【TDL10周年】伝説のショー『イッツ・マジカル!』を徹底解説:演出家・渡海一博氏の哲学とは
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この記事からわかる3つのポイント
  • 伝説のショー『イッツ・マジカル!』の全貌と、17分間に凝縮された「王道の構成」
  • 日本人クリエイターが主導した「日本発」の物語と、心に深く刻まれる演出哲学
  • 当時の熱狂とバックステージの真実を呼び覚ます、貴重なアーカイブ映像の紹介

東京ディズニーリゾートには長い歴史があり、数え切れないほどのショーが上演されてきました。その中でも、僕の人生において最も鮮烈な記憶として残っているショー、それが10周年のキャッスルショー『イッツ・マジカル!』です。

小学生の頃、城前で繰り広げられたあの魔法の世界。それがきっかけで僕はダンスの魅力に取り憑かれました。

なぜ、このショーがこれほどまでに心を動かしたのか。そこには、日本を代表する演出家・渡海一博(わたるみ かずひろ)さんの深い哲学が流れていました。

今回は、東京ディズニーランド『イッツ・マジカル!』(10周年のキャッスルショー)を深堀りして紹介します。

記事を書いているのは……

元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります。

※ 3分ほどで読み終わります。

運命を変えた面接:ディズニーダンサーへの道

ディズニーダンサーのオーディションは、書類審査と2回のダンス審査を突破した先に、第3次審査として「面接」があります。そこで必ず聞かれるのが「好きなショーは何ですか?」という質問です。正直に言えば、回答の内容自体が合否に直結することはないかもしれません。

僕は迷わず『イッツ・マジカル!』と答えました。プロを目指す原点となったその想いを語ったことが、結果として合格を引き寄せてくれたのだと今でも信じています。

こちらの映像は、マレフィセントを倒した直後からの展開が不完全な状態となっています。本来であればミッキーたちのキャラクターボイスと共に、ステージを埋め尽くすほどのディズニーフレンズが一斉に登場する「グランドフィナーレ」へと続きます。

『イッツ・マジカル!』

10thアニバーサリー・スペクタキュラー
『イッツ・マジカル!』

開催期間 1993年4月15日 ~ 1994年4月14日
開催場所 シンデレラ城前特設ステージ
メインテーマ曲 Join In(ジョイン・イン)
総出演者数 圧巻の100名
メインキャラ ミッキー、ミニー、ドナルド、グーフィー、プルート、チップ、デール、マレフィセント
ダンサー内訳 女性48名 / 男性15名 / スティルト(足長)12名
出演キャラ シンデレラ、チャーミング王子、オーロラ姫、フィリップ王子、アリス、ホワイトラビット、ピーターパン、ウェンディ、ピノキオ、ゼペット、ジミニー・クリケット、白雪姫、七人の小人(ドック、グランピー、ハッピー、スリーピー、バッシュフル、スニージー、ドーピー)
※東京ディズニーランド開園10周年を記念して制作された、史上最大級のキャッスル・スペクタクル。

東京ディズニーランド10周年を記念して行われた、壮大なスケールで繰り広げらるショーです。

このショーが歴史的なのは、本国アメリカのショーをそのまま持ってくる形式から脱却した点にあります。オリエンタルランドの制作チームが主導権を握り、日本のゲストのためにゼロから物語を構築しています。

その中心にいたのが、当時エンターテイメント本部のショー制作部長という、日本側制作の総責任者の立場にあった、渡海一博さんです。

主要制作スタッフ

当時のプログラムや資料に基づくと、日米の精鋭が集結しています。

『イッツ・マジカル!』主要制作陣

日米の才能が結集したクリエイティブ・チーム

総合プロデューサー:渡海 一博(オリエンタルランド)
日本側制作の総責任者。物語のコンセプトや日本独自のドラマ性を主導しました。
演出・振付(Director & Choreographer):ロイ・ルースリンガー(Roy Luthringer)
ディズニー・エンターテイメント側のトップクリエイター。キャッスルショー特有のダイナミックな構成とジャズダンスの振付を担当。
演出助手(Assistant Director):中間 裕子
ロイ氏の意図を現場のダンサーやスタッフに浸透させる架け橋となり、日本側の演出実務を支えていました。後の『ブラヴィッシーモ!』の単独演出、『ビッグ・バンド・ビート』のクオリティを維持し続けるレジデント・ディレクター(常駐演出家)としての役割を担っていました。
音楽・作詞
  • 音楽(Music):ブルース・ヒーリー(Bruce Healey)
    「Join In」をはじめとする壮大な楽曲を手掛けたディズニー音楽の巨匠。
  • 作詞(Lyrics):サラ・ウィークス(Sarah Weeks)
マジック・デザイン(Magic Consultant):ジム・スタインメイヤー(James Steinmeyer)
マレフィセントが巨大なドラゴンに変貌する仕掛けや、ミッキーの消失・出現などのイリュージョンを設計した世界的マジシャンです。

