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『ビリー・ホリデイ物語』( 2016年)の内容は?
特徴は?
見どころは?
「Lady Day」と呼ばれた伝説のジャズシンガー、ビリー・ホリデイをテーマにした映画です。
2016年の作品が、日本では 2023年3月から劇場公開されてました。
晩年のライブの再現で、歌とMCのみの作品です。
舞台転換なし、撮影場所の移動もなく、ほぼ一人芝居です。
元劇団四季、テーマパークダンサー。社割を使えたときは週2回 映画館へ行っていました。最近はネットで映画をたっぷり。
今回は、『ビリー・ホリデイ物語』(2016年)のあらすじ・感想・特徴についてです。
※ 3分ほどで読み終わります。
あらすじ
1959年3月。ビリーが亡くなる4カ月前。場所は、フィラデルフィアのこぢんまりしたジャズクラブ。
ステージ上で酒を飲み、たばこを吸う。ペットの犬まで連れてきてしまう。
出演者は、ピアノ奏者、ベース奏者、ドラム奏者、そしてビリー。精神的に不安定な状態で歌うビリー。
歌の合間に、これまでの人生が語られていく。
ソングリストはあるが、順番は決まっていない。
舞台を映像化した作品です。
ビリー・ホリデイの前知識がなくても、問題ありません。
ビリー・ホリデイ
ビリー・ホリデイは、ジャズの三大歌姫のひとりです。
・ビリー・ホリデイ
・サラ・ヴォーン
・エラ・フィッツジェラルド
1915年、19歳の母と17歳の父の間に生まれます。(自伝本には13歳の母と15歳の父の間に生まれた、と書かれているので諸説あります)
不幸な境遇で育ち、10歳でレイプにあい、更生施設に入れられたこともあります。
売春宿の下働きで生きながらえます。
生活を救ったのが歌でした。
ボーカルトレーニングを受けたことはなく、楽譜の読み方も習っていませんが歌手として成功します。
ビリーは長年、アルコール依存、麻薬中毒といったトラブルを抱えます。
「決められた歌を歌わない」「遅刻は当たり前」「歌詞を間違える」といったことも……。
それでも人気があり、聴衆を惹きつけました。
『奇妙な果実』
ビリーには 1939年に発表した『奇妙な果実』という代表曲があります。
作詞・作曲はルイス・アランです。(フランク・シナトラにも曲を書いています)
『奇妙な果実』とは、リンチされ、木に吊りさげられた黒人の死体のことを指します。
歌詞は「南部の木には奇妙な実がなる……」と始まります。木に吊るされた黒人の死体が腐敗していく描写です。
その後起こる黒人の地位向上を求めた公民権運動。この歌が黒人解放運動に大きな影響を与えました。
現在も続くブラック・ライヴズ・マター運動( Black Lives Matter:黒人の命を軽視するな)。
『奇妙な果実』は黒人の軽視を周知する原点ともいわれる重要な曲です。
Southern trees bear strange fruit,
Blood on the leaves and blood at the root,
Black bodies swinging in the southern breeze,
Strange fruit hanging from the poplar trees.
Pastoral scene of the gallant south,
The bulging eyes and the twisted mouth,
Scent of magnolias, sweet and fresh,
Then the sudden smell of burning flesh.
Here is fruit for the crows to pluck,
For the rain to gather, for the wind to suck,
For the sun to rot, for the trees to drop,
Here is a strange and bitter crop.
