ジェフリー・アーチャー著『ケインとアベル』詳しい内容 - アベル編
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『ケインとアベル』の内容は?
ケインの人生はどう進む?
詳しい内容は?

『ケインとアベル』は、ジェフリー・アーチャー原作の大河小説です。物語は、ウィリアム・ケインとヴワデグ(後のアベル・ロスノフスキ)の対立、互いの歩んできた波乱万丈な人生が描かれています。本記事は、アベル・ロスノフスキに焦点を当て、物語を詳しく解説します。

記事を書いているのは……

元劇団四季、テーマパークダンサー。年間100公演ほど舞台を観に行ったことのある劇場フリーク。小説は映画化されているものを読むことが多く、映画との違いを楽しんでいます。

※ 3分ほどで読み終わります。

作品について

ジェフリー・アーチャー著『ケインとアベル』(1979年出版)は、上下巻合計で1,000ページほどの作品です。長いですが、文章はとても読みやすいです。

  • たまたま1906年4月16日に生まれたウィリアム・ケインとヴワデグ・コスキエヴィッチ(後のアベル・ロスノフスキ)が主人公

上巻では青年期に出会うまでスリリングに描かれ、下巻では2人の対立が激化していきます。全体の内容はこちらで紹介しています。

ジェフリー・アーチャー著『ケインとアベル』(1979年出版)あらすじ・感想

  • ウィリアム・ケインのストーリー

    • ボストンの名家に生まれ、恵まれた環境で育つ
    • しかし、その人生は波乱に満ち、数々の困難に直面する
    • こちらの記事で詳しく紹介中

ジェフリー・アーチャー著 小説『ケインとアベル』詳しい内容 - ケイン編

  • アベルのストーリー

    • 過酷な少年時代を送り大陸を横断し、海を越える冒険を経験する

僕は最初、アベルのストーリーに強く惹かれましたが、読み進めるうちにウィリアムの物語にも次第に心を奪われるようになりました。どちらの物語も甲乙つけがたい魅力があり、読者はきっと自分の好みに合わせて、どちらかに肩入れしてしまうと思います。

ここからは、アベルについて詳しく紹介していきます。

ヴワデグ・コスキエヴィッチからみた『ケインとアベル』

登場人物

  • ヴワデグ・コスキエヴィッチ:主人公、東ポーランド出身(のちのアベル・ロスノフスキ)
  • フロレンティナ:ヴワデグの姉で仲がいい
  • ロスノフスキ男爵:ヴワデグの住む地域の領主
  • レオン:ロスノフスキ男爵の息子
  • 家庭教師たち:レオンの先生

ヴワデグは、東ポーランドで猟師の子供として拾われます。小さな家に大勢で暮らすコスキエヴィッチ家は、本来なら血のつながらない子供を育てる余裕はないはずでしたが、母と一番上の姉フロレンティナがヴワデグを気に入りました。というのも、ヴワデグには生まれながらに乳首がひとつしかなく、母はこれを神の印とし運命的なものを感じたのです。

この地域は、ロスノフスキ男爵の城を中心に村人たちが生活しています。ヴワデグはコスキエヴィッチ家のほかの子供たちとは異なり、勉学に秀でていました。その噂を聞きつけたロスノフスキ男爵は、ひとり息子レオンの成長に競争相手がいないことを心配し、ヴワデグを学友として迎え入れる提案をしました。この時、ヴワデグのしたたかさが発揮されます。大事なお姉さんフロレンティナをどうにかしてお城へ連れて行こうと、持ち前の機転を活かして男爵にサラリと交渉し、見事に成功します。

その後、ヴワデグはレオンの学友としてお客様扱いされ、親友となったレオンとともに贅沢な暮らしを堪能します。一方、フロレンティナは下働きながらも共に楽しい時を過ごし、ヴワデグはもはやコスキエヴィッチ家への未練を完全に断ち切ったのでした。