日米共同制作:演出のベースや技術的なサポートはアメリカ側が提供しています。ですが、ストーリーの起承転結、特に「日本人の琴線に触れる劇的な展開」については渡海氏を中心とした日本チームが強く主張しました。

普遍的でシンプルなストーリー

『イッツ・マジカル!』は、たった17分でありながら、驚くほど壮大な内容です。現在の東京ディズニーリゾートではなかなか見られなくなってしまった勧善懲悪(かんぜんちょうあく)を描いているショーであり、ディズニーの基本形とも言える、かつての王道ショーです。

その構成は、まさに以下の「王道ショーの流れ」を完璧になぞっています。

王道のショーの流れ(構成)

1. オープニングダンス
2. メインキャラクター登場
3. 悪者の登場(ヴィランズ・パート)
4. 対決
5. ミッキーの勝利
6. 大団円
7. それぞれが挨拶して去っていく
8. 最後にメインキャラクターが挨拶して終わる

演出の哲学:ドラマチックな「色彩」と「変容」

渡海さんの演出哲学で特筆すべきは、ショーを単なるキャラクターのグリーティングではなく、一つの演劇作品として捉えていた点です。

「キャラクターが踊るだけではゲストの記憶に残らない。心に深い感動を残すには、強いドラマが必要だ」という考えを持っていました。

その哲学が最も色濃く反映されているのが、マレフィセントによる色の喪失です。ショー中盤、マレフィセントがステージをモノトーンに変えてしまう演出は、それまでのディズニーショーにはなかった絶望と恐怖を鮮明に描きました。色が消える衝撃と、その後のミッキーによる魔法の復活は、今なお語り継がれる名シーンです。

絶望の後に、音楽と共に一気に色彩が戻る瞬間は、日本の伝統芸能(歌舞伎のケレン味など)にも通じる劇的な視覚効果を狙ったものでした。

パフォーマーの視点

このショーは、アイディアに溢れた衣装や、ダンスも見どころです。ショー冒頭にはダンサーだけのシーンがあります。選ばれしオープニングダンサーに加え、このショーでは男性ダンサー1名がシンガーの役割も持っています。ダンサーにとっても憧れるようなシーンを作った点も素晴らしいショーでした。

渡海さんは、エンターテイナーは単なるダンサーではなく「役者」であるべきだと説いていました。この考えがディズニーダンサーの基本となっています。

渡海一博さんが手掛けた主なショー

渡海さんがショー制作部長や制作責任者として関わった作品は「黄金期」と呼ばれるラインナップです。

10周年
『イッツ・マジカル!』(キャッスルショー)
15周年
『ディズニー・カーニバル』(パレード)/ 『ビバ!マジック』(キャッスル・ショー)
20周年
『ミッキーのギフト・オブ・ドリームス』(キャッスルショー)
20周年
『ディズニー・ドリームス・オン・パレード』(パレード)
東京ディズニーシー開園期
『ポルト・パラディーゾ・ウォーターカーニバル』や、後の『レジェンド・オブ・ミシカ』の立ち上げにおける制作管理。

アメリカへ渡る

その完成度の高さから、フロリダのウォルト・ディズニー・ワールド(WDW)やカリフォルニアのディズニーランドなど、本国アメリカのパークへこのショーのコンセプトや楽曲が輸出されました。

日本のパーク独自のドラマチックな演出が本家ディズニーに正式に採用された、エンターテインメント史においての成功例です。

『Splashtacular』:スプラッシュタキュラー

1993年11月から1994年3月までフロリダのエプコットで上演された、『イッツ・マジカル!』の楽曲とコンセプトをベースにしたショーです。

マレフィセントの代わりに巨大な恐竜型ロボットが登場し、噴水をふんだんに使ったダイナミックな演出がアメリカらしいスペクタクルを生み出しました。

『Magical』:Disney’s New Nighttime Spectacular

カリフォルニアのディズニーランドで2009年から2014年まで公演された花火ショー『Magical』では、楽曲が使用されました。日本の10周年のメロディが、時を超えて本家カリフォルニアの夜空を彩ったという事実は、当時の制作陣のクオリティがいかに世界基準であったかを物語っています。

知られざる舞台裏:伝説の密着特番

10周年の裏側で、パフォーマーたちがどれほど過酷な練習を積み、プライドを持ってステージに立っていたか。それを鮮明に記録した貴重な番組がありました。

フジテレビの『今夜は好奇心!』という番組です。

1時間の放送枠のうち、約10分間にわたってショーの制作舞台裏が特集されました。当時のパークにおいて、カメラクルーがバックステージにここまで深く潜入するのは極めて異例なこと。僕は今でも、当時録画したビデオを大切に保管しています。

『今夜は好奇心!』
司会:愛川欽也、笠井信輔(当時フジテレビアナウンサー)
ナレーション:内海賢二(則巻千兵衛(のりまきせんべえ)などの声優)

映像には、大人数で一斉に踊ると床が左右に波打つように揺れるという、今や伝説となった旧リハーサルルームでの光景や、閉園後のパークで深夜まで繰り返される過酷な練習風景が収められていました。

