アニメ『バクテン!!』(2021年)|見逃せない演技シーン
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この記事からわかる3つのポイント
・『バクテン!!』(2021年)の内容・あらすじ
・モーションキャプチャー×3D/2Dハイブリッドによるリアルな身体表現
・競技舞台としての新体操部を通じて描かれる“今を生きる”姿

東日本大震災から10年。岩手県・宮城県・福島県の被災3県を舞台にしたアニメ作品プロジェクトとして制作されました。

6人が一糸乱れず舞台を駆け抜ける姿。身体の芯から伝わる重さとリズム。そしてアニメだからこそ実現できるカメラアングル。

モーションキャプチャーを活用し、3Dと2Dを組み合わせたハイブリッド表現によって描かれる動きは、極めてリアルです。

今回は、『バクテン!!』(2021年)の競技シーンに注目して作品を紹介します。

※ 3分ほどで読み終わります。

『バクテン!!』のあらすじ

中学最後の夏、双葉翔太郎は大会で「男子新体操」という競技と出会い、強く惹かれます。翌年、私立蒼秀館高等学校に進学した翔太郎は男子新体操部へ入部。中学時代のスター選手・美里良夜や個性豊かな仲間たちと出会い、未経験ながら「バク転」や団体演技に挑みます。

6人で挑む団体戦を目指しながら、寮生活や練習、ライバル校との合同合宿など、さまざまな壁を乗り越え、彼らは“チーム”として成長していきます。

キャラクター

翔太郎の心の動きがアニメで美しく表現されています。「バクテンが初めてできる」という感覚は、きっとこんな感じなんだろうなと想像できます。

・双葉翔太郎(ふたば しょうたろう)/声:土屋神葉(つちや しんば)
・美里良夜(みさと りょうや)/声:石川界人(いしかわ かいと)
・七ヶ浜政宗(なながはま まさむね)/声:小野大輔(おの だいすけ)
・築館敬助(つきだて けいすけ)/声:近藤隆(こんどう たかし)
・女川ながよし(おながわ ながよし)/声:下野紘(しもの ひろ)
・亘理光太郎(わたり こうたろう)/声:神谷浩史(かみや ひろし)
・志田周作(しだ しゅうさく)/声:櫻井孝宏(さくらい たかひろ)

男子新体操

個人的には、男子新体操は“体操競技の受け皿”としての意味合いがあると感じます。体操競技は競争が激しく、すべての選手がトップレベルに残り続けられるわけではありません。もちろん新体操を最初から志す選手もいますが、体操競技から流れてきた選手にとって、男子新体操という舞台は非常に魅力的に映るはずです。

さらに、そこからダンスやパフォーマンスの世界へ進む選択肢が広がるのも大きな特徴です。実際、劇団四季などで体操経験者がダンサーへ転身する例もあり、アクロバット演技ができるというのは大きなプラスポイントになっています。

必見:新体操演技シーン

『バクテン!!』の演技シーンには、男子新体操という競技特有の身体動作が、モーションキャプチャーと3D/2Dハイブリッドによって丁寧に描かれています。

実際の新体操選手がモーションキャプチャー収録に参加しています。プロパフォーマンスグループ「BLUE TOKYO」や、強豪校の「青森山田高校男子新体操部」「国士舘大学男子新体操部」の現役部員たちの動きがベースとなっています。

僕自身、BLUE TOKYOの方がスタント監修で参加していた舞台でご一緒したことがあります。また、舞台を見たこともありますが、彼らのレベルの高さには圧倒されました。「これが男子新体操出身者の身体表現か」という印象が、そのまま映像に反映されていると感じました。

3Dアニメーションが陥りがちな「CG的な違和感」を感じさせず、むしろ「身体の重さ・回転・重心移動」がリアルに伝わってくるのは、まさにこのハイブリッド手法ならではです。主に「3Dモデル+モーションキャプチャー動作」で演技の動きを描きつつ、人物の表情や感情描写には2D作画を併用することで、「競技としての動き」と「キャラクターの心情」という二軸をそれぞれ最適に描き分けています。

見せ場を高めるため、カメラワーク・舞台演出・照明・観客席の演出なども細部までこだわり、臨場感があります。現実では難しいカメラワークが入っていることで、アニメである理由に説得力があります。

実際の男子新体操では、完璧なターン・回転・着地が求められる中で、意図せぬズレや身体の揺れが生まれるのもまた“人間らしさ”です。こうした“完璧ではない動き”をモーションキャプチャーで捉えた上で映像化していて、「理想化された動き」ではなく「リアルな動き」が画面に現れています。

また、直接演技のシーンに関係しない補足として、本作から「実際の新体操競技を忠実にアニメ化する」という強い制作意図が感じられます。舞台を男子新体操が活発な東北に設定している点もこだわりを裏付けています。

次のパートからネタバレしているためご注意ください。

ネタバレ:最終話

物語には必ず障害があります。『バクテン!!』の最後の試練は、「このタイミングか……」と思わせるものでした。翔太郎が負ったケガ。それも、凡ミスから始まり、放っておいたことでさらに悪化してしまうという、胸が痛む出来事でした。