第1次世界大戦の始まり

  • 第1次世界大戦が勃発し、ドイツ軍が侵攻する。
  • この時、レオンがヴワデグを救うために命を落とす。

しかし、第1次世界大戦が勃発。ドイツ軍が侵攻してくると、ヴワデグにとって悪い運命が襲います。この時、レオンはヴワデグを助けるために命を落としてしまいます。亡くなったレオンの方が幸せと錯覚させるほど、ヴワデグは激しい試練に直面することになります。城は占領され、ヴワデグや城で働く人々が捕らえられ、地下牢で4年間の幽閉生活を余儀なくされます。すべてを失ったロスノフスキ男爵は精神的に追い詰められます。代わりにヴワデグが「どんな状況でも生き抜く力」を発揮し、彼が地下生活の精神的支柱となります。

男爵の秘密と遺言

4年間の幽閉生活は自由を奪い、食糧も十分に得られないため、地下牢の住人たちは次第に減少していきます。そして、ついにロスノフスキ男爵にその時が訪れます。最後にヴワデグを呼び寄せ、自らの服をめくります。男爵には乳首がひとつしかありません。実は、身体的な特徴からヴワデグは男爵の私生児であることが判明します。自分の息子と確信した男爵は、「ロスノフスキ家のすべてをヴワデグに譲る」という遺言を残します。このとき家庭教師2人を証人とし、美しい銀の腕輪をヴワデグに手渡した後、息を引き取ります。

  • ドイツ軍に代わってソ連軍が侵攻。
  • ソ連軍はドイツ軍より残忍で、ヴワデグたちは極東ソ連まで連行され強制労働に従事させられる。

4年後。城の外では銃撃戦が始まります。ポーランド軍が救援に来たのかと思われた矢先、ドイツ軍と入れ替わるようにソ連軍が侵攻してきます。ソ連軍はドイツ軍よりも残忍で、ヴワデグたちは極東ソ連まで連行され、強制労働に従事させられる運命に陥ります。この時、若い女性たちがソ連軍の餌食となる姿はあまりに残酷です。ヴワデグが姉として慕い、初恋のような感情を抱いていたフロレンティナも、ソ連軍兵士に強姦され、そのまま息絶えてしまうという耐え難い悲劇が描かれます。

一生の傷

失意の中、ヴワデグたちは逃げ出すこともできず、シベリアへ連行されます。列車での移動中、ヴワデグは他の労働者にナイフで襲われ、太ももを刺されてしまいます。適切な医療を受けられず、一生片足を引きずる後遺症が残ってしまいます。シベリアに到着した時、ヴワデグはわずか12歳でした。

スリリングな逃亡劇

ヴワデグは人生を取り戻すため、シベリアからの脱出を決意します。ハラハラさせ、スピード感あふれる展開が印象的です。どんなに悲惨な状況でも、そこには救いの光が差し込み、優しさがズシリと響きます。ヴワデグを助ける温かい人々が次々と登場します。

登場人物

  • フランス人医師:脱出計画を立て、捕虜ながらも善意でヴワデグを支援
  • ロシア人の女性:モスクワでヴワデグを助け、息子として育てたいと語る
  • ロシア人の少年:スリ仲間としてヴワデグと心を通わせ、共に生活
  • イギリス大使館の高官:ヴワデグの銀の腕輪に惹かれ、彼を救出
  • ポーランド領事:ヴワデグにアメリカ行きを決意させる

最悪の状況に転落したヴワデグの人生に、フランス人医師が関わることで希望が見えてきます。医師自身も捕虜ですが、自分のための脱出計画をヴワデグに全て託します。純粋な善意です。ヴワデグはお礼として、かつて男爵からもらった美しい銀の腕輪を差し出しますが、医師は「いつかヴワデグの役に立つ」と優しく断ります。

