『スイート・チャリティ』(1969年)の内容は?
特徴は?
見どころは?
CM やテレビ番組を観ていると「あれっ!この曲」と感じることがあります。例えば iPhone のこの CM 。
「プライバシーに気をつけるべし」です。この曲は、ミュージカル映画『スイート・チャリティ』に使用されている「The Rich Man’s Frug」です。
今回は、『スイート・チャリティ』( 1969年)の内容・感想・特徴についてです。
元劇団四季、テーマパークダンサー。社割を使えたときは週2回 映画館へ行っていました。最近はネットで映画をたっぷり。
※ 3分ほどで読み終わります。
作品について
『スイート・チャリティ』は、ボブ・フォッシーが自ら演出・振付を手掛け、同名のブロードウェイ・ミュージカルを映画化した作品です。主人公チャリティ(シャーリー・マクレーン)はタイムズスクエアの「タクシー・ダンサー」として働きつつ、真実の愛を求め続ける楽天家です。しかし、その一途さゆえに何度も心を傷つけられます。
フォッシーらしい斬新な振付と映画ならではのスケール感が融合しつつ、公開当時は賛否両論を呼んだものの、近年では再評価が進んでいます。
あらすじ
主人公のチャリティは、ニューヨーク・タイムズスクエアにあるダンスホールでタクシー・ダンサーとして働いている孤独な女性です。 ある夜、初老の独身男オスカー・リンドクイストと出会い、互いに惹かれ合って交際を始めます。しかし、チャリティの純粋さゆえから過去の傷が蘇り、一度はオスカーに裏切られたと思い込みます。落胆と期待を繰り返しながら、チャリティは「いつか本当の愛を見つける」と信じ続けます。
タクシーダンサーとは…
タクシーダンサーとは、ダンスホールやキャバレーで客とペアを組み、1曲(または一定時間)ごとに料金を支払って踊るダンサーのことを指す職業です。1920年代~1950年代のアメリカ都市部で盛り上がり、とくに経済不況期の若い女性たちにとって重要な収入源となりました。
映画内では、主人公チャリティはタイムズスクエアのダンスホール「パルミーラ・クラブ」でタクシーダンサーとして働き、客はダンスごとにチケットを購入して彼女と踊る設定です。タクシーダンサー制度は、商業化された恋愛の象徴として作品のテーマである「愛と希望、自己肯定の追求」と深く結びついています。
見どころ
フォッシーの映画監督・振付家としての映画デビュー作です。フォッシー特有のセクシーな振付が随所に見られます。とりわけ「The Rich Man’s Frug」や「Big Spender」といったナンバーは、音楽とダンスが一体となったダイナミックな演出が特徴です。公開当時は全体的に長尺すぎるとの批判があったものの、近年の再評価では、フォッシーがステージと映画の間で挑戦的な実験を行った意欲作と評価されています。
個人的に感じるのは、物語よりダンスナンバーが強烈な作品です。そのため、ダンスナンバーだけでも見る価値があります。
『The Rich Man’s Frug』
冒頭のi-phone で使用されていた楽曲。映画ではこのようなシーンです。かなり個性的で、信じられないほどオシャレです。踊りも、衣装も、セットも洗練されています。
「Frug」は、フルーグと発音します。1960年代中期にアメリカで流行した一連のファッド・ダンス(一時的なブーム|fad、を起こしたダンス)のひとつで、ヒップの揺れが特徴です。
チャリティは、金持ちが集まるダンスホールにいます。「 The Rich Man’s Frug 」は、ダンスホールに集まるリッチな人たちが踊る「 Frug 」、という意味になります。
さらに深堀|3部構成の演出意図
1曲の中で3つのパートに分かれています。
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「The Aloof」:貴族的な退屈さとチャリティの異質感を対比するパート。チャリティがコートを脱いでゆったりと歩き出す一方、客のダンサーは頭だけを動かし無表情。
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「The Heavyweight」:ボクシングを思わせる小刻みなパンチ動作が特徴。腕はヒジを脇に“ぴったり”つけたまま、拳だけを打ち出すミニマルな動きがコミカルかつスタイリッシュに富裕層の鬱屈を表現しています。
