ウエスト・サイド・ストーリー【曲順比較】舞台版/映画版1961年/2022年
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『ウエスト・サイド・ストーリー』(舞台版、1961年版映画、2022年版映画)の内容は?
それぞれの特徴は?
違いは?

古典ミュージカル映画の大傑作と言われる『ウエスト・サイド物語』。

60年ぶりにティーヴン・スピルバーグがリメイクしました。

オジリナル版と何が違うのか?

もう一歩踏み込んで、舞台版と何が違うのか?

3つの作品を比較しながら、『ウエスト・サイド・ストーリー』を解説していきます。

記事を書いているのは……

元劇団四季、テーマパークダンサー。社割を使えたときは週2回 映画館へ行っていました。最近はネットで映画をたっぷり。

kazu

今回は、『ウエスト・サイド・ストーリー』舞台版 / 1961年 映画版 / 2022年 映画版 の曲順を比較します。

※ 3分ほどで読み終わります。

ストーリー:3作品とも同じ

シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を下敷に、1957年のニューヨークの移民問題を描きます。

『ウエスト・サイド・ストーリー』以前のミュージカル映画は、夢の世界を描いていました。それに対し『ウエストサイド物語』では、現実の血生臭い世界を描きます。

ミュージカル映画の転換点となった作品のため、傑作と呼ばれます。

結果、アカデミー賞で 10部門受賞しています。

あらすじ

1957年、ニューヨーク・マンハッタンの中心街、ウエスト・サイド。

移民の多い地域にたむろする 2つのギャング団。ベルナルドをリーダーとするプエルトリコ移民のシャーク団、リフをリーダーとするポーランド系住民のジェット団はいつも衝突している。

リフがベルナルドに対決を申し込む。場所は中立地帯にあるダンスパーティー会場。

リフは元リーダーであり親友でもあるトニーを一緒に連れていく。トニーはギャングから足を洗い、ドラックストアで誠実に働いている。

そんなトニーがダンス会場で、美しいマリアと運命的な出会いをする。

しかし、マリアはベルナルドの妹だった。

結ばれてはいけない 2人の恋が加速し、周りを混乱に巻き込んでいく。

3作品

舞台版、1961年 映画版、2022年 映画版、が制作されています。

ウエストサイド・ストーリー(舞台版、1962年映画版、2021年映画版)制作

大きく 3作品の特徴です。

1957年 舞台版:歌・踊りで物語を語っていく
1961年 映画版:エンターテイメント性を基準にストーリーを再構築
2022年 映画版:物語・演技に重きが置かれ、舞台版の脚本の流れに近い

さらに言うと舞台版は1957年の初演から何度か改定が加えられつつ、世界中で上演が今も続いています。

最新版はシャーク団(プエルトリコ系移民)の歌が英語でなくスペイン語になっていたりと、変化を続けています。

上演時間

ブロードウェイミュージカルを原作とするミュージカル映画は、上演時間短縮のために大幅に曲がカットされることが多いです。

舞台は休憩を含め 3時間近く上演されることもあります。

1957年 舞台版:2時間35分
1961年 映画版:実質 2時間25分
2022年 映画版:実質 2時間28分

『ウエスト・サイド・ストーリー』も同様、1961年版では多くの改変が加えられています。

この変更により、ストーリーが理解しやすくなっています。

セット

舞台版のセットは簡素です。

対して1961年 映画版は、実際にニューヨークでロケをしていたり、大掛かりなセットにより目で理解しやすくなっています。スタジオ内にセットを組んだ撮影が主流だったミュージカル映画ですが、初めての屋外ロケーション撮影でした。物騒だったイーストハーレムでも撮影し、リアルな情景となっています。

2022年版はさらにセットが豪華になり、かつCGにより当時の情景がより深く再現されています。

出演者

ウエストサイド・ストーリー(舞台版、1962年映画版、2021年映画版)キャスト表

ジェット団:ポーランド系住民

トニー:主人公。元リーダー。現在は更生しドラッグストアで働く
リフ:現リーダー。粗野な振る舞いが目立つ

シャーク団:プエルトリコ系移民

ベルナルド:リーダー。差別を受け、恨みを暴力で晴らしている
マリア:主人公。ベルナルドの妹
アニータ:ベルナルドの彼女。頭が切れバリバリ仕事をする
チノ:マリアの婚約者

そのほかの出演者

ドク:トニーが働くドラッグストアの主人。ユダヤ系。2022年版ではドクの奥さんバレンティーナとして登場
シュランク警部補:アイルランド系と思われる。ジェット団、シャーク団ともに厳しく対処する
クラプキ巡査:若者たちになめられがち。一定の同情を示している

