『ロスノフスキ家の娘』( 1982年)下巻の内容は?
特徴は?
読みどころは?
ジェフリー・アーチャー著『ロスノフスキ家の娘』は、1979年に出版された『ケインとアベル』の続編です。女性が力強く生きる姿を描いた作品で、下巻では初の女性大統領実現へと突き進みます。
今回は、『ロスノフスキ家の娘』( 1982年)下巻の内容、感想、特徴について解説していきます。
元劇団四季、テーマパークダンサー。年間100公演ほど舞台を観に行ったことのある劇場フリーク。小説は映画化されているものを読むことが多く、映画との違いを楽しんでいます。
※ 3分ほどで読み終わります。ネタバレしているのでご注意ください。
上巻の振り返り
ジェフリー・アーチャーの『ロスノフスキ家の娘』上巻は、『ケインとアベル』の続編として、アベル・ロスノフスキの娘、フロレンティナ・ロスノフスキの人生を描いています。物語は、彼女の誕生から始まり、父アベルとの関係、彼の過去を知ることで生じる葛藤が描かれています。フロレンティナは、父の宿敵であるウィリアム・ケインの息子、リチャード・ケインと出会い、恋に落ちます。2人は家族の反対を押し切りロサンゼルスに逃げ結婚。新天地でファッションビジネスを成功させます。
『ロスノフスキ家の娘』上巻についてはこちらで紹介しています。
下巻では、主人公フロレンティナが政界に進出し、アメリカ初の女性大統領を目指す姿が描かれます。 政治家としての魅力だけでなく、選挙戦や政治的駆け引きなどが詳細に語られます。政治のリアルな描写と、感情を揺さぶるストーリー展開が魅力の作品です。なにより政治家の役割やアメリカの選挙制度についての理解がかなり深まります。アメリカの選挙制度に興味がある方や、骨太な政治ドラマを楽しみたい方にぜひオススメしたい一冊です。
アメリカ近代政治の歴史|一目でわかる
前作『ケインとアベル』では、アメリカの近代経済の発展が描かれ、経済の流れを理解するのに最適な作品でした。一方、続編である『ロスノフスキ家の娘』では、1968年以降のアメリカ政治の歴史が詳細に描かれています。作品には実在の政治家が数多く登場し、まるでノンフィクションのようなリアリティがあります。著者ジェフリー・アーチャーは、この作品を書くにあたって約2年間にわたり綿密な取材を行い、アメリカの政治の仕組みや選挙制度について深く掘り下げました。
主人公のフロレンティナは、アメリカをより良くするために政治の世界に飛び込み、ひたむきに活動していきます。その過程で陰謀や策略に巻き込まれながらも、決して信念を曲げることなく、堂々とした政治活動を続けます。政治家に対する印象がポジティブになるような内容になっているので、こんな政治家が現実にいたらいいのに、と心から思いました。
民主党の大統領候補選び|最大の見どころ
アメリカの政治は、共和党と民主党の二大政党制で成り立っています。両党はそれぞれ党内で候補者を決定し、大統領選挙に向かっていきます。『ロスノフスキ家の娘』下巻では、この民主党の大統領候補選びが最も重要な場面となっています。日本の選挙制度と大きく異なるアメリカの選挙戦のリアルな様子が細かく描かれており、その仕組みを肌で感じることができます。特に、フロレンティナが挑む民主党代表の指名選挙では、驚くほど不公平な展開が待っています。その理不尽な状況に、読んでいて悔しくなり、フロレンティナに完全に感情移入していました。
1980年代に描かれた「未来」の世界
この作品が出版されたのは1980年代前半ですが、物語の舞台は1990年代前半まで描かれています。つまり、当時の読者にとっては「未来の物語」となります。この感覚は、2022年に『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART 2』(1989年公開、2015年が舞台)を観る感覚に似ています。現代から振り返って読むと、著者の予測した未来と実際の歴史の違いを楽しむこともできます。
『ロスノフスキ家の娘』下巻|あらすじ
主人公フロレンティナ・ケインがアメリカ初の女性大統領を目指します。30代のうちにファッション業界で成功を収め、さらに父親譲りの才覚でホテルチェーン〈バロン・グループ〉を継ぎ、順風満帆な日々を送っていました。