意訳します。
南部の木に奇妙な果実がなっている
葉には血がつき、根が血を吸いこむ
黒い身体が南部の風に揺れる
奇妙な果実がポプラの木に吊るされている
のどかな風景が広がる温かな南部
飛び出す目に歪んだ口
マグノリアの甘く新鮮な香り
不意に、身体の焼けるにおいが
カラスにつっつかれ
雨を吸収し、風にさらされ
太陽で腐敗し、木から落ちる
奇妙で苦い果実がここにある
1930年8月、インディアナ州マリオン郡でリンチ事件が起こります。
2人の黒人男性が殺され、木から吊るされます。
見物人が次々と集まり、5000人もの白人が見たとされています。
そして、その光景が写真に残されます。
現在もネット上で検索できますが、見るのは避けた方がいいと思います。
2人の死体を男性女性問わず多くの白人たちが見上げ、侮蔑的な態度を取っている人もいます。
この写真は大きな衝撃をもたらしました。
ほぼ一人芝居
映画は 90分の作品です。
2014年、ニューオーリンズにあるカフェ・ブラジルで、観客のいる舞台をそのまま撮影しています。
映像用に演出されていますが、ほぼライブ・ビューイングです。
舞台上の設定は 1959年なのですが、客席は現代です。
ラインが引かれていましたが、途中ビリーが客席に降りてきます。
その瞬間、過去と現在がつながります。
ここから人間ドラマにガラッと変わります。
居心地の悪さ
途中、ビリーが観客にダル絡みしていきます。
観客の居心地の悪さがすごく伝わってきます。スクリーンのこちら側で見ている自分もすごく居心地が悪くなりました。
ただ、この居心地の悪さは、悪い意味ではありません。異質なものに触れたときに、どう振る舞えばいいのかわからない、という感じです。
この瞬間から自分がスクリーンの中にいる観客の一員になった気分となり、作品にどっぷり入り込んでいきました。
晩年のビリーの悲しさと明るさ
ビリー・ホリデイは悲惨な生活を抜け出したものの、自ら幸せを壊していきます。
調べれば調べるほど、よく生き抜いたな、と感じます。
その反面、なぜそんな行動を……、と悲しくなることもあります。
自業自得にも思えるし、自業自得にも思えない。
不条理劇を見ているような気分になりましたが、ビリーの持つ明るさが作品のバランスを保っています。
そしてビリーの生き方の
ライブで歌う順番がアドリブ……。
90分の作品ですが、2時間以上に感じ、内容は重いです。
オードラ・マクドナルド
支えるのがオードラ・マクドナルドの歌と語りです。
90分ほぼ一人芝居。
この演技に、ただただ圧倒されました。
最初のシーン。ビリーの歌い方、振る舞いで何かおかしいことに気づきます。
すべての動きからビリーの細かい心情が伝わります。
歌も素晴らしく、特に高音の跳ねる歌い方がオールディーな感じで鳥肌が立ちました。
映像技術に頼ることなく、芝居だけでこれだけ魅せられると、「舞台っていいな」と思ってしまいます。
海外ドラマ『プライベート・プラクティス』でオードラ・マクドナルドを知っていたので、歌うことを知りませんでした。ある年トニー賞を見ていたら、オードラ・マクドナルドが歌っていてびっくりしたのを覚えています。
4,000円ほど。
2014年 トニー賞
2014年のトニー賞、演劇部門において「主演女優賞」をオードラ・マクドナルドが獲得しています。
6個目のトニー賞という快挙でした。
公式ページより受賞スピーチです。意訳してみます。
ありがとう。まずは私の人生で欠かせない人たちに感謝したいと思います。絶対に言い忘れたくないので。
天国にいる母と父にまずは感謝します。ADHD(注意欠如・多動症)と診断されたにも関わらず、医者の指示に従わず、投薬も断り、その代わりに夢中になれるものを探してくれました。それが役者で、私を後押ししてくれました。
その後、夫、養子である2人の息子、そして娘、スタッフへ感謝しています。(内容は割愛)
いま私がここに立っていられるのは、勇気ある女性たちのおかげです。レナ・ホーン、アンジェラ(聞き取れず…)、ダイアン・キャロル、ルビー・ディー、そしてビリー・ホリデイ。(黒人の地位向上における)あなた方の功績は素晴らしいものです。
この賞はビリー・ホリデイ、あなたに捧げます。
DVD
残念ながらDVD化はまだされていません。
音源のみ配信されています。
1,500円ほど。
関連作品
ビリー・ホリデイに関しては、『ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ』という映画が 2022年に公開されています。
1,500円ほど。
また、2018年公開の黒人差別を描いた『グリーンブック』。
2,500円ほど。
2020年公開の『ジュディ 虹の彼方に』はエンタメ社会で生きた女性、ジュディ・ガーランドを描いています。
2,500円ほど。
舞台好きな人にぜひオススメです。

今回は、『ビリー・ホリデイ物語』(2016年)についてでした。 ぜひぜひチェックしてみてください。
ありがとうございました。
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