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「The Big Finish」:ヒップとアームワークを最大限に解放。華やかな祝祭感を演出。緩急をつけた動きの対比で観客を惹きつけるクライマックスパートです。
ヒップ・アイソレーション
腰を横揺れさせる動作は、片足に体重をかけつつ、もう片方のヒザを伸縮させる“アイソレーション”技法がポイントです。これにより、上半身を固定しながら腰のスナップが際立ちます。
アーム・ムーブメントと手の形
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“Soft-boiled-egg hand”:卵をそっと包むように指を軽く丸めるハンドポジションを多用。手首だけをくるくる回すことで、動きに繊細さとフォッシーらしいエスプリを添えています。
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スネークアーム:ヒジを横に張りつつ、前腕を体の横でうねらせるような滑らかなカーブを描く。セクシーさと機械的無表情さを同居させる特徴的な動きです。
歩行 “Hinged Walk” の応用
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骨盤を前方に押し出し、背中から腰を一直線に保つ“ヒンジド・ウォーク”
脚を前に伸ばして体重を移す“滑るような”歩きで、クールかつ優雅な印象を作ります。これにより、フォッシーの持つ“狡猾さ”と“余裕”が強調されています。
表情と“無表情”のコントラスト
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貴族的傲慢さを表現するために、眉をわずかに上げたまま視線を下に向ける“見下し顔”で固定しています。
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チャリティの表情変化と対比すると、物語の中での“異質感”が際立ちます。
制作背景
・ボブ・フォッシーは舞台版のハッピーエンド案を退け、チャリティが見捨てられるビターな結末を貫くことを強く要求した。
・1968年4月4日にマーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺された当日にニューヨーク市内ロケで行われており、ポーラ・ケリーは深い衝撃で一時仕事を続けられなかった。フォッシー自身も当時の緊張を十分理解し、翌日に全員を自宅へ帰し、後日改めて撮影を再開した。
・舞台版のオリジナル主演グウェン・ヴァードン(フォッシーのかつての結婚相手)は、フォッシーとの意見衝突により映画では役を降りたものの、無給でアシスタント振付を担当した。
・『アパートへの道』(1960)などで実績のある脚本家 I・A・L・ダイアモンドが、フォッシーとクリエイティブ面で対立。ダイアモンドは『カリビアの夜』へのテーマ回帰を目指したものの、フォッシーはミュージカル版への忠実再現を主張。意見が対立し、ダイアモンドが降板。ピーター・ストーンが急きょ後任として執筆を引き継いだ。
・当時は無名だったシェリー・グラハム(後のジョルジナ・スペルヴィン)が、シャーリー・マクレーンのスタントとして数シーンをこなしている。
・撮影はニューヨーク市内の実地ロケとユニバーサル・スタジオ内セットの両方で行われた。
・制作費については、フォッシー自身とユニバーサル・ピクチャーズで見解が分かれており、800万ドルから2000万ドルまで幅があるとされている。
キャスト&スタッフ
登場人物|俳優
・チャリティー・ホープ・ヴァレンタイン(Charity Hope Valentine)|シャーリー・マクレーン
タイムズスクエアのダンスホールで「タクシー・ダンサー」として働く明るく前向きな女性。幾度も恋に裏切られながらも「いつか本当の愛を見つける」と信じ続ける楽天家で、純粋さと強い意志を持ちます。シャーリー・マクレーンは、アカデミー主演女優賞受賞歴を持つ大女優。『アパートへの道』(1960)で人気を博し、本作ではタフで明るいヒロインを好演。
・オスカー・リンドクイスト(Oscar Lindquist)|ジョン・マクマーティン
