
『ラ・バヤデール』の内容は?
見どころは?
歴史は?
インドを舞台に、エキゾチックな雰囲気が漂う『ラ・バヤデール』。
最初のバレエ鑑賞にぴったりで、初心者の方でも楽しめる内容です。
元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります。
今回は、『ラ・バヤデール』のストーリー・作品解説です。
※ 3分ほどで読み終わります。
『ラ・バヤデール』
カースト制が厳格な時代のインド。
身分を超えることが極めて難しい世界。
戦士ソロルをめぐり、舞姫ニキヤと首長の娘ガムザッティの三角関係を描きます。
愛し合うソロルとニキヤですが、身分の違いが大きく立ちはだかります。
すべてを知っている観客はもどかしく見ているしかありません。
2種類の踊り
『ラ・バヤデール』は前半と後半で雰囲気がガラッと変わります。
物語前半は現実のインドの世界。衣裳・セット・エキゾチックな踊りでインドを連想させます。女性ダンサーは背中を大きく反り、妖艶な踊りです。
物語後半は死後の世界である「影の王国」。古典バレエの「バレエ・ブラン」という形式をとっています。
「白いバレエ」と直訳。女性ダンサー全員が白い衣装でクラシックバレエを踊る場面のこと。
この「影の王国」の
主役だけでなく、群舞の持つパワーを存分に感じることができます。
ぼんやりとした照明に浮かび上がる、真っ白なチュチュを着た 32人のダンサーたち。腕と頭にベールをつけているだけなのですが、エキゾチックな雰囲気が漂います。
世界観にどっぷり浸ることができるシーンです。
マリインスキー・バレエ団より。先頭のダンサーは39回もアラベスクをしています。
しっとりしているだけでなく、スピーディーでアグレッシブなステップも多いです。
制作
ロシア:サンクトペテルブルグ
振付:マリウス・プティパ
音楽:レオン・ミンクス
台本:セルゲイ・フデコフ
19世紀のフランスは、東洋への憧れが芸術のテーマになっていました。絵画、オペラ、バレエにまでエキゾチックな作風が広がります。
インドを舞台にした『ラ・バヤデール』もこの流れで誕生しました。ちなみに、振付のマリウス・プティパはフランス出身です。
全4幕 7場(初演時):3時間18分
台本は振付のプティパと、ジャーナリストだったフデコフの共作です。
原案はプティパの兄であるリュシアンが振付をした『サクンタラ』という舞姫バヤデールが登場する作品です。
『ジゼル』の台本を書いたテオフィル・ゴーティエが脚色し、作品が誕生します。
ロシアでは『バヤデルカ』と呼ばれていることもありますが、最近は『ラ・バヤデール』に統一つつあります。
初演は、のちに『白鳥の湖』の振付をするレフ・イワーノフがソロルを踊っています。
登場人物
バヤデールとは、聖なる寺院に仕える踊り子のことです。舞姫として踊りを神に奉納し、聖水を運ぶ役割があります。
ニキヤ:神殿の舞姫(バヤデール)
ソロル:戦士
ガムザッティ:ラジャの娘
ハイ・ブラーミン:大僧正
ラジャ:首長
マグダヴェーヤ:苦行僧の長
アヤ:ガムザッティの召使
ソロルの友人
あらすじ
古代インド。
神殿の舞姫ニキヤと、高貴な戦士ソロルはひそかに永遠の愛を誓う。
しかし、首長(ラジャ)が娘(ガムザッティ)とソロルを結婚させることを決めてしまう。ソロルもガムザッティの美しさに惑わされニキヤとの誓いを脇に置いてしまう。
ニキヤに思いを寄せ、自分のものにしようとする大僧正。大僧正が嫉妬から、ニキヤとソロルの関係をラジャにバラしてしまう。
ラジャはニキヤを始末することを思いつく。一方のガムザッティもニキヤの存在を知ってしまう。
ガムザッティはニキヤにソロルを諦めるよう迫るが失敗。ガムザッティもニキヤを亡き者にしようと決意する。
ガムザッティとソロルの婚約式。
舞姫ニキヤは 2人の前でお祝いの踊りを披露しなければいけない。ソロルとの結婚が実現しないと悟るニキヤ。
ニキヤは花かごに仕込まれた毒蛇に噛まれてしまう。
ここで大僧正が解毒剤を持ってくる。「もし自分と一緒になるのなら命を助けてやろう」と迫る。
ニキヤは死を選ぶ。
ソロルはただ見つめることしかできなかった。
ニキヤの死後、罪の意識からアヘンに溺れるソロル。
幻想の世界である「影の王国」に入っていく。そこで、ニキヤと再会を果たす。
現実に戻るソロル。ソロルとガムザッティの結婚式が寺院で開かれる。
しかし、神の罰が下される。結果、神殿は崩壊。そこにいた人々も息絶える。
天に上ったソロルはニキヤと再会し、2人は永遠の愛で結ばれる。
さまざまなバージョン
現在踊られているバージョンは、プティパ版をもとにしたワフタング・チャブキアーニの1940年代版が基になっています。
