワフルな踊りで見ていて楽しくなるシーンです。
全体的にテクニックが満載で、男性ダンサーの活躍シーンが増えています。
ここから特徴となる部分をいくつかピックアップし解説していきます。
サンチョ・パンサも受け入れる
お調子者のサンチョ・パンサが話の途中で女の子たちと楽しく遊び、調子に乗ってしまいます。
普通のバージョンだと調子に乗り過ぎて街の人たち全員からいじめられてしまい、ドン・キホーテが助けます。街の人たちがサンチョ・パンサをいじめているみたいであんまり好きじゃなかったのですが、カルロス・アコスタ版は解釈が異なります。
とてもイイ演出だな、と思います。
ジプシーの踊り
ジプシーの踊りは退屈なシーンになってしまうこともありますが、かなり改善されています。
本物のギタリストが登場していたり、ダンサーが舞台上で叫び声を発するので、臨場感があります。
ジプシーの踊りはコンテンポラリーの要素もあって、カルロス・アコスタの振付の幅広さを感じました。コンテンポラリーの要素も入っているので、自分の色を十分に出すことが許されているのかな、と思いました。
また、全員でのカノンが印象的。「カノン」とは『カエルの歌』の輪唱のような表現です。同じ振付を少しの時間差で何人も踊っていく、というもの。すごくよく考えてある振付だと思いました。
キトリとバジルがジプシーの踊りに少し参加したり、ドン・キホーテも少し入ってきたりと、新しい演出です。
「夢の場」
ドン・キホーテが気を失い、幻想的な夢を見る場面です。ドン・キホーテの替え玉が登場し、幽体離脱になる演出もすごくわかりやすいと思います。
「夢の場」のセットと衣装がとても立体的になっています。セットの花も3D感にあふれています。少し毒々しさはありますが、とくにチュチュの装飾がゴージャスです。
キューピッドを含め、全員の衣装が統一され大人っぽい雰囲気になっています。
メリッサ・ハミルトンによるドリアード(木の精霊)の女王です。
ドリアードの女王のイメージカラーが黄色というのもとてもめずらしいと思います。通常は青が多いです。
気になる点
僕は実際に来日公演でも見ましたが、気になる点もあります。
日本公演の感想はこちらに載せているのでぜひご覧ください。
もともと高田茜さんとスティーヴン・マックレーが踊る予定でしたがケガで降板。英国ロイヤル・バレエ団の若手2人が主演。周りを固めるダンサーに日本人が沢山登場し、とても盛り上がる展開でした。
テンポが少しダラっとしていたり、場面転換がスムーズじゃなかったりする点が気になります。そして全体的に統一感が薄く、つながりに少し違和感を感じてしまいました。
また、第1幕はセットが前方にあり、舞台がすごく狭く見えてしまうのももったない気がしました。
ドキュメンタリー映像の解説
高田茜さんがキトリ、アレクサンダー・キャンベルがバジルを踊ったときの5分ほどのドキュメンタリー映像です。
動画の下に意訳を載せています。
『ドン・キホーテ』はとても楽しく、熱気あふれる物語の典型です。愛、幸せ、純粋、喜びに満ちあふれています。
『ドン・キホーテ』には心を高鳴らせてくれるストーリーがあります。とはいえ、そこには深い意味はなく、ただただ楽しい舞台が広がっています。ダンサーたちが舞台をスピード感を持って駆け抜けていきます。
ドン・キホーテはおとぎ話の主人公です。ドン・キホーテは小説を読み、ドルシネア姫の幻影を見て世界を救うために旅に出ます。お供は愛されるキャラクターであるサンチョ・パンサです。サンチョ・パンサは飲んだり食べたりが大好きで、本来はドン・キホーテについていくような人物ではありません。二人は、キトリとバジルの住む街に到着します。バジルは床屋の青年でキトリと結婚したがっています。キトリは自信あふれる女の子です。ただ、キトリのお父さんであるロレンツォは金持ちのガマーシュと結婚させたがっています。
ドン・キホーテはキトリがガマーシュとの結婚を嫌がっていることをすぐに見抜きます。旅の途中であるドン・キホーテですが、旅以上に二人を助けることに使命感を抱きます。
このバレエは全員のためのものであり、踊りに関して言うと、主役二人の踊りの技術を存分に楽しめるようになっています。アコスタ版でもキトリとバジルの踊りはマリウス・プティパ版に基づいています。キトリはとても挑戦的な役で、柔らかくエレガントな反面、とても情熱的です。
僕(アレクサンダー・キャンベル)は、茜さんにはいつも刺激を受けていて、主役二人でもう一段階、舞台のレベルを押し上げようとしています。
私(クリストファー・サンダース)はドン・キホーテ役をやりながら、コーチもしています。普段はリハーサルを仕切っています。はじめに全員のエネルギーを作品に注いでもらうことに力を使います。主役であろうが、脇役であろうが、エキストラであろうが、全員のエネルギーを統一させます。初演時にはカルロス・アコスタがキャスト全員分を踊ってくれました。クリストファー・サンダースはカルロスの意思を受け継ぎ、ダンサーにカルロス・アコスタの踊りを引き継いでいます。私(クリストファー・サンダース)はダンサーとして舞台に出演することも大好きですが、ダンサーに持っている知識全部を分けることにも幸せを感じています。
レオン・ミンクスが作曲した『ドン・キホーテ』ですが、音楽は振付のカルロス・アコスタの表現を反映しています。私(カルロス・アコスタ)は音楽を生き生きとしたものにしたかったので、オーケストラ以外にギタリストを配置しました。スペインのフラメンコのようにしたいと思いました。マーティン・イエーツにギターの部分を作曲してもらいました。本来ジプシーのシーンにはない音楽を新たに作ったことで、とても素晴らしいものになったと思います。今までも『ドン・キホーテ』の舞台で、ギターがステージに上がったことはありますが、ダンサーが弾くふりをしていました。これを本物に変えることで、とても自然に、リアルな空間になったと思います。
『ドン・キホーテ』はダンサーのテクニックを楽しむことができるだけでなく、とても明るく楽しいバレエです。一緒に歌って手を叩けるような気持ちになるバレエで、素晴らしい音楽にあふれた舞台です。
DVD
ブルーレイでも映像が発売されています。
6,500円ほど。高田茜さんがキトリ、アレクサンダー・キャンベルがバジルを演じます。
5,000円ほど。
カルロス・アコスタ本人が出演しているバージョンです。キトリ役のマリアネラ・ヌニェス主演の4本セットのDVDボックス(『ドン・キホーテ』『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』『ジゼル』『白鳥の湖』)でお得です。

今回はカルロス・アコスタ版『ドン・キホーテ』についてでした。
ありがとうございました。
バレエ作品に関してはこちらにまとめています。ぜひご覧ください。
舞台鑑賞好きの僕が劇場に行くときに知っておくとちょっと得する話をのせています。バレエを中心に紹介しています。