オスカー・リンドクイストは気が弱く臆病な銀行員志望の青年。エレベーターの故障をきっかけにチャリティと出会い、徐々に惹かれていきますが、彼女の過去を受け入れられず一度は婚約を破棄してしまいます。ジョン・マクマーティンは舞台版から役を続投した数少ない俳優の一人。ブロードウェイで『プロデューサーズ』にも出演しています。
・ニッキー(Nickie)|チタ・リベラ
ニッキーはチャリティの親友でタクシー・ダンサー仲間のひとり。しっかり者で時に辛辣な助言を与える姉御肌。チタ・リベラ自身はブロードウェイで活躍した名ダンサーで、フォッシー作品の常連ダンサーとして知られます。
・ヘレーン(Helene)|ポーラ・ケリー
ヘレーンはチャリティと同じくダンスホールで働くもう一人の親友。やや感傷的で夢見がちな性格が、チャリティと対比されます。ポーラ・ケリーはリズム感に定評のあるダンサー兼女優で、ロンドンの舞台版での出演経験があります。
・ハーマン(Herman)|スタビー・ケイ
ハーマンはダンスホールの支配人で、チャリティたちをまとめる寛大かつ気さくな人物。客の管理役も務め、物語の息抜き的存在です。スタビー・ケイはコメディ映画を中心に活躍した俳優で、特に明るい個性派キャラを得意としました。
・ヴィットリオ(Vittorio)|リカルド・モンタルバン
ハリウッドの人気映画スターで、チャリティは彼とのデートに胸をときめかせますが、元恋人のウルスラに奪われてしまいます。リカルド・モンタルバンはメキシコ出身のスター俳優で、『キス・ミー・ケイト』などで知られ、優雅な雰囲気が魅力です。
・ウルスラ(Ursula)|バーバラ・ブーシェ
ウルスラはヴィットリオの元恋人。チャリティとのデート中にさりげなく現れ、彼女をクローゼットに閉じこめる等、物語に緊張感を与える役回りを担います。バーバラ・ブーシェはドイツ出身の女優で、ヨーロッパ映画を中心にキャリアを築いてきました。
・ビッグ・ダディ(Big Daddy)|サミー・デイヴィス Jr.
“リズム・オブ・ライフ”と呼ばれるカルト的宗教の教祖で、オスカーとチャリティが訪れる教会の説教者です。独特のカリスマ性を放ち、物語にコミカルなアクセントを加えます。サミー・デイヴィス Jr.はキャリア初期からエンターテイナーとして活躍し、多才なパフォーマーとして名声を築きました。
スタッフ
監督・振付:ボブ・フォッシー
ブロードウェイの振付家としてキャリアを築き、『夜のナイトクラブ』などでトニー賞を受賞。映画監督としては本作が初挑戦で、独自のスタイルを強く打ち出しました。
【舞台】
1975年:シカゴ( Chicago )
【映画】
1968年:スイート・チャリティー( Sweet Charity ) – 監督
1972年:キャバレー( Cabaret ) – 監督
1974年:レニー・ブルース( Lenny ) – 監督
1979年:オール・ザット・ジャズ( All That Jazz ) – 監督・脚本
脚本:ピーター・ストーン
『恋愛専科』を代表作とし、コメディとロマンスを得意とするアカデミー脚本賞を受賞した名脚本家です。元々はI・A・L・ダイアモンドが脚本を担当していましたが、フォッシーと意見対立で降板。後任として参加しました。
プロデューサー:ロバート・アーサー
ユニバーサル・ピクチャーズのプロデューサーで、『死ぬまでにしたい10のこと』を手掛けた実績を持ちます。
撮影:ロバート・サーティーズ
アカデミー撮影賞受賞経験を持つ巨匠で、広角レンズを駆使してニューヨークの街並みを大胆に切り取っています。
音楽:サイ・コールマン(作曲)、ドロシー・フィールズ(作詞)
1966年の舞台版初演時からのコンビで、ジャズとブロードウェイの感覚を融合させた名曲群を提供しました。
インスピレーション元|フェデリコ・フェリーニ
もともとフェデリコ・フェリーニ監督の名作『カビリアの夜(Nights of Cabiria)』(1957年)という作品がありました。この作品をもとに1966年、ボブ・フォッシーが『スイート・チャリティ』をブロードウェイで発表します。ニール・サイモン脚本、サイ・コールマン作曲、ドロシー・フィールズ作詞を担当し、内容がミュージカルに変更されました。主演はフォッシーの当時の妻であるグウェン・ヴァードン。フォッシーのミューズとして知られます。
