『舟を編む』アニメ版(2016)あらすじと解説|辞書づくりが天職を導く物語
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この記事からわかる3つのポイント
・『舟を編む』(2016年)の基本情報とストーリー概要
・アニメ・映画・小説、それぞれの魅力と違い
・“辞書づくり”を通して描かれる、言葉と天職の物語

天職に出会うと、人はどうなるのか。

『舟を編む』は、辞書づくりを通して人生の歩み方を静かに問いかけるアニメです。三浦しをんの同名小説をもとに、言葉と人との関係を丁寧に描いています。

今回は、『舟を編む』(2016年)のあらすじと特徴についてまとめました。

※ 3分ほどで読み終わります。

それぞれの美しさ

「右を説明しろと言われたらどうする?」

三浦しをん著『舟を編む』の冒頭に登場する、印象的な問いかけです。

文庫版は700円ほどで手に入ります。

『舟を編む』は“辞書づくり”をテーマにした物語で、小説から始まり、映画化・アニメ化・テレビドラマ化と、多くの媒体で表現されてきました。

原作小説の完成度がやはり圧倒的ですが、映画・アニメそれぞれに異なる魅力があります。

映画版は、松田龍平、オダギリジョー、宮崎あおい、小林薫、加藤剛といった豪華なキャストが出演しています。役どころが絶妙にマッチしていて、本の世界観を支えています。ただ、上映時間が短いため、もう少し掘り下げてほしいと少し残念に感じました。

4,000円ほど。

一方、アニメ版は独自の解釈と丁寧な描写が光ります。

まるで活字を読んでいるような静かな余韻がありながら、登場人物の内に秘めた情熱がじわりと伝わってきます。

繊細な作画と穏やかな雰囲気の中に、パリっとした空気感と知的な美しさが漂います。

『 舟を編む 』あらすじ

1995年、玄武書房の辞書編集部では、新しい大型辞書『大海渡だいとかい』の編集作業が進められていた。

部内には、主任の荒木、編集部員の西岡、契約社員の佐々木の3人しかおらず、監修の松本教授を含めても、わずか4人の小さなチームである。定年を間近に控えた荒木は、後任となる新たな人材を探していた。

そんな折、西岡が書店で、一風変わった営業マン・馬蹄まじめ光也みつやを目にする。真面目すぎて不器用な馬締の姿に興味を持ち、思わず声をかける西岡。何気なく「空気を読め」と助言すると、馬締は突然「空気」という言葉の意味を、まるで辞書のように定義しはじめる。

辞書編集者は
「気長で細かい作業をいとわず、言葉に耽溺たんできし、しかしおぼれきらず、広い視野をも併せ持つ」資質が求められる。

(耽溺:それ以外目に入らないほど夢中になること)

この一件を耳にした荒木は、すぐに馬締に会い、「右」という言葉を説明させる。その瞬間、馬締の表情が一変し、水を得た魚のように生き生きと語り始めた。

その姿を見た荒木は、馬締こそが辞書づくりに最もふさわしい人物だと確信する。

キャスト

『舟を編む』(アニメ版)には、実力派の声優が多数出演しています。

役名:俳優

馬締光也:櫻井孝宏
西岡正志:神谷浩史
香具矢かぐや:坂本真綾
荒木公平:金尾哲夫
松本朋佑ともすけ:麦人
佐々木薫:榊原良子
岸辺みどり:日笠陽子

静かなドラマの中に潜む情熱や人間らしさを、見事に声で表現しています。

製作

原作:三浦しをん
キャラクター原案:雲田はるこ
監督:黒柳トシマサ
制作:ZEXCS

2016年に放送されたアニメ版は、全11話構成です。各話のエンディング後に、ちょっとした“おまけシーン”が用意されているので、最後まで見逃せません。

また、2024年には岸辺みどりを主人公としたテレビドラマ版も制作され、新たな視点から『舟を編む』の魅力が描かれています。

池田エライザ、 野田洋次郎主演です。

言葉遊び

難しい言葉も出てきますが、同時に言葉の美しさ、言葉の力を感じられるアニメです。

タイトルだけでなく、辞書の名前「大海渡」も洒落ています。そして各話タイトルにも、言葉の意味や響きを楽しませる仕掛けが施されています。

第1話:茫洋ぼうよう・・・ひろびろとしている(目当てがつかない)
第2話:逢着ほうちゃく・・・でくわすこと
第3話:恋
第4話:漸進ぜんしん・・・順を追って着実に進むこと
第5話:揺蕩うたゆたう・・・気持ちが定まらず決めかねる
第6話:共振・・・振動が重なることで振動の幅が大きくなる
第7話:信頼
第8話:編む
第9話:血潮ちしお・・・(流れ出る)血。比喩的に、情熱
第10話:矜持きょうじ・・・プライド。(きんじとも読む)
最終回:ともしび・・・世を照らすもの

聞き慣れない言葉が多いにもかかわらず、それぞれの言葉が物語と響き合い、一つひとつのエピソードに深みを与えています。

特に「邂逅(かいこう)」という言葉のように、“出会い”や“すれ違い”を象徴する言葉が登場するたび、この作品が「言葉で人と人をつなぐ物語」であることを強く感じます。