40歳を迎えた頃、人生に物足りなさを感じていたフロレンティナ。旧友エドワードから下院議員選への立候補を勧められます。女性であること、裕福であること、ポーランド移民の子であることなど、多くのハンディキャップを抱えつつ、彼女は持ち前の魅力と知性、人望を武器に政界へと進出します。下院議員としての経験を積み、その後上院議員、ついには女性初の大統領の座を目指して奮闘する姿が描かれます。
この物語では、家族やアメリカ全土を巻き込んだ彼女の活躍が描かれています。前作の主人公であるケインとアベルの存在感は薄れていますが、フロレンティナ自身の魅力たっぷりな作品です。
評価
本作は、日本の政治家である野田聖子さんが議員になるきっかけとなった本としても知られています。この作品に影響を受けたことを公言しており、政治の世界に進むうえでのインスピレーションを得たと言われています。
実際に読んでみると、男である僕自身も非常に楽しめた作品です。フロレンティナという強い女性主人公が活躍する物語なので、特に女性読者にとっては一層共感しやすく、刺激的な内容になっているのではないかと思います。
2017年には改訂版が再出版されており、現在も多くの読者に支持され続けている名作です。
どちらも1,100円ほどです。
前作『ケインとアベル』を読んでから本作を読むとより楽しめますが、前作は男性社会やビジネスの世界を色濃く描いているため、その雰囲気が苦手な方は直接『ロスノフスキ家の娘』から読み始めるのもオススメです。前作はこちらで紹介しています。
それぞれ 1,000円ほどです。
印象的なエピソード
以下に、物語の中で特に印象的なエピソードを紹介します。
1. 「発言しない」という戦略
フロレンティナが下院議員に初当選した年、すべてが初めての経験であり、発言の機会が限られていました。彼女は自らの未熟さを認識し、あえて発言を控える戦略を選択します。その間、徹底的な勉強と周囲の議員の観察を行い、効果的な発言のタイミングを模索しました。初めて委員会で発言したのは就任から半年後の「妊娠中絶禁止案」に関して。その的確な意見は彼女を一躍注目の的としました。
2. 党を超えた友情
民主党の女性議員であるフロレンティナは、共和党のベテラン男性議員から疎まれる存在です。しかし、共和党のベテラン議員ビュキャナンとは、政治に対する清廉潔白さという共通の価値観から深い友情を築きます。議場では激しく対立しつつも、フロレンティナが汚職の疑惑をかけられた際、ビュキャナンは真実を知らないにも関わらず彼女を擁護する声明を発表します。この党派を超えた友情は、読者の心を打ちます。
3. エキサイティングな政治的判断
副大統領時代、大統領の不在中にソ連との一触即発の事態が発生します。これまで名ばかりの存在と感じていたフロレンティナにとって、これは能力を発揮する絶好の機会でした。彼女の的確な判断と行動は、まるでキューバ危機の再来のような緊張感をもたらします。最終的にこの功績は大統領に帰されてしまいますが、その過程での彼女の奮闘は強く印象に残ります。
大統領になれるのか|結末のネタバレあり
フロレンティナは、民主党の大統領候補選挙の最終局面で策略により出し抜かれてしまいます。その結果、大統領の座を逃し、副大統領に就任します。当初、大統領は1期で辞任し、2期目にはフロレンティナを推すと約束していましたが、その約束は反故されます。しかし、その後大統領が急逝。フロレンティナが大統領に就任することが決定します。このシーンで物語の幕が閉じます。
フロレンティナが大統領に就任する年から約30年が経過しました。ですが、現実のアメリカでは未だ女性大統領が誕生していません。ジェフリー・アーチャーは、当時の社会情勢を反映し、選挙で女性が大統領になることの困難さを描いたのかもしれません。現代においても、女性大統領の実現には依然として課題が残っていることを感じさせられます。
今回は、『ロスノフスキ家の娘:下巻』についてでした。フロレンティナの政治家としての成長と挑戦を描いた作品です。ぜひ手に取ってみてください。
備忘録
最後に作中で気になった箇所や理解が難しかった言葉をまとめています。
1ページ~100ページ
20ページ:「肝胆相照らす(かんたんあいてらす)」
互いに心の底まで打ち明けて、親しく交際すること。
21ページ:「往生」
死ぬこと。
27ページ:「おりふし」
漢字で「折節」。その時々、季節。折節のあいさつ(季節のあいさつ)。
47ページ:「イスラエルのゴルダ・メイア」
イスラエルの政治家、第5代首相(在任期間 1969年 – 1974年)でありイスラエル初の女性首相。