その後、ヴワデグはシベリアからモスクワ行きの列車に忍び込みます。ですが、列車内では身分証明書のチェックが行われます。ここで、ロシア人の女性がヴワデグを自分の息子だと嘘をつき、モスクワでは彼に食事や服を提供します。久しぶりの入浴、久しぶりのベッド。枕では寝られなくなっているヴワデグ。この女性が息子として育てたいと語る姿に心が温まります。しかし、残念ながら彼女の旦那さんがヴワデグを追い出してしまいます。その後、ヴワデグはロシアの最西端までたどり着き、そこで出会ったロシア人の少年とスリを行いながらしばらく生活を共にします。とはいえ、ヴワデグの目的地はトルコであり、少年に引き止められても決意は変わりません。少年の助けを借りて無事に船に乗り込みトルコへ向かいます。船の倉庫に潜むネズミに苦しめられながら、やっとの思いでトルコに到着します。

フランス人医師から受け取っていたお金が紙切れ同然だったため、ロシアで身につけたスリの技術を活かし、食欲を満たそうとします。オレンジを盗んでしまったヴヴワデグ。しかし、この盗みがバレてしまい、ヴワデグは捕まってしまいます。イスラムの厳格な掟により、手を切り落とされそうになる中、たまたまイギリス大使館の高官に助けられます。この高官はヴワデグの銀の腕輪に惹かれ、彼を救い出し、イギリス大使館まで連れて行ってくれます。そこで、食事や洋服、寝る場所が提供されます。中でも、スコットランド人の女性が作る温かい食事のシーンは、じんわりと染み渡ります。そして、ポーランド領事館まで連れて行ってもらい、ついに脱出に成功するのです。

アベルとしての新たな出発

登場人物

  • イェジー・ノヴァク:ポーランド出身で親友となる。アメリカでは「ジョージ」と名前を変え、生きる決心をする
  • ザフィア:ポーランド出身の可愛い女性。初恋に落ちる

本来は故郷に戻りたかったものの、不可能だと悟ります。こうして故郷を捨て、新たな人生をアメリカでやり直す決意を固めます。ニューヨーク行きの船では、同郷のポーランド人たちと出会い友情が芽生えます。イェジーは、これまでヴワデグとは縁が薄かった色恋や人生の知恵を教えてくれる存在です。「ジョージ」という名で新生活を始める覚悟を決めています。そして、美しいザフィアと出会い、初めての恋を経験します。

入国時、名前を確認されるヴワデグ。いつまでも答えることができません。そのとき係官が彼の銀の腕輪に刻まれた「アベル・ロスノフスキ」という文字を見つけます。こうして、ヴワデグはロスノフスキ男爵の名前を与えられ、アベルとして新たな生活を始めるのでした。

プラザホテル

登場人物

  • デーヴィス・リロイ:リッチモンド・ホテル・グループの総支配人

ジョージの知り合いのもとで働いていたアベルは、その要領の良さを発揮してプラザホテルの職を手に入れます。さらに、働きながら学校に通い、能力をどんどん高めていきます。プラザホテルのレストランでウェイターとして働いていると、要人たちが会社の情報をやり取りしていることに気づきます。この情報を利用し、株で儲ける手腕を発揮します。そんな中、リッチモンド・ホテル・グループの総支配人デーヴィス・リロイの目にアベルの働きぶりが留まります。シカゴのホテルの副支配人として彼をヘッドハンティングします。

ケインとの偶然の出会い

そして、高校を卒業したウィリアム・ケインが家族と共に食事会を開いています。そこに給仕として現れるアベル。美しい銀の腕輪がウィリアムの印象に残ります。2人はお互いに「この人物はどんな人なんだろう……」という印象を抱きます。これが彼らの初めての出会いとなります。

以上、『ケインとアベル』上巻におけるアベル・ロスノフスキの物語の紹介でした。アベルの持つ人間としての魅力が、厳しい状況下でも周囲の人々を引き寄せ、救いの手となります。ヴワデグの逃走劇は、生まれたときから彼の人生に関わったすべての人々のおかげで、ようやくニューヨークに辿り着けたと感じさせます。出会った人々とのやり取りがズッシリと胸に響き、こんなにも美味しい食事やありがたいベッド、日常の素晴らしさを実感させられます。

それぞれ 1,000円ほどです。とにかくおもしろいので、ぜひ読んでほしいです。

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