・ケガを知った上で大会出場

しかし、最終話を観て「この展開なら納得できる」と感じました。前話で監督は翔太郎のケガを理解しながらも、出場を許可します。6人で挑む男子新体操において、そのうちの1人が欠けることは、まさに致命的です。

部員全員が「6人で演技したい」という強い想いを抱えていました。今の時代ではなかなかできない判断かもしれませんが、1話から見守ってきた立場として、この監督の決断に深く納得しました。ただし、この出場許可の背景説明が少なめだった点は、やや説明不足に感じました。

監督の思い

最終話、監督が決断に関し、こんな話をします。

「今日はたまたま運がよかっただけ。本当に二度と新体操ができない可能性もあったんだよ。」

「僕も若い頃無理して試合に出て選手生命を絶ってしまった。でもそのことを後悔してないんだ。僕は後先考えず自分の意思をつらぬいた。だから別の道に進むことができたと思う。時間はかかったけどね。

確かに未来は大切だ。君たちの未来を奪うようなマネをしてはいけないし、誤った未来に進まないようときに正すことも必要かもしれない。でも、君たちの想いを無視してまで未来を押し付けるのもなにか違うと思ったんだ。たとえそれが正しい未来であってもね。自分で選んでほしかったんだ。もし、間違った道に進んだらそのときは全力で手助けしようって。何度でも、何度でもね。だけど教育者としては止めるべきだったのかも。やっぱり僕は指導者には向いてないみたいだ。」

最終話より

未来は大切だけど、今を後悔なく生きる。このメッセージに、心から納得してしまいました。

そして、監督を演じる櫻井孝宏さんの声の響きに、深く胸を打たれました。

僕の思い出|譲れない線引

実は、僕にも思い当たる節があります。かつてテーマパークのパレードで踊っていた頃──。パレードは一度始まったら、途中で戻ることができません。しかし、途中でケガや体調不良が起こることもあります。

僕が働き始めた当時は、「なにがあってもやり切れ」という空気がありました。ただ、時代の流れもあり、ある時期から「無理をしない」という方針に変わっていったようにも思います。

舞台でトラブルが起きたら、袖にハケれば観客にはわかりません。ですが、パレードの途中で抜けるということは、確実に「トラブルがあった」と観客に伝わってしまいます。パレードの途中で離脱するくらいなら、最初から病欠しておくべきだと思っていました。

そんななか、僕自身も急に体調が悪くなり、「絶対最後まで踊れない……。」とパレードの途中で思ったことがありました。このときの僕は、「休まなかった以上、泣き言は許されない」という心情のもと、どうにか気合で乗り切りました。ですが、かなりキツかった……。あと1回出番がありましたが、すぐに帰りました。今は、温暖化が進み、気温が明らかに厳しくなっています。それでも“譲れない線”があると思っていました。でも、時代には合っていないのかもしれない、とも感じています。

今回の『バクテン!!』は、ひとつの答えを示してくれたと思います。

“譲れない線”とは何か──それは、ただやり抜くことでも、ただ無理をすることでもありません。ケガを抱えながらも、チームとして跳び続ける翔太郎たちの姿は、身体を使う者として、ステージに立つ者として、「今・ここ」で選ぶことの重みを伝えてくれます。

僕がテーマパークのパレードで抱えていた葛藤──「無理を通すのが美徳だった」あの頃──が、あの演技シーンに重なりました。

そして、監督の言葉にあるように、未来を大切にしながらも、“今を後悔なく生きる”という選択肢が、この作品では自然に、そして強く示されています。

この『バクテン!!』は、動きの美しさだけでなく、舞台を知る者の胸に――「何を、どう、選ぶか」を問いかける作品でした。

あれ!「大渡海」

僕の心にひっかかったのは、翔太郎の部屋のシーンです。

高校受験を控え、進学先に悩む翔太郎。その本棚に国語辞典「大渡海」が置かれていました。この「大渡海」は、同じく フジテレビ「ノイタミナ」枠で放送されていた『舟を編む』に登場する辞書です。辞書編纂をテーマにした、深く心に残るアニメでした。

この『バクテン!!』の監督である黒柳トシマサさんが、『舟を編む』でも監督を務めているだけでなく、同じ枠・同じ制作スタジオ ZEXCSが手がけています。

『舟を編む』アニメ版(2016)あらすじと解説|辞書づくりが天職を導く物語

このつながりから、しれっと本棚に潜んでいたようです。隠れミッキーを見つけたような感覚になりました。

DVD

アニメでは続きがあるような終わり方をした『バクテン!!』。

DVD版です。

配信版です。

劇場版|2022年公開

その後、劇場版『バクテン!!』が2022年7月2日に公開されました。

Blu-ray版、DVD版があります。

今回は、アニメ『バクテン!!』の必見シーンの紹介でした。

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