47ページ:「インドのインディラ・ガンジー」
インドの女性政治家で第5代(在任期間 1966年 – 1977年)、第8代首相(在任期間 1980年 – 1984年)。
51ページ:「ジャーナリストのエゴはときに政治家のエゴより傷つきやすい」
フロレンティナから攻撃を受けたジャーナリストが報復するような記事を書いたことに対し、フロレンティナが抱いた感想。おもしろい表現だと思いました。
54ページ:「フロレンティナはスピーチの準備をし、……。ミス・トレッドゴールの記憶がよみがえった」
ミス・トレッドゴールドの回想シーンは嬉しくなります。
58ページ:「ラーフ・イン(Laugh In)」
1968年~1973年、コメディアンのダン・ローワンとディック・マーティンがホストのアメリカのコメディーショー。
61ページ:「ばかと国会議員は紙一重」
マーク・トウェインの言葉。
61ページ:「ジェームズ・ミッチェナー『センテニアル』」
ジェームズ・ミッチェナーは南太平洋などで知られる作家。『センテニアル』は『遥かなる西部』という題名で日本でもテレビドラマが放送されている。centennial(英語:百年ごとの、百年間の)という意味ですが、ドラマでは町の名前がセンテニアルです。
61ページ:「ロバータ・フラック『キリング・ミー・ソフトリー・ウィズ・ヒズ・ソング』」
娘のアナベルが気に入って永遠にリピートして聞いていた曲。マデリン・ベルが歌詞を変えて歌ったネスカフェのCMが日本で有名です。ただリチャードは『キリング・ミー・ソフトリー・ウィズ・ヒズ・ソング』は、あまり好きではなく娘のアナベルに違う曲にしてくれ、と頼みます。それがロバータ・フラックの『ジェシー』。フロレンティナはリチャードに出会った当初、ジェシーという偽名を使っていました。リチャードは、この曲を生涯気に入ります。
下記、ロバータ・フラック『キリング・ミー・ソフトリー・ウィズ・ヒズ・ソング』。
下記、ロバータ・フラック『ジェシー』。
80ページ:「ウェイン・ヘイズ」。元民主党下院議員。
1976年にセックスパートナーを秘書として雇っていたことが発覚し、大スキャンダルになる。
81ページ:「フォードはヘリコプターのドアに頭をぶっつけたり、飛行機のタラップを踏みはずしたりといった、間抜けな失敗ばかりくりかえしていた」
フォードは車のイメージが強く、どんな大統領かまったく知りませんでした。お間抜けだったのは、ちょっと意外でした。実際の映像はこちら。
83ページ:カーター政権の性格が次の言葉に象徴されていると感じた。「わたしは今日ここで新しい夢をかかげるつもりはない。・・・わらわれの偉大な国でさえ限界を知ったこと、われわれはすべての質問に答えることもできなければすべての問題を解決することもできないことを学んだ」。
不祥事後の政権であるカーターの言葉です。
87ページ:「ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズ、ニューズウィーク、タイム」
アメリカの主要4紙。よく忘れがちなので記録。
92ページ:「わたしは彼らを砂のなかに頭を埋めて現実を見ようとしない人々として非難します」
自分の主張を説明するための例え話。この例えがすごく印象に残りました。いつか使いたい。
94ページ:「多くの国々が歴史を通じて自由世界を護るためにそれぞれの役割を果たしてきました」
この言葉にハッとしました。自由を感じられるようになったのはたかだか50~60年のことなんだな、と。自由を護るための努力を果たしてしているのだろうか……。
95ページ:「擬していた」
見立てる、仮に当てはめてみる。
99ページ:「ただし断わりの手紙のおしまいに手書きで一行つけくわえることを忘れないように」
このちょっとした心遣いは、実際にもらうと嬉しいので参考になります。
100ページ~200ページ
103ページ:「アポロ11号のレプリカ」
イギリス出身のマーガレット・サッチャーが下院の自分の机の上にアメリカのアポロ11号の模型を置いていたそう。どこの国のものであれ、優れたものはよいものだということをすべての人々に知ってもらうため、との意図があったみたいです。
131ページ:レーガンがカーターに勝利した実際の選挙の様子が載っています。
フィクションとノンフィクションの混ぜ方が巧みです。