曲順の変更

ストーリーの流れとともに全曲を紹介します。

曲順に関しては、「 舞台版 」「 1961年版 」「 2022年版 」どれも違います。

トニーがダンスパーティーの帰り道で歌うシーンまでは 3作品とも流れが同じです。このシーン終わりから、ストーリーが3方向に分岐していきます。

曲順が入れ替わっているため、シーンに登場する出演者も変わります。それに伴い、役の人物像も若干違います。

ウエストサイド・ストーリー(舞台版、1962年映画版、2021年映画版の時系列比較表)1日目の出来事

ウエストサイド・ストーリー(舞台版、1962年映画版、2021年映画版の時系列比較表)2日目の出来事

体育館でのダンス( The Dance at the Gym )

運命の出会いのシーンです。

1961年版は舞台版にかなり近い内容です。ともにダンスパーティーの中、トニーとマリアにピンスポットが当たり観客にわかりやすい構成になっています。

二人の視線がバチっと合ってから、幻想のダンスシーンへと移行します。ダンスでトニーとマリアの心の動きを表現します。

2022年版では、過度な映像加工はなく、よりリアルな描写になっています。2人の視線がバチっと合ってからも、演技で物語が進行していきます。

『アメリカ』( America )

シャーク団、最大の変更点が『アメリカ』です。

プエルトリコ系のシャーク団が、アメリカの理想と現実を歌います。韻を踏みながらの応酬がとてもおもしろいナンバーです。

舞台版ではトニーとマリアが歌う『トゥナイト』のあとに登場します。もう一点大きく違うのが、少人数の女性たちだけで歌う点です。ベルナルドの彼女であるアニータが皮肉を込めて反論するウィットなシーンです。

1961年版では体育館のシーンのすぐあとにこのシーンが来ます。そして、アメリカに住める喜びを歌う女性陣と、皮肉を込めて反論する男性陣のかけあいのシーンに変更されています。歌詞も少し変更されています。

2022年版では真夜中から昼間に変更。太陽降り注ぐニューヨークの街をアニータとベルナルドが駆け回ります。次々と登場する場面から、プエルトリコ系移民の生活がわかるようになっています。出演人数が大幅に増え、ダンスナンバーのクライマックス、ダイナミックなシーンになっています。

ジェット団

ジェット団で大きな影響を受けているのが、リーダーのリフと、2番手のアクションとアイスです。

オリジナルの舞台版においてジェット団の 2番手はアクションですが、1962年版ではアイスが 2番手になっています。

2022年版では、アイスの存在がかなり薄れ、アクションが 2番手に戻っています。

『クール』( Cool )

舞台版では 8曲目に登場する『クール』。リフがメインです。長寿エンタメ番組、エド・サリバン・ショーより( 1958年収録)。

1962年版では 16曲目に登場するためリフが不在になっています。そのためリフの代わりにアイスがメインを務めます。

アイスは曲に合わせ、冷静で判断力のあるクールな設定となっています。

2022年版では、14曲目に登場。

トニーが新たに登場し、抗争を止めるためにリフを説得するシーンに変更されています。トニーとリフの友情を描くシーンとしてかなりの効果を発揮しています。

ただこの変更により、ジェット団の女性陣の踊りがカットされています。ジェット団の女性のダンスは体育館のシーンだけになっています。

『クラプキ巡査への悪口』( Gee, Officer Krupke )

舞台版では 14曲目に登場し アクション、スノーボーイ、ディーゼル、A-ラブ、ベイビー・ジョンが歌います。

1961年版では、 8曲目に来るためリフがメインとなり、身体能力、コメディセンスを発揮するシーンになっています。

2022年版は舞台版にかなり近い設定で、メインの役者が登場しないシーンに戻ります。

ポーランド系住民の若者が犯罪に走る状況がわかるようになっています。

『トゥナイト』( Tonight )

『ロミオとジュリエット』ではバルコニーで愛を語り合うシーンのため「バルコニーシーン」と呼ばれます。

集合住宅の裏通りの非常階段に場所を置き換えたシーンです。

ミュージカルを語る上で欠かせない名曲となりました。

1961年版はマーニー・ニクソンとジミー・ブライアントが吹替です。聞かされていなかったナタリー・ウッド(マリア役)との間でトラブルになりました。マーニー・ニクソンは、『マイ・フェア・レディ』のオードリー・ヘップバーン、『王様と私』のデボラ・カーの吹替を担当しています。

このシーンは変えようがないので、舞台版、1961年版とほぼ同じ内容になっています。

『トゥナイト 五重唄 』( Tonight – Quintet )

実は『トゥナイト』よりも先に『五重唄』が作曲されました。この中に登場するメロディにインスパイアされ、『トゥナイト』が誕生します。

この五重唄は難しいだけでなく、歌っている人数が多いため、何が正解なのかよくわからなくなります。

5つのパート

1:リフ率いるジェット団
2:ベルナルド率いるシャーク団
3:アニータ
4:トニー
5:マリア

ジェット団、シャーク団の人数の多さにより、音圧の差が大きく、実際の舞台だとさらに難易度が上がります。

1961年版です。

2022年版は正確で、最大限に聞きやすくなっています。

『サムウェア』( Somewhere )

