初めてのバレエ鑑賞『白鳥の湖』:プティパ・イワーノフ版(ストーリー・解説)
jazz

『白鳥の湖』の内容は?
初心者でも楽しめる?
見どころは?

バレエといえば、『白鳥の湖』です。

世界中のバレエ団が必ず持っている作品で、バレエ団によって内容が微妙に変わります。

映画『ブラックスワン』でナタリー・ポートマンが憧れたように、主役のオデットとオディールはバレリーナが絶対に踊りたいと思う役柄です。

記事を書いているのは……

元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります。

kazu

今回は、『白鳥の湖』の初心者でも楽しめる作品解説です。

※ 3分ほどで読み終わります。

日本は『白鳥の湖』大国?

日本はとにかく『白鳥の湖』が多く上演されている国です。

下のグラフは日本でよく上演される『白鳥の湖』『くるみ割り人形』『ドン・キホーテ』の日本での公演回数の記録です。

『白鳥の湖』と『くるみ割り人形』が頭ひとつ飛び抜けています。(この公演回数の統計はバレエスクールの発表会は含まれていないので、上演回数はもっと多いと思われます)

日本での「白鳥の湖」「くるみ割り人形」「ドン・キホーテ」の上演回数の比較

「SHOWA ACADEMIA MUSICA」より

日本でバレエを観に行くと必ず『白鳥の湖』に出会うことになります。

ひとり2役

「バレエダンサーが白鳥を表現する」

このアイディアにまず驚かされます。

主役のバレエダンサーは白鳥オデットだけでなく、悪役の黒鳥オディールの両役を演じます。

ひとり 2役という難役です。

白鳥オデット:ゆったりと穏やかな表現
黒鳥オディール:スピード感あふれる鋭い踊り

正反対の役柄です。

オデット・オディールともに同じ振付が登場します。ですが、踊り方・音のとり方が違うだけで印象が大きく変わります。

ダンサーはオデットタイプとオディールタイプに分かれるのですが、正反対の個性をまるで別人のように表現できるダンサーがいます。そんなとき、会場は盛り上がります。

32回フェッテ

黒鳥オディール最大の見せ場が、32回連続で回るグラン・フェッテです。

グラン・フェッテ

グラン・フェッテ・ロン・ド・ジャンブ・アン・トゥールナン:仏語( grand fouetté rond de jambe en l’air en tournant en dehors )

グラン:大きな
フェッテ:鞭で打つ
ロン・ド・ジャンブ:円を描く
アン・トゥールナン:回転する

「フェット」「グラン・フェッテ」と呼ばれることが多い

途中で2回転を挟むことができれば「スゴい!!」という時代もありました。

ですが、ダンサーのテクニックが強くなり、3回転、それ以上回れるダンサーも出てきています。

もっとフェッテが見たい場合、youtubeで「fouettes」と検索してみてください。

「super fouettes」と検索するとスーパーフェッテが見られます。

『白鳥の湖』とは

『白鳥の湖』はとにかく様々なバージョンがあります。

ハッピーエンド版、バッドエンド版、時代設定が現代になっているもの、イギリス王室を舞台にしたもの、男性だけの白鳥、などなど。

初演は大失敗

1877年が初演です。ですが、現在踊られている『白鳥の湖』は、1895年版をもとにしています。

というのも1877年版は、ダンサー、振付師、指揮者に恵まれなかったため、評価を得られず、お蔵入りしてしまいました。

復活:1895年1月15日

ロシア:マリインスキー劇場バレエ団

振付:マリウス・プティパ(第1幕、第3幕)、レフ・イワノフ(第2幕、第4幕)
音楽:チャイコフスキー

1894年、チャイコフスキーが亡くなってから 1年後、1周追悼ついとう公演で 第1幕 第2場のみ 新たに作り変えられました。

そして 1895年、マリウス・プティパが第1幕・第3幕を振付、レフ・イワノフが第2幕・第3幕の一部・第4幕を振付し完全復活しました。

この際、1877年版から曲順が変更されます。曲もカットされ、大幅に改変されました。

ストーリーの流れ

様々なバージョンがあるものの、おおまかな流れは共通しています。

ストーリーの流れ

第1幕 … ジークフリート王子の成人のお祝い
第2幕 … オデット姫とジークフリート王子の出会い
合計(70分)

第3幕(40分)… オディールにジークフリート王子がだまされる
第4幕(25分)… 悪者を倒しハッピーエンド

3幕構成の場合もあります。その場合は、第1幕が 2つに分かれます。

3幕構成の場合

第1幕 第1場 … ジークフリート王子の成人のお祝い
第1幕 第2場 … オデット姫とジークフリート王子の出会い
第2幕 … オディールにジークフリート王子がだまされる
第3幕 … 悪者を倒しハッピーエンド

このように数字がズレます。

登場人物

登場人物

オデット:白鳥の呪いをかけられた美しい王女
ジークフリート王子:成人したばかりの王子
オディール:黒鳥。オデットに化けて王子をだます
ロットバルト:オデットに一目惚れし、呪いをかける猛禽類もうきんるいの鳥。オディールの父
女王:ジークフリート王子を女手ひとつで育てる

あらすじ

とある王国の王女オデットの部屋。オデットに一目惚れした悪魔ロットバルトが白鳥に変え、連れ去ってしまう。

第1幕

ジークフリート王子の成人の祝いが開かれる。女王から、明日の舞踏会で結婚相手を見つけるよう提言される。

結婚にピンと来ない王子。悩みを振り払うように狩りに出かけていく。

第2幕

湖に到着した王子は美しい白鳥を見つける。その白鳥が夜になった瞬間、美しい王女オデットに変身する。ひと目で恋に落ちてしまう王子。人間になったオデットは最初は怖がっていたものの、王子に惹かれていく。