渡海さんが説いた「エンターテイナーは単なるダンサーではなく、役者であれ」という哲学。それを体現しようとする当時のパフォーマーたちの姿は、何年経っても色褪せることはありません。

NHKでの特番『 ミッキー&舞ちゃんの魔法のクリスマス 』

NHKの人気番組『ひとりでできるもん!』や『天才てれびくん』と、東京ディズニーランドが全面コラボした伝説の特番です。『イッツ・マジカル!』を軸にオリジナルストーリーを展開する贅沢な構成で、当時のパークの熱量をそのままパッケージしたような内容になっています。

『ワン・マンズ・ドリーム』『ロジャーラビットのダンシンタイムワープ』『クリスマスのパレード』も楽しめます。

Part 1:魔法の幕開け

「舞ちゃんの魔法のクリスマス:Part1」(動画 1:35~8:17:『イッツ・マジカル!』の前半部分を見ることができます。)

番組のプロローグから「イッツ・マジカル!」の前半部分をたっぷりと堪能できます。NHKのカメラが捉える城前のステージは、今見ても圧倒的な華やかさです。

Part 2:カントリーベア・シアターの冬の風物詩

「ミッキー&舞ちゃんの魔法のクリスマス:Part2」

現在もクリスマスシーズンに愛されている『ジングルベル・ジャンボリー』が登場。変わらない伝統の良さを再確認させてくれます。

Part 3:今や貴重なロジャー・ラビットの雄姿

「ミッキー&舞ちゃんの魔法のクリスマス:Part3」

現在、パーク内ではアトラクション『ロジャーラビットのカートゥーンスピン』にその名を残すのみとなったロジャー・ラビット。当時はショーやグリーティングでも大活躍していました。

特に素晴らしいのが、ダンスの変遷を辿るショー『ロジャーラビットのダンシンタイムワープ』。バブル時代の熱気を感じさせるパワフルなパフォーマンスは、まさに「勢い」そのものです。

Part 4:黄金期の象徴『ベリー・メリー・クリスマス』

「ミッキー&舞ちゃんの魔法のクリスマス:Part4」

10周年のクリスマスは、ある意味で「異常」なほど豪華でした。『イッツ・マジカル!』を1日3回フル上演しつつ、さらにクリスマスのパレード『ベリー・メリー・クリスマス』も1日3回実施するという、現在では考えられないスケジュールが組まれていました。

  • キャッスルショー『イッツ・マジカル!』:1日3回
  • クリスマスパレード『ベリー・メリー・クリスマス』:1日3回
  • 10周年メインパレード『ファンタジー・オン・パレード』:1日1回
  • 夜のパレード『エレクトリカルパレード』:1日1回

1日8回もの大規模なパークワイド・エンターテインメントが繰り広げられていました。ゲストがパレードルートで一緒に踊る「参加タイム」も設けられ、どこを向いても「本物の魔法」が溢れていた、まさにエンタメ黄金期と呼ぶにふさわしい1年でした。

Part 5:初代『ワン・マンズ・ドリーム』と舞ちゃんの笑顔

「ミッキー&舞ちゃんの魔法のクリスマス:Part5」

2019年に惜しまれつつ終了した『ワン・マンズ・ドリームⅡ』の原点、初代版(1988年~1995年)の映像です。ピーターパンのシーンを軸にした構成は、今もなお根強いファンを惹きつけてやみません。

また、『ひとりでできるもん!』の初代・舞ちゃん役を務めた平田実音さんの姿もあります。2016年に若くして旅立たれた彼女の弾けるような笑顔は、今もこの映像の中で輝き続けています。

Part 6:伝説のアトラクションと感動のフィナーレ

「ミッキー&舞ちゃんの魔法のクリスマス:Part6」

今はなきアトラクション『シンデレラ城ミステリーツアー』が登場。選ばれたゲストが勇者としてホーンドキングと対決し、メダルを授与される姿は、当時の子供たちの最大の憧れでした。

番組の最後は『イッツ・マジカル!』のフィナーレへと繋がり、最高潮の盛り上がりの中で幕を閉じます。

結び:今も解けない「魔法」の正体

30年以上という長い月日が流れた今でも、あのシンデレラ城前で感じた高揚感や、マレフィセントの恐怖、そして色彩が戻った瞬間の震えるような感動は、昨日のことのように鮮明に思い出すことができます。

あの日、客席から食い入るようにステージを見つめていた一人の少年は、オーディションの面接で「イッツ・マジカル!が僕の原点です」と語り、プロの表現者としての第一歩を踏み出すことになりました。

渡海一博さんはじめ、当時のクリエイターたちが込めた「キャラクターは役者であれ」「ショーに強いドラマを」という哲学は、今も僕のダンス、そして人生の核として生き続けています。たとえ時代が変わり、ショーの形が変わっても、あの時浴びた「本物の魔法」が消えることはありません。

皆さんにとって、人生を変えるきっかけとなった「魔法の記憶」は、どのショーですか?

今回は、『イッツ・マジカル』についての解説でした。

エンタメ作品に関してはこちらで紹介しています。ぜひご覧ください。

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