「自分たちの場所がどこかにある」という希望的なナンバーで、作品のメッセージが一番込められています

舞台版では、想像の世界へと移行し、バレエが踊られます。寒色系のジェット団、暖色系のシャーク団ですが、このシーンでは白の衣装で和解を表現しています。アンサンブルの中からエトワール(一番の歌い手)が選出され、歌声を響かせるシーンです。

1961年映画版では、マリアとトニーのデュエット曲に変更されています。

2人で会う最後のシーンで、よりドラマティックな展開になるよう改変されています。舞台版のダンスシーンがなくなっているため、大幅に曲がカットされています。

2022年版では、ジェット団のたまり場のドラッグストア(トニーが働く店)の女店主バレンティーナが歌います。

1961年版でアニータ役を演じたリタ・モレノ。90歳近い年齢の歌唱に心を揺さぶられるシーンです。

メイキングと対訳(意訳)を紹介します。

スピルバーグ監督の対訳(意訳)

ドクというキャラクターをドクの未亡人に変化させ、プエルトリコ人と設定し、役を演じるのはリタ・モレノであるべき、というアイディアが浮かびました。自分のアイディアと言いたいところだけど、脚本のトニー・クシュナーの夫であるマーク・ハリスのアイディアです。

リタ・モレノは1961年版の『ウエスト・サイド物語』でアニータを演ました。モレノが2022年版に出演してくれるかわからなかったものの、新版の脚本を読み魅力を感じてもらうことができました。

役にピッタリでした。

1961年当時の記憶を持っていることが2022年版に大きな影響を与えています。ダンスシーンのリハーサルに参加するだけでなく、プエルトリコ人として1950年代のアメリカで育った経験を役者やスタッフと共有しました。多くの興味深いストーリーを使い、役者たちに良い影響を与えてくれました。だからこそ、エグゼクティブ・プロデューサーになってもらおうと思いつきました。役者だけでなく、すべての役を見守る力があり、『ウエスト・サイド・ストーリー』という作品のメッセージを伝える役割を担ってもらいました。とてつもない役割を果たしてくれました。

そして『サムウェア』をドクに歌ってもらうことにしました。素晴らしいパフォーマンスで、かなり冷静に演じてくれました。その演技は本物で、撮影当日に得られた映像は代えがたいものになりました。

あんな男に ~ 私は愛している( A Boy Like That / I Have a Love )

ベルナルドを殺したトニーと最期の時を過ごすマリア。
悲しみに打ちひしがれるアニータが帰宅。トニーは逃げるもののバレてしまいます。
マリアとアニータの魂のぶつかり合いの歌です。
実の兄を殺した相手と過ごしていたマリアを激しく責めるアニータ。
それに対し、愛を貫くマリア。アニータがマリアに心を動かされる重要なシーンです。

舞台版ではトニーとアニータはニアミスします。

1961年版ではもう少し直接的に描かれます。

2022年版ではアニータがトニーの存在を確認します。

このナンバーは多くの人にとって感情移入しづらい印象があります。

トニーがベルナルドを殺したことを知っても、マリアはトニーを許し関係を持ちます。

いくら愛する人とはいえ肉親を殺したトニーとなぜ関係を持てたのか……。

『ロミオとジュリエット』を知っていると見方が少し変わるかもしれません。

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『ロミオとジュリエット』では、いとこのティボルト(ベルナルドにあたる役)をロミオが殺します。

『ウエスト・サイド物語』では、ジュリエットにあたるマリアとティボルトにあたるベルナルドは兄妹です。そのため、さらに絆が強くなっています。2022年版ではもう一歩マリアとベルナルドの関係が強くなっているので、ベルナルドの死後のマリアの行動に違和感を持ってしまいます。

そこで新たに追加されているのが教会のような美術館のシーンです。

トニーとマリアのデートシーンが新たに追加されています。

舞台版、1961年版ではマリアの働く洋服屋で愛を誓い合うのですが、2022年版ではこの教会のような美術館で愛を誓い合います。

これは原作の『ロミオとジュリエット』に近い内容です。ロミオとジュリエットは秘密裏に教会で結婚します。

この誓いがあるからこそ、「何が起こっても愛を貫く」という行動に説得力が出ていると思います。

以上、ナンバーのから見る 3作品の比較でした。

DVD

2,800円ほど。現在も販売が続いています。

5,000円ほど。

kazu

今回は、『ウエスト・サイド・ストーリー』舞台版 / 1961年 映画版 / 2022年 映画版 の曲順を追っての比較でした。 ぜひぜひチェックしてみてください。
ありがとうございました。