1957年:『カビリアの夜』(フェデリコ・フェリーニ監督)
1966年:『スイート・チャリティ』(ボブ・フォッシー演出)ブロードウェイでミュージカル化
1969年:『スイート・チャリティ』ミュージカル版の映画化
そして、1969年に再度、映画化されました。「 映画 → 舞台 → 映画 」とおもしろい動きをしています。
評価・受賞歴
Yahoo!映画より
評価が高いです。
・アカデミー賞|第42回アカデミー賞(1970年)
技術部門を中心に3部門でノミネートされました。
最優秀オリジナル音楽スコア(Musical Picture – Original or Adaptation):サイ・コールマン
最優秀美術賞(Art Direction):アレクサンダー・ゴリツェン、ジョージ・C・ウェッブ(美術)およびジャック・D・ムーア(装飾)
最優秀衣装デザイン賞(Costume Design):エディス・ヘッド
・ゴールデングローブ賞|第27回ゴールデングローブ賞(1970年)
主演女優賞(ミュージカル/コメディ部門)にシャーリー・マクレーンがノミネートされました。
曲目リスト
* は映画版で新規に書き下ろされたナンバーです。
1:Overture “Sweet Charity” *
2:My Personal Property *
3:Big Spender
4:The Pompeii Club (Rich Man’s Frug)
5:If My Friends Could See Me Now
6:The Hustle
7:There’s Got to Be Something Better Than This
8:It’s a Nice Face *
9:The Rhythm of Life
10:Sweet Charity
11:I’m a Brass Band
12:I Love to Cry at Weddings
13:Where Am I Going?
ボブ・フォッシーの与えた影響
ボブ・フォッシーは「フォッシー」という名で親しまれています。フォッシーの踊りのスタイルは「フォッシーダンス」と呼ばれ、今でも大切に受け継がれています。
フォッシーダンス:色気のあるスタイル|身体を固定し 1部分だけを動かしたり、緩急、柔剛を組み合わせた動きに特徴がある
フォッシースタイルは踊りこなせるとスーパーかっこいいですが、そうじゃないと恐ろしくダサくなる「魔のダンス」です。フォッシーダンスは振付師・クリエイターに影響を与えています。フォッシーの影響は今も残り、時々フォッシーのような作品が登場します。踊り自体はフォッシースタイルがアレンジされていたり、そのまま登場することは少なくなりました。
スパイス・ガールズ|エマ・バントン『Maybe』
『The Rich Man’s Frug』にオマージュを捧げているのがスパイス・ガールズだったエマのソロ曲『Maybe』。
センスが高い!
チアリーディング映画|『チアーズ!』
僕が「The Rich Man’s Frug」を初めてみたのは、『スイート・チャリティ』からではありません。チアリーディングをテーマにした映画『チアーズ!』からでした。
後半に「The Rich Man’s Frug」の映像が一瞬流れます。キルスティン・ダンスト演じる主人公のチームが、自分たちで振付を創り出すシーンで登場します。振付のインスピレーションのひとつとして、映像が数秒流れます。数秒しか流れていなかったのに、深く記憶に残りました。
ジャズダンスを本格的に始め、映像をいろいろ観るようになり、『スイート・チャリティ』に出会いました。
「なんかこの映像観たことある…。」
「ん???」
「なんだっけ???」
「……」
「あーーーーーーーー!!!」
頭の中で、記憶が一気につながりました。
『チアーズ!』で見たあの踊りだ!!!
DVD
3,000円ほど。
どちらも本当にいい映画です。
今回は、『スイート・チャリティ』についてでした。 ぜひぜひチェックしてみてください。
エンタメ作品に関してはこちらで紹介しています。ぜひご覧ください。
映画、テレビ、海外ドラマ、アニメ、本などエンターテイメントで感動したものを紹介します。

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