168ページ:「政治を心底嫌いになる瞬間と、愛する瞬間の対比」
どんなに好きなことでも、嫌いになる瞬間があるというのは、多くの人が共感できる点だと思います。
169ページ:「シーザーの引用」
ジュリアス・シーザーの言葉はさまざまな書籍で引用されますが、本作でも効果的に使われています。
171ページ:「世論調査の誤り」
世論調査では「女性に投票しない」と答えた男性が、実際にはフロレンティナに投票していたというエピソード。これは、ドナルド・トランプの選挙時の「隠れトランプ支持者」の存在と似ています。世論調査が必ずしも正確でないことを示す興味深い例です。
175ページ:「ミス・トレッドゴールドは献身と良識で教育していた」
教育者としての理想的な姿勢に共感しました。
177ページ:「ミス・トレッドゴールドは、フロレンティナから贈られた株券に手を付けなかった」
彼女は教育者として、フロレンティナを生涯見守り続けました。人を教えるとは、こういうことなのかもしれません。
184ページ:「信義の人」
ニューヨーク・タイムズ紙がフロレンティナをこのように評価しました。政治家には信義を尽くしてほしいと強く感じます。その後、夫リチャードが事故で亡くなります。フロレンティナがハーバードの卒業スピーチを行っている最中の出来事です。予感はありましたが、リチャードの存在感が急になくなり悲しさが募りました。
200ページ~
207ページ:「濫費(らんぴ)」
無駄遣いのこと。
212ページ:「退役軍人の不正受給問題」
実際にあったようですが、本作では軍人が被害者として描かれています。しかし、実際には不正に関与した軍人もいたようです。
212ページ:「有卦(うけ)」
運が向いてきて、良いことが続くこと。
218ページ:「Happy Days Are Here Again」。大統領の登場で使用された曲。
この辺りから、出版年より未来の話になるため、大統領の名前が明かされなくなります。
219ページ:「政治家を表す二つの単語、politicianとstatesman」
Politicianは私利を目的とする「政治屋」を意味することが多い。それに対し、statesmanはリーダーシップや優れた識見を持つ政治家を指す。
220ページ:「大統領万歳」
曲名。
238ページ:「あの女は金を持ちすぎている」
男性の女性候補に対する投票行動の分析。女性に絶対投票しないというわけではなく、金持ちの女性に投票しないという分析です。
240ページ:世界中の大統領選のニュースに関する記述で東京が登場。
日本が登場すると嬉しくなります。
241ページ:「例外なく女性の方が冷淡だった。そのくせ、みんな候補者にちやほやされて有頂天になっている様子が手に取るようにわかった。」
女性候補に対する有権者の行動。本当かな……と思いました。
244ページ:民主党のシンボルはロバ、共和党のシンボルはゾウ。
247ページ:「エアフォース・ツー」
大統領専用機の「エアフォース・ワン」のように、副大統領には「エアフォース・ツー」が割り当てられています。
248ページ:「披瀝(ひれき)」
心の中の考えを包み隠さず打ち明けること。
255ページ:「人々の大部分は爪がなくなっていた」。
拳を固く握っていることのたとえ。しばらく意味がわかりませんでした。
268ページ:選挙人制度についての記述あり。
やはり選挙人制度は不思議です。
272ページ:民主党支持のハリウッドスターとして、ダスティン・ホフマン、アル・パチーノ、ジェーン・フォンダのビッグネームがそのまま掲載されています。
275ページ:「無聊(ぶりょう)」
退屈のこと。
275ページ:「びっこのアヒル議会」
レームダックのこと。選挙で落選し、まだ在任期間が残っている現職議員のこと。
276ページ:「鸚鵡(おうむ)」
漢字にするとすごい……。
279ページ:「バケツいっぱいの唾にも値しない」。
ジョン・N(ナンス)・ガードナー(副大統領:1933年–1941年、当時の大統領はフランクリン・ルーズベルト)の副大統領職に対する言葉。仕事らしい仕事がほとんどなかったことを表しています。
以上、最後に気になった部分の紹介でした。エンタメ作品に関してはこちらもご覧ください。
映画、テレビ、海外ドラマ、アニメ、本などエンターテイメントで感動したものを紹介します。

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