オデットは昼は白鳥、夜に人間に戻る呪いにかけられている。呪いを解く方法は、まだ誰も愛したことのない男性に愛を誓ってもらうこと。王子はオデットを助けることを決意。

夜通し語り合う 2人。しかし、朝になると呪いでオデットは白鳥に戻ってしまうのだった……。

第3幕

王宮で王子の結婚相手を見つける舞踏会が開かれる。各国から招かれた王女たち。しかし、王子はオデットのことを忘れられない。そんなとき、オデットが舞踏会にやってくる。

違和感を感じるものの、オデットの登場に喜ぶ王子。実はこのオデットはロットバルトの娘オディールが変装した姿だった。

王子はオディール相手に永遠の愛を誓ってしまう。

第4幕

王子はオデットに許しを請いに行く。もう呪いが解けないことを知ったオデット。そして、邪魔をするロットバルト。

王子とロットバルトの戦いが始まる。死闘の末、ロットバルトに勝利する王子。

オデットの呪いが解かれ、2人は幸せに暮らすのでした。

チャイコフスキー

チャイコフスキーのような交響曲を作曲できる音楽家が初めて取り組んだバレエが『白鳥の湖』です。

それまでもバレエの作曲家はいましたが、チャイコフスキーの登場で評価がガラッと変わります。

チャイコフスキー

ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー( Peter Ilyich Tchaikovsky)
1840年5月7日 – 1893年11月6日
『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』はチャイコフスキーの三大バレエと呼ばれる

意欲作でしたが、初演の失敗でかなり落ち込んでしまいます。

ですが、音楽は残り続けます。

音楽の特徴

白鳥のテーマとなるフレーズが各所に配置されているので、観客がすんなり世界に入り込める構成になっています。

第1幕:王子の現実世界
第2幕:白鳥の幻想世界
第3幕:王宮の現実世界
第4幕:白鳥の幻想世界

場面の切り替えで同じフレーズが登場します。こちらです。

パリ・オペラ座バレエ団より。アニエス・ルテステュ、ジョゼ・マルティネスです。

このフレーズが、第1幕の最後、第2幕の最後、第3幕の最後、第4幕の最後に登場します。

また、第1幕・第3幕の現実世界の始まりは、激しめの音楽で現実世界に引き戻します。

過去の作品からの引用

チャイコフスキーは別のオペラ作品で作った楽曲を再度『白鳥の湖』で採用しています。

例えば、第2幕の王子とオデットのパ・ド・ドゥ(2人で踊ること)です。

マリインスキー・バレエ団より。ウリヤーナ・ロパートキナ、ダニーラ・コルスンツェフです。

オペラ『ウンディーナ』から引用されています。

続いて、第4幕の王子がオデットに許しを請うシーンです。

パリ・オペラ座バレエ団より。ユーゴ・マルシャンです。

オペラ『地方長官』からの引用です。

失敗作とされた作品の中から、印象的な曲を勝負所で引用しています。

なぜジークフリート王子はオデットとオディールを間違える?

基本的に古典バレエに登場する男性の主役はどことなく情けないです。

脚本の中でいちばん理解が難しいのは、「なぜ王子がオデットとオディールを間違えるのか」という部分です。

ですが、こんな考え方があります。

「好きな人の顔を意外と覚えていないことがある」。

言いえて妙なのが、この話(1:23~)。

とはいえ、王子には「性格で気づけよ」という疑問は残ります。

ちなみに動画の中に登場するマルセル・プルースト作『失われた時を求めて』は、ローラン・プティ振付、パリ・オペラ座バレエ団でバレエ化されています。

評価される日本人の表現

ジークフリート王子のダメっぷりがかなり目立つ作品です。

好きになった相手を間違えてしまう王子。

オデットは悲劇のヒロインとして表現されます。

この表現に大きな変化を起こしたのが、森下洋子さんのオデットと言われています。

森下さんは日本だけでなく世界中で評価され、世界各地で踊っています。森下洋子さんはテクニックがすごく、さきほど紹介したフェッテで 2回転を入れることができたダンサーです。

当時は 2回転を入れられるダンサーはかなり少なく世界で 5人ほどと言われていました。そんなテクニックの強い森下洋子さんですが、黒鳥オディールだけでなく白鳥オデットでも大きな評価を得ていました。

評価されたのは最終シーンです。

「白鳥オデットがジークフリート王子を許す」という表現

約束を破った王子を恨むことなく大きく包み込み、オデットは自分の運命を受け入れます。

この表現は海外で大きな衝撃をもたらしました。物語に深みが出て、単純なストーリーである『白鳥の湖』をさらに芸術性の高い作品に変化させた出来事でした。

ちなみにこの話はバレエ漫画『スワン』に登場しています。

元祖バレエのスポ根マンガです。

オススメDVD

『白鳥の湖』の王道は、初演を行ったマリインスキー・バレエ団です。今は引退してしまいましたが、20年ほど『白鳥の湖』を踊らせるならこの人というダンサーがいました。

それがウリヤーナ・ロパートキナです。

2,000円ほど。円熟期のウリヤーナ・ロパートキナとダニーラ・コルスンツェフによる名演です。

僕も実際に見たことがありますが、舞台全体の空気がピリッとしていて緊張感のある『白鳥の湖』です。日本でもかなりの人気を誇っていました。

バレエ団それぞれに特徴を持つ『白鳥の湖』。ぼくはオーストラリア・バレエ団の『白鳥の湖』が一番好きです。

kazu

以上、初心者のためのバレエ『白鳥の湖』でした。
ありがとうございました。

バレエ作品に関してはこちらにまとめていますので、ぜひご覧ください。

参考:林愛子・林田直樹著『バレエ おもしろ雑学辞典』