このとき、第1幕のニキヤとソロルのパ・ド・ドゥ、ソロルのソロ、黄金像の踊りが追加されました。
1980年以降『ラ・バヤデール』が注目されるようになりました。
これはマカロワ版が大きなきっかけです。
マカロワ版はバレエ団独自の色を出すことができるバージョンで、多くのバレエ団がレパートリーに入れています。
1877年 | マリウス・プティパ版(マリインスキー・バレエ団) |
1980年 | ナタリヤ・マカロワ版(アメリカン・バレエ・シアター) |
1992年 | ルドルフ・ヌレエフ版(パリ・オペラ座バレエ団) |
2005年 | ウラジーミル・マラーホフ版(ベルリン国立バレエ団) |
2013年 | ユーリー・グリゴローヴィチ版(ボリショイ・バレエ団) マリウス・プティパ版を基に、ワフタング・チャブキアーニ、コンスタンチン・セルゲイエフ、ニコライ・ズプコーフスキーが追加で振付。 |
2種類のエンディング
大きく分けて 2パターンのエンディングがあります。
全4幕版:ソロルが幻想世界から戻る → ガムザッティとの結婚式 → 神殿が崩壊 → 死後の世界でニキヤとソロルが結ばれる
全3幕版:ソロルが幻想幻想から戻る
全4幕のバージョンはドラマティックな展開になっていて、全3幕のバージョンは観客に解釈が委ねられます。
見どころ
主役 3人の演技合戦が見どころです。
強い意志を持ったニキヤとガムザッティ。それに翻弄される情けないソロル。
演技と踊りは、ダンサーの役の解釈によって大きく変わります。
多様な表現を許す作品なので、何度見ても飽きることはありません。
ニキヤ vs ガムザッティ
身体や心を完璧にコントロールして踊る主役のニキヤ。アグレッシブに感情を爆発させる準主役のガムザッティ。
対照的な 2人の女性ダンサーの踊りを 1つの作品で楽しむことができます。
第1幕、ニキヤが感情を爆発させ、ガムザッティとケンカするシーンは見どころです。
ボリショイ・バレエ団より、スヴェトラーナ・ザハーロワ(ニキヤ)とマリーヤ・アレクサンドロワ(ガムザッティ)です。
ニキヤは第1幕の現世ではエスニックなパンツスタイル、第2幕の死後の世界「影の王国」ではクラシックバレエの象徴であるチュチュで踊ります。
どちらも情感たっぷりで感情移入してしまいます。
「影の王国」
「影の王国」より、ニキヤとソロルによるパ・ド・ドゥ( 2人の踊り)です。
パリ・オペラ座バレエ団より、シルヴィ・ギエムとローラン・イレールです。とても自立しているニキヤです。
黄金像の踊り
『ラ・バヤデール』」は男性ダンサーが少なく、通常版でソロがあるのはソロル、苦行僧、黄金像の踊りだけです。
身体中を金色にペイントする黄金像。
アメリカン・バレエ・シアターより、アンヘル・コレーラです。
ソロル
2014年のローザンヌ国際バレエ・コンクールで
人物像の構築が難しいソロル。印象に残るのは、元ボリショイ・バレエ団プリンシパルのニコライ・ツィスカリーゼです。
ナルシスティックなソロル像を打ち出していて、人気の高いダンサーでした。
まとめ
以上、作品の紹介でした。
幕ごとに動画を含め解説しています。ぜひご覧ください。
第1幕の見どころポイント |
第2幕の見どころポイント |
第3幕の見どころポイント |
オススメDVD
マカロワ版、ヌレエフ版、グリゴローヴィチ版の 3つのバージョンがオススメです。
英国ロイヤル・バレエ団(マカロワ版)
マリアネラ・ヌニェス、ワディム・ムンタギロフ、ナタリア・オシポワ主演。
ナターリヤ・オシポワの演技がとくに素晴らしく、初めてガムザッティに同情しました。
プリンシパルである高田茜さん、ヤスミン・ナグディが「影の王国」のソリストとして登場していて豪華です。
パリ・オペラ座バレエ団(ヌレエフ版)
ルドルフ・ヌレエフの遺作となった『ラ・バヤデール』。
このDVDは初演版です。1994年に収録されたバージョンですが、現在も発売され続けています。
イザベル・ゲラン、ローラン・イレール、エリザベート・プラテルが素晴らしいです。若き日のアニエス・ルテステュ、オーレリ・デュポンも登場しています。
ボリショイ・バレエ団(グリゴローヴィチ版)
スヴェトラーナ・ザハロワ、マリア・アレクサンドロワ、ウラディスラフ・ラントラートフ主演。
ニキヤとガムザッティがとにかく豪華です。

今回は、『ラ・バヤデール』の作品解説でした。
ありがとうございました。
バレエ作品に関してはこちらにまとめています。ぜひご覧ください。
舞台鑑賞好きの僕が劇場に行くときに知っておくとちょっと得する話をのせています。バレエを中心に紹介しています。