「大渡海」

辞書のタイトルは「大渡海」です。果てしなく広がる“言葉の海”を意味しています。

茫漠ぼうばくとした、言葉の海。海を渡る術を持たない、僕たちは、そこでただ、たたずむ。誰かに届けたい想いを、言葉を、胸の奥底にしまったまま。

辞書とはその海を渡る、1艘の船だ。

アニメ『舟を編む』より

そして作中で、こう語られます。

「言葉の海を前に佇む人の、心を、想いを運ぶために、ぼくたちは舟を編む。言葉の海を渡る大渡海という舟を」

言葉を紡ぐことは、誰かの心へと舟を漕ぎ出すこと。『舟を編む』というタイトルの本質が、この一節に凝縮されています。

アニメの特徴:ふたりの主役

アニメ版『舟を編む』では、馬締光也と西岡正志という対照的な二人が物語を導く“ダブル主役”の構成になっています。原作小説に近く、それぞれの仕事観や生き方が丁寧に描かれています。

馬締くん:編集の才能に長けた職人気質
西岡さん:人付き合いと営業に強い現実派

馬締が「右」という言葉を説明した場面で、その並外れた資質を西岡も直感的に感じ取ります。一方で、西岡は流行や社会の空気に敏感な人物です。1995年当時、「空気を読む」という表現はまだ一般的ではなく、西岡がこの言葉を使ったことで、馬締が辞書の世界へ導かれるきっかけとなりました。

もし西岡がいなければ、馬締は辞書編集部に辿り着かなかった――つまり、馬締と西岡という正反対の性格の二人が出会ったことで、物語が動き始めました。

西岡という人物

西岡は人あたりがよく、要領もいいタイプです。対照的に、馬締のような個性派は、良くも悪くも目立ちがち。器用な西岡は何事もそつなくこなしているように見えますが、内面に迷いや葛藤を抱えています。

社会では、悩みの大きい順に問題が解決されていくものです。だからこそ、西岡のような“できる人”ほど後回しにされてしまうこともあります。彼はそんな不公平な現実の中、自らの道を切り開いていく存在です。

時代とともに変化する物語

原作小説は2009年に発表され、映画版が2013年、アニメ版は2016年に放送されました。アニメでは現代の感覚に合わせたアレンジが加えられています。

性格も価値観も異なる二人が、少しずつ信頼を築きながら“言葉”を編んでいく過程は、見応えがあり、静かな感動を呼びます。

第8話では驚きの展開が待っています。小説を読んだ人にとっては納得感があるものの、初見の視聴者には賛否両論ある展開です。

23,000円ほど。

日本語版はデラックス仕様 DVD( 20,000円 )ほどの発売しかないため、外国語版(日本語収録、英語字幕もつけられる)がオススメです。

第1話~第5話:ダイジェスト動画

物語の前半、第1話から第5話までをまとめたダイジェスト映像です。登場人物たちが“言葉”と向き合い始める過程が丁寧に描かれています。

一部ネタバレを含む内容となっているため、初めて観る方はご注意ください。

第1話~第3話 あらすじ

『第1話:茫洋(ぼうよう)』

馬締光也は玄武書房の営業部に所属しているが、成果が上がらず、完全に行き詰まっていた。一方、辞書編集部の主任・荒木は、新たな辞書『大渡海(だいとかい)』の編纂に向けて人材を探していたが、社内では誰も辞書編集に興味を示さない。辞書編集部は本社の別館にあり、まるで社内の片隅に追いやられたような存在だった。

そんな中、西岡が書店で馬締を見かける。営業が苦手で不器用な彼に興味を持ち、軽い気持ちで声をかける。「空気を読め」とアドバイスした西岡に対し、馬締は「空気」という言葉の定義を真剣に語りはじめた。

その話を聞いた荒木はすぐに馬締を訪ね、「右」という言葉を説明させる。馬締の表情が一変し、水を得た魚のように熱を帯びて語る姿を見た荒木は、彼こそ辞書づくりにふさわしい人物だと確信する。

辞書編集者を探すポイント

気長で細かい作業をいとわず
言葉に耽溺たんできし、しかし溺れきらず
広い視野をも併せ持つ

『第2話:逢着(ほうちゃく)』

新たに辞書編集部へ配属された馬締の歓迎会が中華料理店で開かれる。そこで辞書に対する思いや出会いが語られ、辞書づくりの熱意が伝わる印象的な場面が描かれる。

荒木は馬締に仕事を引き継ぎつつ、「『大渡海』の完成までには10年かかる」と告げる。馬締は、自分に合っている仕事だと感じつつも、長期にわたる共同作業に不安を抱く。これまで一人で営業をしてきた彼にとって、チームで進める仕事は未知の領域だった。

その夜、馬締は飼い猫のトラを探してベランダに出る。月明かりに照らされながら現れたのは、大家の孫で板前修業中の林香具矢(かぐや)。この出会いが、彼の人生を大きく動かしていく。

『第3話:恋』

香具矢との出会いで、馬締は生まれて初めて“恋”を意識する。同居を始めた香具矢を前に、緊張のあまり何も話せない馬締。一方で、世話焼きの西岡はすぐに彼の想いに気づき、さりげなく背中を押す。

仕事でも、二人の関係に変化が生まれる。

真面目すぎる馬締と、要領の良い西岡――正反対の二人が、次第に信頼を深めていく。

やがて西岡は、「『大渡海』の出版が中止になるかもしれない」という噂を耳にする。辞書づくりをめぐるチームの運命が、少しずつ揺れ動き始めていく。

『舟を編む』は静かに心を打つアニメです。派手な展開はなくとも、言葉に向き合う人々の姿が、観る人の心に深く残ります。

以上、『舟を編む』アニメ版の紹介でした。アニメを観ることで、小説版の世界観や人物の心情がより深く理解できるはずです。言葉の美しさ、そして“仕事”に真っすぐ向き合う姿を、ぜひ感じてみてください。

ありがとうございました。

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